息抜き落書き - ばんがいへん 優也王子と楓姫
これはどこかのおとぎのせかいのおはなしです。

あるところに、メープル王国という紅葉が美しい国がありました。

その国のお姫様である楓姫は、昔からお転婆で、姫としてのお淑やかさがなく
これでは人前に出せず婚約者も探せまいと、王様と王妃様は困り果てていました。

楓姫が15の成人式を迎えた頃、そろそろ婚約者を決めなければならないと、
メープル王国主催のお茶会を開こうと提案されます。
楓姫はお茶会に参加したことはありましたがそれよりも外で遊ぶ方が楽しいので
あまり乗り気ではありませんでした。

そんな楓を無理矢理お茶会に参加させ、一通りの挨拶が済んだ後。
各国の貴族や王族達に楓は早速言い寄られます。

「美しい姫君よ。私と共に暮らそうではないか」

「ええ?退屈そうだからパスよ」

「ああ、麗しの楓姫!私はそなたを一眼見た時から…」

「あーもう!聞いててむずむずするわ!」

言い寄る男達を横目に楓はお茶会の会場を飛び出してしまいます。

「こ、コラっ楓!!どこへ行く気だ!!」



楓はお気に入りの場所であるメープル城の中庭にやってきました。
ここはとても広く、メープル王国特有の一年中色鮮やかな紅葉が見られる美しい中庭でした。

「はぁ…あんな人がたくさんいる空間、息苦しくて仕方がないわ。さてっ…と」

楓は軽々と木を登ると、美しい中庭の風景と城壁を展望します。

「うーん…やっぱりここからの眺めは最高ね!」

「そこで、何をしてらっしゃるのですか?」

「きゃっ!?」

突然声をかけられた楓は、バランスを崩して木から落ちてしまいます。

「危ないっ!!」

木から落ちる楓を、見事キャッチしたのは、一人の青年でした。

「すみませんでした。驚かせてしまったようで…」

「うぅ…もう、ばかっ!!」

楓は男を思わず叩いてしまいます。

「…あっ……」

殴ったのも束の間、楓の顔が青くなりました。楓が叩いた青年は王冠を被っています。
そう、何を隠そう彼は王子だったのです。
外国との関係に亀裂が走るような行為は、父から固く封じられていました。

「っつつ…はは。噂通りのおてんばなお姫様みたいだ」

ですが王子の方はそれをものともせず、楓を腕から優しく下ろしてあげたのでした。

「っ…お、怒らないの?私、貴方を殴ったのよ。…グーで。」

「…大丈夫です。それに、急に声をかけたこちらに非があるかと」

「あなた…誰?」

「おっと、自己紹介が遅れました。お…私の名は優也。シナノ王国の王子です。」

シナノ王国はここ、メープル王国と隣国となる小さな国で
泉と雪景色が綺麗な国でした。

「……へえ。王子なのに貴方、なんでこんなところにいたのよ。会場でも見かけなかったわ」

「…いや、お恥ずかしい話ですが私、婚約の話にほとほと困っておりまして…。今回のお茶会も、辞退したかったのですがどうしてもと言われ参加したのです。それで、時間を潰すために中庭を散策していたところ、木によじ登る貴方を見つけたのです」

