またーり書き込みしましょ(´・ω・`)



91話『討伐依頼』


「それでは、今の俺たちが受けられる依頼を見せてもらえますか」

「かしこまりました」

Dランクへと昇格し、受けられる依頼が増えた優也たちは早速
新たに出来る様になった依頼を確認する。

『薬草採取(E)』
『毒消し草採取(E)』
『ドブさらい(E)』
『痺れ取り草採取(D)』
『銅鉱石採取(D)』
『護衛依頼(D)』
『ゴブリン討伐その1(D)』
『ゴブリン討伐その2(D)』
『ゴブリン討伐その3(D)』
『トブトムシ討伐(D)』
『ウィンドマウス討伐その1(D)』
『ウィンドマウス討伐その2(D)』
『ウィンドマウス討伐その3(D)』
『ウィンドマウス討伐その4(D)』
……その他Dランクモンスター討伐依頼etc。

「依頼が沢山増えてますね」

「……なんか、やけに多くないかしら討伐依頼」

「はい、最近はモンスターの活性化により、討伐依頼が増えているのですよ。」

「あっ…それじゃあ隣の依頼受付窓口にできてる列ってもしかして」

「殆どがモンスターの討伐を依頼されている方々ですね」

「そうだったんですね…」

優也は依頼表を手に取り楓達の方を向く。

「それで早速モンスター討伐をやるわけだけど…。どれを受けよう?」

「そうね…。ムチンの討伐は前に散々やったから…ゴブリンにしてみるのはどうかしら?」

「ゴブリンか…確か冒険に初めて出た日に俺と楓は一度戦ってるんだよな。…よし。それにしようか」

「御三方共意見は合致した様ですね。それではギルドカードの提示を…」

こうして優也達は、ゴブリンの討伐依頼を引き受けた。
今まで幾度となくモンスターを倒してきたが、依頼という形で
討伐するのは初めて。少し初心に帰ったように三人は
ゴブリンの出現する場所へ足を運んで行った。



「ギギィィ!!」

「ふうっ、7体目!…まだいるなっ」

指定された場所ではゴブリンの群れが蔓延っていた。
ここは人の通り道。今後ここを通る商人や通行人を襲い出す
危険性があるためにゴブリンの早急な討伐を優也たちは任された。

「これだけ多かったらそりゃ討伐依頼も出されるよなッ」

「…貴方達も別に悪気がある訳じゃないのは
わかってますが…ごめんなさいっ」

翠も、少し躊躇しがちだが魔法を使ってゴブリンを倒していっている。

「…ファイアッ!…ファイアッ!!」

「あれ楓、そんな魔法を連発するなんて珍しいな。
いつもなら叩いたほうが早いって、物理攻撃に出てるのに」

「…そんな事、どーだっていいじゃないの!今日は魔法の気分なのッ!!」

「お…怒ってるのか?」

「ギギィ!」

「楓!後ろ!!」

優也の声に楓は背後から迫るゴブリンに気づく。

「きゃっ!!……こんの…危ないわねッ!」

攻撃をかわした楓はゴブリンから一歩距離を置くと、そのままお返しに炎を食らわせた。

「ギィアーッ!!」

「やった、これで全部倒したぞ!!…楓?」

なぜか膝をつき俯く楓に、優也は違和感を覚える。

「…えっ?な、なんでもないわ!!」

優也の声を聞き、楓は驚いたように顔を上げ立ち上がる。

「どっか怪我でもしたのか?」

「怪我はしてない。ちょっと疲れただけよ。
それよりも本当にもう全部倒したわけ?まだ残ってて襲われもしたらたまんないわ」

「そんじゃ後は周りを見回って、ギルドに報告しに戻ろうか」

その後ゴブリンがいない事を確認した優也達は無事、街に帰ることができた。



「お疲れ様でした!こちらが手数料を差し引きした依頼料です。お受け取りください」

「ありがとうございます」

数回目にもなるギルドの依頼達成。だが今回は初めての討伐依頼の達成。
いつもとは少し違った達成感が優也たちにはあった。

「モンスター討伐依頼もこれで、クリアしたわね。」

「あぁ。これで…」

「これで、やっと俺たちが目指してた目的のスタートラインに立てたのかな」

ようやく、とばかりに優也は一言そう呟いた。

92話『この大陸での目的』


その日の晩、三人が寝泊まりしているベスティアの宿屋。

「それじゃいよいよ明日ここを発つわけね?」

「ああ。これでいよいよ行けるわけだ…


この、『ヴィルデス』という集落に」


─────────────────────────────
────数日前。優也達がカラフルアイランドを旅立つ前日のこと。

「中々良いところ見つからないわねぇ…」

「モンスターが暴れてるって情報なら世界中で溢れかえってるんだけどなあ」

優也たちは次行く場所を決めかねていた。

「ここからそう遠くない場所となると…中々見つかんないわね」

「……あの、それではこの島から出てる船の行き先を調べてその中から決めるのはどうでしょうか?」

「…確かにそれが良いわね!!なんで思い浮かばなかったのかしら。翠、ナイスよ!」

それから、島から行ける範囲の行き先を段々と絞っていった。

「このティーア大陸ってのはどうかしら?」

「……へえ、獣人の始祖が生まれたとされる大陸…
昔も今も、多くの獣人達が生まれ還る地…か」

「獣人を見たことはまだないからさ…中々面白そうじゃないかしら?」

「…でも面白そうで行ったってダメだよ。俺たちの旅の目的の第一は
凶暴な魔物を倒して行って力を蓄える事なんだから」

「なら隅々まで調べて探し出すわよ、この大陸で今起きてる事象!!」

楓は既にティーア大陸に行くことを考えているようだ。
そこからは街での噂や情報網を頼りに大陸の情報を調べて行った。

「……ヴィルデス?」

「そっ。都市から離れた集落で、ここには特に凶暴な魔物が暴れ放題で被害がたくさん出てるって…」

「ほんとだ…大量の凶暴なモンスターか……うん。」

「……ここだ、ここにしよう!!」

こうして優也たちは当初、ヴィルデスへと向かうつもりだった。
しかしその思惑も、この集落を調べていくうちに変わっていった。

「…ねえ、やっぱここ行くのやめない?」

「どうしたの、急に弱気になって!…何?モンスターが怖くなったのかしら?」

「ちがうよ!……ほら、この集落について」

「なになに…」

楓と翠は優也の提示した情報に目をやる。


【ヴィルデス】
ティーア大陸、ベスティア国の中央に位置する由緒正しき集落。
集落と言われているものの近年はギルドも設立され徐々に村の発展が始まっている。
農地や川に恵まれ、採れる食べ物もおいしいと言われている。
……だが外からの移住者は驚くほど少ない。その理由としては……

村の掟が厳しい事に由来するのだ。

93話『掟の厳しい集落』


その文の下にずっと文字列が並べられていた。
どうやらこれ全てが村の掟のようだ。

・獣人以外を村に泊めることを禁ずる。(これに関しては後に特例として例外あり。)
・獣人以外が村の施設を利用することを禁ずる。(これも特例があり。)
・わざと身体に傷をつける行為を禁ずる。(今ならばピアスなどもアウトとなる。)
・紋章のついた服を必ず着る。
・むやみにモンスターを狩らない。特に許可の与えられていない者の狩りは厳しく禁ずる。
・種類に関わらず、全ての動物の肉を食べるのを禁ずる。
・集落付近の木々の伐採やきのみの無断の採取も禁ずる
・月に一度、新月の日は断食をしなければならない

今ここに書いてあるのは、ほんの一部分のみ。…それを飛ばし読みした楓が最後にこの文字を見つけた。

・これらに当てはまらない者、または違反が溜まった者は村への侵入・滞在及び、施設の利用を禁じられる。

「「……」」

唖然とする二人。

「大はずれの場所じゃないの、これ!!」

「だからやめないかって言ったんだよ!!」

ガクッと落胆する楓。

「…はーっ。そもそも、獣人以外は村に入れないし施設も使えないなら
どうしようもないわね…。うーん、獣人達に会えないのは惜しいけどここは諦めて…」

そこで楓は再び掟の項目に目を通して気づく。

「あら?……獣人以外の種族が、この集落で暮らせる例外が載ってるわね」

「でも大抵、そういうのって結構厳しい条件だったりすると思うよ」

「いや……。これなら私たち、行けるんじゃない!?」

そう言って嬉々として楓が指す一文。

【ギルドの冒険者として、魔物の討伐依頼の経験がある冒険者は
特例として村に定住する事を許可する】

「ギルド…?」

「そうよ。他大陸について調べた時に見つけたから
私は知ってるけど、世界各地にある施設らしいの。まあこれは後で説明するとして…
ここで正式に、冒険者として認められればこの村に泊まることも出来るはず!」

