息抜き落書き - 君がいなかった世界
私の手を引きながら、男の子が走っていた。
黒髪で青い服を着ていて。無理やり引っ張られてる気がするのに、嫌な感じがしない。むしろ、どこか優しい気もする。
連れて行かれた先は、海を一望できる崖。ここって…私しか知らないとっておきの絶景スポットなのに。…どうして、知ってるの?
男の子は何も答えようとしない。なんだかモヤモヤしてきた私は強く語りかける。
ねえ!貴方一体、誰なのよ!!
すると、その男の子は私を置いて逃げ去っていく。
ちょっと、待ちなさいよっ…!
全力を出しているわけでもないのに男の子は私を引き離す。
こちらがどれだけ必死に走っても…どんどん遠ざかる二人の距離。
男の子の姿は段々と見えなくなっていく…。
ちょっと……待ちなさいって…
…………って……
…………
……で…
…………で…!…
………………えで!!……
「楓!!!!」
「ふゃ!?」
「あっ、やっと目開いた!もう、みんな帰っちゃったよ。私たちも早く帰ろうよ」
そこにいたのは私の親友、秦 彩乃。…そうか、今のは…夢…
不思議な夢。会ったこともない男の子と私しか知らない場所で会うなんて。
「私、寝ちゃってたんだ」
「そりゃもうグースカとね。藍花は待ちきれなくて先に帰っちゃったよ。私たちも帰ろ?」
「うん。ごめんねもっと早く起きれば…」
「ふふ、楓すごい起きなかったよ。最初は藍花も呼びかけてたんだから」
昨日、夜遅くまで勉強してた上に、授業中もしっかり起きて勉強してたから…
だから授業が終わった途端に、こんな爆睡しちゃったのねきっと。
「あはは…まるでどこかの寝坊助さんみたいね」
「寝坊助さんって?一体誰のことよ楓〜」
「……アレ?いなかったっけ。……このクラスに。」
「さぁ?このクラスにはいないでしょ。おバカの男子グループも朝はちゃんと来てるし」
「……ふーん…」
「でもでも、授業中みんな寝てるからよく怒られるのよね〜」
(………ま、いいか…)
あの男の子は誰だったんだろう。そして今、私は…誰のことを口走ったんだろう。
ほんのちょっとだけ見た、夢なのに…なぜか心から離れない。
何か足りない。そんな気がする……秋の帰り道。