息抜き落書き - 膨大な物語/4


31話『初めての船旅』


「どうだい二人さん。初めて船に乗った感想は」

船の主人、ウミナリが二人に話しかける。

「潮風が気持ちいいですね!」

ニコッと笑って答える優也。

「私は船に乗るのは二回目ですけど、いい乗り心地です」

「ん?なんだ。そこの嬢ちゃんは乗ったことあるのか」

「ええ、少し前に!…あの、なんで初めて乗ったと思ったんですか?」

「別にそんな深い意味はねえさ。ただ単純に、この大陸は船があんまり通ってねえからな。乗る機会なんてそうそうあるもんじゃないと思っただけさ」

「へぇ〜…楓、よく船に乗れたな」

「お父さんの仕事先のツテで乗せてくれたのよ。…ところで、カラフルアイランドまではどれぐらいかかるんですか?」

「あぁ、島に着くまでは後二時間ぐらいかかるな。…少し早いが昼飯にするか。中に入りな」

そう言われ、二人は甲板から船内に入っていった。

「ほれ、今朝釣った魚だ」

テーブルには魚の刺身が並んでいた。

「わぁー!!美味しそうですね!!ありがとうございます!」

優也のテンションが上がる。

「まったく優也ったら…いいんですか、食事まで取らせて頂いて」

「あぁいいんだいいんだ。ノインズさんの恩人から金なんて取れねえよ。俺が大目玉食らっちまう」

「あはは…」

「んじゃ、いただきます」

「「いただきます!」」

船で魚介に囲まれて、楽しい楽しい昼ご飯が始まった。




…話は少し、遡る。
カラフルアイランドには、ほとんどが緑色で構成されている森があった。

その森の名はグリーンフォレスト。そんな文字通り緑豊かな森を、一人の少女が歩いていた…。

「……あっ」

「…この木も…色が無くなっている…」

悲しそうに声をあげる少女が心配する様に手をさすっている木は…色が抜け落ちて真っ白になっていた。

この森では、数日前から木の色が抜けてしまう現象が発生していたのだ。
…いや、森だけではない。

「翠〜!!」

木をさする少女の元に、派手な格好をした少女が走り寄ってきた。

「……アミィ。そんなにあわててどうしたの?」

「それがね大変なのよ。ブルービーチやレッドマウンテンでも、同じ事が起こったの!!」

「えっ!?」

「この島全体から…どんどん色が無くなっていっている!!」

そう…森だけではなく色鮮やかなこの島全体から、色が失われていっているのだ。
それは少しずつ…だが確実に広がっていっていた。

「…一体、この島で何が起こってるの…?」

少女の疑問は、深い森にこだまする…

32話『色の都と懐事情』


島が見えてきた。
緑の森、青い砂浜、赤い火山。そして、建物や街灯、全てが色とりどりな街。
優也達を乗せる船はその街の港に留まった。

「ほれ、ついたぞお前さん達」

「わあすごい、町中がカラフルだ!」

島に上陸した二人ははしゃぎながら街を見渡す。

「おやおや、これはこれは。カラフルシティにようこそ!」

そんな2人の元に、一人の男性が近寄ってきた。
虹色の蝶ネクタイに、虹色のリボンが拵えてあるシルクハットを被った青年である。

「あ、こんにちは!…あなたは?」

「私の名は色野一郎。このカラフルシティの町長を務めているものです。以後お見知り置きを」

「おう、町長。久しぶりだな」

ウミナリが町長に話しかける。

「おや、ウミナリさんじゃないですか。この子達は貴方のお子さんですか?」

「おいおい、ちげえよ。こいつらは俺の知り合いから頼まれて…というか、俺が昔女房に逃げられたのはアンタにも話しただろうが」

「はっはっは!すまない、そうだったね。」

笑いながら話す町長とウミナリ。
優也達はウミナリにそんな過去があったのかと苦笑いで二人を眺めていた。

「それではその子達は?…どうやら冒険者のような服装をしているように見えるね。」

「おう。この二人は訳あってモンスターと戦ってる旅をしてるんだとよ。この島に来たのは、装備品を買うためだ」

「そうなんですか〜!!いやはや、それでこの街に来るとは中々お目が高いですね!!いいでしょう、私がこの街を案内致しますよ!!」

そう言って町長、色野一郎は笑って二人を歓迎した。



「こちら、ホテル・ルージュです」

町長に連れられて二人はまず泊まる場所を探しにやってきた。

「すごい広いホテルですね…」

「ええ、この街一番の最高級ホテルです。お値段はかかりますが上の階からは美しいこの街を一望できますよ」

そう自慢げに言う町長だったが二人は…

「……うーん。ちょっと高いかも…しれないなあ」

「そうね…それにちょっと高級過ぎて落ち着かないかも」

「おや、そうですか。…ところで聞き忘れてましたがお二人はいくらぐらい予算をがあるのですか?」

