61話『秘密の会議』
……町長宅の地下。
薄暗い灯りに照らされてる一室には
街に住む大人達が並んでいた。
数は約、二十名ほど。彼ら全員、今回の事件の首謀者である町長に加担していたのであった。
「…揃いましたね。それでは始めるとしましょう」
町長が取り仕切り、会議が始まる。
「昨日、我々はイエローデザートでのサンプリング中。ラフレッド・アミィ、そして、青村咲希を捕縛する事に成功しました」
「そして…ホテル・ルージュでオレージ・ダイロと桐谷楓を確保したと聞きましたよ、緋色さん?」
そう町長が視線を向けるのは…あのホテルの受付員。名前は緋色らしい。
「はい、そうですね。ただ、二人…逃げられてしまいましたが」
「仕方ないでしょう。ですが今回…オランジュさんのタレコミによって…把握している子供達はこれでほぼ全員、確保したと言えますね」
「おい、逃げた二人はどうなったんだ?大丈夫なのか?」
そう聞き返したのは、商店街でパン屋をしているおじさん。
「現在逃走を続けているのは松村翠、それと真田優也。…この二人は地下都市に逃げ込んだようです。捕まるのも時間の問題でしょう…」
「はてさて、この計画もいよいよ大詰めと言った所です。ドン・ディスコツィオーネによる、島の色のサンプリングはほぼ終わりを迎えました。地下の魔法陣も既に最終段階まで組み込んでいます。…近いうちに、島全体の色を、この街に集約することができる」
「……しかし、本当にやるのだな?」
話を聞いていた一人が、不安そうに言う。
「なんでしょう?……ここまで来て、反対するつもりですか?」
「い、いやいやいや!そういう事ではなくてだな…。ただ、これで…本当にこの街は、良くなるのか?」
「…………」
「……当然でしょう。ディスコツィオーネの織りなす色は見るものを魅力する。この島全体の色を集約させれば、カラフルシティは世界一色鮮やかな街として再び君臨できる。
…そうなれば、昔のように活気に溢れた街に戻ることができますとも。我々はもう、この計画を実行するしかないのです」
「……そ、そうか。やっぱり必要な事なのだな」
「当然です」
「さて、それでは私は…ディスコツィオーネと作業に取りかかりますよ。皆さんへの指示は…。引き続き、他の住民達に目を光らせておいてください。計画に支障をきたす恐れがある者は…ひっそり捕らえさせていただきますから」
そう言い、町長は地下の奥深くへ入っていく。
そこで街の人たちは…解散をした。
「…………」
「…どこへ行くんですか?」
緋色が、オランジュを呼び止める。
「……お前にゃ関係ないだろう」
「そっちは、地下都市への道じゃないですか。よっぽどの事がない限りは、私達はそっちへ行けないですが?」
「……ダイロと、少し話がしたいだけだ。説得して、どうにか…こちら側にすれば、あいつは解放されるだろう」
「まだ、そんな馬鹿なことを言ってるんですか。無駄ですよ、一度我々の計画に反いた者は、延々と地下労働なのですから」
「ふん、そこまでする必要もないだろう。とにかく俺は行く」
「……はぁ。好きにすればいいですよ。ただ…血迷って、彼らを逃したりでもしようものなら…分かりますよね?」
「…無論だ」
そう言い残しオランジュも地下へと消えていく…。
「……あーいうのが、親バカとでも言うんですかね…」
緋色の呆れてつぶやく声は、誰に聴かれることもなく闇に溶けていった。
…薄暗い地下を、優也と翠は進んでいく。
どんどんと迷路のような道のりを、前を歩くディスカラーズを頼りに…。
「……まだ着かないのかな?ここ広すぎるでしょ…」
「…あの緑のディスカラーズさんも街の至る所に入り口があると言ってましたし…街全体を巣食っているのでしょうね…」
「もしそうだったら…流石に街の人たちも気づくよな……」
そうしているうちに…二人は、やっとディスカラーズ達が『補充所』と書かれる部屋へ入っていったのを確認した。
「この部屋の隣に、労働施設…あっ、あれ…かな?」
優也が隣にある扉を指さす。
「……は、入ってみますか…」
「うん。……あれ、この扉…鍵がかかってるみたいだ」
扉を開こうとするが、硬く閉ざされていて開かない。
「……脱走、させないため…でしょうか。やっぱりここが…労働施設…」
「多分そうだね…鍵かぁ、どうしよっか…どこにあるか見当もつかないけど…」
「おい!そこで何をしているのですか!!」
すると突然、背後から声がした。
(…ま、まずい!!ディスカラーズだ)
「アナタ達…囚人ですね?…何故、こんなところにいる?まさかとは思いますが…脱獄ですか?」
(……ん?…どうやら俺たちを追ってきた奴とは違うみたいだな。)
「何を黙りこくっているのですか!!…仕方ありません、捕らえるしかないようですね」
(まずいまずい!!考えてる暇なんか、無い!!)
「ま、待ってください!!…その…さ、先程ここで…え、えっと…労働作業する様に言われたのですが…か、鍵がかかっていて入れないんですよ」
咄嗟に言い訳を考える優也。
「…………」
(さ、流石に苦しいか…?)
「……まったく!囚人管理の奴は何をやってるんですか。いいでしょう、今鍵を開けてやりますよ」
「あっ…ありがとうございます」
(やった、上手くいった!!)
(や、やりましたね優也さん)
見事優也はディスカラーズを欺き、二人は労働施設に潜入する事となった。
62話『囚人達の輪の中』
二人はディスカラーズに開けてもらった労働施設を見渡した。
(…人がいる…!)
(……は、働かされてますね。……人数が多いですが…みんなカラフルシティにいた人たちなのでしょうか…?)
(だとしたら…行方不明で騒ぎになっているはずだけどなぁ…)
(それもそうですね…。この中に、アミィ達はいるんでしょうか…)
(…ここからじゃわからないな。……ねえ翠、アミィ達の事をここにいる囚人達に聞いて回ってみない?)
(えっ…き、聞き込み…ですか。わ、私…ちょっと…その。苦手なんですが…)
(…うん、わかってる。だけど、いち早く見つけて合流しないと…)
「おい、お前たち!さっさと作業に取り掛かりませんか」
いつまでも作業をせず突っ立っている二人に痺れを切らしディスカラーズが割って入ってきた。
「あっ、はい!すぐ取り掛かります!」
(…行こう翠。作業はとりあえず見様見真似でやって、怪しまれないようにね)
と、優也は慌てて返事を返す。優也と翠は作業内容もわからないまま、それぞれ別々の場所へ行った。
(…とは言ったものの、何をしてるんだろうこの人達?)
優也が行った場所では、男女が花や果実を石ですり潰したり混ぜ合わせたりしていた。
(…作ってるのは…絵の具?)
とりあえず空いている机に入り、見様見真似で作業をするフリをする。
…そして、隣で作業している強面の男に話しかけた。
「あの…すみません」
「あん?なんだよ…今話しかけんじゃねえ」
いきなり突っぱねられてしまった。
「いや…その、どうしても聞きたいことがありまして」
「…なら他の奴にしてくれ、話してるところを奴らに見られたら俺まで罰を喰らうんだ。もう話しかけんじゃねえぞ」
「…………」
想像以上に、労働施設での聞き込みは難航しそうだった。
(……こ、この人たち…何か、魔法を詠唱している…?)
一方翠が向かった先では何人かが絵の具に入った瓶に両手を向けて何か魔法を使っていた。
(…な、何もしていないとさっきのディスカラーズさんに怪しまれますね…わ、私も…)
翠も同じようにやってみる。
…しかし、流石に魔法を見様見真似でやるのは無理があったようで
多分、ちゃんと魔法はかかっていないだろう。
(…それよりも…は、話しかけ…なきゃ…うぅ……)
(こ、これも…みんなを助ける、ため…!!)