「そうは言ったって…この村の掟が厳しい事に変わりはないんだぞ?」

「そこは…なんとか掟を破らないようにして乗り切るわよ!!それにモンスターを倒して活躍すれば村の人に
認めてもらえるかもしれないわよ!?…なんか、頑張れば手が届くと分かったら
依然やる気が湧いてきちゃった。……私、行ってみたいわ!!」

「……はぁ、わかった、わかったよ。それじゃ翠が賛成したら俺も異論はないよ」

「あ……そ、そうですね…決まりを守る事はあまり苦じゃないですので…
でもちょっとだけ怖い…です…もし決まりを破って怒られたら…」

「その時は私が必ず翠を守るわ!大丈夫よ、私がついてるから!」

「そ…そうですか?…そ、それでは…その、私も賛成です…!」

「意外とあっさりだなぁ!!」

こうして優也達は、ヴィルデスの集落に行くためにこれまで
準備をしてきたのだった!!

─────────────────────────────

その後、村の掟をある程度確認する。
そして出発の準備を終えた三人は、早めに就寝を取った。

そして翌日。朝ご飯を済ませた三人はベスティアの街から出ることを決意する。

「短い間だったけど、この街でも色々あったね」

「そうねぇー、フィオレッツェにギルド、変なローブの人に
変な三人組…あと……」

「変なローブの人?そんな人いたっけ」

「あぁ、私一人の時に出会った人よ。変な人だったし…その、妙に記憶に残っちゃって」

「それで…この後私達はどうやってヴィルデスに向かうんですか?」

翠が率直な疑問を優也に投げかける。

「ここから西に進んでいくんだ。峠を越えて、洞窟を抜けて…橋を渡った先にあるらしいよ」

「なんか雑ね…そんな曖昧で大丈夫なの?」

「ああ、地図があるから大丈夫。ほらこれ…今言った通りの感じだろ?」

「確かに間違ってはないわね」

「さ、日が暮れないうちに出発しようか」



そこから三人は歩き続けた。
道中モンスターに襲われたり、疲れた翠を休ませたり
想像してたよりも距離があった為その分ハプニングもあったが
なんとか集落が目前にまで迫ってきていた。

「はぁ…や…やった。見えてきたよ」

肩で息をつく三人。流石の楓も歩き疲れたようだ。

「……そうだ、村の掟を思い出さないと…。これ破ったら私達の立場も危うくなっちゃうからね」

三人は疲労を誤魔化し、気を引き締めて集落へと足を踏み入れた。


「誰だ貴様ら!ここがヴィルデスの村だとわかっているのか!」

集落に入るなり詰め寄ってきたのは武装した犬の獣人。まだ若く優也達より
少し年上ぐらいの青年だった。

「はい!俺たちはDランク冒険者です!!ここへは旅の途中で寄りました。
今晩泊まる宿を探しているのですが、泊めさせていただけないでしょうか?」

元気よく発声する優也に、男は首に手を当て考える。

「……ふむ、貴様ら人間だな?…………しかし、Dランク冒険者か。
となるとすれば…貴様ら、魔物の討伐経験は?」

「あります!…あっ、証拠の提示も出来ますよ。
こちら、ゴブリン討伐依頼の達成確認証です」

そう言い、準備していた紙を懐から取り出し見せびらかす。

「……なるほど。わかった、ついてこい」

男もそれを見て確信が得られると、三人をこの集落の
ギルドへと導いていった。


「…………」

この村のギルドはベスティアにあったものとまた雰囲気が違っていた。
まず木造である事。ベスティアのギルドは優也達の街の建物のようにコンクリートで
出来ていた。それと酒を呷っている冒険者が何人かいる事。
どうやらギルド内に酒場が設けられているようだ。

(掟が厳しいって言う割に、昼間っから酒飲んでるのね…)

と、楓が思ったのも束の間。

「そこ!昼間から酒を飲むなと言ったろう!…今月二回目だぞ。」

ギルドに響く注意喚起の声。
……どうやら普通に掟破りをおこなっていたようだ。

「…ヒヒヒッ、厳しいなぁ…ですね、ONESの監視兵様は。まだ今月二回目だ…ですぜ?
たしか…月5つ違反が溜まったら村から追い出されるんだ…ですよね
つまり今月はあと三回、昼間っから酒を飲んでも大丈夫という事で…」

酔っ払いで言っている事が無茶苦茶な割に、男は不自然に敬語を使っている。
おそらく
監視兵に対しては敬語でなければならない掟でもあるのだろう。

「いいやそれは違うな。次、貴様らが昼間に酒を飲んでいる姿を
確認次第、即座にここから追い出す。」

「んなぁ!?そ、そんなの聞いてねえぞ!俺ぁ夜仕事だから昼間にしか酒が飲めねえんだ!!
そんな月5回の楽しみを、気まぐれで奪われちゃたまったもんじゃ…」

「ヴィルデスの掟、第12条。『一つの掟を短期間で破り続けた場合、罰則回数もその都度更に一つ追加される。』
つまり貴様は短期間で二回同じ掟を破った為、既に三つ違反が溜まっている状態だ。
そしてまた次同じ事をすれば三つ違反が加算される事になる。そうなれば……後はわかるな?」

「……っぐう…」

「…それから。貴様今、我らONESに対し失礼な態度を取ったな。
これで貴様は違反4という訳だ。次貴様の違反を発見した瞬間
この村から出て行ってもらうぞ」

「…………」

酔っ払いの男は黙りこんでしまった。

「…おっと、こんな事をしにここへ来たわけじゃなかったな。
おい、お前達。…とっととそこの受付に行ってこい」

「はっ…はい!わかりました!」

そそくさと優也達は男が指さす受付へと足を運んだ。

「…らっしゃい。ここはギルド『ヴィルデスゲート』だが…
お前達は…アレだな、冒険者試験を受けにきたんだな」

「冒険者試験…ですか?」

「なんだ聞かされてねえってか?……村を魔物から守るために
冒険者を募ってんだよ。試験に合格したものは特例として、この村の定住権を得て
このギルドの利用もできるって訳だよ。
お前らもそれが目的なんだろ?じゃなきゃわざわざONES様がここまで
人間なんか連れて来ねえからな」

ここに来て新たに壁が立ちはだかる。
優也達が調べた限りでは、Dランクの魔物討伐経験のある冒険者であれば
村への定住は可能とされていた。だが冒険者試験が必要となれば、受けるしかないだろう。
優也は念の為、その試験の内容を聞いてみた。

「…冒険者試験というのはどういった内容ですか?」

「なーに、簡単だ。お前らも経験して来たろう…魔物の討伐だ」

94話『ヴィルデス冒険者試験』


優也達は、集落から離れた場所に案内されていた。

「こちらでございます」

優也達はまた、別の人に案内をされている。

「おう、来たか」

そこで待っていたのは…熊の耳と爪を携えた青年の獣人。

「俺はオルス。オルス・ミドヴィベールだ。
今回、お前らの戦いぶりを監視し補佐をする事になった。よろしく頼む」

「「「よろしくお願いします!」」」

三人は前に出て綺麗にお辞儀をした。

「だはは!今回の人間も偉い丁寧な奴らだな!うちの事をよく分かってやがる」

「それは光栄です」

「さて早速…と言いたいところだがな、生憎今日はもう日が暮れてる。悪いが村の掟でまだお前達を宿泊させるわけには行かないからな。
ここでキャンプをする事になるが冒険者なんだから別に構わないよな?」