「…2万円です」

少し申し訳なさそうに答える優也。

「おや…これは失礼しました。……しかし、それですとあまり長期間滞在するのは難しいですね…」

「わかりました!それでしたらどこか日雇いで雇ってくれるお店を一緒に探しますよ!!おそらくですが、どこかしらあるでしょう!!」

「あ、ありがとうございます!」

再び意気揚々と足を進める町長に、優也達はついて行く。

「ずっと誰かの家や宿に無料で泊めて貰ってたから、急に困った事になったな…」

楓に耳打ちで話しかける優也。

「…逆に今まで人に頼りすぎてたのよ、私達。これからは自分達で旅費を稼いで行かなきゃ!ね?」

二人は新たな決意を胸に、町長の案内する道を行った。

33話『カラフル広場の鍛治職人』


「こちらはカラフル広場です」

町長に連れられ、二人は中央に派手な噴水を構えた大きな広場に訪れた。
広場の周りには多くのお店が建っておりどれも活気にあふれている。

「この広場にはカラフルシティでも屈指の職人達が店を構えておりましてね。端の方から寄っていきましょうか。」



「鍛冶屋橙堂です、ささどうぞお入りください」

「へぇ〜ここが鍛冶屋か。初めて来たけど武器がたくさんあるなぁ」

「…よぉ、ご無沙汰だな町長さん。そいつらは…観光客か?」

「どうもオランジュさん。この子達は訳あってこの街に来てるんですがねぇ、少し旅費が足りないので日雇いのバイトを探しているんですよ」

「…それでうちに来たってわけか。……悪いがうちは人手が足りてんだ。他所に行って欲しい」

(わぁ、ノインズさんみたいな人だわ…)

ちょっと苦手なタイプの人が来て思わず心の中でぼやく楓。

「何が人手が足りてるだよ師匠!俺一人にめっちゃ雑用やらせてる癖に!!」

「うるせえダイロ!一々出てくるんじゃねえ!」

店の奥から現れたのは優也達と同い年ぐらいの男の子だった。見るからに見習いで、師匠のオランジュに文句を垂れている。

「……すまねえな。俺は真面目に鍛冶をやる気がある奴しか雇わねえ。ましてや凌ぎの日雇いなんてもってのほかだ。」

「…そうですか。失礼致しました。お二人も、申し訳ないですね」

「あ、いえいえ!!町長さんは悪くないです!!」

「あの、それじゃあ武器とか色々見せてもらえたりしますか?」

「…それもダメだ」

「えっ」

「まだ剣を握って一ヶ月も経ってねえような子供にうちの店は早い。…町外れに他の鍛冶屋がある。うちよりは劣るだろうが、どうしても道具が見てえならそこに当たってくれ」

「は、はい…あ、あれ?なんでわかったんですか?」

「長年鍛冶屋をしてるとな、冒険者の雰囲気でどれほど経験を積んできたかわかるんだよ。さ、もういいだろ」

(あの、村長さん?)

楓が村長に耳打ちする。

(なんでしょう)

(……すごい厳しいじゃないですかここの店主。なんでここに来たんですか)

(本当にすみませんねえ…拘りがある方なのは前々から承知でしたが…とにかく、他の店を当たってみましょうか)

「それでは、私たちは失礼させていただきます。オランジュさん、失礼致しました」

「ああ。それとなぁ坊主。無くしたのか知らねえが剣は鞘に入れねえと……ん?おい、その剣見せてみろ」

「え?これですか…うおぉっと!!」

オランジュが優也からイノーマスを強引に取り上げた。

「……こいつぁ…ちと錆び付いてやがるが……とんでもねえ代物だな。ボウズ、こいつはどこで手に入れた?」

「え?えーと…その、お爺さんからもらいました」

優也は仙人から貰ったことをはぐらかした。
経緯を説明するのに時間がかかるし、不用意に話す必要がないと思ったからだ。

「…その爺さんの事、今度来た時にでも教えてくれ」

「え?」

「また来いってんだ。…来たらまずはその剣に合う鞘を作ってやろう。大方、最初から無かったんだろう?」

「!…ありがとうございます!!」

優也はお礼を言うと町長達と共に店を後にした。

「師匠、あんな約束取り付けるなんて珍しいですね、一体どうしたんですか?」

「……あの坊主が持っていた剣。確かに錆び付いていたし、切れ味も悪そうでおまけに鞘が無いと来た。ひでえもんだ。……だが俺にはわかった」

「ありゃあな…剣に何かが込められている…いや、違うな。剣自身がまるで生き物のように見えた。…断言できる、あの剣は…聖剣の類だ」

「ええ、あの剣が?俺にはさっぱりだったけどなあ…」

「そりゃあ、まだまだひよっこのお前に看破されてたまるかよ。…そしておそらくだがあの坊主は、一番最初にあの剣を握ったんだろうさ。最初の武器としてあんな代物を寄越した爺さん…興味深い話じゃねえか?」