翠は精一杯の勇気を振り絞り…自分から知らない人に話しかけた。
「ぁぅ…ぁの、す、すみませ…」
「…何かしら?…アングルジャーマ・ロートロッソ!!」
翠が話しかけたお姉さんは…こちらに目を向けず、魔法の詠唱作業をしていた。
「ぅ…その…」
「話しかけるならこっち向かないで。前を向いて話して」
「えっ…」
「話してるとこを見られたら…怒られちゃうの。スリプビエント・グリュンヴェルデ!!…あまり長く話してると気づかれるかもしれないし、一つだけなら聞いてあげる」
「は…はいっ!」
どうやらこの女性は、融通の効く良い人みたいだ。
「それで…何を知りたいのかしら?それとあなた…今初めて目にしたけど、新入りかしら…?」
「…あ、あの…私、友達を探しに来たんです…ここに捕らえられているはずで…」
「…驚いたわね。まさか自分からここへ来たわけ?」
「は、はい。な、仲間がもう一人いまして…うまく、潜入出来たんです」
「…へぇ…臆病そうなのに、やるわね貴方。そこまでしてお友達を助けたいってわけ?」
「……わ、私…今までずっと、怖い事から逃げ続けて、立ち向かった事が無かったんです…
だ、だから…だからこそ、わ、私は…やらなくちゃならないんです!!」
翠は普段表に出さない自分の意思を、初対面であろう女性にさらけ出した。
「…少し、声が大きいわ。バレちゃうから静かに。」
「す、すみません…」
「……ふー、よーくわかったわ貴方の決意は。…それで、探し人の特徴は?」
「…えっと…魔女の姿をした藍色の服の女の子と…派手なマゼンタ色の服を着た、髪飾りのたくさんつけた女の子です」
「結構特徴的ね。そんな子達、見てたら印象に残ってるはずだけど…生憎私は覚えがないわ」
「……そうですか…」
「…代わりと言ってはなんだけどいい事を教えてあげる。」
「牢屋はね、ABCの三つに大きく分けられているの。そして、それぞれ作業時間が別々に分けられているわけ。
今の時間帯はわたしのいるBの囚人が働かされているのよ」
「……そ、それでは…私の友達は」
「ええ、あなたの友達は私の目の届かないAかCの牢屋にいる可能性が高いわ」
「ろ、牢屋の場所は…教えてくれますか?」
「…いいわ、教えてあげる。Aはこの部屋の出入り口を出てずっと右に進むとある。そしてその付近には階段がいくつかある。
そこから一つ降りればB、二つ降りればCの牢屋があるわね。」
「な、なるほど…ありがとう…ございます…!!」
「…他に、私に聞きたいことはあるかしら」
「えっ…でも、一つだけってさっき…」
「僅かばかりだけど…あなたに、可能性を見出したわ。そのオロオロした態度とは裏腹に、貴方の覚悟が伝わってきたってワケ」
「それで…聞きたいことがあるならさっさと言いなさいな。後しばらくは監視がここに見に来ることはないだろうし」
「…ありがとうございます…」
それから翠はこの地下で捕まっている人達のこと、敵のこと、やらされてる作業の意味を教えてもらった。
捕まった人達は皆、ディスカラーズや彼らと繋がる人達の動きに気づいてしまった者たち。
そして大勢の街の大人達が裏で線を引いている事。
…極めつけに、認識障害の魔法によって、街から消えた人たちは…
最初から居なかったかのように住民達は惑わされている事だった。
この事実には翠も狼狽えた。
そして今やらされている作業は…魔法の絵の具を作ること。
この絵の具は…ディスカラーズの武器であるペイント弾などに使われるそうだ。
一通り話が終わった後…翠は、優也とこの情報を共有する為に、ここから移動することにした。
「あ…ありがとうございました!あの、二人を助けたら…必ず、ここにいる方達も助けに戻ります…!」
「…ええ。…期待して、待ってるわ」
63話『獄中の二人』
「……優也さん!」
翠は優也のいる場所へとやって来た。
「…翠?どうしたのさ一体」
「あの…私。色々と情報を聞くことができました…!」
「なんだって…!凄いな翠!!…俺の方は、あんまり大した情報聞きだせなくてさ…」
そう言う優也の後ろに目をやるとすごく、無愛想そうな人達が沢山並んでいた。
「…そ、そうですか…そちらはまた、ずいぶんと大変だったんですね…」
「……ま、俺の方はどうでもいいさ。それより何を聞いてきたの?」
「あの、ここで話してると…看守に話してる所が見つかってしまいます。こっそり、抜け出して…誰の目にも付かない場所で話しませんか」
「…あぁ。わかったよ!」
二人はディスカラーズ達の目を盗み、作業部屋の外へ出た。
「…内鍵だから閉まってたけど簡単に開いたな。よく、誰も逃げ出さないなこれ…」
二人は周りに誰もいないことを確認すると、翠は先程の女性から聞いた事を優也に話した。
「……そ、そんな…事が…」
優也も、街の隠された事実に動揺を隠せずいる。
「…あの。それで、ですね…アミィ達がいるのはAかCの牢屋なんです。さっき話した通りAはこの階層でCは二つ下の階だそうで…」
「うーん…それだったらね、多分Cだと思う」
「そ、それは…なぜですか?」
「…アミィと咲希に似た姿をした子が下の階から昇っていたのを、牢屋から確認した人がいたんだ」
「今あそこにいた人達ってBのグループの人達なんでしょ?その下の階層から来たんだから、Cだよきっと」
「…そ、それって結構有益な情報じゃないですか!」
「……いや、翠がうまく聞き出せていなかったらこの情報も大したことなかったよ」
「そ、そうでしょうか…?」
「うん。とにかく、これで大体の居場所は絞れたと思う。早速行こうよ!」
「…はいっ!」
二人は、牢屋の方へ向かう。途中で見回りのディスカラーズをやり過ごしながら…
二つ階段を降り、Cの牢屋へと辿り着いた。
「……ここだね…ここに…多分、二人がいる」
「早く、探しましょう!」
「…それにしてもすごいな。こんなに人がいるなんて」
「これだけ消えていたのにもかかわらず、町では何事もないようにみんな過ごしていたんですね…」
しばらく歩いてみたが、二人の姿は見当たらない。優也は囚人たちに聞いてみることにした。
「あの、すみません。藍色の服とマゼンタ色の服を着た女の子を知りませんか?」
「何だあんたら、脱走したのかい?無駄な事を…。…その特徴に似た子なら、一番奥にいる。……全く、子供なのに捕まっちまうなんて可哀想なことだ…」
「…一番奥、ですね。ありがとうございます」
そして10分ほど、牢屋を進んでいき…二人はとうとう、行き止まりまでたどり着いた。
そこには広めの牢屋があったが、灯りが少なく捕まっている人が見えない。
「……ここにいるのでしょうか」
「…暗いな。姿が見えないや…」
「そ、その声は…翠?」
「…アミィ!!やっぱり、ここにいたんだね!!」
「二人ともよくここがわかったね…」
「…ねえ、咲希もそこにいるの?」
「……いるよ」
「よかった…!無事みたいで…ほんとによかった」
「…あれ、楓ちゃんとダイロはどうしたの?」
「……実は……」
優也はアミィ達が居なくなってからのことを話した。
「……嘘、そんな事になってたなんて…」
「二人共捕まっちゃって、もしかしたらアミィ達と同じ場所にいるかもしれないと思ってたけど…」
「…残念だけどここにはいないよ。…くううぅ町長めぇ…楓達も捕まえるなんて、許さないんだから…!」
「…?なぁ、町長ってどう言うことだ?」
「えっ?こんなところまで潜入してるのに、黒幕のこと知らないの?」
「黒幕?…そう言えば、あの時黒幕の名前を言いかけてたけど…ま、まさか黒幕って…」
「町長よ!!町長がドン・ディスコツィオーネを全部裏で操っていたのよ!!」
「……えええええぇぇぇ!?」
「……そんな…」
信じたくない事実に、翠は膝から崩れ落ちる。
「なんで!なんで町長がこんな事を…!?」
「……それもこれも全て。私達は直接聞かされたわ…」
…一方その頃。
ダイロは地下奥の牢屋で目を覚ました。…入れられた牢屋は、Bの牢屋。
当然先程捕まったばかりなので、労働作業はしておらず優也たちとは会っていない。
「……うーん…」
「…はっ!こ、ここは…どこだ!?」
「…おい、楓!しっかりしろっ!」
隣で眠っている楓を起こすダイロ。
「うぅ…ん……ダ、ダイロ…?私たち…」
「……捕まっちまったみたいだな。クソッタレッ…何にも出来なかった…!」
「師匠は無事なのかっ…!!」
「…俺がどうかしたか?」
そこへ現れるはダイロの師匠、オランジュ。
「ッ…!!師匠ッ!!無事だったんですね!!」
「……無事?」
「はいッ!ディスカラーズ達に鍛冶屋を襲撃されて、俺たちの情報を敵に吐かされてしまったのでしょう?」