「は、はい。大丈夫です」

簡易のテントに、火を焚き料理を作る。
冒険者になって日も浅い優也達には初めての体験だった。

「風魔法をこうやってうまく使うとな、煙があまり立たねえんだ。
モンスターが寄って来ずに済むって訳だ」

「オルスさん、魔法も使えるんですね!」

「あぁ、俺は水と風と光魔法は得意だぜ」

その後キャンプでの夕飯を済まし、一通りの自己紹介。
優也達の役職なども伝えたりした。
そして、支給された寝袋で彼らは一晩を明かした。

翌朝。

「よし、それじゃあ早速お前達の冒険者としての力量を見せてもらうぞ。
ここいらでお前達が倒さなければならないモンスターが三種類。
『ホブゴブリン』
『レッサータイガー』
『スピアフラワー』
の三体だ。どいつも初心者には手強いぞ、好きに闘うといい。
ちなみに倒した証拠としてドロップ品をそれぞれ持ち帰ってもらう。
…だが、あまり無茶はすんなよ。死にそうになったら止めに入るからな」

「わ、わかりました!!」

モンスターの数が3体、こちらも三人なので優也たちは手分けして3体のモンスターと戦う事にした。
優也はホブゴブリンを、楓はレッサータイガーを、翠はスピアフラワーを相手取った。


「む、氷魔法をまとわせているのか。中々やるな。だが剣の入りが甘い!
ほら見ろ、爪で受け止められているぞ!!」

「一心不乱に魔法を撃ち続けてどうする!ぶつかり合う炎が煙幕になって敵の動きが読みづらくなるだけだ!
ほら、詰め寄られたぞどうする!……なんだ今の回避は」

「こら、ちゃんと攻撃しないか!魔法は使えるんだろう?
…可哀想?半端な慈悲を魔物に与えて冒険者が務まるかーッ!!
そいつを倒さんと自分や仲間達が危険に晒されるんだぞ!勇気を出せーッ!!
……うおっ、今のはなんだ、偶然か!?」

戦闘になるや否や、オルスは厳しく優也達の戦いの立ち運びを指摘し始めた。
戦力自体はまずまずの彼らだが戦い始めたのはつい最近。
何年も戦ってきた彼からすれば幾らでも問題点は見つかるのだった。

そして優也達が指定された魔物を全て討伐し終わった頃。
オルスは優也たちを集め、彼らの評価を発表し始めた。

「……今日一日お前らの戦いぶりを拝見させてもらった。俺の直感的な感想を言わせてもらうが…」

「…………」

三人はドキドキしながら答えを待つ。


「……お前達は、冒険者には向いていない。今日一日お前たちの戦いを見てそう感じた」

「……そんな」

「お前らは全体的に魔物に甘過ぎる。そんな思考じゃいつ魔物に殺されるか分からないぞ。
それに力はあるようだが、技量が追いついていないのも問題だな。
お前らはまだ若い、冒険者になる前に剣や魔法の修行をつけてもらうことをお勧めする」

オルスからの評価は想像以上に厳しいものだった。

「…さて、それから一人ずつ、今日一日で感じた事と問題点を挙げていくぞ。
まずこの中で一番マシだったのは優也だな。勇敢に魔物と向き合う事が出来ていた。
剣に氷魔法を纏わせる技も簡単じゃない、歳の割に良くやれている方だ。
……だが剣技に難あり、だな。一心不乱に振り回して、力任せに振っちまってる
事が殆どだ。剣の修行をつけてもらう事を奨める。」

「……はい。ありがとうございます、精進します…。」

「……次に、翠。お前は…優し過ぎだバカ。なに襲いかかって来ている魔物相手に
躊躇してんだ。躊躇したところで命を刈られるのはお前なんだぞ?
この甘さが治らん限り到底冒険者…魔法使いとしてはやっていけねえ。
後、少し魔物を怖がってるな。結界を張っている時や魔法を打つときに
目を瞑る癖があるから治したほうがいい。
まあ撃っている魔法や結界はなかなかの質だったからな。
それと…なんだ、戦ってる最中たまに敵の動きがわかってるかのような
動きを見せたが…ありゃ偶然か?…まあいい。結局のところ性格の問題だ、
仲間の足引っ張りたくないんなら心鬼にして頑張るしかねえ。」

「…す、す、すみません!!」

「謝るこたあない。…だが今後もそんな調子で他人の足引っ張るようじゃあダメだからな!!」

「…さて、最後に楓だ……。
一番の問題はな、お前だ」

「えっ……」

オルスは険しい表情で楓に目線を合わせていた。

95話『心の枷』


優也と翠が見守る中、オルスはゆっくり口を開いた。

「楓さんよ…アンタほんとは、魔物と戦うのが怖えんじゃねえのか?」

オルスの一言に楓がビクッとなった。

「なっ…なに言って…」

「見てりゃ分かる。極力遠距離の魔法を連発して、魔物に近寄られれば怯えたように逃げる動作をする。
僧侶としての役割としちゃ、敵から離れて攻撃するのは理に適ってるが…
にしても怯えすぎなんだよ。お前は明らかに魔物と戦うのを怖がっている。…そこの緑の嬢ちゃんよりな」

「そ…そんな、楓はその、ただ…」

「優也!」

あまりの言われっぷりに、優也が楓を庇おうとする。

「ただ…なんだ?」

「い…今はちょっと調子が悪いだけですよ!!最近旅続きだったからきっと疲れが溜まっているんです」

「…本当か?俺には彼女が魔物に怯えてるように映っているがな」

「本当ですよ!なあ、楓?」

「……ううん……。違う」

楓はそっと呟き、優也の言葉を否定し前に立った。

「楓…?」

そして次の瞬間、優也にはとても信じられない言葉が楓の口から飛び出した。

「そうよ、怖い…私は、魔物が怖いのよ。
……こないだ私、殺されかけたでしょ、イーグルタイガーに。あ…あの怪物に、首を掻っ切られそうになって…
それから私、モンスターと戦うたびにあの事が鮮明に頭に浮かんでさ……怖くて怖くて、たまらないのよ!!」

震えながら膝をつく楓。優也も翠も、どう声をかければいいかわからなかった。

「…今までが順調過ぎて、強い装備も手に入って……私、調子に乗ってたんだと思う
でも…、あの時思い知った。私は……私はっ…。ただの、中学生なのよ。
昔っからモンスターと戦ってきた、冒険者達と私とじゃ…見て来た世界が、全然違うのよ!!!!」

泣きながら、自らを否定するような言葉を吐き連ねる楓。
普段見せない、弱りきった姿に優也も動揺していた。

(楓が…何かをここまで怖がるなんて初めてだ)

昔から喧嘩っ早く、虫もお化けも怖いものなしだった楓。
そんな彼女の心にできたトラウマ。そんなもの、優也にはどう向き合えばいいか検討などつかない。

「…ま、兎に角…これで俺からのアドバイスは…以上だ。
さて、色々言ったが試験自体は合格だ。モンスターは倒せたわけだしな。
悩むのは後だ、いったんギルドに戻るぜ?ここじゃ危険だ」

「は、はい…」

「楓さん…………」

そのあと三人は、ヴィルデスのギルドに戻りに向かった。



「……失敗したんだな?」

開口一番にそう言われ優也達は慌てて否定する。

「あっ、いえ!モンスターは無事倒せましたよ、これが証拠です!!」

そう言って優也は指定されていたドロップ品を取り出した。

「……む、確かに。んじゃなんでお前らそう死んだ顔してんだよ」

「それは……その……」

本当の事を話せば折角試験に合格したのに取り消されてしまうかもしれない。
しかしオルスが言っていたように自分達では冒険者は務まらないかもしれない。
その二つの思いで揺れ動き、優也はなんと答えればいいか分からなかった。

「そいつら、誰が最後にモンスターにとどめを刺すかで喧嘩してたんですよ。
それで俺がこっぴどく叱ってやったから今反省中なんです」

「へ?」

後ろから助け舟を出したのはオルス。
思いもよらぬ一言に三人も固まった。

「……そういう事か。まあそれなら良い。試験は合格だが、今後はくだらぬ事で戦闘に支障をきたすなよ」

「……は、はい」

出発時が嘘のように、優也達は力無く返事をした。


「ここがお前達が泊まれる宿屋だ。宿代や食事代はギルドが負担するが
お前らが受ける依頼から料金が差し引きされるって寸法だ。
勿論働かなければすぐ追い出されるから、これから覚悟しとけよ?」

「……あの、なんで助け舟出してくれたんですか?」

「ん〜?あぁ別に、気まぐれだ」

「オルスさん、あれだけ俺たちは冒険者に向いてないって言ってたじゃないですか」

「あれはあれ、これはこれだろ。お前らみたいなのが冒険者やってんのには必ず何か理由がある。
俺もそうだったからな。……ま、お前らは確かに冒険者には向いてないが、まずは
向いてないなりに頑張れや。じゃあな、俺は次の仕事があるから行くぞ」

