息抜き落書き - 膨大な物語/11


101話『混戦する冒険者達』


「ああそうだ、ちょっと待ってくれ」

「ん、何かしら?」

戦線に向かおうとする楓を呼び止めるのは、
先程彼女が回復した、モノクロの仲間。

「申し遅れた、俺はアクロという。いきなりのお願いで悪いんだが、
君はここにいて、負傷者を回復させてくれないか?」

「え?でも私も戦闘に…」

「僧侶が無理に戦線に出る必要はないさ。
回復役がいてくれた方が助かるんだよ、それじゃ頼む!」

そう言うとアクロは戦線へと戻っていった。

「…優也、私…」

「大丈夫だよ楓。俺達とレオンだけでも頑張って戦える。
楓は怪我を負った人たちを助けてあげて!!」

優也はそういうと今も苦戦する狼牙の流血に加勢しようと走っていく。

「あ、優也さん!…あのっ楓さん。わ、私も戦って来ます!!」

優也に続き翠も、戦線に突っ込んで行った。

「……私だって戦えるのに、…もう。」



「あっ!テメェら…」

狼牙の流血のリーダー、ルーヴ・フランムスタが
優也達の存在に気づいた。何故ここにという顔で睨みつけている。

「こんの…おりゃあッ!!……んでテメェら、何しに…来やがった!!」

力を振り絞り、モンスターを蹴散らすや否や
こちらへずかずか歩いてきて怒鳴り散らすルーヴ。

「ギルドの依頼でここに来たんだ!喧嘩するつもりはない、
あなた達に加勢します!!」

優也がそう言うとルーヴは腕を組み強がりを見せた。

「へ、へん!助けなんか…要らねェさ!!まだ戦え…」

「それなら俺たちは、休ませてもらおう」

狼牙の流血のメンバーの一人、ロプスは
ルーヴを無理やりつれ拠点へ戻っていこうとする。

「お、おいロプス!!まだアタイは戦える!」

「折角助けが来たんだ。ルーヴも俺たちも…もう限界だ、休める時に休むべきだろう。
リガラ、ルーヴを連れてくぞ」

「……わかった」

「ふっ。これでまたこいつらに借りを作っちまったか?」

「おい!アタイはこれ以上こいつらに借りなんて1つも作りたか…」

そう言って三人は撤退していった。

「なんか、やけに素直だったなあのロプスって人」

「ゆ、優也さん!またモンスターが来ますよ!!」

「…うん!俺たちで食い止めよう!!」

優也達の戦いは始まる。



「……テメェ、さっきいねえと思ったらここにいんのかよ」

休憩地点でバッタリ出くわす楓と狼牙の流血。

「何よ、文句あるわけ?」

「うるせぇ…テメェらが来なくてもな、アタイはまだ…うっ。」

「怪我してるじゃない。回復するからじっとしてなさいよ」

「お、おい…んな事頼んだ覚えは…」

楓の詠唱により、身体中の傷が取れたルーヴ。
少し苦痛に包まれていた表情も柔らかくなった。

「ほら、アンタ達も…」

「…ふん、悪いな」

「ありがとう、人間」

「む、名前があんだから名前で呼びなさいよ。
私は楓!桐谷楓っていうの!わかった?」

「ありがとう、桐谷楓」

「それでよし」

名前をちゃんと呼ばれご満悦な楓。
そしてその側をこっそりと通り抜けようとする者が1人。

「オラッ…ハァ…傷は治ったんだ、とっとと戦線に…」

「待ちなさいよ!アンタら傷は癒えても体力は回復してないじゃない」

「うるせぇ!!アタイの体力は…無限…だ…」

叫んだ拍子にとうとう力尽きたのか、コテンと倒れたルーヴは早々に寝息を上げ始めた。

「……はぁ、やっと静かになった。ボロボロなのによく吠える人ね」

「…ふん、それを本人に聞かれてたら…もっとうるさくなってたろうな。
……悪い。俺達も夜通し戦い続けて疲れた。仮眠を取らせてもらうぞ…」

「好きにしなさい。私も戦えるからついでに防衛もしてあげる」

その後、地べたに横たわる三人を楓は簡易ベッドに運んであげたのだった。



「ほう、ホブゴブリンにレッサータイガーにスピアフラワーが群れをなしてるわけか。
確かにこりゃ多少苦戦はするだろうよ。っし、ちょっと本気だすか…!!」

そう言いながらレオンは流れるように敵を倒していく。
的確に急所を撃ち抜く拳は一撃で敵をノックダウンさせていた。
敵が多い為、一々倒すための大技を使わない。その為動けなくなる程度の
一撃を加え戦力を減らすといった作戦だ。