「……ふー、そうか…。……なぁ、ダイロ。仮にそうだったとしたら、なんで俺は五体満足で牢屋の外に突っ立っていると思う?」
「え?……どういう事ですか。敵の拘束からこっそりうまく抜け出せた、とか…じゃないですか?」
「まず俺は敵に痛ぶられても仲間の事は吐かん。……そして」
「この地下牢から簡単に抜け出す事など…出来んのだ」
「え?じゃ、じゃあ…どうしてそこにいるんですか師匠!」
「…お、オランジュさん…あなた…まさか…!?」
「そこの小娘は流石に気づいたようだな。ダイロ、流石にここまでくれば…わかるんじゃないか?」
「え?なんで……。!!い、いやっ…そんな、まさか!!」
「俺は…奴らの仲間だ」
「う、嘘だ!!師匠は信念を持って鍛治の仕事をしている!悪い奴に加担するわけねーだろ!!」
「お、お前ディスカラーズか!?なんか魔法を使って変装してんだろ、捕まった俺達を嘲笑う為に!!やめろよ!!」
「…ダイロ。お前が七歳の頃、だったか。俺に弟子入りをして来たな。何度も断ったのに毎日毎日しつこく…」
「な、んで…それを…お前が…」
「……いい加減認めろ。俺はオランジュだ」
「ぐっ……。ぐわぁぁああアアアアッ!!」
ショックのあまり、ダイロは大きく咆哮を上げ、倒れた。
ほんの数十秒。ダイロは早くも、重い体を起こし現実を受け入れようとした。
「だ、大丈夫…ダイロ!?」
これには楓も心配の声をかける。
「…ぐ…。これが夢なら、とっとと覚めて欲しいが…げ、現実を受け入れるしか無さそうだな…」
「…ふん、意外と早く立ち直ったみたいだな」
「…そんな事よりアンタ、見損ったぞ!!…今まで、ずっと尊敬してきたのに!!」
「そうなる気持ちもわかるが、それよりもだ。なんで俺があのディスカラーズ共に手を貸しているか…知りたくはないか?」
「…そ、それは……知りたいさ!でも…今は、アンタの顔も声も見たく…」
「強情な奴だ。なあそこの娘…お前も気になるだろう?」
「え?…そりゃ、気になるに決まってるじゃないの!!今まで、ダイロを騙して来た理由!!」
「…騙した覚えはない。……それも、これも…この街のためだ」
「………街のため?」
…町長がこんな事をする理由。……そしてそれに町の大人達が加担している理由。
それは今。アミィ…そしてオランジュの口から、彼らに語られようとしていた。
64話『語られる事実』
…今から数年前。まだ子供だった町長、色野一郎は
家の地下室で遊んでいたところで、ある入り口を見つける。
そこを通るとなんと、かなり広い地下空間が広がっていたのだった。
…そして、そこにいたのはお腹をすかしたドン・ディスコツィオーネ。
ディスコツィオーネは色を吸える力を持っていた為、その昔人々に恐れられ
地下の奥底へと追いやられていたのだ。
しかし、彼はそんなことを気にせず自らの食べ物を分け与え、お互いに仲良くなっていった。
数年後。青年となった一郎の、唯一の肉親であった母親が病気で帰らぬ人となる。
彼女の遺言は…カラフルシティを世界一の街にしてほしい…と言うことだった。
そして彼は町長を若くして継ぐ事となる。
しかし街は活気が無くなっていく一方だった。
年々島から人が出ていき、華やかさもなくなり…
貿易先もどんどん無くなっていき、島はある種の
危機を迎えていたのだった。
「あぁ…なにが、なにがいけなかったんだ…!」
町長は途方に暮れる。どうすれば、街は昔のように活気を取り戻すのかを。
…必死に方法を探した。そんなある日、彼は実家にあった街の歴史書を発見する。
この街は…昔は世界一色鮮やかな街として名を轟かしたこと。
それにより、多くの貿易先との取引が行われるようになったのだ。
…今でこそその貿易先は殆ど無くなってしまったが。
その原因はというと…。時代が進むにつれ、カラフルシティよりも
華やかな街はたくさんできた。色鮮やかさも世界一を名乗れるのか
疑問に思う程度に、街は老朽化して、色褪せてきていた。
「もう一度だ。……もう一度、世界一の称号を手に入れれば…。この街は立ち直るはずです!!」
「しかし…一体どうすれば街を色鮮やかにできる?……町中をリフォームするか…?いや、そんな事をするお金は残って無いし…」
そこで思い出した。適任の者がいると。
「……そうだ。なあ、ディスコツィオーネ。この木の色を吸って…家の壁に塗り替えられるか?」
「……オ安イ御用」
ディスコツィオーネは、木の色を吸い取り壁に塗りたくる。
壁は、緑と茶色のグラデーションに染まった。
「…す、すごいぞ。…は、はは…これだ。…これで!街をもっともっと…この街を!!!!活気つけて、色鮮やかにしてやりますよ!!!!」
それから町長はまずカラフルシティの外れにある小さな廃村から色を吸い取った。…今ではその町は、『色の消えた町』として語られている。
「…ダメだ。こんなものじゃたりません。…ならばいっそ……」
狂った彼の行動は次第にエスカレートしていき、次第に島全体をも巻き込もうとまで発展していった。
しかし、当然そんなことをしようものなら反対するものも出てくる。だから町長は言葉巧みに街の大人たちを説得し、仲間に引き入れようとした。
「…というわけなので…このまま我々が何も行動を起こさなければ。我々の愛するこの街は、完全に終わりです」
「…おいおい、冗談だろ…?そこまでこの街が追い込まれてるわけ…」
「冗談で私が、このようなことを言うはずがないでしょう。…お願いします。…どうか、この私に協力してください!!」
町長がこの話をした相手は…みんな、この街が大好きな人達。大切な故郷を失いたくない人達。
皆、関わり方は違うけど確かにこの街を愛している人達に協力を要請した。
…こんな事を聞かされた彼らは、絶対に協力せざるを得ないという…確信が町長にはあった。
こうしてまんまと彼らは町長の言う事を信じ、彼に協力してしていく事となる。
そして、実験としてまず近くの平原の色を吸い取ったのだが…
「な、なんだぁ!?ここら一体の色がすっぽり抜けちまったぞ!!」
…通りすがりの一般市民に見られてしまった。
姿を見られてしまったので止むを得ず理由を話すと…
「…へっ?し、島の…色を!?そんな事…やめてくださいよ町長!!」
町長の計画に反抗する男。このまま街へ帰せば、この話も町中へ
広まってしまう。…そこで町長は、この男を捕まえ監禁した。
これが始まりだった。
町長は街の地下に牢屋を拵え、秘密を知ってしまったもの、反逆をするものを片っ端から捕らえていった。
……そして当然だが、行方不明者が多数出ているのにも関わらず問題になっていないのにも理由があった。
ディスカラーズ達の武器である絵の具は、その色によって様々な効果がある。
そのうちの一つ、紫色の絵の具は…触れた対象の記憶を消してしまうと言う物だった。
これを利用し…消えた者達の記憶は、街の住民達から消されていたのであった。
流石にこの仕打ちには、町長側であったオランジュも痺れを切らし抗議を示した。
「…おい、町長。…流石にありゃ、やりすぎなんじゃねえか」
「彼らは事が全て済んだら解放しますよ。兎に角今は人手も欲しい時期です。頑張って働いてもらいますよ」
町長はある大きな計画を思いついていた。
…とある、魔導書に書いていた近術。
十二芒星の魔法陣に、12種類全ての属性の力を与える事で発動する、
とても広範囲にまで影響を及ばす魔法。
その効果は、使用者や使い方によって変わるようだったが…
町長はドン・ディスコツィオーネにこの魔法を使わせて
島全体の色を、一気にディスコツィオーネに吸収させてしまおうと企む。
…それと、もう一つの効果として。
この魔法は…人々の記憶や認識に狂いを生ませる。
今回町長がやった悪事や、カラフルアイランドにかつて色があった事。
それを全て人々の記憶から完全に抹消してしまう。
これこそこの計画の本筋なのであった。
「ですから…ほんの少しだけの辛抱ですよ。捕まってもあなた方はすぐに解放される。安心してくださいよ」
…イエローデザートでアミィと対峙した町長は、これらの説明をした後に最後にそう告げた。
「ほんの少しの辛抱ですって…!?それで、許されるとでも思ってるんですか!?」
「……何を言おうと私のすることは変わらない。これが最善そして最高の策。この街の生き残る術。…生き残る為には、何かを犠牲にしなくてはならないんですよ。
まぁ、子供には分かりませんでしょうねぇ」
「…違う!!そんな事しなくても何とか、何とかできるはず!!本当は町長もわかって…」
「黙りなさい!さあそろそろ捕まってもらいますかね…!」
(……そうだわ、通信結晶でみんなにこっそり連絡を取れば…この状況が伝えられる!)