そう言ってオルスは立ち去る。

「…ありがとうございました!!!!」

「あっ、ありがとう…ございました」

「…りがとう…ござい…ました…」

感謝と敬意を込め、優也達はオルスを見送った。

「……さて…」

「…………」

「どうしようかな……」

新たな問題ぶつかり、優也は頭を悩ませるのだった。

96話『気分の悪い寝つき、気持ち良い目覚め』


その後程なくして、宿の中で三人は就寝。
部屋一つにベッドが3つと、辺鄙な集落の宿にしてはかなり高待遇だった。

……ただ、三人とも寝付くのに少々時間がかかった。
お互いに考え事をして眠れなかったのである。
早めに床に着いたのに、完全に眠れたのは12時を回っていた。


翌朝になると、優也は珍しく自分で目を覚ました。
自然に目が覚めた為に、目覚めは悪いものでは無かった。

「……ふわぁ……珍しく…誰にも起こされなかったな……。ん、じゃあ今何時だ!?
まさか昼過ぎじゃないよな…?」

ふと頭上に飾られている時計を見るとまだ朝6時半。どうやら昼過ぎではないようだ。

「うわめずらし……今日はなんか、めっちゃ早いな。」

「おはよ、優也」

隣のベッドで寝ていた楓が優也に挨拶した。

「うん、おはよう……って楓!?起きてたのかよ!」

「今起きたの。優也、今日はすごい早いわね」

そう言いながら彼女は起き上がり、カーテンを開け放った。

「いやあなんか今日はいつもより目が覚めるのが早くってさ。…そんな事より楓、……大丈夫なのか?」

昨日のことがあり、ちょっと気まずげに楓に尋ねる優也。

「……まっ、いつまでもずーっと塞ぎこんでるのって私、向いてないし?
…一晩寝ればあれぐらいの事、どうって事ないわ!!」

そう言いながら元気にニッと笑ってみせる楓に、優也も少し安心感を得たようだ。

「よ、よかったよ。…やっぱり楓はつよいな」

そのあと目覚めた翠も楓の事を心配したが、元気になった楓を見てホッしていた。


部屋を出た三人は、ちょうど廊下を渡っていた宿の人に食堂へと案内された。
提供された食事は味噌汁にご飯に魚の和食。質素ながらも三人の口には
よく合うようで、箸がよく進んだ。

(…でも、マナーが厳しいんだよな。いつも以上に気をつけて食事しないと…)

掟が厳しいヴィルデスの村では、食事のマナーも掟の一部として紐付けられている。

基本的に常識の範囲内の事を守ればいいだけなのだが、油断すると簡単に幾つもの掟破りを
してしまう羽目になるので、こうした人の目が多い食堂では優也たちも少し慎重になっていた。

「なぁかえ…

振り向く周りの獣人たち。
そして喋ろうとする優也を睨み、人差し指を口の前に立てる楓。

(……あっ、そうだった…)

優也はこんな掟もあったのを思い出す。

『食事は他の生き物や作物の命を頂く神聖な行為。そんな食事中に会話をするなどもっての外』

(忘れてた、助かったよ楓…)

「おーい、あんたら」

「っ!?」

会話をしないよう、気を張ったのも束の間、優也達は獣人の方から話しかけられた。
腕に掲げられているマークを見るに、ONESの人のようだ。

「なんだ、そんな驚いた顔して……あぁ、食事中だったか。成る程、勉強しているようだが…まだまだだな。
俺たちONESは、特例で掟が免除される事があるんだ。今回みたいな業務の連絡する時なんかは
食事中の奴らに声をかけても許されるってわけだ」

(…なんか、ズルいな)

「あそうだ、お前達も口を出していいぞ。俺が許可さえ出せばお前らが言葉を発しても誰も咎めねえからな」

「…ではお言葉に甘えさせていただきます。…それで、俺達に何か用ですか?」

「用もなにも、お前達の最初の仕事だ。飯食ったらすぐギルドに来てくれ。わかったな」

「…わかりました。」



食事を終えた三人は足早にギルドへと足を運んだ。

「来たみたいだな」

「あぁもう待ちくたびれたぜ!!なんだって部外者の為に待つ必要があんだよ!」

そこには優也達の他にもう一人、獣人が居た。金髪で丸い耳が頭から出ており、赤い服に身を包んでいる。

(…またなんか、面倒そうな獣人がいるわね…)

もう既に楓からの第一印象は悪い。

「それで…俺たちはこれから何をするんですか?」

「今回は、ヴィルデス近辺に湧いたモンスターの群れを倒してもらう」

「モンスターの群れですか?」

「あぁ…最近魔物の活性化の影響で、モンスターの群れを村の付近で多く見かけるようになったんだ。
こりゃ近いうちに、モンスターの大群が村を襲い掛かることになっちまうかも知れねえ。
だからそうなる前に、村の周辺をうろついてる奴らを全て倒して貰いたいわけだ」

「もう既に、他数名の冒険者がそれぞれの持ち場へ向かった。
そうだ、紹介するぞ。今回お前達と一緒にこの仕事を引き受ける
ソロの冒険者…賀王夜レオンだ。若えのにこの村じゃかなりの実力を持ってるぞ」

「…よろしくお願いします、レオンさん」

「……なぁ、旦那。やっぱりオレ一人じゃ駄目ですか?」

「えっ?」

「何言ってんだぁお前。パーティの数が偶数なら、2つずつ組む決まりだったろう。
今回はお前が先輩としてしっかりサポートしてやれ」

「くそぅ…。
なぁ、あんたら人間だよな?お前らの助けなんて要らねえからよ、
とっととこの村を出てった方がいいぜ。あんた達じゃこの村の冒険者のレベルにはついてけねえから。
なっ、そうしようぜ。この村にいても大した旨味なんてねえしよ」

「なっ…なによそれ」

「活性化した魔物の対処なんて、俺たちで十分回ってんだ。
それなのにあんたらをここで住まわす意味が俺にはわかんねえ。
食糧や住居の無駄になるだけだから、とっとと他所に行って貰ったほうがありがたい。
ほら、出てくんなら今だぜ?」

「あんたねぇっ!!折角これから協力して討伐して行こうってのに…

「か、楓さん!」

「楓、落ち着いて!!」

「っ……!」

二人に宥められ、楓は冷静さを取り戻す。

「なんだ、一度噛みついた癖に逃げるのか?ガッハッハ!
所詮は人間なんて、お前らみたいに張り合いの無え奴しかいないんだ!!」

しかし、立て続けに行われるレオンの煽りに
楓もとうとう怒りが爆発した。

「もー我慢ならないわ!!いい!?アンタ、魔物の対処が自分達だけで充分回ってるって言ってたけど
本当にそうだったら私達を雇うなんて事、わざわざギルドがするわけないでしょうが!!
そこまで頭回らないのかしら?このおバカさんは」

「…て、てめぇ!!もういっぺん言ってみやがれ!!」

「何度でも言ってやるわ!!このバカ!!」

「喧嘩はやめろ!!!!!!」

喧嘩する二人の間に怒号が飛んだ。
我に帰った楓とレオンは罰が悪そうに口を噤む。

「今の行為を過度な口論…所謂、口喧嘩とみなす。
…レオン、違反1。…桐谷楓も違反1、だ。」

「し、しまった…」

「……クソっ!!」

ギロっと楓を睨みつけるレオン。楓も黙って睨み返した。
彼ら2人は、あと違反が4つ分溜まるとこの村には居られなくなってしまう。

「とにかくだ!!これよりお前たちは、持ち場へ向かってもらい魔物を殲滅してもらう。
監視がないからと言って無駄な喧嘩はしないように!!…では以上、行ってこい!!」

こうして優也達の魔物討伐の任務が始まった。


97話『レオンの実力』


「…最悪だぜ、お前らみたいなのと組まされるなんてよ」

「それはこっちのセリフよ!!」

「二人とも言われた側からさ…」

「ふん、他の冒険者と仲良しこよししたいんならさっさと出て他所に行け」

「なんで君はさっきからそう俺らを追い出そうとするの?」

優也が尋ねるとレオンは目を逸らして一瞬言い淀み、声を荒げた。

「……お前達が邪魔なんだよ!!」

「はぁ!?なにそれ!」

「いいか、この村での掟でな、魔物を狩る時は冒険者パーティ2つが出向くことになっている。
だが最近までこの村には冒険者パーティが奇数しか存在しなかった!!