「さすが、レオン…噂通りの実力だな」

「ん、おいお前の後ろ」

「え!?うわ、音もなくコイツ…!!」

「勘を常に研ぎ澄ませろ、戦場だぜここは」

「め、面目ない!」

「オレが倒した奴にとどめ刺すのを頼めるか?コイツらどんどんのしてくからよ!!」

「わかった!!」

そう言いレオンは戦いを続ける。

「ガルルゥ!!」

「よっ!ほっ!!」

「グガァ!?…グギィ!!!」

しかし中には一撃で倒れないのもいた。

「ほー、骨がある奴もいんだな。群れんなかの…中ボス格ってとこか?」

「ガルルルゥ!!」

「レオン!!」

「こっちは大丈夫だ、周りを頼む」

牙を向けてこちらへ迫ってくる、レッサータイガー。
大きさも他の個体よりやや大きめで凶暴性も増している。

「よっ…と」

噛みつき攻撃をかわすレオン。流石にこちら側が攻撃を
当てられる隙も、他の個体と比べると少ない。

「こーいうやつはまず…」

レオンは落ちている石を拾い上げると、相手の頭めがけて軽く投げる。
当然、ダメージもそんなにないが、レッサータイガーは怒ってこっちに突撃してきた。

「怒らせてから…」

我を忘れ、牙と爪を突き立てて迫る。…しかし。

「……うぉらぁ!!」

狙うはみぞおち。迫ってくる相手に、素早くカウンターの突きを食らわせるレオン。

「ぐっ…ぐが…が…」

「へへっ、まだ倒れねえのか、さすがだ。
…なら!百獣拳!!」

連撃を喰らい、打ちのめされるレッサータイガー。

「とどめだぁ!!」

最後の一撃を放ち、地面へ投げ出された身は天へと消えていく。

「ふぅ、よっしゃ次ィ!!」

戦いが終わってもまたすぐ、レオンは次のモンスターを相手にしていった。

102話『楓の奮闘』


「氷結斬!!」

「ぎゃー」

その頃。湧いてきたスピアフラワーを氷の斬撃で狩る優也。

「ほんとに次から次へと湧いてくるんだな…終わりは見えるのか…?」

その時、戦っていた翠の背後から忍び寄る影。

「ガルゥ!!!!」

「!!危ない、翠!!」

飛びかかるレッサータイガーから盾で翠を守る優也。

「……翠、怪我はない?」

「…あっ。どうもありがとうございます」

振り向くと、後ろにいる翠は後ろ手でバリアをしていた。
もう片方の手に持つ杖で、前の方のモンスターを既に倒している。

「……結界張ってたの?死角から襲われたのによく気づいてたね…」

「え、えぇ。戦ってる最中に背後からなんとなく殺気を感じましたので」

「それは頼もしいな。俺も負けてらんないや、どんどん行くぞ!」

そう言いながら優也達はモンスターが湧いてくる方へ足をすすめていった。



「……みんな戦線に出てて、居ないみたいね」

キャンプ地で腰を下ろして見張りをしていた楓は
武器を手に持ち立ち上がっていた。

「グルルルゥ…」

「はぁ、結局ここも安全って訳ではないのね」

今ここにいるのは怪我人3人と自分1人。楓は徐に、杖を構える。

「しかもよりによって…アンタが相手だと、嫌な思い出が蘇るのよ」

レッサータイガーが3体。前はトラウマで1対1でも苦戦していた。

「……大丈夫。イーグルタイガーとは違う…下手しなければ寝首はかかれない。
炎も効く……私は闘える!!」

未だに拭えきれない恐怖を振り払い、楓は自ら攻撃を仕掛け始めた。

「挨拶がわり!!」

振り下ろされる杖。しかしレッサータイガーには交わされてしまう。

「ガルゥ!!」

「!!」

爪で引っ掻いてこようとするレッサータイガーから飛び退くように距離を取る楓。

「あーっもう…なんでこんなのにビビってんのよ私」

彼女は昔から、ビビりの事が好きではない。
だがそれも成長と共に他人がそうだとしても、
あまり気にならなくなっていた。

だが、自分がそうなっている場合は別。
怖気付く自分の姿に気づいた楓は、
少し苛立ちながらも
逆にかえって、冷静に物事を考えて
行動を始めた。

「……ファイア!!」

前方に火を放つ楓。二匹は避けられてしまうが、一匹にはクリーンヒットした。

「ガゥ、ガウゥ!!」

「いくわよ!今度こそ…」

「「ガルルゥ!!」」

左右から鋭い爪を伸ばしてくる二匹のレッサータイガー。

「っ……邪魔!!」

杖を大きく横に振り、カウンターをかましてみせた。

「「ガルゥウ!!」」

「……はぁあーっ!!」

そしてそのまま、炎で怯んでいた一体に思いっきり、杖を叩き込む!!