……そして話は、53話へと繋がる…。
65話『野望を食い止めろ!』
「……以上がアタシたちが聞いた話。…ここから更に地下深くに、十二芒星の魔法陣がある!!
それが発動しちゃったら、最後。この島全体の色が全部取られちゃうわ」
「どうやれば…止められるのかな?」
その質問を、咲希が拾う。
「…基本的に魔法陣を作った者を倒すか…魔法陣を直接叩くしか無い。とにかくもう時間がない…。
……今頼れるのは二人しかいない。お願い。町長を止めて…!」
「さ、咲希…」
…ここまで必死な咲希を初めて見た二人は思わず息を呑んだ。…そして、優也は大きく返事を返す。
「……わかった!!止めてみせるよ!魔法陣の発動を!!」
「で、でも私達だけで、できるのでしょうか…」
「今から急いで行けば、間に合うかもしれない。とにかく、たった二人でディスコツィオーネを倒すのは難しいと思う。
……だから、魔法陣を見つけて壊すしかないよ!!」
「アミィ!魔法陣の場所、知ってる!?」
「……うーん…どうかなぁ…。だいぶ前に、行かせたんだけど…」
「…行かせた?」
「お待たせしましたーっ!!!!」
「来たッ!!ナイスタイミング!!」
「って、翠さん!?そして…あら、貴方は…?」
優也と面識のないパタフリルは首を傾げた。
「うわわっ!なんだ!?ディスカラーズの仲間!?」
「ちょっとストップ!身構えなくて良いの!彼女は私の従えてる精霊よ。味方!今までこっそり
魔法陣の場所を探らせてたのよ。精霊は自由に呼び出せるから、牢屋からでも指示が出せたの。」
「アミィ…せ、精霊なんて連れてたんだ…」
「あ、どうも。パタフリルって言いますっ!あの、ご主人様、この方は…」
「さっき言ってた優也!とにかく詳しい話は後よ!!それで、場所はわかったの?」
「ええ。ばっちしです!!あ、それとついでに牢屋の鍵の場所もわかったので看守のいない隙に取りに行けますが…」
「…今はいいわ!とにかく、この二人を魔法陣の場所まで案内してあげて!!お願い!」
「…はい、がってんしょうちです!!」
「よし…さあ、行こう!もう時間は少ない!」
「わかりました!」
優也と翠は、アミィの使い魔であるパタフリルに魔法陣の場所を案内してもらう事となった。
…果たして、町長が魔法を起動させる前に止めることができるのであろうか…?
…場面は再び、ダイロ達の牢屋へ移る。
「…何もしなければ、この街は廃れて消える。俺たちは、それを止めたいだけなんだ」
「……だったら…こんな、こんな手荒な真似しなくたって…!」
「そうさ!!なんで街のみんなに相談しなかった!?他に方法もあった筈だろ!!」
「…………それは、この俺も…少しそう思ったさ」
「…!だったら何で協力なんか…」
「……それでもこの街を絶対に俺は失いたくない。街の連中に相談したところで、簡単に解決する筈も無いだろう」
「だからーッ!なんで大人はそう簡単に限界を決めつけちゃうのよッ!!みんなで協力してみないとわからないじゃないの!!!」
「その軽率な博打が失敗すれば、行き場を失う者は大勢いるのだ」
「…では、そろそろ…決断の時、だ」
「は、…決断?」
「今、ここで決めろ。町長の計画に賛同し俺たちに着くか…反対ししばらく牢屋で過ごすか…」
「反対した場合…それでも数日経てばお前らは解放されるだろう。ただし…カラフルアイランドは『カラフルシティ以外は全て色が無い』という記憶に書き換えられ、ここでの会話も全部忘れる事になる。」
「…どっちをえらんでも…島から色が消えるじゃねえか。こんなの、選択肢の意味がねぇ!!」
「そうだ、どうあがこうがもう決まった事だ。さあ、選べ…俺らの仲間になるか…無駄な抵抗をし、記憶を消されるかをな」
「…………勿論、仲間になるのはお断りだ!!」
ダイロはオランジュに向かって大声でそう宣言した。
「…………そうか…そいつはとても残念だ。ならばお前達の記憶はここで消える。…気づいたら何事もなかったかのように、お前達はカラフルシティで過ごしているだろう」
「…いいや…そうはならない、きっとな!!」
「…どこからくるんだ、お前のその自信は…?」
「確かに俺たちは今…捕まって何もできないかもしれない。だが…まだ、2人がいるんだ!」
「はっ、あの坊主と小娘か?捕まるのは時間の問題だろう。わからんなダイロ。今までずっと一緒にいたが…
こんな目に見えた結果も分からぬ男だったか、貴様?」
「…うるせえよっ!あいつらならな…きっと、何とかしてくれる!翠と…優也なら!!」
「……そうよ。優也なら最後まで諦めないわ。なら私も、最後まで諦めない…!」
「……ふん、ならば、せいぜいそこで祈っているがいい」
そう言い残し、オランジュは牢屋を後にした。
…地下を駆け回る、妖精と二人の子供達。裏道を抜け、階段を降り、見張りをやり過ごし。
彼らは魔法陣の場所へ着実に向かって行っていた。
「…なるほど、ダイロと楓さんは捕まってしまったのですね」
移動中に優也はアミィ達を探している途中で起きた出来事をパタフリルに話した。
「その二人も…無事だといいんだけど。えっと…パタフリルって言ったっけ。君はその二人見なかった?」
「いえ、私が探索した中ではダイロさん達は見つからなかったですね…」
「……そっか」
「…!少し先に、ディスカラーズ達がいます。隠れてください!!」
パタフリルの言った通りに優也と翠は物陰に隠れてやり過ごす。
「……それにしても、敵がいるかどうかよくわかるね。」
「はい。私、こう見えて探知能力を持ってますので」
「探知能力?」
「範囲はあまり広くないですが少し先にいる敵の気配とかがわかるんですよ。誰なのかも何となくわかるんです」
「そんな便利な力を持ってるんだ」
「……そうこう話しているうちに、つきましたよ。この階段を降りた先にある扉の向こうが魔法陣のある部屋です」
そう言いながら三人は階段を深く降りていく。地の底の底、一番地下。そこで立ちはだかっていたのは重厚で巨大な扉。
とても頑丈でびくともしなさそうなその扉は、まるで誰もこの部屋に入れぬよう作られている様に見えた。
そして見える10個の鍵穴。
「…あの…鍵はあるの?」
「さっき、通気口から何とかこの部屋に侵入して内側から全部開けておいたので大丈夫です!」
「……げ、厳重なのかザルなのかわかんないな」
「流石に敵も、あんな小さな通気口から出入りできる者がいるなんて思ってもないのでしょう。さぁ、早く行きましょう!」
そして重い扉を開くと……
「…これが魔法陣。初めて見るな…」
……そこに広がるは、話に聞いた通りの十二芒星の魔法陣。通常でも六芒星が良いところだろうか。
とにかく、全ての属性の力があてがわれた魔法陣は…カラフルに、妖しく光を発していた…。
「それで、この魔法陣を…壊すんだよね?」
「はい!!話によると魔法陣は通常、術者がその場にいなければ簡単に壊れるらしいのですが…この魔法陣は特別らしく、壊すのに時間がかかるみたいです」
「…わかった、じゃあ今すぐに!!翠は何か、攻撃魔法とか使える?」
「あっ…はい。初級魔法とかは一応使えます」
「じゃあ翠は魔法で壊していって欲しい。行くぞ!!」
ドガァーーーン!!!!