だから俺は進んで一人で戦う役目を買って出て、その分報酬も弾んでもらってたんだ。
それがお前達が来たせいで全部パーになった!!
わかるか、ただでさえ苦しい生活の足しが減ったんだよ!!!!」

「そ……それは、その。ごめんなさい」

切実な理由に優也は申し訳なく感じた。
別に優也達はこの集落に寄らずとも旅を続けられる余裕がある。
故に自分達にも多少非があると思い優也は謝った。
…だが、楓はまだ引き下がるつもりは無いようだ。

「……でもそれで私達に当たるってのはちょっと違うんじゃないの?
それに、ギルドの報酬が正当に分割されて暮らせないだなんて事…」

「…お前達には分かんねえよ!他所からやってきた人間に俺らの事なんてよ!!」

「やれやれ……ん?
モンスターの群れだ!!」

前方から、レッサータイガーの群れがこちらへ迫ってきていた。

「いいか!アイツらは全部俺が倒す!!
そしたら、お前たちの報酬も全部俺が貰う!!」

そう言いレオンは群れに向かって走り出してゆく。

「そんな事勝手に決めないでよ!!……」

楓が彼の後を追おうとするが、足が踏み出せていない。

(…楓…やっぱり昨日言われたこと…)

「…ってレオン、危険だよ!確かレッサータイガーって
初心者には厳しいって言われるモンスターだったよ、一人でなんて…」

「俺を初心者と一緒にすんなぁ!!」

レオンのパンチが、レッサータイガーに当たる。

「ぎゃう!!」

「百獣拳!!」

先制攻撃に怯んだレッサータイガーに、蓮撃を喰らわせるレオン。

「うおらああああッ!!!!」

「がぁ…う」

レッサータイガーは一瞬で倒された。

「がるるるぅ…」

仲間が倒され警戒状態になったレッサータイガー達がレオンを囲む。
そのうち二匹が、レオンに突撃を図った。

「がるぁ!!」「がるる!!」

「よっと…おらよっ!」

双方からくる突撃を軽くいなし、両者の頭を激突させるレオン。

「ゼブラブレット!!」

目を回している二匹に突きを喰らわし戦闘不能にしていく。
その調子でどんどんと群れを倒していった。

「……ほ、ほんとに強いんだなあの人」

「でもまだ全然残っているわ。…アイツには止められたけど、
このまま何もしないで帰るわけには行かない、私たちも行くわよ!」

「でも楓、お前…」

「がるぁあ!!」

その時、レオンの死角からレッサータイガーが飛びつき、
彼の腕に噛み付いた。

「ぐぁっ…てめぇ!」

怯んだレオンに一斉に飛びかかろうとするレッサータイガー達。

「まずい!!…フレイムッ!!!!」

すかさず楓がフレイムを放った。

「がるぁ!!」

楓のフレイムが一匹に命中。
他に敵がいることに気づいたレッサータイガー達はレオンから離れ
楓達にも向かって来た。

「おい!!余計な手出しすんなって言っただろ!!俺だけで十分だ!!」

「そんな事聞いてる場合じゃなかったでしょ!!」 

「はぁっ!!」

「…アースです!!」

優也と翠も戦闘に参加。四人と数匹との戦いになった。
楓をターゲットに、レッサータイガーが突っ込む。

「っ…ファイア!ファイアーッ!!」

一心不乱に杖を振り、魔法を連発する楓。やはり一度できたトラウマは簡単には消えない。

「なんだお前、勢いよく加勢しに来たと思ったら適当に魔法連発してるだけじゃねえか!!」

「うるさいわ!全部倒せれば良いでしょ!!」

「がるぁ!!」

「っ!?」

背後から更にレッサータイガーが迫ってきていた。

「氷結斬!!」

「がるぅ…!」

咄嗟に優也がレッサータイガーを斬り伏せる。

「……大丈夫、楓?」

「…大丈夫よ、戦えるわ!!」

「……ふんっ、お前達も流石に、その程度の戦闘は出来るみてえだな」

その後も、群れとの乱闘は続き、日が暮れる頃になってようやく
レッサータイガーを全て倒し戦いは終わりを迎えた。

「…ふーっ…すごい数だった…疲れた」

「はぁ、はぁ…ほらあんな数、一人じゃ絶対やられてたわよ」

「……うるせーっ。いつもならこうはなってねーんだよ。…今日のはやけにいつもより多かったっていうか…」

「…そうだ!あんた、さっきの傷見せなさいよ!」

レオンの腕を掴み、キュアを使う楓。
傷はみるみるうちに癒えていく。

「お、おい!…ったく、後でギルドで回復してもらえるっつーのに…」

「ダメよ、傷は早めに消毒手当てしないと大変なんだから。」

「……それよかお前、戦いになると急にビビりになってたな。
ほんとはお前、モンスターが怖えんだな?」

「なっ…こ、怖くないわよ!!」

レオンにまで看破される楓は強がりを見せた。

「ウソつけ。完全に魔物が近距離に来るのを恐れてるように見えたぜ。
んな調子じゃここでやってけねーだろ?だからよ今すぐこの村から
去った方がいいぜ。だから今日の分の報酬は俺が…」

「…いやよ!私達も、ちゃんとアイツら倒したんだから
報酬はキッチリもらうわ!!」

「…………まぁ、そりゃ当然だけどよ……」

「……?」

口を閉じ黙り込むレオン。そしてすぐ口を開こうとした。
また喧嘩が始まるのかと思った優也は二人を止めようと動く。
…しかしレオンは突然手を地面につける。

「…………頼むっ!!今日の分の報酬だけは……どうか俺に譲ってくんねえか!!」

「……へ?」

喧嘩腰でくると思っていた楓達は拍子抜けしてしまった。

98話『賀王夜一家の晩餐会』


「…どう言うことかしら、この態度の変わりようは」

「……どうしても…今日、纏まった金が欲しいんだ。…頼む、譲ってくれ…!!」

頭を下げるレオンに優也は答える。

「…うーん、少しだけ分けるくらいなら、別にいいよ?そんなに暮らしが苦しいんだったら
俺たちも助けてあげたいと思うし…分け前は4分の1ぐらいはどうかな?」

「……いや。それじゃ足りねえ…それじゃ足りねえんだ!!」

「ちょっと!アンタちょっと貪欲過ぎるわよ!?少しでも分けてあげるって
優也が言ったんだからそれで我慢しなさいよ!!」

「……さっきよォ、生活が苦しいって言ったが…あれは嘘なんだ」

「……は?」

「ホントは……くそ、こんな事、知らねえ他所モン…
ましてや人間なんかに言いたか無かったがよ…

……明日、弟の誕生日なんだ。それで弟が前から欲しがってたモンを買ってやりたかったんだが
それが高くってよ!!今日の依頼料、お前らが居なかったらギリギリ買えたんだ!!
頼む、次金が入ってきたらそっくりそのまま返す。だからよぉ…今回の報酬分、全部俺に分けてくんねえか!!」

レオンは地面に頭をつけて頼み込んだ。…だが。

「……あんた、それ…本当なんでしょうね?」

「なっ…!俺が嘘ついてるってのかおい!?こ、こんなにちゃんと頼んでんだぞ!!し、しかも…人間に!!」

「あんたが人間をどれ程嫌ってるかなんて、今日初めてあったから知らないわよ。
確かに家族の為に何かをしたいって気持ちは私もよくわかるわ。…でもそれで
私達が戦った分の報酬を渡せって言われても納得いかないのよ。嘘かもしんないし。」

一度、狼牙の流血という悪質な冒険者と対峙している楓は
最早この程度ではレオンを信じきれないようだ。

「……あぁ、分かったよ。分かりきってたさどうせ信じてくれねえって事ぐらいよ!!
分かったもういい!今すぐに別の依頼を幾つか受けりゃあ…」

「ちょっと待って!!」

怒って去ろうとするレオンを引き留める楓。

「…なんだよ引き留めんな、クソったれ。俺は今、虫の居所が悪ぃんだよ」

イラついた態度でレオンは楓に近づく。今度こそ喧嘩が始まるのかと思ったが…

「私達をあんたの家に連れて来なさいよ!!」

「……あぁ?」

今度は楓が突拍子もない発言をした。

「今のとこ、あんたは信用ならないわ。…だったら私達に信用を得させればいい。
もしあんたにほんとに弟がいるんなら、証明しなさいよ。
本当だったら報酬の件は考えるわ。今私たち特別生活が苦しい訳でもないし」