「ガルッ!グゥーン…」

「ファイアー!!」

残りの二匹にも炎をけしかける。
だが仲間がやられて、炎でも怯まず二匹はまた向かってきた。

「……はぁっ!!…サンダー!!」

飛びかかるレッサータイガーに杖を突き上げ、顎に大ダメージを与える。
下からくる相手にはサンダーを食らわせて動きを鈍らせた。

「とどめよ!!フレイム!!!!」

杖を二匹に向けて中級魔法を放つ楓。勢いよく炎に包まれ、
レッサータイガー達は倒され消えていった。

「はぁ、はぁ……ふぅー。…んー、まだちょっとダメだけど…
なんとか闘えたみたいね」

「な、なあ!!そっちにレッサータイガー達が向か…わなかったか?」

倒した直後に、前方からこちらへ来るのは先ほど楓を回復係として指名した冒険者。

「……この焦げ跡…君が?」

「えぇ、多少なり苦戦はしたけど私が全部倒したわ」

そう言い放つ楓に彼は驚き、苦笑いを浮かべた。

「ハ、ハハ…こりゃ驚いたな…一人で戦える僧侶なんて聞いた事ないよ」

「そうなの?…まあいいけど、あんまりモンスターをこっちに取り逃しちゃダメよ。
私がいなかったら今頃怪我人が襲われてたんだから…」

「あ、あぁすまない。…あの、君をここに置いたままなのは勿体無い気もするが、
引き続き拠点を護ってもらえると大いに助かる!!」

「ええ、任せて。」

楓は得意になりながら、握り拳を突き出してみせた。

103話『水晶の力』


「アースですっ…!!」

土魔法を繰り出す翠。杖の力でパワーアップした土魔法は、
敵を勢いよく吹き飛ばし戦闘不能にする。

「ふー、モンスターもだんだん止んできたかな…?」

かれこれ1時間以上戦っている優也達。
レオンや彼らの活躍により、みるみるうちにモンスターは減っていくのを感じていた。

「はぁっ…わ、わたし…ちょっと疲れてしまいました。」

体力のあまりない翠に1時間以上戦いっぱなしの戦闘は過酷なもの。
膝をつき、呼吸を落ち着かせていた。

「……翠、一旦拠点に戻ろうか。無理して怪我してもダメだよ」

「…で、でも優也さんやみなさんが…」

「大丈夫!それにもし翠に怪我でもさせたら楓にぶん殴られるのは俺だしね」

そう自分を嘲笑しながらも優也は翠を拠点へと連れて行こうとする。
だが、モンスターはそんな事お構いなしで迫ってくるのだ。

「ガッガゥ…!!」

「…さっきとはまた違うモンスター…それも5匹…!!」

それは星形の模様が体に浮かぶヒョウ。スターレオパードと呼ばれるモンスターだ。

「ゆ、優也さん…!戦わないと…」

「翠は休んでて。俺が何とかするから」

疲れがたまる翠を庇い、優也は五匹に戦いを挑む。

「さあ…来い!」

「ガゥ!!」

スターレオパードが一斉に駆けてくる。

「ッ早い!!」

ヒョウなのに、チーターの疾走に匹敵するその速さは、まさに流星の如し。

盾を全面に向け、魔力を流す優也。盾から結界が横に伸び、
大きな透明な障壁を作りあげる。

「ガゥ!?」

一直線にこちらに向かっていたヒョウたちは結界にぶつかった。

「あ…危なかった…にしてもすごい盾だ。魔力を流すと壁の長さも変わるみたいだな…」

「ガゥウウ!!」

壁にぶつかった事で激昂したレオパード達は横から回って優也と翠を狙おうとする。

「!そっちへは行かせない。フロスト!!」

剣の鋒を向けて放たれる冷却攻撃。だが足が早い相手に当てるのは無謀。
なら狙うは──地面。

「ガゥ、ガゥウ!?」

ツルツル滑り出す地面でうまく走れないレオパード達。

「よしっ、行くぞ!」

俊敏性が失われた相手に優也は駆け出す。
凍った地面に、彼は足を取られない。
何故ならば彼らが履いている靴は滑り止めが備わった特注品だから。

「氷結斬ッ!!」

身動きの取れない5匹に、的確に攻撃を当てていく優也。
だがあまり攻撃は通っていないようだ。

「……こいつら、硬い!表面が少ししか斬れなかった…
…他のモンスターとは格が違うみたいだ…!!」

「ガガゥウ!!」

レオパード達もやられてばかりではない。お互い目配せをするや否や
大きく飛び、片方の背を足場に移動をして優也へ飛びかかった。

「っ…!」

盾でガードする優也。だが更にその上から他のスターレオパードが飛びかかる。

「うわあっ!!」

「アクアレーザー!!!!」

水の一線が、飛びかかったスターレオパードを撃ち飛ばした。

「…翠っ!!今のは!?」

優也が振り向くと、杖を構えている翠の姿。
その杖には青の水晶が嵌め込まれていた。

「…咲希の作ってくれた杖の力です。
水の水晶で私のアクアレーザーは更に強化されています!!」

そう言いながら、翠は水晶をさらに入れ替えようとする。
杖に嵌め込むのは黄色い水晶。

「優也さん!盾で思い切り上を防いでください!!」

「う、うん分かった!!」

言われた通り優也は防いでいた盾を上方向に向けた。
次の瞬間、横からのガードが空いた優也に飛びかかろうとするスターレオパードだったが。

「メガサンダー!!」

上空からの大きな雷。楓が使うメガサンダーよりもまた
広範囲で高威力の雷が、辺りのスターレオパードを襲う。

「……っすごい雷だ…」

優也を守る盾は不導体。おまけに凍っている地面から
伝わる電撃も、靴は通さない。

「ガ、ガルゥ…!!」

この攻撃により、直撃した3匹は倒れ、
攻撃が掠った2匹は翠に狙いを変えた。
地面の氷は電熱でもう溶けている。

「はあっ…」

「翠!!」

疲労で前を見ていない翠は襲い掛かれてしまった
…かのように見えたが。

「……ふ、ふぅ。心配しないでください優也さん。
見えていなくても、分かりますから」

見事、結界を張っていた翠。激突した衝撃で、残っていたスターレオパードも
すっかり伸びてしまったようだ。

「…今の翠ってもしかして俺より強いんじゃないかな?」

「えぇ!?そそ、そんな事はないですよ…!!」

戦闘が終わり他愛のない話をしてるとふと、
優也が落ちている魔石に気づく。

「……ん?なんか一つ、変わった魔石が落ちてるな」

「魔石ですか」

「星模様の綺麗な魔石だ…。翠が倒したんだし、ほらこれ」

「い、いえいえいえ!!大丈夫ですっ!途中まで戦ったのは優也さんですし…
そもそも私、魔石に詳しくないので!!」

「……わ、わかったよ。俺もわかんないけど…じゃ、これは俺がもらっておくよ」

そこまで突っぱねられると優也も意地にはなれず、自分のポケットに魔石を忍ばせた。

「さ、一旦戻ろうか。今のでもう疲れちゃっただろうし」

「はい…!」

こうしてスターレオパルドを倒した優也達は、拠点へと戻っていくのであった。

104話『仕事終わりの誕生会』


「ただいま…って、
地面がすごい荒れてるんだけどなんかあったの?」

戻ってきて早々、焼け跡やひび割れが残る地面を見て優也は楓に問いかける。

「ん、おかえりなさい。待機中にレッサータイガーが3匹こっちに来たの。
まあ私が返り討ちにしたけどね!」

「そっか、楓が無事でよかったよ」

モンスターを一人で倒したという楓を見て、優也は安心した。

「それとだけど、狼牙の流血が休みに戻ってきたわね。
赤い髪の子は相変わらずだったけど
青髪のと茶髪の人は意外と素直だったわ」

「やっぱり楓もそう思う?…もしかしたらこないだ
俺達が助けた事に感謝してくれてるのかもしれないね!」

「そうかしら、こいつらがいちいちそんな事思うかしらね…」

そう言いながら楓は眠っている三人に目をやるのだった。



「ふう、…とうとう敵も収まってきたか?」

ボブゴブリンにとどめを刺しながら、そう呟くモノクロ。
目に入る範囲では、もうモンスターは一匹もいなかった。

「あぁ、爆速で倒したからな。どうやら今回の任務…ようやく終わりそうだ。よかったな」

「そうか…はぁ、よかったよ…レオン、あんた達が来てくれなかったら
俺たちは多分やられてたと思う。感謝するよ」

「おう、だがまだ油断すんな。完全に倒しきったとは限らねえからな!!」

その後、周りにまだモンスターが残っていないか入念に確認をし、
レオン達も拠点へと戻っていった。

「おーい、お前ら!」

「レオン!!…モンスターは?」

「どうやら今回暴れてた群れはもう全部倒せたみてえだ!!
今回の任務は完了だぜ。」

「あれ!そうなの?まだ俺ら、1時間半ぐらいしか戦ってないけど」

「おう、俺が爆速で全部倒して一瞬で終わらせてやったんだよ。

……なんてな、一晩中モンスターとの戦いが続いたんだ
敵ももう残り少なかったんだろうぜ。
とにかく、これで今回の任務は完了だ!!」

この日の任務もこれにて終了。優也達からすれば来てすぐ終わった任務だったが
『互角の集い』に『狼牙の流血』の面々は小休憩を挟んだとはいえ
疲労が目に見えて溜まっている。

「っくぅ〜…寝たりねぇな…ってかモンスターは!?アタイが全部ぶちのめすつもりだったってのに…」

「寝てる間に全部終わっちまってたみたいだな。正直ずっと続くんじゃないかと思ってたが」

「……おれたちやっと、帰れる」

キャンプ地の片付けも済ませ、寝ていたメンバーも起こして
それぞれの冒険者達はギルドへと帰路を辿っていた。

「……しかしいくらなんでもあのモンスターの量は異常だったな…」

そうモノクロが言ったのをレオンが返す。

「あぁ、俺が短時間でぶっ飛ばしたモンスターも、ありゃ100体を超えてやがった。
モンスターの群れが増え始めてるのは分かってるが、
最近は特におかしいぜ。何か外的要因があんのかもしんねえ」

「外的要因か…無いとは言い切れないのが現状ではあるな…」

それを聞き、心当たりがややある優也は楓とこっそり会話をした。

(……それってやっぱり…魔王軍かなぁ?)

(うーん、その線は捨てきれないわね。この前でくわした
愉快犯の犯行の可能性もあるし…あれみたいな奴がモンスターを
大量にここに呼び寄せてるのかもしれないわ)