「やれやれ…師匠も珍しい武器の話好きだなぁまったく」

「フン。さて、話も終わったからお前もとっとと自分の作業に戻れ」

「あー厳しいなーもう!」

そう言ってダイロ達は鍛治の仕事に戻っていった。

34話『職人気質』


「もう、あそこに寄る意味あまり無かったんじゃないの?」

「そう言うなって楓。あの人、確かにこだわりが強そうだけどまた来てくれって言ってくれたじゃないか。確かにこの剣、ずっとそのまま持ち歩くのちょっと危ないかなって思ってたところだったんだよな」

「…ま、確かに剥き出しの剣は物騒だと思ってたけど…急に態度が変わったわよね」

「ああ…もしかしたらこの剣が聖剣だった事に気づいたのかもしれない」

「お二人とも、どうしました?」

「え、ああ!すみません。気にしないでください」

「…わかりました。さて、お次はこちらのお店ですね。魔道具店・竜胆の館です」

そう言われ、二人は鍛冶屋の隣にある怪しい建物にやって来た。見た目は占いの館のようで、建物全体が菫色をしている。

「ここが…魔道具店!」

楓が軽く目を輝かせる。

「このお店に、私の杖を直してくれる職人がいるかも!!」

「…でも、結構怪しい雰囲気じゃないか?」

「そんな事ございませんよ、ここカラフル広場にあるお店はどれも選りすぐりの職人達のお店。怪しいなんてとんでもない!」

(そう言ってる町長自身がなんか胡散臭い気がするわ)

「…ま、まあとりあえず入りましょ!」

そう言って楓は店の入り口にあるのれんをくぐる。

「……いらっしゃい…ませ」

入るなり異様な空気が二人を包んだ。

店内は真っ暗で棚には水晶やら魔道具やら置かれている。

隅には蜘蛛の巣が張っており、樽に魔法の杖が無造作に立てられていた。

そして中央のレジのような場所でこちらに興味を示さず、一人の少女が何か作業をしていた。

「…あ、あの〜。こちら…店長さんは?」

「…………私、です」

「そ、そうなんですか!私たちとあんまり変わらなそうなのに凄いですね〜!」

「…………」

「…あの、今何をしてるんですか…?」

「……魔道具、作ってる。邪魔、しないで…」

「……あ、スミマセン…」

(か、会話が続かない…)

「これはこれはどうも、青村咲希さん。お忙しい中失礼致します」

「……町長、さん。……何か、用?」

咲希という少女は町長が話しかけたのを確認するなり、少しだけ顔をこちらを向けた。

「実はですね、かくかくしかじかで…日雇いのバイトを探しているんですよ」

「……他を当たって」

「そ、即答ですか!」

「……魔道具は、素人には作れない。素人が作ったら、偶然危険なものが出来うる事もある…だから手伝いは要らない」

「そ、掃除とか、店の宣伝とかでもいいんですよ?」

(勝手にこっちの条件下げた…!)

「……結構。用が済んだなら、帰って」

「…………」


「ねえ!職人って気難しい人しかいないわけ!?」

外に出るなり、流石に耐えきれなくなったのか愚痴をこぼす楓。

「お、俺に怒鳴るなよ楓…」

「す、すみませんねえ…ま、まあバイトは無理でしたが、魔道具店としては一流ですので、是非また寄ってみてはいかがでしょうか」

「……あの人まともに杖の修理とかやってくれるかなあ…」

「さあさあ気を取り直してお隣の店に参りましょうか!」

「ちょ、ちょっと待った!」

楓が待ったをかける。

「……なんでしょう?」

「つ、次のお店の人は…大丈夫なんですか?」

「ええ、もちろん大丈夫ですとも」

「うう…もうあんま信用できないですよ…」

楓の足取りは重くなっていく一方であった。

35話『明るい仕立て屋さん』


三つ目のお店は派手なお店だった。
マゼンタ色の壁に掲げられる看板は『tailor』。

「こちらは仕立て屋ですね。さあお入りください」


「いらっしゃいませえ〜!!お洋服をお探しですか?オーダーメイドも承りますよ〜!!」

店に入るなり、元気な女の子の声が響き渡った。

「すっごい元気な店員さんだ」

「あれえ、町長さん!どうしたんですか?もしかしてその服をイメチェンしに来たんですか?」

「いえいえ私は今のこのシンプルな服が気に入っておりますから。…今日はですね……」


「…ふんふん、なるほど〜。日雇いのアルバイトを探しにウチへ来たんですか。…あ、もしかして既にウチの左隣にある二軒、先に行って来ちゃいました?」

「……ええ、案内させて戴きましたよ」

「あちゃ〜、どっちもダメだったでしょー!咲希は知らない人には愛想ないし、オランジュおじ様は堅物だし、どっちも職人気質で厳しいんですよ〜!ごめんなさいね、そこのお二人さん!」