「……てめえ、んな事言って期待持たせて、裏切るってんじゃ…」

「そんな悪趣味、持ち合わせてないわ。
……嫌なら別にいいわよ、早く他の依頼でも探せば?」

「……チッ…わーったよ!!じゃあギルドで報告したらついて来やがれ!!」



帰りの道中、前を行くレオンの後ろを優也達は歩いていた。

「…楓、意外な事するなあ。レオンの事完全に見捨てたと思ったよ」

「あんなの泣き落としだと思ったけど、もしホントだったら可哀想じゃない。…弟くんが。
だから咄嗟に提案したんだけど、拒否しなかったって事は本当なのかしらね」

「…ほ、本当だと思いますよ。少なくとも、人を騙そうとしてる目では無かった気がします」

「どうかしらね…。まぁそれもすぐわかることか」


ギルドに着いた四人を、先ほどのONESの人が迎える。

「おぉ、意外と早かったな!!流石レオンだ。群れの討伐を一日で終わらせちまうとは…
他の連中はまだ一組しか戻って来てないぜ」

「……今回は、コイツらにも助けられたから早く終わったんだ。ダンナ、それより今日の分の報酬をくれ」

「あぁ、わかった……にしても意外だな、お前が人間を評価するなんてよ」

そう言いながら受付は金庫から依頼料を取り出す。

「…ほら今日の依頼料だ。お前達も初日にしちゃ上出来みてえだな」

「あ…ありがとうございます!!」

今回の依頼料はいつもよりも多かった。
群れの討伐だったからだろうか。

「……んじゃついてこい」

「うん」

その後すぐレオンの家へ優也達は向かっていった。



「……ほらよ、着いた。ここが俺んちだ」

「…ここがレオンの家…」

優也達が訪れたレオンの家は、少し大きいが古く年季の入った一軒家だった。
お金がないのか、修理されていない部分も多々見られる。

「……お袋がお前らを見て仲間か何かと勘違いされちゃ困るからよ…
弟を連れてくるからお前らそこで待ってい…

「おぉっレオン!アンタ友達連れて来たのかい!?」

玄関の扉が勢いよく開かれ、そう発したのは…

「ゲッ、母ちゃん!!なんでよりによってこのタイミングで外出てくんだよ!!」

…レオンの母だった。

「なんでって、たまたま郵便物を確認しようと出てきたんだよアンタ。
それよりも友達が出来たんだねぇ!まったく心配だったよ、
ダチの一人も家に連れてこないんだから」

「お、おい!こいつらは別に友達じゃ…」

「いつもウチのレオンがお世話になってるねぇ!!ウチはこの子の母ちゃんだよ。
名前はリアンナってんだ。それで、アンタ達名前はなんて言うんだい!!」

勢いに押され、訂正する間も無く優也達は素直に自己紹介をした。

「…レオンのお母さん、どうも初めまして。俺は真田優也と言います」

優也に続き楓と翠も自分の名前を言う。

「……その名前、あんた達ひょっとして…人間なのかい。いや、耳が獣人のそれじゃなかったからねぇ薄々そうは思ってたけど…」

「えっと…そ、そうですけど…も、問題でしょうか?」

人間嫌いのレオンの母のことだから、彼女も人間を嫌っているのかと思った優也だったが…

「いいやなんも問題無いさ。ただ初めて会った時はウチのレオンの当たりが厳しかったろう?
レオン!!あんたなんで言わなかったんだい、人間の友達が出来たことを…」

「だから友達じゃねえっつってんだろ!!」

割行ったレオンの大声が、閑散とした庭に響き渡った。

「……あんた。

親に向かってその口の聞き方はなんだい!?」

リアンナがレオンに羽交締めを喰らわす。逃れることが出来ず暴れるレオン。

「ぐおぇ〜!!か、母ちゃん!!悪かった!俺が悪かったって!ま、まじギブギブ!!」

泣く泣く謝ったところでようやくレオンは解放された。

「さぁ、こんな所で立ち話するのもなんだからウチに上がって行きなさいな。
狭いうちだけどね。あっはっは!」

「ちょ…母ちゃん!…」

「…い、いいのかな…?」

「何してるんだい、早く入りな!」

「…レオンごめん、お邪魔しまーす」

リアンナの先導に従い、優也達はレオンの家を案内されることになった。

「にーちゃんおかえりなさい!!…あれ?知らない人がいる!!」

廊下を進むと、部屋から一人小さい子が出てきた。

「うちの息子のレオジさ!上から四番目の子だよ。
レオジ、レオンが友達を連れてきたんだよ!」

「にーちゃんのともだち!!すげー、こんにちは!!レオジです、8歳です!」

元気よく挨拶してくれたレオジに優也達もまた一人ずつ挨拶を交わした。

「さてちょうどいいや。そろそろ晩飯にしようかと思ってた所なんだよ。
アンタ達はリビングで待ってておくれ!」

「い、いいんですか?」

「別にかまやしないよ、三人客人が来た所で変わんないからねぇ。
レオン!三人を適当な席に案内したげな!」

そう言うとリアンナはキッチンへと向かっていった。

「……チッ、なんでこんな事に…はあ…。
今お前らを帰らせたら俺の身が危ねえからな。晩飯食ったらすぐ
適当に理由つけて出てって貰うぞ」

「…う、うん。わかった」

「やったー、ばんごっはんー!」



「ほら、ダイニングだ。椅子も用意したからここ座れ」

「な、なにこの椅子の数!?」

優也達が案内されたダイニングルームには椅子が13個並んでいた。
用意してもらった分を抜いても10個もあるようだ。

「…もしかしてレオン家って…ものすごい大家族?」

「もしかしなくてもそうだぜ。…ほら、話をしてれば来たぞ」

ドタドタとダイニングに入ってくる小さい影。
優也達を見るなり、一心不乱に喋り出した。

「……こんにちは。レオン兄さんの知り合いですか?」

「にーちゃんの友達ってかーちゃん言ってたよ!!」

「兄貴の友達?そんなのいたの?」

「コチカお姉ちゃんの他には聞いた事ないよ」

「どうでもいいから早くご飯食べたいよー。」

「なんか赤い人と青い人と緑のひとがいる!!」

やって来たのとレオジを合わせてこれで5人。言いたい事を言い切ると、
そそくさと自分の席についていく。

「こ、こんなに兄弟いるんだねレオン」

「…あぁ、お陰で毎日騒がしいんだ。
…えっとだなお前たち。こいつらについては母ちゃん達が来たらまとめて教えてやる!」

レオンは優也達を指差しながらそう言う。

「えー、今知りたいよー。だれなの〜?」

すると、丁度リアンナ達が部屋へ入ってきたようだ。

「待たせたね、今日は中華だよ」

「やったー!ちゅうかちゅうか!」

そう言いながら部屋に食事を持って入って来た
リアンナと2人の女の子達。
彼女らもまたレオンの妹達のようだ。

「あ、レオン兄。この人達?レオン兄の友達って」

「…あー、こほん。いいかお前たち!説明するぞ。
この人達は俺の仕事の関係者だ。かーちゃんは友達と勘違いして
家にあげちまったが、あくまで仕事する上での知り合いだからな!!
勘違いはするなよ!」

「…へぇ、そう…ふふ」

「おいリオン!含み笑いすんな!!ほんとにこいつらはただの知り合いなんだからな!!」

「ほんっとうにアンタは恥ずかしがり屋なんだから…素直に友達ができたって言えばいいじゃないの!」

「だからちげーて!!」

「…さ、揃ったしとっとと食おうか。ラオも待ちきれないみたいだからねぇ」

「「「「「「「「「いただきまーす!!!!」」」」」」」」」

「「「いただきます!!」」」

総勢、12人。一般家庭にしては多すぎる人数の晩餐が始まった。

「……」

賀王夜家の食卓はそれはもう騒がしいものだった。
大体の子は喋るし母親もよく喋る。優也達も自ずと会話をしていった。

「兄弟の方達のお名前はなんていうんですか?」

「ん、ああ、教えてあげようか。うちの家族は上からレオン、リオン、レオナルド、レオジ、レオナ、
レオノスケ、ラオ、レオの8人兄弟さ!うちは大家族だからね、食費がすごいけど
レオンがギルドで働いたりしてくれるから助かってんだよ」