「…………」

そんな風に、モンスターの群れに対する不安や考察をしながらも
日が暮れる前に優也達はギルドへと戻る事ができた。

「おう、まだ時間がかかるかと思ったが、どうやら早く終わったようだな。
とりあえず互角の集いと狼牙の流血は夜通しの戦闘ご苦労。
レオンとお前達もご苦労だったな」

「賀王夜レオンが一気にモンスターを倒してくれまして、お陰様で早く終わらせることが出来ました」

「そうなのか、流石だな」

「あぁ。だがまあ他の奴らも良くやったと思うぜ。
しかしそれにしても今回の任務はモンスターの湧きが特に異常だったな。
早急に原因を調査をするのを勧めるぜ」

「了解だ、明日にでも募集をかけよう。」

その後報酬をそれぞれのパーティが受け取り、ギルドへの報告は完了した。



パァン、という音が部屋中に鳴り響く。音と共に星形の飾りが、舞い散った。
…そんなクラッカーが鳴り合う部屋の、誕生日席に座るのは小さな男の子。

「ハッピーバースデー、レオ!!」

「おめでとー!!」

「おめでと」

テーブルに並ぶは豪華な肉料理にホールケーキ。
レオの誕生日を祝うご馳走が並んでいた。

「おめでとう!!」

「おめでとうレオくん!」

レオンの弟、レオの誕生会。その場には優也たちも呼ばれていた。
ギルドからの帰り、レオンの母と遭遇した三人はそのまま誕生会にまで誘われたのである。

「すみません、部外者の俺たちまで参加させてもらって」

「いいんだよ、レオンの友達なんだからねぇ。それに多くの人に祝ってもらえるなら
喜びもその分大きいもんだろうさ。どうだいレオ?」

「レオね、レオね!!みんながきてくれてうれしい!!」

レオもすっかり優也達に懐いている様子。近くに座るレオンは
なんとも言えない表情で眺めていた。

「…レオン?どうしたの、機嫌悪いの?」

実のところ、レオンは家族と一緒に団欒しているところを
あまり他人に見られたくないのだ。

ただ優也達を連れてきたのは他でもない母で
更に主役である弟は喜んでいる為、
嬉しさと恥ずかしさが混ざり、
もうよく分からなくなっていたのである。

「ん、いやんな訳あるか。弟の誕生日だぞ。別になんで母ちゃんが
お前らを呼んだのかなんて、思っちゃいねえ」

「本音漏れてるよこのドアホ!」

「いって!!」

「あははにーちゃんまたかーちゃんにぶたれてんのー!」

母親にこづかれるレオンを笑った一同はご馳走にケーキを食べると
次々と、レオにプレゼントを渡していくことに。

クレヨンや熊のぬいぐるみなど、それぞれが用意したプレゼントが渡されていく
光景を見て、優也達はハッと気づく。

「……あっしまったな…俺ら、レオくんへのプレゼント用意してないや…」

「いいのさ、急に呼んだのはウチだからね。代わりに全力でレオを祝っておくれよ」

「…んー、でも…私達だけ手ぶらなのはねぇ?…うーん…」

何かないかと持ち物を漁る楓。今手元にあるのはいくつか魔物を倒して得た魔石のみ。

「……これじゃあね…」

「あっ、魔石だ!!」

「…えっ?」

魔石を手にする楓を見るなり近づいてくるレオ。

「あのねレオね!今魔石集めてるんだ!
レオンにいが、仕事終わりに余った魔石を持ってきてくれるの!」

思ってもみない好感触。魔石ならば今までモンスターを倒した際、
逐一拾ってきているのだ。

「……それじゃあ、私たちからのプレゼントは魔石って事でいいかしら?」

「そうだね、好きなのを持ってっていいよ!」

優也も翠も、手持ちの魔石をレオに見せる。

「…すごい!これ珍しい魔石だよね!?
星の模様がはいってる!!」

「なにっ、星!?」

レオの言葉を聞くなり今度はレオンが詰め寄ってきた。

「な、なにレオン?急に血相を変えて」

「お前…スターレオパードを倒したのか?」

「えっ?スター?」

「星の模様が入った豹のモンスターだ。
やたら硬くてチーターみてえに早え。」

「あぁ、それなら今日戦ったんだよ。
まあ最終的に倒してくれたのは翠なんだけどね。」

「……お前ら、やるな。
そいつは…スターレオパードが稀に落とす魔石だ。
売ればそれなりの値段で売れ、魔道具にも利用できる」

「あらやだ。そんな珍しいものを貰うわけにはいかないわねぇ。」

「そっか、これって珍しいものなんだね…。
はいっどうぞ」

「えっ?」

優也は星模様の魔石をレオの手に握らせる。

「レオくんは、これが珍しいものだって一目見てわかったんだよね、
すごいな。だからこれは価値がわかる人に貰って欲しいな」

「……いいの!?」

「うん、ちゃんとしたプレゼントが渡せて良かった。」

「わぁーありがとう優也おにいちゃん!!!!」

「レオくん、これを手に入れられたのは翠のおかげなんだ。
お礼は彼女にも言ってあげるといいよ」

「そうなの?翠おねーちゃんも、ありがとう!!」

「あっいえ、その…ど、どういたしまして!!」

レオはもらった魔石を手にして飛び跳ねながら喜んだ。

「…すまないね、高価なドロップ品を…」

「喜んでもらえるのなら全然!…翠、いいかな?」

「ええ、もちろんです」

「良かったわねレオくん。それじゃ私と翠からも
普通のだけど、魔石をプレゼントするわ」

「うん!!翠おねえちゃんと楓おねえちゃんもありがとー!!」

レオはもらった魔石を手にし、ウキウキで魔石入れにしまいに行った。

105話『マカイゲート』


「……ありがとうなお前ら。あいつがあんなに喜んでる姿を見してくれてよ」

レオンは優也達にボソッと礼を言った。

「運が良かっただけだよ、レオくんが魔石好きだなんて知らなかったし…」

「ただいまぁ」

そこへ、魔石をしまい終わったレオが戻ってくる。

「……こほん。レオ、俺からはこれだ」

レオンはそう言ってプレゼントを取り出す。

「…これっ!!レオの欲しかったやつ!?」

「ああ。…魔導書だ」

レオンのプレゼントは、魔導書だった。
ヴィルデスの市場で売られている、少し高めの魔道書。
魔法の使い方や魔力に関することが記載された本だった。

「魔導書…これがレオくんの欲しかったものなんだ」

「ああ。レオはな…魔法戦士に憧れてんだ。
魔石を集めてんのもただコレクションってだけじゃなく、
自分だけの魔道具をいつか作ってもらう為に集めてんだよ」

「えっへへ、レオンにいちゃんありがとう!!だいすき!!」

「……」

レオの言葉に、目が潤むレオン。意外と涙脆いところもあるようだ。

「どうしたんだいレオン。感動してるのかい?」

「…………
う、うるせーっ!!こんな恥ずい場面、こいつらには見られたくなかったぜ!!
やっぱり連れてくるんじゃなかった!!」

レオ君のお誕生日会は、レオンの照れ隠しの叫びで、幕を閉じたのだった。



翌日。本日はあいにくの雨天。ザーザーと降り続ける雨は
村中に水溜りを作っていた。

「……そういや傘もってないんだな俺ら」

「あらほんと。…買う機会も、持ってくる機会もなかったものね」

「あの、そろそろご飯の時間ですよ。行きましょう」


本日の朝食は、コーンスープにパンとサラダ。
時間通りに来た三人は開いてる席に座り、姿勢よくご飯を食べる。

食事中は会話も取らず、またスープを啜る時に音を立てないように
注意を払った。…つくづく掟のせいで
こう言う場所での食事は落ち着かないものである。

「おいお前達」

三人の食事が終わるとちょうど、ギルドの人が訪ねて来た。

「食事は終わったみたいだな。今日の任務がある、ついて来てくれ」


「今日の任務は、魔物の発生原因の特定及び、マカイゲートの調査だ」

「……マカイゲート…なんですか?それ」

何の気なく質問する優也に、男は呆れたように返す。

「ん…?おいおいまさか知らないのか」

「は、はい。もしかして常識ですか?」

「ああ。冒険者になる奴らなら皆知ってると思ったんだがな。
まさかマカイゲートも知らずにこのヴィルデスの冒険者をやれてるとは、驚いたぞ」

悪気はないだろうが呆れた様子の男の態度に
ムッとした楓は、すこし不機嫌気味に話を戻す。

「……それで?マカイゲートってのは
なんなんですか?」

「そうだな、教えといてやろう。まずモンスターが
湧く要因はなんなのか、と言うところからだ。」

「モンスターは、魔界から現世にやってくる事で湧く。
魔界にできる、現世に繋がる一方通行の穴…ワープホールを通り、
この世界のどこかへランダムで飛ばされるんだ。
…まあ魔物によって大体スポーンする場所の傾向は
決まってるから、ランダム性で大きく分布が変わることは無いがな。」

ディスカラーズがカラフルアイランドに湧き続けるように。
魔物が魔界から現世へと出て行く先はだいたい変わらないらしい。

「そしてそのモンスターが通るホールってのは一度にそう多くのモンスターを
通すことは無い。…だが、中には大量のモンスターを
現世へ連れてくると言ったケースも存在する。
それが…マカイゲートってやつだ。」

「マカイゲートは、大きな門の形をした魔物だ。
自分の身体を現世と魔界に持っていて、
モンスターを自分の門を通す事で魔界からモンスターを連れてくる。」

「ここで厄介なのが、門を通す理由にある。
マカイゲートを通ったモンスターは微量だが魔力を吸われる。
その魔力を吸ってマカイゲートは"食事"を行っているんだ。」

「食事…そんな感覚で魔物を現世に通してるんですか」

「あぁ。その為、マカイゲートが満足するまで何匹でもモンスターを
通す事がある。それが魔物が大量湧きする原因の一つなんだ。

今回の件は、あまりにもモンスターの数が異常だ。
このマカイノゲートが付近に存在している可能性が高い。
お前達には、そいつがいるかどうか調査してもらいたいんだ」

ようやく長い説明が終わると、ギルド員の男は、写真を取り出す。

「こいつがマカイゲートだ」

そこに写っているのは悪魔のような顔がついた柱が二つ。
そしてその間は異空間が繋がっておりそこからモンスターが
飛び出てきている様子が激写されていた。

「こ、これがマカイゲートなのね。思ってたよりデカそうね…」

「まあ大型モンスターも通すように出来ているからな」

「あの、すみません」

そこへ、優也が質問を投げかける。

「もしそのマカイゲートっていうのがいたら…
一体、どうすればモンスターを湧かせるのを止められるんですか?」

ギルドの男は自分の顔に指を差して言った。

「目だ」

「…目?」

「マカイゲートは外部からのダメージをほとんど通さない。
しかし、写真を見てわかると思うがそいつは身体の上部に、目玉がついている。
そこは魔界との接続を担っている部分の為、
強力な一撃を叩き込めば、魔界との接続が途切れるだろう」

「そうですか、じゃあもし見つけたら狙ってみます!!」

「いや、ちょっと待て」

やる気を見せる優也だが、男は優也を止める。

「マカイゲートはな、空腹の間は絶え間なくモンスターを魔界から生み出しているんだ。
迂闊に近寄れば、数に圧倒され死ぬだろう。少なくともお前たちだけで挑むことはない。」