「あぁ、大丈夫ですよ!町長さんも俺たちのために案内してくれたわけですし」

「そうそう!店員さんが謝る事はないです」

「あは、そっか!優しいんだね二人とも。…でもアタシ、実は店員じゃなくってここの店長なんだ」

「あっ、そうだったんですか!?」

「うんうん。つい最近、両親が経営してたこのお店を引き継いだんだよ〜」

「それで、バイトの件だったね。うーんと…それじゃあ。アタシのとこで住み込みで働いてみる?」

「……え!?良いんですか!?しかも住み込みって…」

「うん!アタシも咲希に習って一人で切り盛りしてるけど結構大変で…丁度誰か一緒に働いてくれないかとも思ってたの!」

「それに今、部屋も空いてるんだ。日給が毎日出るにしても宿泊は厳しいでしょ?あっ、もちろん宿代は日給から少し差し引きあるけどね、あはは!」

「おお、結構良いと思いませんか?彼女は見ての通り人当たりも良いですし、どうでしょう!」

「俺は刺繍とか好きだから仕立て屋さんの仕事に興味あるし凄い好条件なんだけど…楓は…どうかな?」

「な、何が言いたいのよ?確かに私、刺繍とか苦手だけど…これだけ良い条件、見逃すはずないでしょ。仕事なら…精一杯覚えるし、雑務でも掃除とかなんだってやって見せるわよ!」

「別に仕立ての仕事を無理に手伝わなくたって良いよ〜!アタシの奇抜なセンスについていけるか分からないし、それに結構散らかってるから掃除とかは助かるね〜」

「では、決まりですね。アミィさん、二人のことよろしくお願いしますよ」

「任せてくださいよ町長」

こうして二人は、仕立て屋『tailor』で住み込みで働く事となったのであった。

「それで…まだ案内していないお店があるのですが、どうしましょう?」

「え、一応寝るところと仕事は決まったんですけど…」

「ええ、ですが仕事が決まったとしてもとりあえずカラフル広場内は全て案内して差し上げるおつもりでした」

「…あの、アミィさんは大丈夫なんですか?仕事の内容確認とか…」

「あぁ、良いの良いの!そんなの明日にでもやって欲しい事伝えるから!せっかくだし案内してもらったらいいじゃない!」

「それじゃあ、お言葉に甘えて!」

「えぇ!さぁ次のお店にいきましょうか!!」

生き生きとした町長と二人は、店を出ようとした…

「あ!…町長さん」

…その寸前でアミィが町長を呼び止め、コソッと話しかける。

「…なんでしょう?」

「あの…後で折り入って話したい事があるんです。」

「……わかりました。終わり次第伺います。では」

「町長さん?何話してるんですか?」

「すみませんね〜!今行きますー!」

結局この後、優也達は10個程のお店を巡り、夕暮れ時に仕立て屋『tailor』に戻ったのだった。

36話『住み込み』


「失礼します!」

そう言って二人はお店に入る。

「あぁ、そんな畏まらないで。これから一緒に働くんだから!あっ、今日はもうお店閉めたからお客さんとか気にしなくていーよ!」

「…はい!」

「あれ、町長さんは?」

「なんかやる事があるみたいで帰りました」

「そっか…。まあここで立ち話もなんだし、二階の部屋に案内するね〜」



「さてっ…それで、名前は…えーと、なんていうんだっけ〜っと…
そうだ、アタシったらあなた達を雇っておいてお互いに自己紹介してなかったね…」

「あっ…そういえばそうだった」

「うふふ、おかしな話ね。…アタシは仕立て屋のアミィ・ラフレッドって言うんだ。この街で仕立て屋をやってるの。よろしくね!」

「俺は真田優也です!色々あって、楓と旅をしてこの街に来ました」

「私は桐谷楓です。この街に来た理由は壊れた魔法杖を直したりとか、いろんな職人さんに装備品を整えてもらおうと思ったんです」

「へぇー、その歳で二人で冒険者って凄いね!どうして冒険者になったの?」

「……」

アミィの言葉に沈黙する二人。

「…あっ、あまり話したく無い理由かな。ごめんね、変な事聞いちゃって」

「あ、ご、ごめんなさい!アミィさんは悪く無いんです、ただ、理由を話そうか迷って…」

「……」

優也は楓に目配せを送る。それに楓は頷く。

「……あの。お世話になるアミィさんには、話しておく事にします。実は…」

優也達はアミィに対して自分たちに今まで降りかかった事と経緯を話した。

「そ、そうだったの…街が竜に襲われて…」

「……はい。それで俺たち…魔王討伐を目指してるんです」

優也はこれまでの経緯をアミィに話した。アミィは信じられないという顔をしながらも二人の話を真剣に聞いてくれた。

「も、目標が凄いわね…魔王だなんて、S級の冒険者でも全然手こずるのに」

「…やっぱり、普通じゃ考えられないぐらい強敵ですよね。…でも、どうしても俺たちはやらなければならないんです」

「……覚悟はよく伝わったよ。…うん。わかった!アタシ、あなた達に全面的に協力させてもらうね!」

「本当ですか!」

「こんな話聞いちゃったら手伝わずにいられないでしょ。でもやっぱり魔王を倒すとなればそれ相応の強さも大事だけど…やっぱ装備も大事よね!」

「だから…貴方たちが魔王の魔の手から世界を救ってくれるっていうならアタシ、とっておきの服を仕立ててあげる!!」

「と、とっておきの服!?」

「ええ。とりあえず耐久性・耐火性に優れて…そうそう、魔力を注げば、自動修復される布も出回ってるらしいからそれもチェックしなきゃ。後もちろん二人の雰囲気に合わせたかわいいデザインも大事よね…ああ!一世一代の大仕事!!楽しくなって来たわぁ!!」

