「…そんな期待の込められた目で見つめられても困ります、勇者なんて大それた事俺には…」
「…良いか?おぬしらが剣を抜かねば魔王軍に立ち向かえるものはいない。そしてあの龍によって石化された者達は魔王にしか石化を解くことができぬ。つまりおぬしらにしか救うことが出来ないのじゃ。…家族と友人に会えなくなっても良いのか?」
「………………」
沈黙が続く優也。
「何黙りこくってるのよ!…確かにすごく危険な事だし、今の仙人の説得は…どこか卑怯よ。でも、みんなを助けられるんでしょ?なら、やるしかないじゃないの!!」
「……うん。そうだよな。ありがとう楓…仙人。剣はどこにあるんですか?」
「覚悟を決めたか。…うむ、本当にすまない。彼女の言う通りじゃのう…おぬしらの家族や友人をダシにしてすまなかった。 手段を選んでおる場合ではなかったのじゃ」
「じゃが、本当にお主らにしか魔王退治が出来る者がいないのは事実なのじゃ……剣、じゃな。ついてきなさい…」
「…楓、ちょっと卑怯ってのは言いすぎたんじゃないか?この人、すごい恐縮しきっちゃってるよ」
「何よ?本当のことじゃない。…あんな説得、聞いた瞬間にもう私ほんとはすぐに怒鳴りつけてやりたかったんだから」
怒りをあらわにする楓と、しょんぼりする仙人に挟まれ歩く優也はとても居心地が悪そうだった。
〜数分のち〜
「…ここに、剣があるんですか」
「…うむ。とても大昔、この里ができるよりも前に封印された伝説の剣…」
「聖剣イノーマスじゃ…」
「台に剣が刺さってるわ……これが伝説の剣なのね」
「……大昔というだけあって年代物っぽいな」
「……今まで遊び半分や不純な理由でその剣を抜こうとしては拒まれ今まで抜けたことのない聖剣。……この非常事態で、なおかつ、立ち向かう覚悟を決めたお主なら……抜けるはずじゃ」
「……それじゃあ抜きますよ」
「うーん、抜けな……うわぁっ!!きゅ、急に抜けた……」
「案外あっさり抜けたわね……」
「おぉ…見事剣に認められたな!!勇者優也の誕生じゃ!!」
「…剣が抜けたのはいいんだけど」
「これ本当に勇者の剣なんですか?古びてるのはわかりますがだいぶ錆び付いているんですけど……」
「その剣は使用者の能力に応じて成長するのじゃ。長い間使われなかった今は力が封印されておるからそのような姿なだけじゃわい」
「成長する剣…なんかすごいわね」
「……次に楓、おぬしには魔法を覚えてもらう。ちなみに今まで魔法経験は?
「魔法?……残念だけどうちの学校では扱ってないし興味もなかったわね……」
「むぅ…(ヒイラギシティが魔法離れした都市とは誠のようじゃの。)では根掘り葉掘り魔法の基礎を教えてやる。」
「魔法は生きとし生けるものすべてが持つ魔力によって生み出される。その魔力は種族や個人によって異なるがいずれも魔法を使い続けることで増量が可能じゃ。…人間族で、今まで魔法を使ってこなかったと考えるとお主らの魔力は低めじゃが…」
「…とりあえず魔法を撃ってみせよう。ファイア!」
手をかざした仙人の手から小さな炎が放たれる。
「おぉー、手から火がでた!」
「さっきの火と比べたら小さいわね」
「あたりまえじゃ!さっきのギガブレイズは上級魔法、今のは初級魔法のファイア。お主の技術的にも魔力量からしても今はファイアしか使えぬ」
「…それじゃあ、撃ってみなさい。手をかざして、ファイアと詠唱するのじゃ。(人に向けないように!)」
「えっと…こうかしら?ファイア!!」
楓の手から仙人と同様に小さな炎が放たれた。
「わっ、本当に出た!!」
「…ちょっといいですか?」
「どうした、優也?」
「こんな簡単に魔法が撃てたら普段でもついうっかり魔法を詠唱してしまうという事が起こり得ると思うんですが…」
「そんなことか…実は魔法を放つ条件は明確に言えば詠唱ではない。魔法を使いたいという意思により魔法は発動される。初心者はそれこそ詠唱という形で魔法を使っておるが上級者の中には瞬時に魔法を使えるように無詠唱で魔法を使うものもおる」
「つまり何も考えずに『ファイア』って言っても魔法は発動しないんですね」
「もし仮にそうじゃなかったら、今の『ファイア』で発動してるはずよ」
「うむ。さぁ、次の魔法に行くとしよう。次はキュアじゃ。対象の傷を癒す回復魔法じゃな。…さっきの怪物から逃げた時に擦りむいた傷があるの。ちょうどいいから自分でかけてみなさい。(今度は手を自分にかざすのじゃ)」
「えっと…キュア!!」
「…すごいわ!ヒリヒリしてた痛みが引いてく!!」
「俺も使ってみよっと…キュア!!……あれ?何も起きないぞ。キュアー!」
「…ふむぅ、優也は回復魔法が不得意なようじゃの」
「え?不得意?」
「魔法にも人によって得意不得意がある。初心者は使えない魔法が多いが不得意な魔法は初級ですら扱えないのじゃ。」
「その点楓の回復力を見る限りでは楓は回復魔法がかなり得意のようじゃ。僧侶に向いてるじゃろう。」
「不得意な魔法は絶対使えないんですか?」
「絶対ではない、が…無理して習得するのも時間の無駄じゃ。自分の得意分野を伸ばした方がいいとワシは考えておる。まぁ使えるに越したことはないがの」
「さて…あとお主らが使えそうな初級魔法は…サンダー、アイス、ウィンド、アースの四つじゃな。名前さえ覚えればいつでも使えるがいざという時、さっきのように不得意な魔法が使えなかったら死に直結する。それぞれ試し撃ちして苦手な魔法がないか確認するのじゃ」
「「はい!!」」
その後、楓はアイスが撃てず、逆に優也はファイア、ウィンドが撃てないことが判明した。