「で、でも。それではどうやって…調査をすればいいんですか?」

「この双眼鏡を使うんだ」

優也の手に渡された双眼鏡。魔石がはめられており、どうやら魔道具のようだ。

「こいつは光の魔石が使われている魔道具でな…かなり遠くまで見通すことができる代物だ。
モンスターが大量湧きしてる方角を、こいつで覗くといい」

「…はい、分かりました!」

「そうだ、ついでに途中でくわしたモンスターは
安全のために倒して行ってくれ。では、健闘を祈るぞ」

こうして優也達の新たな任務が始まるのだった。

106話『ゲートの捜索』


雨が降る道中、傘もささずに歩く影が三つ。
ギルドから支給された雨水を弾く魔道具を身につけた優也達が
マカイゲートの探索を進めていたのだった。

「どう、なんか見える翠?」

「……あれは…ホブゴブリンが6匹ほど
向かって来ていますね」

「そう、それじゃあ戦闘準備ね」

双眼鏡を手に、優也達は昨日モンスターが大量湧きした場所へ
舞い戻ってきていた。あれから一晩経ったが、
モンスターは昨日ほど湧いていないようだ。

「氷結斬!!」
「アースです!」
「……はぁあっ!」

向かってきたモンスターを素早く片付ける優也達。

「ふー、楓…いつもの調子が戻ってきたみたいで良かった」

「あったりまえよ、私を誰だと思ってんの!」

「はは、頼もしいな」

「…!またモンスターです!
今度は10匹ほど、こちらへ近づいてきているみたいです!!」

翠の警告を聞き、優也達は再び武器を構える。

「ちなみに、何が来てるか分かる?」

「あれは…レッサータイガーです!!」

「……よーしやってやるわ!!」

こうして優也たちはモンスターを倒しつつ進んで行った。

しかし奥へと進むにつれモンスターが頻繁に、数も多くなって行く。
流石の彼らも太刀打ちが難しくなって来ていた。

「はぁ、はぁ…こ、こんなの絶対何かあるよ…!!」

「翠…まだ見えないの?そろそろ私も息切れして来たわ…」

「……あっ!噂をすれば…!!
遠くにうっすらと見えました!!話に聞いたものと…そっくりです!」

「ほんと!?貸して!」

翠から双眼鏡を受け取る楓。

「……!!モンスターが出てきたわ、ほら!!」

優也も双眼鏡を受け取り確認をする。

「……これはっ」

何十匹も群がるモンスターが見える。
その奥の奥の、さらに奥。
雨で霧がかった草原の果てに。
うっすら見える、大きな影があった。

マカイゲート。モンスターを現世に大量に召喚し、
多くの被害を生み出す脅威的存在。

「……確かに霧で見えにくいが、見せてもらった写真と同じ奴だ…!」

「ねえ、私の見間違えじゃなければなんだけど…そいつこっちに向かってきてない?」

「え?……ホントだ。魔物を生み出しながら、ゆっくり歩いて来てる……」

「ど、どうしようかしら。今からでも、倒しに行った方がいいんじゃない?」

「いやどう考えても多勢に無勢だよ!!
それよりもこのままじゃ俺達、あの数のモンスターと衝突しちゃうよ!!」

「で、では一旦逃げましょう!!」

今回は『マカイノゲートか、或いは魔物の発生の原因を調査する』という任務の為、
討伐に向かわずに三人は急いで撤収。
途中、後ろから来るモンスターに追い付かれたが
それぞれの連携で討ち倒していったのだった。



「…うむ、やはりいたようだな」

「…はい。付近にモンスターが沢山いて、近寄る事が出来なかったです」

「それよりも大変なんですよ、マカイゲートがこっちに向かって来ていたんです!!」

「…なんだと?詳しく聞かせてもらおうか」

三人は見た事をそのまま話す。
どうやらマカイゲートは通常、滅多に動かないらしく
集落に向かって来ているという事実にギルド職員は
額に汗を浮かべていた。

「ううーむ…………」

下を向きながら唸るギルド職員。
報告をしてから、数分間その状態がしばらく続いた。
優也は堪えきれず、口を開く。

「……あの、俺たちはどうしたらいいでしょうか?」

「……ん?ああ、悪いな。今日は解散でいい。
とりあえず休んで、いつでも戦えるようコンディションを整えておけ。
……こりゃすぐにでも、ウチのギルド中の冒険者を集める必要があるかもしれん」

そう言ってギルド職員は行ってしまった。

「思ってたよりも……深刻な状況なのかもな」

「私達がなんとかしなくちゃね!原因はもうはっきりしたんだから、
なんとかしてアイツを倒しちゃえばいいのよ!!」

「だけど強力なモンスターが絶え間なく出てきて、近づく事はままなら無さそうだな…」

「そうですね…でもギルドの職員さんが冒険者を集めるって言ってました。
こちらも、味方の数が多ければなんとかなるかもしれません」

「そうね…。早いとこ解決したい気もするけど、
今は言われた通りコンディションを整えておくのがいいみたいね」

こうして優也達は
与えられた時間を有効に使い、休息を取ったのだった。

107話『エスコート』


「うーん、よく寝た!」

暖かい太陽に照らされ、体を起こす楓。
昨日は早く寝たから今日は目覚めがいい。

「翠…って、もう起きてるのね。流石ね!」

「あ…おはようございます。気持ちのいい朝ですね」

「ほんとねぇ、昨日は任務が早く終わったからすぐに寝れたもの。
…で、このバカはあと何時間ぐらい眠れば気が済むんでしょうね?」

「ぐぅ〜…すぅ〜…」

そう呆れながら未だ起きぬ優也に指を指す楓。
それには翠も苦笑いを返すばかりだった。



「ふわぁ…」

「アンタあんだけ寝てまだ眠いの!?」

食事をすませた三人は、ギルドへの道中にいた。
今日はギルド職員が訪ねて来なかったので、自ら向かっていたのだ。

「失礼します」

「む…お前たちか」

「おはようございます」

入り口を潜ると、いつもの受付の姿が。

「悪いが、今はモンスターの討伐依頼は無しだ。」

「あれ、そうなんですか?」

「ああ…もはや、一つの群れをチマチマ倒してられない状況だとわかったからな。
今討伐で遠征している冒険者が戻り次第、全勢力を動員しマカイゲートを本格的に討伐しようと考えている。」

「そ、そうなんですね」

「冒険者が全員戻るまで、明日まで時間がかかるだろう。つまりお前達は今日一日休暇だ。
ただ、昨日も言ったように、戦闘はいつでも出来るようにしろ。
……いつ魔物の大群がここに来るかも分からんからな」

職員にそう言われ優也たちは解散させられた。



「うーん休みかー…休みと言っても結局何しよう、暇になるね。
休めと言われたし…寝る?」

「馬鹿言わないでよ。今から寝ても夜寝れなくなるわ。少なくとも午後まで時間を潰したいわね…」

「そうだ、折角ですからこの街を観光しませんか?今までずっと仕事ばかりでしたから…」

「それ賛成ね!!明日からきっと、忙しくなるだろうし今の内に観光するわよ!!」

「…なんか観光って言われると、旅行してるみたいだね」

翠の提案により三人はヴィルデスの街を巡ることになった。


「…それじゃ、今日は優也にエスコートでもして貰おうかしら。
なにしろこんな可愛い女の子を2人も引き連れているんだから。」

楓はニヤりとしながらそんな事を優也に言う。
楓らしくない言い回しに、優也は驚いて
少し頬を赤らめながら聞き返す。

「ど、どこでそんな変な言葉遣いを覚えたんだよ」

「…あっははは!!アミィの受け売りよ。真に受けちゃった?
こんなふうに言えば、優也の反応が面白くなるって
島を出発する前にちょっとね。想像以上だったわ、あはははは!」