「あ、アミィさんのテンションがすごい…」

「あら、ちょっと興奮しすぎちゃったかしら。うふふっ」

「そうそう、武器や魔道具もいるだろうから幼馴染のダイロと咲希ちゃんにはアタシからお願いしといてあげるわ。」

「色々と助かるわね、ありがとうございます、アミィさん!」

「あっ、こーら!敬称略にしてよね!喋り方も!アタシたち歳同じなんだから!はい、これは店長めいれーい!」

「…そう?じゃあ普段通りにさせてもらうわ。よろしく、アミィ!」

そうして3人が盛り上がっている中、店の玄関のチャイムが鳴り響いた。

「あっ…お客さんみたい」

「え?今日はもう店を閉めたんじゃ…」

「あぁ、お店の客じゃなくてアタシへのお客さんだよ〜。ちょっと待っててね」

そう言ってアミィは外へ出て行った。

「お客さん…?一体誰なのかしら」

37話『アミィのお客さん』


「ちょっと気になるわね、アミィのお客さん」

「うーん?案外普通に、友達の咲希さんだったりするんじゃない?」

「あっ、窓から姿が見えるわね…あれ、あの人は…町長?」

「え?あっほんとだ。さっき別れたのに…二人で何話してるんだろう?」



「……町長さん。待ってましたよ」

「ああ、すみませんね。優也君達を案内した後、少し用事があってね。急いで済ませて来たんですよ」

「それは忙しい中、失礼しましたね。…さて、早速本題なんですが」

「……町長は近頃この島で起きている事件についてご存知ですか」

「…………一応、どんな事件かお聞きしましょうか」

「…色が消失する事件です。知らないはずはないですよね。先週はレッドマウンテン、先日はブルービーチ、そして今朝はグリーンフォレストが…。このままだといずれこの島から、色が失われてしまいます!!」

「……ええ。その事件が一大事だという事は私も重々承知です。ですが…このカラフルシティやみなさんだけは、私の命に変えても絶対守って見せますよ」

「街を守るのも勿論大事なんですが…やっぱりこの島の色鮮やかな自然を…守るべきだと思うんです。どうか町長さん、原因の解明を手伝ってくれませんか!!」

「……誠に申し訳ない。近年カラフルシティは外の島との交流が栄えていて、町長の私も忙しいのです…」

「そ、そんな!ですが、優也君と楓ちゃんを街へ案内するくらいは余裕があったんじゃないんですか!」

「お黙りなさいッ!!」

「!?」

「旅行客は町長の私が直々に案内をする。これは私のモットーでもあり、この島へ来てくださった方達への誠意なのです。たとえ忙しくとも、それだけは譲れません!!」

「あ…ご、ごめんなさい…」

「……失礼。いきなり声を荒げてすみませんね。私、非常にプライドを持ってこの街の町長を努めさせて頂いているものですから。いくらアミィさんといえど私の仕事に関して口出しされるのは…我慢がならないのですよ」

「い、いえ……アタシの方こそ、町長さんの立場をよく分からずものを言って…申し訳ありませんでした」

「…わかってもらえたらいいんですよ。では、今日のところはこれで」

「……でもっ、いつまで経ってもこの問題が解決しなかったら、アタシが調査に乗り出しますからね!!」

「………………ええ、ワカリマシタ」

そして町長は去って行った。残されたアミィは無言で空を見上げる。

「………………」

「アミィ…」

「ひゃあっ!か、楓ちゃんに優也くん!?いつからそこにいたの?」

「…ごめん。急に怒鳴り声が聞こえたから…心配になって出て来ちゃたよ」

「あ…ああ!そうなんだ。ごめんね…ちょっと、揉めちゃってさ」

「……あの、何を話してたの?町長があんな大声を出すなんて…」

「……アタシも正直びっくりした。あんな町長、初めて見たよ…」

「で、でもねいいの!別に気にしないで。アタシが悪かったんだし…さっ!!そろそろ夕ご飯にしよ、今日は二人のためにご馳走なんだから!」

この島の問題に二人を巻き込みたくない。そう思ったアミィは何も話さず、強引にテンションを普段通りにして戻って行った。

「あっ、ちょっとアミィ!」

「優也…なんか、聞いちゃいけなそうな感じよ。…そっとしておきましょう」



夕飯は二人の歓迎会という事で、アミィはカラフルアイランドの名物料理を振る舞った。二人は早速働こうと思ったのだが、見たこともない料理だったので表立って料理を作る事はできず、食器洗いや野菜を軽く切ったりなどの軽い手伝いをして料理は完成した。