「っ!?」
魔法陣に向かい剣を振りかぶった優也だったが、突如背後から聞こえる騒音でその動きは止められる。
「な、なんですか!?」
「…………貴方達。やって、くれましたねぇ…」
「あ、貴方は…!!」
「……はぁ、どうやってここまで来たんですかね?」
そこにはドン・ディスコツィオーネの肩に乗った町長が、こちらを冷たく見下ろしていた。
66話『対面』
「ディスコツィオーネよ。壊されぬように魔法陣を守りなさい」
「…御意」
そう言いながらディスコツィオーネは魔法陣の周りに黒い絵の具のような物で壁を覆った。
「……アミィ達から、話は聞きましたよ町長」
「…ほう、どうりで。現在逃走中の貴方達が、ここまでかぎつけて来られたわけですね。しかし鍵は?」
「そんなの、私が通気口から入って開けちゃいましたよ!!」
そう言って町長の前に姿を表す小さな精霊。
「……これは、これは珍しい。精霊なんて滅多に人前に姿を表さない筈ですが…これは大きな誤算でしたね。実に滑稽だ」
「…町長!!今からでも遅くないと思います。計画を止めてください…!」
「あっはっはっはっは…!!今更止めて何になりますか!この街の現状も、彼女らから聞いたのでしょう?」
「…はい。まさかこの街がそんな状況に陥ってるなんて、知りませんでした。…それでも、間違って…」
「水掛け論は、やめにしましょうか。もう、何度もそのようなやり取りはしてきたのですよ。
…話し合いが無駄なら…単純な話です。戦いで決着をつけましょうか。あなた方が勝てばこの計画は諦める。我々が勝てば…わかりますね」
「た、戦うんですか。…町長と」
「ええ。嫌なら構いませんよ?見ていてください、島全体が灰色になっていく様をね」
「……町長、貴方は見ず知らずの俺と楓に、優しく街を案内してくれた。お金が無くて泊まる場所がない俺らに、アミィのお店も紹介してくれました」
「…正直、俺は戦いたくないです。…だって、街を案内しているあなたは本当に楽しそうだった!!…町長も本当は、こんな事したくないんじゃないですか…!!」
「黙りなさいッ!!…はぁ、話し合いは無駄と言ったはずです。もうハッキリわかりましたよ。どうやら貴方はまだ、私の危険性を理解できていないようですね…!!ディスコツィオーネ!!」
「ハッ」
町長の掛け声に、ドン・ディスコツィオーネが構える。
「……やってしまいなさい!!」
「…御意。グリーンペイント!!」
「うわぁっと!!」
広範囲に放たれる緑色の絵の具を優也達は横に飛んで避ける。
「あ、危ない。あれに触れたら、眠っちゃうんだよな…!」
「休んでる暇など与えん。ペイントガン!!」
間髪入れずに、避けた隙を突いて攻撃を仕掛けてきた。
「ッ…サヴェンマ!!」
翠が結界魔法を展開する。
「あぁ、危なかった…ありがとう翠」
「わ、私はこれくらいしか、援護出来ませんが…頑張ります」
「よーし、私も張り切っちゃいますよ。パラライズッ!!」
パタフリルが近づき、麻痺魔法を放つ。
「…こんなもの、効かん!!」
…がしかし、効いていない。
「わわっ…!」
慌てて踵を返すパタフリル。だがディスコツィオーネは、その隙を見逃さない。
「眠ってろ」
「!!」
緑の絵の具がパタフリルに当たる。
「うーん…むにゃむにゃ…」
「精霊とて…我にとって敵ではない」
「あぁっパタフリル!!!」
「…くそッ。あの絵の具に触れたら一発アウトだ、迂闊に近づけない!!」
「さぁ、どうする?降伏すれば我々の仕事は楽になるが」
「…だ、誰が降伏なんか…」
「後ろがガラ空きですよッ!!」
「!!」
いつの間にか背後に回っていた町長が、優也に向かって攻撃をしていた。
手には、恐らくディスカラーズの物であろうインクガン。
不意打ちには咄嗟に避けられるはずもなく……
…しかし、優也に絵の具が届くことはなかった。
「はぁっ、危なかった…!」
「な、なんだとっ…貴方、今どうやって気づいたのです?」
間一髪のところで翠が結界を張ってくれたのだった。
「それは…私にもよく、分かりません。ただ私は…人の殺気を感じることができるんです。だからこうして不意打ちに対応できた!それだけですっ」
「ふう、ありがとう翠。…翠がここまでしてくれてるんだ、俺が足手纏いになってたまるか…!」
そう言うと優也はアイスを唱える。足元に飛び散るペイントはみるみるうちに凍っていく。
「…なにか、策でもあるのか?まあ、そんな物溶かしてしまえばよい。」
赤い絵の具を杖から放った。火属性の力を持つ絵の具は氷の魔法を打ち消す。
「…策なんてそうそう一瞬で浮かばないよ。とりあえず、行動しただけだ」
「それはなんともつまらんな。さっさと降伏してしまえ」
「そうは…行かないんだよ!!」
今度はディスコツィオーネ本体に向けてアイスを放つ優也。
「…ふん、そんな物いくらやろうと、効かぬ事が分からんのか?」
杖からは絶え間なくレッドペイントが流れていた。これでは本体に当たる前に消えてしまう。
「…だったら、こいつは効くか?…サンダー!!」
「っ…!」
今度は噴射されている赤絵の具へサンダーを放った。電撃は絵の具を伝い、放っている杖から体へと流れる。
「ぐっ…小癪な」
硬直するディスコツィオーネ。電撃によって絵の具からは煙が出て周りを包んでいた。
「や、やりました。攻撃がやっと通りましたよ!!」
「…………ふん、効くはず無かろう、この程度の電流」
しかし全く効いていないといった表情でこちらをみて笑う。
「っ…!」
「そんな生ぬるい魔法で我を倒せると思わない方がいい」
「……そうかよ…アイスッ!!」
「レッドペイント。同じ技ばかりで芸のない男め。…どうせまた、さっきと同じように弱々しい電撃を放つのだろう?」
「大当たりだっ!!」
サンダーを放つ優也。それを余裕の顔で避けようともしなかった。
「…そこだ!!」
煙で視界が紛れたその瞬間をつき、そのまま優也は剣で思い切り斬りつけた。
「ぐはぁ…!!」
「よしっ…攻撃が、通ったぞ!!」
「こっこのッ…うぉおおおお!!!」
激昂したディスコツィオーネが優也目掛けて多量の絵の具を放つ。
「うわっととと!!」
小さな盾で絵の具をいなす優也。しかし優也が絵の具に触れてしまうのは時間の問題だ。
「優也さんっ!!早く、こっちに!!」
優也を手招きする翠は、結界を張る準備をしていた。
「助かる!!」
流れ込むように翠の背後に飛び込む。それと同時に再び、結界が張られた。
「あっぶな…少し服に着いてた…」
「くそッ!!……あの娘、少々厄介だ。」
「ふぅ…さて…こっからどうしよう…!!」
二人の子供達と怪人の戦いは続く。
67話『この時のために』
「もう、手心は与えてやらん。主人の計画の枷となるもの達よ、吹き飛ぶが良い。…主人よ、我の後ろに」
「ええ、わかりましたよ」
「カラフルスプラッシュ…!!」
ディスコツィオーネから発せられるは七色の絵の具たち。
その絵の具は互いに混じり合い、黒色に染まっていく。
「な、なんだかヤバそう…!」
……しかし、中々放たれることはない。チャージに時間がかかっているのだ。
「これは…またとないチャンスだ!!攻撃をたたみかけるなら、今だな!!」
「アイスッ!!」
「アースです!」
「サンダー!!」
優也と翠は共にディスコツィオーネへと一心不乱に魔法を撃ち続ける。
…しかし、魔法は打ち消されているように見えた。
「クックック…今の我に属性魔法は意味を成さん。なにせ7つの属性の力を持つ絵の具を操っているのだからな…!!」
「くそっ…あまり近づきたくないが、それなら」
優也は懐に入り込み、斬撃を繰り返した。
「はぁっ!!てやぁ!!そらっ!!」
「ぬ……。はあっ!!」
「うわっ…!!」
ディスコツィオーネから放たれる気迫で優也は壁に打ち付けられる。
「優也さん、大丈夫ですか!!」
「…今の我には何人たりとも近づけん。……よし、溜まったようだな…」
「覚悟はいいか?……くらうが良い。カラフルスプラッシュ…!!」
一点に集中して混じり合い圧縮された黒い絵の具が、ディスコツィオーネから放たれる。
もはやそれは巨大な光線だった。
「翠ッ!!」
「はい!サヴェンマ…
「無駄だ!!」
放たれる黒い絵の具は翠の結界を、打ち破った。
「そんなっ!?きゃあっ」
「っ、危ない!!」
翠を庇う優也。攻撃が体を擦り傷を負ってしまう。
「うっうぅっ…」
「はぁ…はぁ…圧倒的火力の前に…半端な結界は、意味をなさない。…まぁ残念ながら、当たったのは…そこの坊主の方だったか」
「優也さんっ!!優也さんっ!!うぅ…ひどい怪我…!!」
「うっ…ぐっ…。み、翠。怪我は、無い?」
「何言ってるんですか!!どうみたって、優也さんの方が」
「他人の心配をしている暇はないぞ。さぁ安らかに眠ってしまえ。グリーンペイント…」
「……っ、サヴェンマぁ!!」
翠は半泣きになりながらも、魔法で絵の具を防いだ。
「クク…そいつを守って何の意味がある?さあ…その結界がいつまで持つか」
「くぅっ…!」
(くそっ…くそっ!!身体が…身体が、動かない!!こんな時に…!!)