「…ひ、人をおちょくるなよ!馬鹿な事やってないで行こうよ」

「誰が馬鹿よっ!」

「やっぱりとっても仲が良いですね、お二人。アミィが言ってた通りです」

「ア、アミィは楓達に何吹き込んでんだ…」

とまあ、この場にいないアミィに翻弄されつつも、
優也達はヴィルデスの街を散策していった。
途中、何らかの掟に接触しかけながらも、
お店や景色のいい場所を求め足を運ぶのだった。



「これなんてどうですか、似合いそうですよ楓さん」

「うん、いいわね」

ここは服屋。アミィの仕立て屋とはまた違った、獣人用の服が並べられている。

「翠はこれ似合いそうじゃないかしら?」

そう言いながら楓はかなり派手な柄の服を取り出した。翠のイメージには合わなさそうだ。

「えっ……そ、その…個性的な服ですね……」

「あぁごめん。私、服選びとかこういうセンスないみたいなの。自分じゃ分かんないんだけど。」

難色を示す翠に、楓も察して取り出した服を戻していく。
そんなこんなで、お互いが満足いく服を選び試着を始めた。
まずは翠から。

「ど、どうですか……?」

「とっても似合ってるわ!!ダイロがいたら歓喜して倒れてるかも」

「ダイロをなんだと思ってんだよ…
にしても翠の選んだ服、良いね。おしゃれのセンスあると思うよ!
アミィに鍛えられたのかな。」

「え、えへへ…そうですか?嬉しいです」

そして次に楓が着替える。

「じゃーん!どーよ、優也?」

「おお…、似合ってるよ楓!やっぱり楓は赤が似合うよ。
それにその服、獣人達の仲間入りしたみたいだ」

「ふふーん、そうでしょ?翠が選んでくれたの。これなら360度どこから見ても…」

後ろも見せようと回転し始める楓。
しかしそこで翠はあることに気づいた。

「あっ!!ちょ、ちょっと待ってください!!」

「……な、何、翠?」

「その、非常に申しにくいのですが、それ…尻尾の生えた獣人用の服でした。
そのまま後ろを向くと…その…見えちゃいます」

獣人は、ほとんどが尻尾を持つ。そのためズボンには、
尻尾を出すための穴が空いているのだ。……ちょうど下着が見えるあたりに。

「なっっ!?ちょ、優也!!!見たらぶっ殺す!!!!」

鬼の形相で優也に睨みを利かす楓。

「うわわわっわぁああ!!!
あっっっぶな、殺されるとこだった…」

慌てて優也が後ろを向いた隙に着替えて事なきを得た。
……ちなみにこの暴言を店員にしっかりと聞かれてしまった楓は、
無駄に違反を一つ、増やしてしまったのだった。

「踏んだり蹴ったりねッ!」



「はぁ…とんだ目にあったわ」

服屋を後にして集落を練り歩く三人。

「ごめんなさい…私が服を取り違えたせいで…」

「ううん、履く時に気づかなかった私が馬鹿だったわ。気にしないで」

「……それで、結局服は買わなかったんだな」

「ええ、お金がもったいないし、試着だけ楽しんじゃった。
それに結局、今着てるのが一番冒険にも最適でしょ?」

「それもそうだね…。まあ試着が楽しかったなら良かったよ」

「なんか私が辱めを受けただけのような気もするけど…ま、もういいわ。
にしてもなんだかお腹空いちゃったわね、少し早いけどお昼ご飯に……」

「きゃあああー!!」
「誰か、冒険者を呼べ!!」

突然、辺りが騒がしくなった。
なんだろうと優也たちは騒ぎの場に駆けつける。

「なんの騒ぎですか!?」

「冒険者の方!?た、助けてください!!モンスターが集落に!!」

「なんだって!?」

安息の時間は、
どうやら終わりを迎えたようだ。

108話『狙われた集落』


「モンスターがこの集落に入ってきているんですか!?」

「は、はいっ!!村の人たちが襲われて…!!」

「早く助けなくちゃっ!!」

そう言いながら魔物が向かったとされる先へ進む優也たち三人。
レッサータイガーやらホブゴブリンやら。討伐依頼でよく見かけた魔物が、
村に数十もの大群を引き連れていた。