「わ、わあ…凄い…作った時も薄々感じてたけど、凄いカラフルな料理」

少し見た目に戸惑う優也と楓。

「えへへ、ちょっとびっくりするでしょ?外の島から来る人はみんなそんな反応になるよ」

食卓に並ぶカラフルアイランドの名物料理は…赤!青!黄!緑!肉も野菜も魚も、みんなカラフルで少し食べるのに躊躇する見た目だった。…が、お味はというと

「う、うっま〜い!?」

「ゆ、優也いきなりその青い魚のソテーから行ったわけ!?」

「う、うん。でもこれ、おいしいよ。なんていう魚なの?」

「それは…青ブリのソテーね。ブルービーチで取れる青魚によって作られたガーリックソテーよ。ちなみに乗っているニンニクは黄色ニンニクって言って、普通のニンニクより力が出てくるのよ。凄いでしょ?」

「あむっ…ほんとだわ、美味しいし心なしか元気も出てくるわね」

「……」

「あら優也?ちゃんと野菜食べなさいよ!」

そう言って楓は優也の皿に野菜を乗せた。

「わあっ、ちょっと!勝手に盛るなよっ!その緑緑しい奴、避けてたんだぞ!」

「あははっ安心してよ。それはグリーンフォレストで育てられてるフォレストピーマンよ。普通のピーマンより鮮やかな緑色だけど、甘味もあるんだから」

「…え?そうなの?」

「騙されたと思って食べてみなよ!」

そう言われ優也は恐る恐るフォレストピーマンを箸に取る。

「…じゃ、じゃあ一口…。……ん、苦くない…」

「でしょっ?それにしてもあはは、さっきの楓ちゃん、優也くんのママみたいだったなあ〜」

「ちょ、ちょっとアミィ!恥ずかしいからやめてなさいよ!」

「あっはは、恥ずかしいんだったら最初から盛らなければいいじゃないの」

「ゆ、優也は昔から野菜を好き嫌いするから…ついつい盛っちゃうのよ」

「お陰でいい迷惑だよ…。昔から嫌いなピーマンとか茄子とか食べろってうるさくてさあ」

「野菜食べないと身体に悪いんだから!心配してあげてるのよ、私は!」

「そーなんだあ。楓ちゃん、優也君の体調が心配なんだね〜」

「うっ。そ、それ程って訳でもないけど!」

「ねーねー、他にもないの?二人の昔話!幼馴染っていーなー、そういうの憧れちゃうな〜!」

この後、三人の会話はどんどん盛り上がって行った。優也に対する楓の世話焼き話をアミィがいじり、楓がそれを制止する。そんな楽しい会話が長引き、食事が終わったのは夜の9時ごろだった。(約二時間もの間、喋りながらご飯を食べていたのである)

38話『信頼関係』


「……ふー、お風呂気持ちよかった」

ご飯を食べ終わり、お風呂に入った優也はアミィから与えられた部屋で寝ることとなっていた。ちなみに楓は女の子同士アミィと同じ部屋で寝るらしい。

「あー…そういえば、結局。町長と何話してたか聞けなかったな…」

優也はさっきのアミィの顔を思い出していた。町長に立ち去られた後のアミィは眼が少し赤くなって潤んでいたのを記憶している。

「…今日知り合ったばかりの人に聞くにはまだ、早かったのかもしれないなぁ。そりゃそうか…。俺たちみたいに、話すわけにはいかない内容なのかもしれないし…」

「……でも、気になるなぁ、あの時の悲しそうな顔。あんなにいい人なのに…なんとか力になってあげたい」

「……私も、そう思ってたところよ」

突然後ろから声がして、優也は驚いて振り向く。

「うわぁっ!?か、楓?なんでここに来たんだよ」

「だって私も気になってモヤモヤしてたんだもん、さっきの会話。話したくなさげだったからもうあれ以上問い詰める気はなかったけど…その代わりに優也にでも愚痴ろうと思って」