優也は打ち震える身を起こそうと必死に悶えた。だが、動かない。さっきのダメージがでかすぎたのだ。
「……うぅ…っ!!」
魔力が切れそうになり、朦朧としながらも翠は結界を張り続けた。
「チッ…小賢しい。ならばもう一度だ。今度こそ、完全に吹き飛ばしてやる!」
「さぁ…これで、終わりだ…カラフルスプラッシュ…!!」
「…………」
ほぼほぼ限界を迎えていた翠は結界をすでに解いていた。その目は、恐怖に怯えている。
(逃げたい、逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい)
絶対的守りのはずだった結界魔法を破壊する一撃。その源が、目の前で溜まっていく恐怖に翠は逃げ出したいと心で何度も叫んでいた。
「み…どり…」
「…!!」
「……きみ、だけでも…にげ、てくれ」
優也の声でハッとする翠。
(……私、今、また逃げようとしていた…。怖いことから…嫌なことから目を背けようと…!)
みるみるうちにパワーが溜まっていくディスコツィオーネ。翠は必死に考えた。
(私…私…ここで逃げたら…もう、一生…。……駄目!!それじゃあお母さんに…みんなに、顔向けできないよ。だったら…でも、どうする…)
(咲希…アミィ…!!)
走馬灯のように、二人とのやり取りが記憶に蘇る。
『そ、その本…借りても良いかな?一応…私も、二人に追いつきたいから。』
(…………!!そうだ…私にはまだ、試していない事があった…!)
「フハハハハ…どうした、諦めたか?…諦めたのならば。ここは許してやろう」
その声を聞き優也は考えた。
(…くそ。正直…もう、動けない。み、翠に…これ以上…痛い思いも、させたくない………畜生…!!みんな、ごめん…)
「……っ……ぁあ…わかった。諦め…
「駄目です!!!!」
敗北宣言しようとする優也を…翠が、止めた。
「!?み…どり…?」
「……きっと。今まで私が"これ"を決めてこなかった理由は…。今、この時のためだったんです」
「…なにを…」
「……ジョブチェンジ。……"魔法使い"!!」
翠の周りを眩い光が取り巻く…!
「……わずかながら。身体の奥底から魔力が、湧き出てくるのを…感じます!!」
「血迷ったか小娘!?…素直に負けを認めれば痛い目に合わずに済んだものを!!」
「もう私、逃げるのは嫌です!!このまま、逃げる道を選ぶくらいなら…ここで貴方の攻撃を真っ向から喰らって、死にます!!」
「翠…ば、ばか…何を言って…」
「…大丈夫です。死ぬ気は、さらさらありません…!」
「……ふん、なら吹き飛べ今度こそ。さらばだ、カラフルスプラッシュ…!!」
(……大丈夫、なはず…。読んだ本によれば…魔法使いのジョブは…魔法が、強化される…!!)
次の瞬間、先程よりも大きな黒い絵の具の光線が二人に向かって放たれた。
「サヴェンマ」
それに対し、両手を突き出して自分の全てを出し切るつもりで翠は結界を張ったのだった。
「はぁああああ!!!!」
「吹き飛べぇええ!!!!」
二人の視界は、黒い絵の具で見えなくなっていった。
「はぁ…はぁ…や、やりまし…た…!!」
「な…そんな…馬鹿なッ…!!」
黒い絵の具が晴れそこには…翠のバリア。
ディスコツィオーネの渾身の一撃は、魔法使いとなった翠により、完璧に防がれていた…。
68話『剣に願いを』
「ぜぇっ…ぜぇっ…」
溜めに時間のかかる必殺技を二回も使ったディスコツィオーネは流石に疲弊していた。
「なにをしてるんですかディスコツィオーネよ!!早くこの二人を…捕らえなさい!!」
「わかって、いる…!」
ディスコツィオーネは杖からピンク色の絵の具を作り出した。
「…ふう、流石に、回復せねば」
(…あれはまさか、回復の絵の具…!?)
翠はなんとかアレを手に入れられないか考えた。
優也にかければ…怪我を治すことが出来るかもしれない。
「……アイス、です!!」
翠はピンクの絵の具にアイスを放つ。先端からどんどんと絵の具は凍っていく。
「…邪魔を、するな!」
回復の邪魔をされたと思ったのだろう。ディスコツィオーネは凍りゆく絵の具を弾き飛ばした。
「…!よし…!」
うまい具合にその飛ばされた絵の具を拾う翠。
「冷たっ…うぅ…冷たい。でも…溶かさないと…」
その絵の具を使う為に。翠は必死に手で温め溶かそうとする。
…優也と翠は、火属性の魔法が使えない。だから、こうするしかなかった。
「溶けて…きました。ゆ、優也さん…これでどうか…治ってください…!!」
翠の手から溢れる雫。ピンク色に輝くその雫は優也の傷口を…癒していった。
「……あぁ…み、翠。…あり、がとう。身体が…やっと、動くようになった」
「優也さんっ…!良かったです!……はっ!!サヴェンマ!!!!」
再び不意打ちをされるも抜かりなく。翠は攻撃を防いで見せる。
「…ふ、やはり貴様には不意打ちは意味をなさない、か。だが…敵に回復の時間を悠々と与えるとは随分呑気なものだな?」
…ピンクの絵の具で優也の傷が回復した。そうなれば当然、ディスコツィオーネもあの場で回復していない筈は無かった。
ましてやこのやり取りの中で十分時間はあった。ディスコツィオーネは優也に食らった斬撃やその他軽い傷を完全に回復させていた。
「…………っ」
翠はぺたりと座り込む。彼女の魔力はもう今の結界で残されていない。魔法使いとして上昇した分も…もう使い果たしてしまった。
「大丈夫」
「!」
「…今度は俺の番だ」
「…優也さん…」
翠の代わりに立つは、先程ようやく動けるようになったばかりの優也。傷はまだ完全に癒えていないし
身体はボロボロ。大丈夫など…気休め程度の虚言でしかない。…だが優也はもう諦めるつもりなどさらさらない。
いや、もう諦めてなるものかと、鋭く敵を睨みつけた言った。
「…あれほど、翠が頑張りを見せてくれたんだ。俺がこのまま倒れてちゃ…示しがつかない」
かと言って、もう大した策も技も浮かばない。…だったらせめて。
「真っ向勝負と、行こうじゃないか」
「我を前に一対一でやり合う気か?…ふっ、つまらぬを通り越して、もはや滑稽だな貴様」
強大な敵を前に満身創痍の姿で挑もうとする優也を、もはやディスコツィオーネは笑い飛ばす。
(……勝てる見込みは0。だけど、不思議だ。なぜか、全く恐怖は感じない。……俺が今、頼れるのは…俺自身だけなのにな……)
(……いや)
『変か?…そうだった、さっき盾をお前にやった時も言っただろ。武器や盾には愛情を持って接してやるってさ』
『俺の場合は名前をつけて、いざという時に強く呼びかけんだ。そうするとな自然と、勇気と力が湧いてくるもんなんだぞ』
(…こんな時に、ダイロの言ってたことを思い出しちゃったな。…あぁ、そうだよ。まだ日は浅いけど…ここまで一緒に戦った仲間が、いるんだ俺には)
そう言い、手に持つ聖剣を掲げ、優也は声を張り上げた。
「イノーマス…!!どうか俺に…俺に、力を貸してくれ…!!」
それは、自らを鼓舞するため言った、何気ないひとこと。
ダイロのやっていた事を思い出し、真似た。ただそれだけの、軽はずみな行動だった。
【お前の強き願い。しかと、受け止めた】
「っ!?」
どこからともなく声が届いた。…いや、声の発生源は恐らく、わかった。
剣からだ。イノーマスから声がした。そして次の瞬間。
「……っなんだ、貴様!!一体なにを、した!!」
「なんだと言うのですか!?まだ、何か力がっ…!」
「…ゆ、優也さっ…!?」