「そっか…家族のために頑張って働いてるんだねレオン」

「チッ…」

「翠さん…髪、綺麗。触らせて」

「ひゃっ!…い、いいですけど…」

「サラサラ…普段どんなトリートメント使ってるの?」

「え、ええーとですね…私の友達がお勧めしてくれたものです。他の大陸から取り寄せてるもので…」

「わっ、この餃子おいしい。自家製ですか?」

「うんー、そう。お母さんと私とレオナで包んだんだ。美味しいって言ってくれて嬉しいな」

「そうなのね、すごいわ…。あっ、そういえば食事中の会話ってここ、厳禁なんじゃ…」

「あっはっはっは、いいのいいの!こーんなとこまでONESも視察に来やしないからねえ!
大体、プライベートなとこまで口出しされちゃ堪らないっての!」

「それ言っちゃうんですね…」

「まあ正直、この村に住んでる若者達は見られなければOKって思ってるよ。
掟を厳しく守ってるのなんて年寄りばっかりだよ、あははははは」

テーブルの上の料理が全てなくなるまで、この賑やかな食事は続いた。

99話『筋』


食事が終わり次第、レオンはアイコンタクトで優也達に外へ出るよう指示する。
優也達はレオン達一家にお礼を言うと、玄関先へと歩いていった。

「あら本当に帰っちゃうのかい。今日はうちに泊まって行ってもいいんだよ?」

リアンナの後ろからレオンがこちらに断れと言わんばかりに眼光を飛ばす。
彼が口で止めた所で、彼女は止まらないと思ったのだろう。

「い、いえ!こ…これ以上はレオンにも悪いですし」

「そうかい?そりゃ残念だ。…うちのバカ息子はねぇ、近所に住むコチカって子以外に
友達を見せてくれた事がなかったんだよ。でも今日、アンタ達みたいないい子が
あの子についているって知って嬉しかったわぁ。
ちょっと素直になれないところはあるかもだけど
アンタ達、どうかこれからもあの子と仲良くやってくれないかい?」

「えぇ、もちろんです」

「……レオンのお母さんからそう頼まれちゃ仕方ないわね〜…」

「え、ええっと…出来る限り寄り添ってみます!!」

三者三様だが仲良くする事を承諾する三人にレオンはツッコむ。

「おい!そこは承諾すんなよッ!!!」

「ま、いいじゃんレオン。もう同じ食卓を囲んだ仲だよ?」

「俺は誘ってねえしメシ食う事になったのは偶々だろ!!

……はぁ。とりあえず母ちゃん、俺もこいつらも、これからギルドに用があるから、ついでに行ってくるわ」

「……わかったよ。それじゃ、みんな今日は来てくれてありがとうねぇ」

「こちらこそご馳走していただきありがとうございました」

「お兄ちゃん達じゃーねえ〜」

レオン一家に見られながら優也達はギルドへ行く……フリをして、見えなくなった所で歩みを止めた。

「はぁ…なんかすげー時間かかっちまったけどよ…これで分かったろ?
本当に俺に弟がいるってよ」

「まぁ、うん…。あれを見たら流石に信じないわけにはいかないよ。」

「それで…その…なんだ。今更、改まって頼むと…なんか気がひけるだけどよ…」

「……なによ、塩らしくなっちゃって。
いいわよ、私たちの分の報酬は最低限残してくれればそれでいい。好きに持ってっていいわ!!」

そう言って楓は預かっていた今日の分の報酬が入った袋をレオンに投げ渡す。

「おっとと……お、お前らはそれでいいのかよ?」

「優也と翠がいいって言うならね…まあでも、」

「もちろん俺はいいよ、最低限のお金が貰えれば。
この村に来た理由も、凄く深いものじゃない訳だし…ごめんね、レオン」

「私も…大丈夫です!!あっ、あの…私からも謝ります、ごめんなさい!!」

「…この2人ならこう言うってわかってたわ。
…私も、いろいろ悪かったわよ。
ほら早く、このお金で弟君のプレゼント買って来てあげなさい!!」

「お前ら…

……借りは作んねえ!!必ず、絶対後で返すからな!!お前ら、恩にき……

「バカ言っちゃいけないよ!!」

そこへ突如声を荒げる者が一人。

「か…母ちゃん!!?」

「レ…レオンのお母さん!?どうして…」

現れたのは、レオンの母リアンナ。今の話を聞いていたようだ。

「アンタはギルドに仕事を残したままウチには帰らないからね。
おかしいと思って後をつけてたんだよ。
そしたらお金の譲渡が行われてた訳だけど…
一体どういう事なんだい?」

「う…それは……その」

「早く話しな?」

「わ、分かったよ!!」



「…ふーん、レオのプレゼントのお金が足りない、ねぇ…」

事情を全て話したレオン。どうやら明日誕生日なのはレオ君だと言う事も判明した。

「だってどうしようもないだろ! 俺の所持金だけじゃ足んねえし…
かと言って家に入れてるお金を差し引いたら、あいつらが腹一杯メシ食えなくなるし…」

「……はぁ。あんた達…うちのバカ息子が迷惑かけたねえ。そのお金はあんた達が苦労して稼いだお金なんだ。
それをバカ息子の我儘で譲り受けるなんてまるで筋が通らないよ。」

「えっ、で、ですがレオンのお母さん…」

「あの、私たちはみんな一応大丈夫ですから。お金も後で返す約束もしてくれたし…」

「双方納得してるからそれで良いって問題でも無いんだよ。
他所の人様から何の見返りもなく、後で返すって口約束だけで
お金を借りようとしてるのが問題なのさ。恥ずかしいったらないよ」

「でも母ちゃん!そ…それじゃレオのプレゼントが…

「でもじゃないよ!!いいかい、他所の人様に迷惑かけるくらいならねアンタ、
その前に私に相談くらいしたらどうなのさ!!プレゼントなら家族の私が立て替えあげるから
後で働いて、それで私に返しな!!…それが通すべき筋ってもんだよ」

「母ちゃん…自分の金なんてあったのかよ…」

「コツコツ貯めてたヘソクリがあるんだよ。
…ほら、そんな事より!!アンタこの子達に何か、言うことは無いのかい。
ホント優しい子達じゃないか。アンタが自分の我儘を振りかざしてんのに
あの子達謝ってまでくれてたじゃないか」

その言葉にレオンもハッとなる。

「う……。

お前ら、す、すまん!!俺…どうかしてた!!
弟のためだとか言って…自己中心的だった!母ちゃんに言われて
…やっと気づいた!!…それと…その、……今まで邪険にして悪かった。
……俺の頼み、聞いてくれて…ありがとうな」

