そこから数分おきに赤い狼の魔物が襲いかかってきた。騒がしいシャウトと炎に翻弄されながらもなんとか二人は倒していった。
「はぁ、間一髪で避けてきたけど、ちゃんと火を防げるような道具が欲しいなぁ…」
「防火素材の盾とか…村にあるかしら」
「あったとしても高い値段で買わなきゃなら無さそうだね…」
「火属性の魔法って敵にやられたら結構きついかも。服に燃え移るし」
火属性の魔法を防ぐ術に悩まされる二人であった。
そして、さらに進むこと10分。
「…あっ、あれ見て!」
そこにはバリケードの壁が設置されており、一箇所だけ入り口が設けられていた。
「多分村じゃないかしら?壁を作ってオオカミが入ってこないようにしてるんだわ」
「…確かに、どう見ても人工物だしきっと村だね」
「よかった…でも、割と早くついたわね、まだ昼間よ」
「早く着くに越したことはないよ。とりあえず行こう」
「…すいませーん!誰かそこにいませんか?」
返事は返ってこない。
「…空いてるのかな、この扉」
扉を開けようとした時
「ふわぁ…待て、現在ノイエット村は現在出入りを禁じている。」
村の中から声をかけられた。
(…寝てたわね)
「お前らは…何者だ?」
「優也と言います。彼女は楓。昨日そちらの村長さんに連絡を入れさせていただいたと思うのですが」
「…そうか。お前達のことはと…村長から聞いている。優也という少年と楓という少女が来たら通すようにな。」
「今開けてやるからすぐに入れ、いいな?」
「わかりました」
こうして、二人は村に入る事に成功した。
扉を潜ると、そこには木造で出来た家が立ち並んでいて、村の向こう側にはまた同じようにバリケードが見えていた。
「…わあ、すごい。村の周りみんな壁で囲まれてるよ」
「三日間徹夜して作ったんだ。ふあぁ…。ノイジーウルフと眠れる狼子どもが人を襲うようになって、危険極まりないからな」
そう言って話しかけてきたのは、先程扉を開けてくれた人だった。
「あっ、先程は扉を開けてくれてありがとうございました」
「そんな畏まらなくていい。俺は自分の仕事をやっただけだからな」
「…ところでノイジーウルフってあの赤い狼の魔物の事ですか?」
楓が質問する。
「お前も、いちいち敬語じゃなくていい。…そうだよ。赤くて鳴き声がやかましい狼がノイジーウルフ。青くて常に寝てる狼が眠れる老子って言うんだ」
「眠れる老子…本来なら、シズマリの森にいたのよね?」
「あぁ、その話も知ってるのか。そうだ、本来ならお前達がやって来たシズマリの森にいたんだ。それが何故かザワメキの森のノイジーウルフと綺麗に生息地が入れ替わってやがるんだ。」
「…さて、お前らが来たら村長ん家に案内するよう言われてんだ。ついてこいよ」
そう言われ青年について行くことになった。
「そういえば、名前聞いてなかったですね。(あっ、敬語じゃなくていいんだった)…名前はなんて言うの?」
「俺の名前か?…俺はジーノって言うんだ」
「さぁ、ここが村長の家だ」
「ツリーハウスが村長の家なんて変わってるわね」
ジーノに連れて来られた村長の家は、樹齢何千年もの大木に作られたツリーハウスだった。
「へへ、いい家だろ?ここ、俺んちでもあるんだ」
「え?ジーノって…村長の息子なの?」
「あぁそうだ。…言っておくが、父さんはとても気難しい性格で言葉の節々に棘がある。それでも怒らず冷静に話を聞いてくれ、でないとお前らはこの村にいられなくなる。わかったな?」
「うん、わかった。」
「…特に楓は気が強そうですぐ言い返しそうな感じだ。…抑えろよ?」
「わ、わかってるわよ。でも見た目だけで気が強そうって判断するなんて…貴方ちょっと失礼よ」
「…ほーら、言ったそばから言い返してるじゃないか」
「ジーノにだったら何言い返したって問題ないでしょ!」
「楓、とりあえず落ち着いて冷静になろう。ほら、深呼吸して。…早く村長さんに会おうよ」
少し怒り始めた楓に優也が宥める。
「…すぅー…うん。ジーノ、ごめんなさい」
「…俺もちょっと意地が悪かった言い方をしたな、すまない。…じゃあ、気を切り替えて行くぞ」
そして、3人は家に入っていった。
「「お邪魔します」」
「…村長、昨日連絡があった二人を連れてきました」
「……来たか。とりあえずそこに腰掛けるがいい」
「は、はい」
言われるがままに二人はそばにあった椅子に座る。
「…ふん、見た目は大したことない普通の人間だな。」
村長は二人を見て冷淡に言い放つ。
「昔からの知り合いのよしみで、特別にお前たちをこの村に泊めさせてやる事になったが…まさか、何もせずに泊めてもらえるとは思うまってないだろうな?」
「…は、はい!俺たちは村に泊めてもらう代わりに森に起こった異変を、解決します」
「ほう、どうやって?」
「……それは…森を調査します。モンスター達の生息地が変わった原因をきっと見つけ出します」
「とにかく、その為には拠点が必要なんです。どうか村に泊めてください!」
お願いする二人の後にゆっくりと村長は口を開く。
「ふん、曖昧な答えだの。…まぁいい、そこまで言うからには村の滞在を許可してやる。だがいつまで経っても何も成果がなければ追い出すからな。」
「…わかりました。ありがとうございます」
「…この家を出て直ぐ右に、お前たちの泊まる宿がある。…さっさと行くがいい」
そう言われて、二人は村長の家を出て行った。
「…はー、結構怖い人だったな」
「……もう。何もあんな言い方しなくたっていいじゃないの!」
「そう言うな…。あの厳しさも村のことを思ってなんだ。」
「ほら、ここが宿屋だ。」
ジーノに連れてこられたのは宿屋『静騒館』。
「あら、客とは珍しいわね。昨日言ってた子かしら?」
「初めまして。優也です」
「どうも、楓です。」
「いらっしゃーい。私はシズカ。宿のオーナーよ」
「二人を、しばらくここに泊めてほしい。金は村長が出す」
「…えっ!?」
「あの人が…?」
「宿代、食事代、全部な。…父さんはあんな感じだけど、本当は優しいんだ。今回もお前達が金銭の事で心配しないよう手を回してくれた」
「あっでも、働かない奴にはマジで厳しいからな。お前達もダラダラしてるとマジで追い出されるから気をつけろよ」
「…わかったよ。ありがとう、ジーノ」
「なおさら頑張らなくちゃいけないわね!」
「今日は遅いから部屋まで案内するわね〜。あ、それと。7時に食事も出るから食堂に寄ってね」
「はい、ありがとうございます」
そして二人は同じ部屋に案内された。
「わー、綺麗な和室」
「そうね、旅行に来てるみたい。来る理由がこんな事じゃなきゃうんと楽しめたのにね」
「うん。ダラダラしてると追い出されるって聞いたし、うかうかしてられないや」
その後、二人は宿の夕飯を食べて寝床についた。