聖剣イノーマスはこれまでにないほどの輝きを見せた。
その光は青白く…澄んでいて…まるで、氷のようだった。
「……っ!これは…!!」
そして優也の手に握られたイノーマスは今までの錆びた鉄のような見た目から
青く氷のように輝く、美しい姿へと変貌していたのだった。
「…ははっ」
何が起きたかはわからない。だがもう、優也は剣を構えていた。
「…お前の力、見せてもらうぞ。……イノーマスッ!!」
その声に応えるかのように、イノーマスは青白く光を放つのだった。
69話『氷の力』
「……ふ、フハハ。今更何が起きたと言うのだ。ただのちっぽけな剣が大層な光を発しただけの事。そんな物無意味だ」
「…無意味かどうか、やってみろよ」
「……。イエローペイント!!ブルーペイント!!グリーンペイント!!!!」
少し怒りの琴線に触れたディスコツィオーネから、四方八方の絵の具が飛び交う。
優也のもつ小さな盾では防ぐはおろか、大きな盾であろうと防ぎ切ることは不可能。
…だが、もはや盾を使うことなどしない。
「はぁあ!!」
美しい青色の剣が勢いよく振られた。
その剣先に触れた絵の具は、たちまち凍結していく。
「…氷の剣か。なるほどな、氷魔法が得意な俺にはおあつらえ向きな剣ってわけだ」
「優也さん…すごい…!」
「…剣で触れただけで凍らせただと…?見掛け倒しでは、ないようだな…」
詠唱無しで絵の具の凍結をやってのけた優也にディスコツィオーネはたじろいだ。
だがそれで引き下がる事も無く。次の技を放つ準備をする。
「ミックスカラー!!レッド・ブルー・9:1…クリムゾンレッド…!」
赤と青の絵の具を混ぜ合わせてできたのは深紅の絵の具。それは熱く煮えたぎっており、まるでマグマのようだった。
「ふはは…こいつは、レッドペイントにブルーペイントを少し混ぜ合わせて出来た、火の力を高めた代物だ。貴様の剣など簡単に焼き尽くしてくれる!!」
「絵の具を混ぜ合わせて効果を高める事もできるのか…!」
「ディ…ディスコツィオーネよ、それは流石にやり過ぎというものではありませんか?…彼らを殺す程まで追い詰めてはいけません、少し火力を…」
「…主人は、大人しくしていてくれ。もう手加減などしてられるものか。…さぁ、忌まわしき氷の剣よ、溶けてしまえ!!!!」
優也の元に燃え盛る絵の具が飛ばされる。それに対し優也は。
「……氷結斬!!」
剣に冷気が纏う。そしてそのまま大きく振りかぶり、迫り来る深紅の絵の具を氷に変えた。
「なっ…なんだと!!マグマの如し煮えたぎるクリムゾンペイントを凍らすなど…っ!!」
そして狼狽えているディスコツィオーネの懐に優也は素早く潜り込んだ。
「氷塊斬り!!」
縦に切り込まれる大きな一閃。
「ぐぉおおおおおおおおおおッ!!」
ここに来て、大きな一撃がディスコツィオーネに与えられた。
「…ぐふぅっ!」
ここで、彼は初めて膝をついた。傷口は凍り、出血こそないものの大ダメージを与えたようだ。
「ディ、ディスコツィオーネ!?な、こんな事…完全に想定外です!!」
「ぐっ…う…おのれぇえ…!!」
「これでわかっただろう主人よ!!最早こいつの力は我と同等!!例え本気でやろうと死なぬはずだ!!」
「……わかりましたよ。ええ、こうなったらもうやれる限りやりなさいディスコツィオーネ!!」
苦戦するディスコツィオーネにとうとう町長も手加減を止めるよう言い放つのだった。
「……カラーチェンジ!!クリムゾンレッド…!」
ディスコツィオーネの身体が、真紅色に変わった。
身体からは蒸気が立ち込めており、凍結していた傷口も溶けている。
「……自分を火属性に変えたのか?」
「ふはは…当たりだ。いいことを教えてやる。我々魔物は、自分の属性と同じ属性の技の威力が上がる…!
おまけに私はただ単に火属性に変わったわけではない…クリムゾンレッドの力で火に特化した最終形態となったのだ!!!!
氷使いである貴様を、倒す為だけの究極形態だ!!!!」
「そして…さらにダメ押しだ!!はぁあああああ!!!!」
ディスコツィオーネは杖を振り絵具をどんどん溜めていく。それはさっきの構と同じだった。
「これは…また、カラフルスプラッシュを撃つ気か!?」
しかしさっきと違う点は…赤と微量の青しか使われていない点。
「ククク……!!これもまた、炎の力を最大限まで追求した技…!
威力こそカラフルスプラッシュに劣るがこの炎に溶かせぬ氷などないわ!!」
「うぅ…熱い…!!」
「くっ…後方にいるのに熱を感じますね…!」
あまりの熱さに、優也以外の周りにいる者達も熱さを感じている。
「っ…」
【フリーズだ】
「えっ…また声が…ふ、フリーズ?」
【今のお前なら使える筈だ】
「くらうが良い……ボルケーノスプラッシュ!!!!」
先程のカラフルスプラッシュと同等の出力の高熱の光線。
せれが優也に向かって放たれる!!
「っ…わからないが、イノーマスを信じる!!フリーズッ!!」
剣を光線へと向け、そう詠唱する優也。
剣先からは先程より凄まじい冷気が向こうに引けを取らない勢いで飛び出し続けている。
熱と冷気がぶつかり合い、水蒸気に鳴り響く蒸発音。そして突風を生み出した。
「きゃっ…!!」
「くっ…氷を絶対に溶かす、我の切り札すら受け止めただと…!!なんの冗談だ!!」
「なんの、これしき…!!!」
お互いに引かず、出され続ける氷と光線。
「いい加減…溶けて…しまえぇええ!!」
「溶けて…たまるか!!……フリーズッ!!!!」
ダメ押しのフリーズによりボルケーノスプラッシュは徐々に熱を失い、追い返され…
「なっ…!押し負け…」
「はぁああああああああ!!!」
「ぐわぁあああああああああ!!!!!!」
放たれる特大のフリーズが、ディスコツィオーネに命中したのだった。
70話『足掻き』
「……がぁっ…」
床に倒れ、紅く変色していたディスコツィオーネの身体が元に戻る。
カラーチェンジの効果が切れたのだ。…圧倒的冷却によって。
「こっ…こんな、事が…!!ディスコツィオーネが、焼き殺す気で放った本気の一撃を…凍らせるなど…!!あ、ありえませんよ!!!!」
「…はぁ…これで……。決着は、つきましたよ町長」
「…な、なんですって…」
「ディスコツィオーネはもう戦えない。…そして貴方じゃ相手にはならないと思います」
「約束通り…魔法陣を止めてください!!」
「……魔法陣。そうです、魔法陣です!!!!」
「なっ…何ですか一体!?」
「フハハハハ!!そうです、我々にはまだ魔法陣があるッ!!これさえ発動させれば貴方など…!!」
「まっ……待て!!約束が違う!」
「約束は守りますよ。ただし…この島の色を全て取り込み、パワーアップしたディスコツィオーネを…倒せたらねぇ!!!!」
そう言いながら町長は魔法陣を起動しようとする。
「やめ…
……次の瞬間、怪しく輝き始める魔法陣。炎に水に、風に土に、金属に氷に毒に闇…12種類の属性が、魔法陣の中で激しく共鳴した。
そして、輝きは最高まで達した。
…………。数秒して、魔法陣の輝きは失われた。
「……何も…起きない…?」
「……いいえ。起きましたとも…もっともこの地下空間じゃあ…ほとんど黒色しかないのでわからないでしょうが…」
…そこに立っていたのは、虹色に輝くディスコツィオーネ。
「くそっ…折角倒したのに!!はぁあ、氷結斬!!」
「……ふん」
見もせず攻撃をかわすディスコツィオーネ。
(早い…さっきとスピードが桁違いだ…!!)