「た、大変よ…怪我人が出る前に倒さなくちゃ!!」

「いきましょう!!アース!!」

優也たちは魔物退治を始める。
その後騒ぎを駆けつけた他の冒険者たちも集まってきて、
なんとか集落の中にいる魔物を全て倒すことができた。

「はぁ…はぁ…」

「結構な数だったわね…」

「…………」

「どうしたの翠、浮かない顔して?」

「あっ、いえ…。戦ってるとき、どこかから何かの気配がしまして…」

「何かの気配?まだモンスターがいるのか…?」

「これは何事だ!?」

疲弊した優也達の前に現れたのは、ONES所属の衛兵。

「あっ、衛兵さん!!大変なんです!
魔物が村に現れたんですよ、それも何十匹も!!」

「なんだと!?門の警備はどうなっている!?」

本来であれば集落の入り口に見張のONES兵がいた筈。
モンスターの侵入を許してしまっていると言うことは……

「くっ…!まさか!!!」

「あっ!どこへ行くんですか!?」

一目散に走っていく衛兵。その後を追う優也たち。
しかしその早い足取りは優也達とどんどん距離を伸ばしていく。
そして、行き着いた先は集落の入り口。

「おいッ!!無事か!!!!」

破壊された門、そのすぐ側に
ONESの門番が倒れていた。
衛兵は、彼の体を起こさせ起きるよう揺さぶる。

「おい!!しっかりしろ、ドベル!!」

「う………。し、シヴァ…か…
すまない。大量のモンスターが押し寄せて来て
ここを守りきれなかった…」

「モンスターにやられた?しかし、その割に傷が浅い様に見えるが…」

「……俺にもなにが起きたかよく分からんが、誰かに回復魔法をかけられた気がする…
そ、それよりモンスターはどうなった!?」

「冒険者達が倒してくれたようだ。しかしこれは大ごとになったぞ…
早いところヴィルデスゲートのギルドマスターと、我らのボスに報告しなければ!!」

「だっ……大丈夫ですか!!」

二人が話しているうちに、優也達が追いついた。

「お、お前たち着いてきてたのか。
……ならこいつをONES本部の医療施設へ運んでやってくれ。
俺はこの件を、上に報告してくる!」

「わ、わかりました!!」

やり取りを終えると、衛兵は颯爽と走り去っていった。
残された優也達は怪我人を担ごうとする。

「む…思ったより鎧で重いわね。優也、そっち持って!」

「わ、私も手伝います!」

「ぐっ…悪いなお前達」

優也たちは三人がかりで倒れた兵をONES本部へと運ぶのだった。


「……止まれ。お前たち、ONESのメンバーでは無いな。ここに何の用だ!」

「怪我人です!ONESの門番さんがモンスターに!!」

「む…そいつはさっきシヴァが言っていたドベルか。わかった、俺が連れて行くから貸せ。
ここは規則でメンバー以外は何人足りとも立ち入ることが禁じられているのだ」

「あっ、はい。分かりました」

そう言って、担いできたドベルという名の門番を受け渡す優也たち。
最後に早く立ち去るよう促すと、本部の中へと消えていった。

「わ…すごい、あの重いの、1人で持ち上げて行ったよ」

「……にしても、なんで中に入る事もだめなのかしら。
怪我人を中へ運ぶくらいしてもいいじゃないの」

「まあまあ、厳しいのは今に始まった事じゃ無いよ。
それより…他にも村の住民たちで怪我した人が居ないか探しに行かない?
楓の回復魔法で治してあげようよ」

「…うん、それもそうね。まだあそこに誰か残ってるかしら」

その後、モンスターに襲われた人達が
現場に数名残っていたので、楓が回復魔法をかけてあげた後に
民間の診療所へ運ぶのを手伝ってあげた。

救助活動が終わると、助けた獣人たちから感謝の言葉を送られ、
優也達は身体を休めるため、自身らの宿へと帰っていくのだった。

109話『魔族と幼馴染と』


優也達が村で住民達の治療を終えた頃、
レオンは村の外で依頼をこなしていた。

「おっしゃ、これで最後だ!」

昨日から続くモンスター討伐の仕事を終え、帰宅しようとするレオン。
しかしその近くで彼を見張る影があった。

「ふう、よーやくモンスターを殲滅出来たな。
……んで、お前…さっきから何見てんだよ?」

「んなっ、バレた…だと?」

突然そこにいる事を当てられた影は慌てふためく。
レオンの察知能力を侮っていたのだ。

「へっ、そこの茂みでずーっとなんかコソコソ喋ってんのは聴こえてたぜ。
そいつはなんだ?見た事ねえ道具だが…通信魔石の一種か?」

「お、お前に…教える義理はない!!」

「そうかよ」

ヘラヘラしながら会話を続けるレオン。
しかし突然真面目な顔で影にこう問いかけた。

「…だけどよ、見過ごすわけにはいかねえよな。
魔族がこんな所で何してんだ。
オレか、ヴィルデスの冒険者の事でも調べてんのか?」

「……それも、ノーコメントだ」

潜んでいた謎の影の正体は、魔族だった。
コソコソと冒険者の様子を伺う魔族。
レオンは、ここ最近手に入れた情報で何となく
その正体が掴めていた。

「なあもしかしてよ、お前は…魔王軍ってヤツか?」

レオンの言葉に魔族の眼光は鋭くなる。

「!?貴様っ何故…!!
…いや…もはやこのやり取りに意味はない」

突然調子を取り戻す魔族。
その様子にレオンも疑問を抱いた。

「開き直ったか?急に何を…」
「キキキキ!!」

次の瞬間、大量の黒い影が突如として現れる。
無数の魔物のようだが、もう周りが暗いのもあり正体が掴めない。
それは、レオンと対話していた魔族を包むようにして闇へ消えていった。

「なっ……!逃げやがったな、あんにゃろ!!
……まさか、ほんとに…魔王軍ってのがあんのかよ……」

一人残されたレオンは、魔王という脅威に頭を抱えながらも、
集落の方角へと歩み進めるのだった。



家に着くなり玄関を開けるレオン。
……しかし目の前に飛び込んできたのは意外な客人だった。

「たーだいまっと…お?なんでおめーがウチに…」

「あー、レオンじゃん!おかえり!」

「おかえりじゃねーよ。なんでウチに居んのかって聞いてんだよ…コチカ」

家に帰ったレオンを出迎えたのは、彼の幼馴染コチカ・シャガード。
猫の獣人で彼とは近所同士、付き合いが長い。

「しょーがないじゃん!集落にモンスターが出てさ!!
私もパパもママも非戦闘員だから身を守れないくって。
だったら、リアンナさん達に守ってもらうしか無いでしょ!」

「おいおい、いくらウチの母ちゃんが昔……
ってモンスターが集落に!?」

「おそいよ」

「んなバカな!?衛兵は何やってたんだよ!!怪我人は!?
モンスターは倒せたのか!?」

「うん、居合わせた冒険者が力合わせてね。
リアンナさんが聞いたとこだと、
レオンの友達が倒したって言うけど…レオン、私以外に友達いたの?」

「うっせぇ、そりゃお互い様だろ」
(…ま、十中八九優也達のことだろうな)

「ふーんだ!いつの間にか、私の知らないとこでお友達が出来てたなんてさ!
別にダメって言ったりはしないけど、一人ぼっちになった私が
寂しがってやきもち焼いても知らないよ?」

見るからにもう既にやきもちを焼いてるコチカ。
レオンは少し頭をかいて、めんどくさがりながらも話を合わせた。

「だからよぉ、あいつらは友達じゃ……
……はぁ、しゃーねえな。だったらお前にも今度合わせてやるよ」

「やりぃ!レオンが友達になれるんだもん、
私もなれるよね!」

「……まあ、否定はしねえけどよ。
ていうかお前は、この村から出てったら友達ぐらいたくさんできるんじゃねえか?」

コチカは、別に自身に問題があって友達がいないわけでは無い。
……ただ単に作りたくなかっただけ。
近所の子供達はみんな、彼女の友人であるレオンを虐めていたから。

「んーどうだろね。でも外に出てってもアイツらみたいなやつばっかりなら
私、レオン以外に友達なんて要らないや」

「いい加減俺のことなんて気にすんじゃねえよ」

「気にしてるわけじゃないよ。ただ本当にレオン以外の
人たちに会うのが不安なだけ…。
レオンにできた友達には、会ってみたいけどね。」

コチカは一瞬、どこか寂しそうな顔をしてニコリと笑う。

「……心配するこたねえだろ。いい奴もいれば悪い奴もいる、
それだけだ。…まあ一応、俺の友達って事になってる奴らは
全員お人好しで親切なバカ達だから安心しろよ」

「ふーん、そうなんだ。レオンがそう言うなら安心だよ。
……にしても、懐かしいよね。
レオンが泣いてるとこを、私がいつも助けてたよね」

「おい!んな話俺ん家ですんなよ。
昔の事まったく知らねえ弟達に聞かれちまう…てか泣いてねえし!!」

「うっそだぁ〜。それで私が助けにきても強がっちゃって
手を借りようとしなかったもん!ほんと頑固なんだから」

「なあ…念の為言っとくけどその話、今度合わせる奴らには言うなよ?
マジで」

「へへ〜?どうしよっかな〜」

「そっちがその気なら、合わせてやらねえからな」

「あーっ!!うそうそ!言わないから意地悪しないでよ!!」

玄関先で延々と昔話に花を咲かせる二人。
その様子を、妹達と母親がニヤニヤしながら廊下から覗いていることに
いつまでも二人は気づかなかったのであった。

110話『冒険者緊急招集』


翌日。今日は朝少し早くから、楓が優也を起こす。

「優也、起きなさい」

「んー…あと5分……」

「今すぐ起きなさいっ!冒険者緊急召集が来てるのよ!」

優也を一発、軽くはたく楓。

「うー…なんだよ楓ぇ朝から…冒険者…なに?」

「まだ寝ぼけてるのね。じゃあ今度はグーで…」

「まま待ってわかったよ起きるから!!」

楓にされるがまま叩き起こされ、
朝食も摂らずに
そのままギルドへと走った。



「……うわっ、人で溢れてる」

「しっ。私語は厳禁よ」

ギルドに着くと、そこには多くの人が集まっていた。
見る限り防具や武器を装備しているため冒険者達なのだろう。
中にはレオン、狼牙の流血、互角の集いの面々に加え、
以前、優也達の冒険者試験に同伴してくれたオルスもいた。

「これで全員集まったようだな」

…そして今、前でその一同の視線を浴びて、喋りだす男こそ。
ヴィルデスのギルドマスターその人なのであった。

「朝から緊急召集をかけた事をまず詫びよう。
さて。皆薄々気付いているとは思うが、今ここにいる者達はヴィルデスで
魔物討伐の依頼を請け負ってもらっている冒険者全員だ。
今日は諸君へ重大な任務を与えるために召集させてもらった。」

ザワザワ…とはならない。ヴィルデスの掟の厳しさに鍛えられた
彼らは、ギルドマスターが喋り終わるまで一言も発さないのだ。

「では早速だが本題に入らせてもらう。
…魔物の活性化が始まってより今日に至るまで、
ヴィルデス近辺の魔物の数が増えているという事実は、
ここに集まっている諸君はよく知っているだろう。

ギルドから冒険者に、調査をさせた結果、マカイゲートの存在を確認する事ができた。
通常であれば、十数名の冒険者で討伐隊を編成し、向かわせれば済む話だが、
魔物の活性化によって奴はこちらの方角へ移動をしている事が判明した。
更に、休むこと無く今も魔物を排出しているのだ。