「……あのなあ」

「それよりも…きっとアミィが話したがらないのって私たちに気を遣ってるのもあると思うの」

「それは…そうだろうね、いい人だし」

「他人の事情に首を突っ込んでも仕方ないって、思うけど…」

「…それでも困ってる人は助けたい。そうだよね?楓」

「ええ、よくわかったわね」

「ああ。とにかく、明日からの仕事は頑張ろう。アミィさんの悩みを聞いてあげられる時は、今じゃない。俺たちが踏み込むにはまだ信頼が足りなすぎるんだ」

「……ええ!寝る前に優也に話して少しスッキリしたわ。それじゃおやすみ〜」

そういうと楓は出て行ってしまった。

「……俺も寝よ」

そして優也も今日1日の疲れを癒すために寝床に着いたのであった。

……翌日。早起きした楓に優也は起こされ、相変わらずカラフルな食材で出来た朝ご飯を食べて二人はアミィからやる仕事についての説明を受けていた。

「さて、と。やってもらいたい仕事はね…今はまとめるとこんな感じかな」

そう言ってアミィが出した紙にはこう書いてある。

☆店の手伝い☆
  • 仕立ての作業の手伝い(できればでいいよ)
  • 素材のおつかい
  • 商品の並び替え
  • 客の対応

☆家事の手伝い☆
  • 洗濯
  • 掃除
  • 料理

「……なるほど。」

「優也君は確か昨日、刺繍が好きって言ってたよね?」

「うん、ちっちゃい頃からずっと裁縫が趣味なんだ」

「ほんと〜!?だったらちょっと仕立ての作業、手伝ってもらえるかな!?どんな感じかアタシが教えてあげるから、さ!」
 
「わ、わかったよ。が、がんばる!!」

「楓ちゃんは、手先がちょっと不器用って言ってたよね」

「う、うん。恥ずかしながら…裁縫とかはちょっとね」

「じゃあ昨日言ってた通り家事とかやってもらおうかな。それかお客さんの接客とかもお願いできる…かな?」

「ええ、やってみるわ!」

「よーし!じゃあ早速だけど楓ちゃんはこの部屋の掃除お願いね!優也君はアタシについてきて。どんな感じか教えてあげる」

「はーい!」

こうして二人のはじめてのお仕事が始まった!!

39話『仕立て屋さんは大忙し』


お店の開店は午前9時。午前8時の今、楓はお店に並べる洋服や服の生地の整理、優也はアミィに服の仕立て作業風景を見学していた。

「わあ、凄い煌びやかなデザインだね」

「そうでしょ?デザインも全部アタシがしたのよ、これ。さ、あとはここをこうして…」

「フリルも可愛いからつけちゃって、リボンも…」

「て、手際が良すぎる!」

アミィはあっという間に一着の服を作り上げてしまった。



「これは…種類的に男性用だからここかしら。これは…子供服だからあっちね…っと」

「楓ちゃん、いいねぇ〜綺麗に商品並べられてるよ」

「本当?私、ちょっと美的センスは自信ないんだけど…」

「そんな事ないって!あ、そろそろ開店時間だね〜。楓ちゃん接客はやったことある?」

「えっと…ないわね」

「そっか、じゃあアタシの接客見てみよう見真似でやってみて〜」

そして数分後、お客さんが一人来店した。

「いらっしゃいませえ〜!!」

「お洋服をお探しですか?オーダーメイドも承りますよ〜!!」

「オーダーメイドはいいかな…新しい服が欲しいんですが」

「そおですね〜でしたら…こちらの服とかどうでしょうか?」

「あっ、可愛いわねこの服…」

「これもお似合いかと思います!!」

「確かにこっちも捨てがたいわね!」

「試しに試着室へどうぞ〜」

「……っとまあこんな感じ!」

この一連のやりとりを見ていた楓は

「……うーん。誰かに合う服を選ぶのは、私のセンスじゃちょっと難しいかもしれないわ…ごめんなさい」

「へ!?あ、そっか…ごめんごめん。じゃあもっと、簡単な感じで接客してみるね」

しばらくして、もう一人のお客さんが来た。

「いらっしゃいませえ〜!ご希望の品はなんですか?」

「…靴を買いに来た。あるか?」

「はーい、靴でしたらこちらです〜!お好きな靴を選んでくださいね」

「……という風に、何が欲しいのかを聞いて、商品がある場所まで案内してあげるの。万が一どれが似合うかとか聞かれたら、アタシを呼んでね!後は…うん。臨機応変でよろしく!」

「…わかったわ!」


「さーて、優也君はどうかな〜って何これ!?」

「あっ…戻ってこないので、ここにあったズボンとかシャツとかやっといちゃいました」

「わー、優也君すっごーい!え、どこかで働いてたの?」

「いやぁ、趣味が裁縫なので…お母さんに教えてもらったり、学校で習ったり。後は自分で調べて覚えました」

「すごいね〜、良かったら魔王倒したらうちで働かない!?」

「…うーん。考えておきますね」

「うふふっ。そうだ、ここ、編み目をこうして…」

…………

そして時が経ち、午後6時。お店の閉まる時間である。

「っはぁ〜、疲れた〜!!」

仕事が終わりだらんと垂れる優也。

「結構大変だったわ、接客のお仕事。アミィは今まで一人でこの仕事回してたのよね。凄いわ…」

「いやー、今日は助かったよ〜!ほんとは服の仕立てとかはお客さんが来ない時間か休みの日にまとめて作ってるんだけど、二人がいたおかげですっごく捗っちゃった!!ありがと〜!!」