「…どうして婚約の話に困ってたのよ?あなた王子でしょ。婚約を求める子なんていくらでもいるはずよ」

「ええ、その通りです。…ですが、昔から私と婚約を結びたいと声を上げてくださった方々はみな、私の国の資産目当てで…私を見向きもしてくれないのです」

「そりゃ仕方ないわね。貴方イケメンってほどでもないし」

「んなっ、それは言い過ぎだろ!…あっ」

「…やっぱ、貴方猫かぶってるでしょ。いいのいいの私硬っ苦しいの苦手だし、適当にしゃべっていいわ」

「ふぅ…じゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。それにしても君は変わってる姫君だな」

「そう?…なんか、君ってのもいやね。楓って名前があるんだから楓って呼んでよ」

「…あぁ、わかったよ……か、楓」

「それでね、優也。どうせ城内では私を探してるから戻れないし、一緒に探検に連れてって!」

「え?探検って…どこへ行く気だよ?」

「紅葉山!そこにおすすめの絶景スポットがあるのよ!」

こうして優也と楓は一緒に紅葉山へ探検しに出かけました。
その頃城内では消えた楓姫を皆が必死に捜索していました。

「おい、居たか!?」

「いや、どこにもいないよ。中庭にもいなかった」

「おいおい…早く見つけないと王様が心配で卒倒しちまうよ」

優也と楓は紅葉山を一緒に探検し、お互いとても仲良くなりました。
そんなこんなで、楓達が戻ってきたのは、日も暮れた夕方でした。

「いったいどこに行っていたのだ!!」

正座でお叱りを受ける楓姫と優也王子。

「娘をたぶらかしたのは貴様か!」

「…大変申し訳ございませんでした、陛下。全ては私の責任です」

「ちょっと待ってよお父さん!優也は悪くないわ!」

「なっ名前で呼ぶ仲だと!?ぐぅ…あの楓が…ッ男を名前で呼ぶなど!!」

「殿下、落ち着きなさいな。……貴方、たしかシナノ王国の王子だったわよね」

「は…はい」

「シナノ王国の王子はとても真面目な方だと聞いているわ。大方、楓が無理矢理貴方を連れ出したんでしょう?」

「あ、それはその…」

「大丈夫よ、昔から楓のわがままに付き合わされた人は多いから。…でもね、もし娘が傷つくようなことが起きていたら。…私でもそれは許しませんでしたよ?」

「…は、はい!!誠に申し訳ございませんでした!!」

「ねぇ。もしよかったら貴方が楓の婚約者にならない?」

「なっ!?」

「え!?」

「……お言葉ですが…私では彼女と不釣り合いかと」

「そんな事ないわよ、うちのおてんば娘を扱える男なんてそうそういないもの。そろそろいい旦那を見つけないと行き遅れてしまうわ。ね、貴方さえ良ければ……なんだけど。どうかしら?」

「う…か、楓?」

「…なによっ。男らしく自分で決めなさいよね!」

「き、君はいいのかい…こんな俺で」

「別に。他のつまらない男よりはマシよっ。探検にも付き合ってくれたし…」

「……わかりました。是非、楓姫と婚約を結ばせてください。お願いします!!!!」

「決まりねっ。そうとわかれば早速だけど貴方の国の国王に挨拶が必要ね」

「こ、こら!勝手に決めるなっ…まだ私が認めてな…」

「…早く婚約者を見つけたいと言ってたのは誰ですか?」

「っ…それでも心配だ。隣国の王子とはいえ、だな…」

「では婚約を決める前に、少し期間を設ければいいでしょう。その間に彼の振る舞いや資質を見分すればいいだけのこと。それで、いいですね?」

「…………わかった」

その後、とんとん拍子で話は進んでいき、優也と楓はとうとう正式に婚約が結ばれたのでした。

「……なんか、まだ現実だと思えないな」

「私もよ」

「なりゆきかもしれないが、俺は君を…愛すると決めた。…だから…君もそうしてくれると…嬉しい。」

「…バカ。愛せない人と、結婚なんかするわけないでしょ」

「そ、それって…」

「言わせんじゃないっ!」

「いてっ…。こ、婚約するって日に新郎を殴る新婦があるかぁ!?」

「うるさいわね!!恥ずかしいこと聞き返すのが悪いのよ!!」

…その後。二人の国はお互いに併合し、一つの国になりました。
優しい王様と姫君が収める国は、綺麗な紅葉と銀世界が広がり
国民達はいつまでも、幸せに暮らしました…。

END

二人の立ち絵↓
ゆうや王子とかえで姫