既に昨日の時点で、生み出された魔物の群れがこのヴィルデスを襲って来ている。
このままだといずれ、許容範囲以上の数の魔物が集落を襲い…犠牲者が多数出る事だろう。」

集められている冒険者達は皆、固唾を飲んでギルドマスターの話を聞く。

「そこで急遽だが、我がギルドの"全勢力"をもって魔物を迎え討つものとする!!
魔物の大群を抑え、マカイゲートを討ち、このヴィルデスを護るのだ!!」

腰に据えた剣を抜き、持つ手を掲げるギルドマスター。
それに合わせ、冒険者達はみな得物を掲げ声を上げる。
優也達もそれを真似て、武器を持ち腕を上げた。

「ではこれより、マカイゲート討伐に出発するメンバーを選出する!
選ばれなかったものは集落に残り守備に回る役回りだ!!
なお、選出基準は討伐隊は戦闘が充分行える人物で決定している為、
同じパーティ内でも別々になる可能性がある。
では、名前を呼ばれた者は前に出て横1列に並べ!!」

こうして、ギルドマスターは次々と冒険者の名前を言って行った。
ちょっと面識のある五角の集いの数人や、ルーヴ、ロプスにリガラの三人、
オルス、そしてレオンが呼ばれた。

「真田優也!!」

「はっ…はいッ!」

呼ばれた優也は既に整列していたレオンの隣に並んだ。
そして次に楓と翠も見事呼ばれたのであった。

「以上メンバーを、マカイゲート特別討伐隊とし、
これより遠征に向かってもらう。先導役のオルスの指示に従い
マカイゲート討伐に向かってくれ。

なお、道中膨大な数の魔物が通り過ぎると思われるが
マカイゲートと対峙した時の事を鑑み、魔力と体力を
温存して前に進む事を最優先に考えてもらいたい。

討ちこぼした魔物は、残されたメンバー全員が迎え討つ!!
…以上だ。では、午前9時より作戦を決行する!!
それまで各自、食事や準備を済ませておくように!」



「…なんだかんだで、俺たち全員選ばれたな」

一旦解散した後、ギルドの片隅で優也達は今後について話していた。

「そうね。私とか回復役として残されると思ったけど
ちゃんと戦力として数えられてるのかしらね」

「わ、私も…戦力として数えていいのでしょうか?」

「あったりまえでしょ、なんなら今の私より強いかもね」

「……おっ、いたいた。お前ら全員選ばれたか!
オレもお前らの話はギルドでしてるからな。
戦力になるって伝わってみたいでよかったぜ」

会話する三人を見つけるや、近づいてくるレオン。

「レオン!また一緒に戦うみたいだね」

「ああ。お前らには期待しとくぜ、
討伐隊に呼ばれた奴らの中でも、特に骨のある奴らだからな」

「そいつは聞き捨てなんねえな?」

そう言い現れた3つの影。
それは優也たちがよく見た顔だった。

「狼牙の流血の…ルーヴ…!」

「言っとくけどよ、選ばれた冒険者の中ではアタイらが1番だかんな。
今回はアタイらが全部全滅してやるから、お前らは外野で大人しくしてるんだな」

「……随分と言うもんだな、噂の問題児さんよ」

優也たちに向けて、自慢げに話すルーヴの前に立つのはレオン。
彼も、彼女たち狼牙の流血の評判の悪さは聞き及んでいるようだ。

「なんだよ?アタイはこいつらに向かって話してんだぜ。
良いとこ育ちのお坊ちゃんはさっさとよそに行きな」

「人ん話遮ってきたのはおめーらだろ?…あとオレんちは別にそこまで裕福なわけじゃねえ。
良いとこ育ちに見えるのは、オレが自ら稼いだ金で買ったこの服が上等なモンだからだろ?
おめーらみたいな半端もんには買えねえ代物だぜ」

「んなっ…てめ…!言わせとけばよぉ!!」

「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩しないで!」

この二人は相性が悪い。
楓より喧嘩っ早いレオンと、何にでも噛み付くルーヴ。
早く止めなければたちまちギルド内で争いが始まってしまうだろう。

「今すぐ膝をつかせて謝罪させてやるぜ、この…」

「やめとけルーヴ」

激昂したルーヴを止めたのは
……ロプスだった。

「…おい。
なんで止めんだよロプス!!てめえ…こないだからなんか変だぞ?
なんで事あるごとにアタイを止めんだよ。いいからそこでじっと見てやがれ!!」

「…ここで喧嘩すると違反になるってのもある。
まあ今は遠征の準備でギルドの連中も、ONESの奴らも見えないがな。
それよりもだ、ルーヴ。もう…恥ずかしい真似はやめにしないか?」

「えっ?」

彼のその提案に驚いたのはルーヴだけじゃなく優也たちもだった。

「あ、あん?な、何言ってんだよ。誰が恥ずかしい真似なんか…」

「……俺はよ、この前こいつらに助けられてからずっと考えていた。
そして気づいたんだよ。俺らって…クソダセエ奴らだったって事にな」

「…ロプス、テメェ、頭どうかしちまったのか!?」

「違う。よく考えてみろルーヴ。
俺らは…今まで私利私欲のため、金を巻き上げるために
新人冒険者や余所者を騙して金儲けしてきた。
こいつらに対してだってそうだ。
初対面で、カモにしようとして、罵詈雑言を浴びせて……。

そんな俺らを、あろうことかこいつらは…助けやがったんだ。
どっちが格好のつく、優れた冒険者かなんて…
火を見るより明らかだろうがよ…」

「だからアタイがダセエってのかよ!!なぁ、オイ!!
そもそもアタイは助けて貰った覚えなんてねえ!!こいつらが、勝手に…」

「でも、アネゴ。こいつら、助けてくれたのは事実。
こないだだって、疲れた俺らの代わりに戦ってくれた」

いつの間にか、リガラも彼女を宥めようと立ち回っていた。
もはやこの場で間違った事をしているのはルーヴしかいない。

「くぅっ……クソがっ、とにかくだ!!今回、おめーらには手柄はあげさせねえ!
アタイらが全部ぶっ倒して、先に冒険者として名を挙げて見せるからなッ!!
てめぇらさっさと行くぞ!!このくそっ!」

ご立腹ながらも、彼女は立ち去っていく。
その後ろを、二人はやれやれと言ったように着いていくのだった。

「……はぁーっ。お前ら厄介なのに絡まれてんだな。
アイツらはベスティアにいた問題パーティ、狼牙の流血だろ?
こっちでも噂は届いてるぜ。
元々、この村出身らしいんだが、昔から問題ばっか起こしててよ…
いまだに違反ランクが5に達してねえのが不思議なくらいにな」

彼らが立ち去った後、ようやく邪魔者がいなくなったかというように
喋り出すレオン。ルーヴ相手に構えていた拳も、
ロプスが制止に入った事で下ろしていた。

「うん、前に色々あって因縁つけられてね。
それにしても…ロプス、それにリガラって言ったっけ。あの二人、なんだか…」

「ああ、ルーヴの腰巾着の二人だな。二人とも基本ルーヴには逆らわねえが、
今日は様子が変だったな。お前らアイツらに何かしたのかよ」

疑問を向けるレオンに、優也は思い当たる節を言う。

「……ロプスが言ってたと思うけど…
前に俺たち、あの三人がモンスターに襲われてるとこを助けたんだ。
もしかしたら、それで…」

「…それで、心を入れ替え始めたのかもしれないってわけね。
感心じゃない。でもその二人に比べて、あの赤い女は…」

「おめえも赤い女だろ…」

「うっさいわ!」

「あん、なんだやんのか?」

「…そっちがやる気なら受けて立つわよ!」

「ちょっと、二人が喧嘩してどうすんのさ!!」

喧嘩を止めてばかりで戦いの前にどっと疲れた優也なのであった。