「これだったら二人の新しい服の製作も思ったより早めに取りかかれるかも!!」

「えっ、ほんと?!」

「それはありがたいわ!」

「あっそうそう、日給渡しとかないとね。はい」

そう言ってアミィは封筒を二つ渡した。

「やったー、ありがとう!早速開けてもいい?」

「どーぞどーぞ」

「えっ、12000円も?優也も同じ分貰ってるのよね」

「ああ。…俺らが仙人に貰った旅費、一日で超えたな…」

「あはは。仙人さんも、冒険に出るのに二万円しか渡してくれないなんて、旅費がどれぐらいかかるか見誤ってたんじゃない?」

「でも、なけなしのお金だって言ってたよ」

「……仙人界隈も世知辛い世の中なのね。さてっ、晩ご飯の支度をしますか!」

この後、昨日と同じようにご飯を食べお風呂に入り
初めての仕事で疲れ切った二人は早めに寝息を立て始めるのであった。

40話『信頼を超えた先にある物』

次の日も、昨日と同じように仕事を行った。
優也は仕立て作業の手伝い、楓は今日は洗濯と掃除、
接客はアミィ自身が担当した。

そしてアミィが言うには明日は店がお休みらしいので、
稼いだお金で何か装備を見に行こうと二人に提案したのだった。

しかしその日の夜…。

「このご飯も少し見慣れてきたかな」

「そうかしら?私はまだ慣れないわ…」

「あはは、この島から出る頃にはきっと慣れてるよ〜」

三人が夕飯を食べていると突然、電話がかかってきた。

「あら…電話だね。ごめんちょっとまってて」

「…………」

「……楓?どうしたの?」

「ちょっとね…。一昨日のことがあったから…」

「…それでどうするのさ?もし、一昨日の件の話だとしても…信頼が足りない俺たちに話してくれないよきっと」

「わかってる。…もし信頼が三日で築けたら苦労なんてしないわ」

「でも…本当に心から、力になりたいって想いが伝われば…もしかするかもしれないわ。やっぱり私、じっとしてらんない!」

「……だから私、ちょっと行ってくる」

「あっ!楓…!」



「……もしもし?」

「あっ…アミィ?私…。ちょっと緊急事態…!」

「ど、どうしたっていうの…!?」

「とうとう、わ、私の家から色が…!!」

「なんですって!?とうとう翠の家まで…!!」

「外の木も、花も、壁も、絵も、本も…どんどん色が消えていくよぉ…!!」

「もう耐えられない!アタシ、明日調べに出かけるわ!!もう町長に頼るのもやめた!!」

「…あっ。だったら、わ、私も…協力、する…」

「ちょっと大丈夫翠!?まだそっちの様子、わかってないけど全部真っ白になっちゃって気が滅入っちゃってるんじゃ…」

「…だ、大丈夫。早く、原因を探らなきゃ…」

「わ、わかった。じゃあ明日…9時頃に翠の家に向かうからそこで待ち合わせね」

「…うん。あ、二人には電話…しといたほうがいいかな?」

「…ええ。人手はなるべく多いほうがいい筈だからね…ただ、二人とも仕事切り上げて来れればいいんだけど…」

「…とりあえず、連絡しとくね。……じゃあ、また明日…うぅ…」

「うん…じゃあね。気をしっかり持って。」

電話を切り受話器を置いたアミィ。

「……はーっ」

「……アミィ、今の話…」

「えっ!?あーっ!もーいつから聞いてたのー?全く、意外と楓ちゃんって人の話を盗み聞きする癖があるね〜?やめといたほうがいいよ〜」

「あ、アミィ!!」

「……な、なに?」

「何か、困ってる事があるなら…私たちにも、話してくれない?」

「え、え?何言ってるの。大丈夫だってば。ちょっと友達関係でトラブっちゃってるだけで…」

「無理に嘘つかないで!確かに私たち、まだ出会って3日しか経ってない。だけど…悩み事があるんだったら、私たちに言って欲しいわ」

「で、でも…。これは私たちの問題だから!」

「そうやって、アミィは自分で全部背負い込もうとしてるわ!さっきだって、自分より電話で話してた子の事を心配してたようだけど、私は…あなたが心配なの」

「…外の島からやってきたあなた達に…この島の面倒ごとに巻き込まれて欲しくないの…!」

「…大丈夫だよ。俺たち、もうとっくに大きな面倒ごとに巻き込まれてるんだからさ」

「えっ?」

「…優也!」

楓が後ろを振り向くと、結局気になって付いてきた優也がいた。どうやら一緒になって話を聞いていたらしい。

「魔王軍に街を襲われて、慣れない剣を持つことになって戦うことになって。…本当なら、今頃学校に行って勉強してた筈なのにさ」

「…そうね、魔王を倒さなきゃ平和な日常が帰って来ないって言う多分考えうる限り最も面倒な事が起きたんだから。…今だったらきっと、どんな事がアミィの身に起きてても、私たちは受け入れた上で…協力させてもらうわ。…アミィが、私たちを信じてそうしてくれたようにね!!」

「……ふ、ふたりとも」

「だから…アミィ、俺たちにも。話してくれないか?それにさっき話してたじゃないか… 人手はなるべく多いほうがいいってね」

「………ふふっ。あはは!優也君も、人の話を盗み聞きするのが好きなのねほんと!あははっ」

「えっ!?そんなんじゃないって…」

「あはははっ…冗談よ!……ふー。わかった、全部話すわ…。……二人とも…気遣ってくれてありがとう」

「…うん!!」

自分の悩みを打ち明ける…。そう簡単にできる物ではない。それも、知り合ったばかりの"他人"になんて。
それでも二人が必死に語りかけた事により、アミィは隠していた思いを二人に打ち明ける気になった。
これでまた、大きな一歩を踏み出せたと二人は感じた。