「…言えたじゃないか」

リアンナは項垂れたレオンの頭に手を乗せた。

「そういう訳だからね、これは返すよ。いやほんと、うちのバカ息子が悪かったねアンタ達」

「いやいやそんな、俺たちだって夜ご飯ご馳走して貰いましたし…」

「わ、私たちは大丈夫です」

「全然、気にしてないですよ!…レオン!弟君を大切にしなさいよ!!」

「……あ…当たり前だ!」

「コラっ、ありがとうだろ!」

「痛ッ!」

そうして優也達はお金を返してもらい、自分達の泊まる宿へと
帰っていくのであった。

100話『増え続ける魔物達』


話は今朝に戻る。
ギルド『ヴィルデスゲート』にて、ONESと揉める獣人がいた。

「そこ!!耳に付けているものを外しなさい!!」

「あんだってんだよ、アタイの勝手だろうが!!」

「敬語を使え!!罰則2点だ!!」

「あー、戻ってきて早々かよ…あいっかわらずだな…」

「…今悪態ついたか?」

「いえっ!ただ思った事言っただけですー」

揉めていたのは狼牙の流血のリーダー、ルーヴ・フランムスタ。
同じく仲間のロプスとリガラも一緒にいる。
どうやらここは彼女達の故郷らしい。

「あとそこのお前!!我ら獣人族の印を顔に付けていないな!!
この村にいる間は付けるのが鉄則だ!!」

「…別に、いいじゃないですかそんなもの付けなくたって。
俺は顔を汚したくないんです」

「おいおいロプス、これに関してはカッケェじゃねえかよ!!
村の風習に従ってるのは癪だけど、このオシャレがわかんねえのか?なぁリガラ」

「…アネゴの言う通り」

「嫌なものは嫌だ」

「ならば、君も罰則1点だ!!次見かけた時ペイントを付けていなかったら更に2点分罰則ですからね!!」

「チッ…」

「我らに対しての舌打ち。これも罰則だ、君もこれで2点だな」

「ぐ、ぐぐ……」

声を荒げそうになるのをロプスは口を手で塞ぎ抑えた。

「……それでは。くれぐれも、掟を破らないよう…よろしくお願いしますよ」

そう言ってONESの人は去っていく。
……姿が完全に見えなくなった後、やっとの思いでロプスはストレスを吐き出した。

「だああッ!!だからこの集落には帰りたくなかったんだ!!!!何が掟だ不自由なだけじゃねえかッ!!!!」

「ロプス…ここにいるとすごく荒れてる」

「…はぁー、しゃあねえからピアスは外しとくか…。チッ、とっとと依頼受けちまおーぜ」

悪態をつきながらも、狼牙の流血は言いつけを渋々守り依頼を受けていく…。



「優也、起きなさいよ!朝食に間に合わなくなるわよ!!」

「ふわぁ…まだ眠いよ…」

「おはようございます」

翌日、朝7時前に優也は楓に揺すられ目を覚ました。
あれから、宿に帰って短い時間でお風呂を済まして、
10時前までに就寝をした。これらも全て
掟で時間が定められているようだった。
眠い目を擦りながら、布団から這い出る。

「毎日夜10時までに就寝、朝7時までに起床かぁ…」

「十分じゃない。早く寝て早く起きれるのは健康的だと思うわ」

「でもうっかり二度寝なんてした日には罰則が与えられるんだろ?」

「それは9時間近く寝ておいて二度寝する方が悪いわよ。
……まあ優也は起こさなかったらそもそも起きないけど」

三人は身支度を整えると、食堂へ朝ご飯を食べに向かう。
今日はベーコンエッグトーストとコーンスープの洋食仕様だった。



「おう!来たかお前達!」

朝食を終えてから、ギルドへとやって来た優也達。

「どうしたんですか、そんなに慌てて」

「それがだな、昨日討伐してもらったモンスターの群れなんだが
討伐隊から連絡があってな。倒しても倒しても、次から次へと
モンスターの湧きが止まらないそうなんだ」

「そ、そんなことってあるんですか?」

「いいや、今までこんな事は無かった。とにかく、このままじゃそこら中がモンスターで
溢れかえるのも時間の問題だ。支給、応援を頼みたいんだが」

「分かりました!!」

「おっと、それなら俺も一緒に行かせてもらうぜ」

背後から、いい覚えのある声が聞こえる。

「レオン!!」

「あら、今日は弟君の誕生日じゃないの?」

「パーティは今夜だ。プレゼントもお陰様で買えたし、夜まで暇なんでよ…
助けがいらねえなら帰るぜ?」

「…いや、人数は多いほうがいい。レオン、お前が来てくれると助かる。依頼料もはずむぞ」

「よーし、んじゃいくぞお前ら!」

「……なんでアンタが仕切ってんのよ…」



「こっちか…確か昨日、俺らの他の冒険者達が向かった先だな」

「昨日からずっと帰ってこれてないって事なのかな?」

「多分な。今回の任務は大量湧きしたモンスターの群れを全て倒す事。
倒しても湧かれちゃあ任務完了にならねえんだ」

「そ、それは大変ですね…早く、助けに行きましょう」

「あぁ…しかし、楓。お前戦いに来て大丈夫なのかぁ?
マトモに戦えんのかよ」

「……私だけ戦わないわけにはいかないわ!大丈夫よ!!」

「…ふん、俺は助けられねえからな。せいぜい仲間に守ってもらえ」

すると、目の前から五匹のホブゴブリンが迫ってきた。

「…も、モンスターがこっちにきた!!」

「何?ここまでモンスターが固まって来る事なんてねえんだがな…
まあいい、俺が全滅させてやるぜ!」

レオンが真っ先に敵へ突っ込んでいく。

「ちょっと!ここで無理に体力消費してもダメでしょ!」

「俺ぁライオンの獣人だ!!体力もお前達人間よりあんのさ!
お前らこそ体力の温存しとけよ!」

「……はぁ。わかったわよ、ここはレオンに任せるわ」

レオンはみるみるうちにホブゴブリンを倒していった。

ホブゴブリンを倒してから、また少し進むと前方から人影が見えてきた。

「…またホブゴブリン?」

「……いいや…人だ!俺たち以外の冒険者みてえだな!」

メガネをかけた、牛柄の髪と角を生やした獣人がこちらに走ってくる。

「おーい!!ハァ…そっちにホブゴブリンが向かわなかったか…?ハァ…」

「あぁ、それなら俺が全部倒したぜ」

「あんたは…ハァ…レオンか、名前は知ってる…ハァ…」

「おい、それよりお前はなんだ?昨日依頼を受けた冒険者の一人か?」

「あぁ、そうだ…ハァ…。俺は冒険者パーティ『互角の集い』のメンバー、
モノクロだ。俺たちとあと…もう一つのパーティとで昨日からモンスターと
戦ってんだが…倒してもどんどん湧いて来て…休み休みでずっと
戦いっぱなしだったんだ。
それでさっき、ホブゴブリンを五匹街の方角に
逃しちまったから、急いで追いかけてきたんだ」

「へぇ、そうか…他のモンスター達はこの先にいるんだな?」

「あ、あぁ…。俺らのキャンプ場もあるんだ。そこまで群れは来ている。
食い止めるのに加勢してくれると大いに助かる…」

「…わかったぜ。この俺と…あとまあ、ついでに
この三人がいれば百人力だぜ!任しときな!!」

「私達をついで扱いすな!!」

牛の獣人、モノクロと共に、4人は
彼らが拠点としているキャンプ地にやって来た。 
前の方では6人、冒険者達がモンスターと戦い続けているのが見える。

「モノクロ!…その人達は援軍か?」

「あぁ…ギルドが援軍を出して来てくれたみたいだ。
あのレオンもいる…これで勝機は上がったぞ」

張ってあったテントを背に座りこんでたのは牛の獣人。モノクロの仲間のようだ。
腕を怪我している。

「ちょっと待って、貴方怪我してるじゃない」

「あぁ、夜中仮眠をとってる最中にまた湧いてきたモンスターに襲われてな…」

「少しじっとして。…キュア!!」

楓は杖を振るうと回復魔法を唱える。

「…うお、ヒーラーか?助かるぜ、何せ俺ら二つのパーティどちらも
回復魔法扱える奴が居ねえんだ」

「よくそれで今まで平気だったわね…」

「よっしゃあ、そんじゃこっからは俺たちに任せとけー!!」

そう言ってレオンはまた魔物の軍勢に突っ込んで行った。

「…レオン!?」

「誰だ、アイツ…ゼェ…」

「賀王夜レオン!!援軍か、助かる!!」

レオンに気づいた冒険者達にも士気が戻ったようだ。

「よーし、早速俺たちも行こ……」

向かわんとする優也は向こうを見て固まった。

「……どうしたの優也?」

「い、いや…あそこで戦ってるのってさぁ…」

「!……何でここにいんのよ…」

向こうで戦っている三人組。

「くそッ、こいつらホントしつけえな!!」

「…アネゴ!もうボロボロ!…休んで!!」

「うるせェ、全部アタイがぶっ飛ばすんだ!!」

戦い続けているもう一つのパーティとは、狼牙の流血の事だったのだ。

このページへのコメント

あぁ^〜母ちゃんみたいな豪快なキャラいいっすね^〜
古き良きワリオ様を思い出してノスタルジックな気持ちになっちゃ^〜う

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Posted by 名無し 2022年09月11日(日) 22:16:24 返信

ウィンドマウス、レッサータイガー、スピアフラワーの詳細を観たいわ!
イーグルタイガーも含めてみせてちょうだい!!

1
Posted by 名無し 2022年06月29日(水) 19:25:31 返信数(1) 返信

人外描くのマジ苦手だから期待しないで待ってて♡

1
Posted by 名無し 2022年06月29日(水) 23:16:51

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