「…さあて。こうなったディスコツィオーネが貴方たちを倒すのは赤子の手を捻るより簡単ですが…生憎猶予が少ないのですよ。我々は直ちに地上へ行きますよ、ディスコツィオーネ!!」
「…御意!!」
そう言ってディスコツィオーネは肩に町長を乗せ…
「ぬぉおおらぁああ!!!!!!」
…天井を破壊しながら地上へ上がっていった。
「天井を破壊しながら登ってった…なんて破壊力だ…」
「…優也さんっ…魔法陣がぁ…魔法陣がぁっ……!!」
優也に泣きながら胸へと駆け寄ってくる翠。そんな彼女を優也は抱き止め優しく落ち着かせるしか出来なかった。
「……翠…。とりあえず、地上へ急ごう」
「で、でもっ…!もう手遅れなんじゃ…」
「町長が言ってた。パワーアップしたディスコツィオーネを倒せたら約束は守るって。…まだ、完全に終わったわけじゃないんだ。
翠、君が泣いてちゃ救えるものも救えない。今は、立ちあがろうよ。な?」
「……うぅっ…ぐぅ…っはいぃ」
涙を拭い、再び決意を決める翠。
「よし、それじゃ…そうだ、寝てる筈のパタフリルを連れてかなくちゃ…あれ…?」
いない。戦闘序盤で寝てしまった筈のパタフリルの姿がない。
「ま、まさか…知らず知らずのうちにさっきの戦闘に巻き込まれて…?」
「そ、そんな縁起でもないこと言わないでください!!!」
「……。とにかく急ごう。もしかしたら、先に上に行ってるのかもしれないし」
「…わかりました」
こうして優也達も、来た道を戻るように地上への階段を上がっていった。
「……はぁっ…やっと…最初に入ってきた階段だ…!」
二人はホテル・ルージュにあった地下室の出入り口まで戻ってきていた。
「ここまで…ディスカラーズの警備も、囚人達も見かけませんでしたよ。一体どうなってるんでしょうか…」
「…わからないね。とりあえず、地上に出よう…!」
そう言い、優也は最後の階段を駆け上った。
「……ホテルは変わっていないな。さっき壊した扉が片付けもされないで転がっている」
「…なんか、外暗くありません?」
「……確かに。朝早くにここに乗り込んで…色々あって、ディスコツィオーネと戦ったけどまだ夜にはなっていない筈…」
その答えは、外に出てすぐにわかった。
「っ…!?なんだ、あの空…!!」
空には禍々しい渦が島全体を覆うかのように浮かんでいた。
街では騒ぎが起きており、皆混乱しているようだった。
「これって…どう考えても魔法陣の影響…ですよね…!!」
「…ああ。…………あああっ!!」
また優也が声を上げた。翠がどうしたのかと優也の向く方を向いてみると……。
「……っ…!!」
街からでも確認できる大きな火山、レッドマウンテン。
その姿はみるも無惨な灰一色に染まっていた…。
「………」
「…翠?大丈夫?」
「…はい。魔法陣が発動したのを見た時から覚悟は…していましたから。とにかく町長を探しましょう…必ず!綺麗な島の景色を取り戻すんです…!」
「ああ…そうだ、よく言った!よし、気を引き締めて行くぞ!!」
「……とは言っても…どこへ行ったか見当もつかないんだよな……」
「そうだ、そういえばさっきだいぶ急いでいたのか町長達、天井を突き破りながら逃げて行きましたよね?…だったら地面から出てきたのを目撃した人がいるんじゃないでしょうか?…ただでさえ巨大なディスコツィオーネがさらに大きくなっていましたし」
「……確かに。ありえるな。聞いてみるか!!」
……しかし、混乱している街の住民達に協力を仰ぐのは至難の業だった。
「…そりゃそうか。島の上空にこんな暗雲が立ち込み、おまけに街の外は真っ白なんだ。こんな緊急事態に誰か手を貸してくれるなんて…」
すると、その次の瞬間。
「いたぞ!!」
「え?」
遠くから、大勢の大人達がこちらへ向かって走って来る。
…彼らは全員、町長側の人間。優也達を捕らえるよう先程町長から指示があったのだ。
「あ、あれって…この街の人だよね。な、なんでこっちに向かってきてるんだろ…」
「……あ、あの人たちから強烈な敵意を感じます!!に、逃げないと!!」
翠のその言葉に、優也も賛成し逃げようとしたその時。
「「「うぉおおおおお!!」」」
……反対側からも、声が聞こえた。
それも、さっきの人達よりも倍近い規模の声が。
「……あ、あれって…!」
その人達をよく見てみると…先程地下牢で見かけた人達だった。
「その二人を守れぇえええ!!!!」
「なっ…お前達…一体、どうやって牢屋から出たんだ!?」
囚人達は優也と翠を守るように壁になり、大人達の進行を防いだ。
「い、一体なにが…」
「よかった二人とも!!これで全員、再会できたわね!」
「「あっ!?」」
こちらへ向かっていたのは、囚人達だけじゃない。
そこにいたのはダイロ、楓、咲希、アミィ。…そして、パタフリルだった。
「み、みんな!?一体、どうやって!!」
町長を逃した後、優也達もアミィ達の牢屋の鍵を探して救出する事は出来たのだが、時間が無いことを考え後回しにしていた。
……なのにそれが今、全員ここに揃っている状況に優也は混乱した。
「……パタフリルが、牢屋の鍵でみんなを解放してくれたのよ!」
「え!?いないと思ったらいつのまに…」
「はい!!私、しばらく眠ってしまってたのですが、目が覚めると優也さんがディスコツィオーネを圧倒していたんですよ。それをみて、これだったらきっと大丈夫かなと思ったので、牢屋の鍵を全部集めて、囚人達を解放していたんです!!」
「ディスカラーズを大勢相手にしたんだけど捕まってた人たちも意外と強くってね。少し手こずったけど思ったよりアタシ達、ずっと早く出られたの!」
「あっ…それで地下に誰もいなかったのか…」
「アミィ!!咲希!!!!」
アミィの胸に翠が飛び込む。
「翠!!よく、町長達相手に無事だったわね…!!ほんとによかった…!……それで、今起きていることは分かる?パタフリルから、優也達が町長と会って戦った事は聞いたけど何が起きたかはあまりわかってないんだ」
「あ、あぁ…実は…」
優也はディスコツィオーネと戦った末に、覚醒した聖剣で追い詰めたまではいいが結局魔法陣を町長に使われ、逃げられてしまったことを説明した。
「……だけど、まだ終わっちゃいない。その、パワーアップしたドン・ディスコツィオーネを倒せばまだ何とか…!でも、その居場所が分からなくて困ってたんだ」
「なるほどね。……それにしても優也、そして翠。よく…よく、諦めずに二人で戦ってくれたわ。ここからはね…私たちに任せて!!」
楓がそう優也達に告げる。
「そうだぜ!!お前らは十分やった。ここからは俺たちが、蹴りをつける!!」
「いいや…俺も、最後までやり遂げるよ!!」
「わ、私も…やりま…すぅ……」
そう言いながら翠は倒れた。
「お、おいっ!!翠、大丈夫か!?」
「……大丈夫、疲れて寝てるだけよ。この子もだいぶ無理したんでしょ?」
「…あぁ。何度も、救われた。魔力もほぼ全部使い果たしている」
「…この子は、アタシの家に運んで寝かせておくわ。それで…町長達の居場所、なんだけど…」
「ああ、それがわからない上ではなんとも…」
「……それならわかる」
そう言ったのは咲希。取り出したのは、レーダーのような何か。
「それは?」
「……砂漠で捕まった時。町長につけてた発信機…」
「ほ、ほんと!?」
「場所は…ここから遥か上空。位置的に…あそこ」
そう言いながら指を指したのは、空に渦巻く闇の中心部だった。
「あそこで一体…何を?」
「……多分……禁術の二つ目。記憶の書き換えを発動しようとしている…。もし発動されてしまえば…私達全員、記憶が消されてゲームオーバー。町長や町の人たちの悪事は、白日の下に晒される事はなくなる…永遠に!!」
「…っ…なら俄然、急いだほうがいいみたいだね!!」
「だ、だけどよ…どうやってあんな空に行きゃ良いんだよ?」
「………そうだわ、私、ツテがある…!」
「えっ…!?」
「これから向かうわよ!!」
「む、向かうってどこにだよ?」
楓は指をさす。その方角は…さっき確認したばかりの、街からでもよく見える大きな山。
「…レッドマウンテンよ!!」