またーり書き込みしましょ(´・ω・`)

僕がまだ子供の頃の話だ。

故郷である惑星リヴァルスの王子として僕は産まれた。

父は放任主義でよく母さんに面倒をみてもらっていたんだ。

小さい時から父は嫌いだった。

『優秀な魔族でいなければ殺す』と、会うたびに脅しをかけられていた。

小言を出せば、殴り飛ばされ地獄のお仕置きをされる始末だ。

…失敗した部下は容赦無く殺す。そうでなくとも機嫌が悪い時は遊び感覚で目に付いた従者を殺す。

同じ魔族である僕から見ても父のやる事は異常的で残虐的で見るに耐えない。

そんなある日、とうとう父は僕の母を殺した。

そしてその一部始終を物陰から僕は見てしまったのだ。

恐怖で足が竦んで、助けの手を伸ばす事が出来なかったのを、今でも悔いている。

とにかくその時僕は急いで王宮から逃げることにした。

母の次は自分が殺されると思ったからだ。

僕は急いで自室に行き、最低限のものを持ち城を後にした。

こうして僕は最期に母の姿をしっかり見ることも無く、逃げ出したのである。

これから……どこに行こう……

🔁

私は上級魔族。パパにそう教えられたの。

魔族の中でも、上級魔族は魔力が桁違い。子供の私だって毎日バンバン魔法を使えるの。

魔法は本当に面白いわ。魔法にできないことはないから、本当に飽きない。

だから魔法がたくさん使える上級魔族に産まれて心から良かったなって思うの。

私は毎日魔法を勉強した。その頃から『世界一の魔女になる』という夢があったのよ。

そんな中、絶対に使ってはいけないと魔族間で伝えられる魔法…

『光魔法』に私は手を伸ばした。

光に弱い闇の力を持つ魔族が、光魔法を使うなど自殺行為だと言われてた。

…だけど私は自分の力を過信してたわ。だから…

一回、興味本位で発動してしまったの。

光が生み出された瞬間、腕が焼けるように痛みだした。

すぐに制御を仕切れなくなった魔法を消そうとしたけど、魔力が吸い取られてどんどん脹れ上がっていった。

やがて私は抑えきれなくなった光に包まれると周囲を光で焼き払った。

叫び逃げる者、止めようとする者、消滅する者…

薄れ行く意識の中で、その光景を最後に私は気を失った。

…上級魔族だったのが幸いして、奇跡的に命は取り留めたわ。ただ、その代わりに…

暴走した光の魔法を止めるために何人もの魔族が犠牲になったらしいの。

私のパパも、その筆頭だった。

…ごめんなさい。ごめんなさい。…ごめんなさい。本当にごめんなさいっ…

私は自分の過ちを深く後悔し、反省した。でもそれで許されるはずはない。

少しでも罪を償おうとしたけど、みんな私に怯え、逃げるか怒号を浴びせるか。

それから私は住んでた集落から追い出される形で一人行くあてもなく彷徨い始めた。

この事件から私は、絶対に光魔法を扱えるようになろうと誓った。

私が、闇の力を持つ魔族でも、光魔法を制御出来る方法を編み出せば…

今後私の様な愚者が現れても悲劇は生まれないから。

結果それで私が死んだって構わない。…それが、私の罪と向き合う道だと思ったから。

…でも、もう誰も巻き込みたくない。だから私は誰もいない場所で練習する事にしたの…

🔁

街の外れにある誰も寄り付かない廃村。かつて先代がこの星を支配した際に殺した、先住民が住んでいた跡地だそうだ。

僕はわかっていた、必ず父はいなくなった僕を探させる。…そして、殺すのだ。

だから絶対に見つからない場所を考えて…ここにくる事にした。

ちょうどいい具合に壊れてない家屋をみつけ、中で寝転がる。

これからどうしようか…そう考えていた矢先に、まばゆい光とともにうめき声が聞こえた。

一瞬もう父にここがばれたのかと思ったが違った。…光魔法?初めて見るがいったい誰が…

いや、それよりも…どんどん膨張していっている。このままでは自分も巻き込まれかねない。

そう判断した僕は即座に光を打ち消す強力な闇魔法を放つ。

しかし光は消えない。……どうやらこれは、本気を出したほうがいいみたいだ。


…ふう、やっと消えたな。初めて対峙したがなかなか手強かった。魔族間で禁止されているだけの事はある。

ん?誰か倒れているな…この魔法を放った奴か。……

よく見てみるとその子は自分と同じ魔族の女の子だった。

一体なぜ、こんな自殺めいた行為を…?いや、ここは誰も寄り付かない廃村だ。自殺をしに来たのか…?でも、わざわざ光魔法でなんて…

色んな思考が頭を巡るが、とりあえず。

…回復魔法、一応覚えておいて良かった

治療をしてあげた。…それがこの子にとって幸せかはわからないが。

苦痛に包まれた表情も、安らかな表情に変貌していた。

🔁

うぅん…あれ?私…自分の出した光魔法に呑まれて…

誰も止める者もいないはずなのに、生きてる?うっ、いてて…

「あまり動かない方がいいよ。光魔法を受けたんだ、僕のにわか知識の治療じゃ、君の意識が戻る程度にしか怪我を治せなかった」

えっ、こんなところに魔族…?あなた何者?

「それはこちらのセリフだよ。…なんで禁止されてる光魔法なんか使ったのさ?」

……。

私は目の前にいた一人の男の子に事情を話した。

村で光魔法をつかったら暴走してたくさんの魔族を殺めてしまったこと。

そして村を出ていき、今後同じような事が起きないように

光魔法を制御する練習を一人でしていた事を。

「…変わってるね、普通そんな目にあったら光魔法なんて二度と使わないよ。それを克服しようだなんて考えないよ」

…私もそう思うわ。でも、悔しいの。今まで私に使えない魔法は無いと思ってた…禁止されてる光魔法だって。絶対使えると思ってた。

でも、失敗した。初めてのことだったの、私が魔法を扱いきれないなんて…

「…すごい自信だね。そんなに魔法が得意なの?」

もちろんよ、だって私は…世界一の魔女になるんだもん!

「……ふふふっ…なにそれ…」

ちょっと、人の夢を笑わないでよ!?

そんな感じで私は男の子と打ち解けたわ。

村を追い出され、遠い寂れた村で知らない男の子と二人っきり。

なのに。なんだか…とっても安心できたの。

🔁

…目が覚めた女の子から、色々と事情を聞いた。

どうやら、以前にも光魔法を使ってしまった事があるらしく、その時は周りに沢山の魔族がいたから殺してしまったらしい。

僕は異常過ぎる父のせいで感覚が麻痺していたので、事故で同族殺しをした彼女にそこまで嫌悪感を抱かなかった。

それにしても普通ならそれっきり光魔法なんてトラウマになって見たくもなくなるだろう。でも彼女は変わっていた。

光の魔法を魔族でも制御できるようにマスターし、それを後世に伝える。

今後同じような事で犠牲者を作らない事、それが彼女の罪滅ぼしなのだと語っていた。

その中で彼女は自身の夢を語った。

『世界一の魔女になる』…そう聞いた時、僕はつい笑ってしまった。彼女も少し怒った後、一緒に笑った。

ああ、会話をするのが楽しい。こんなの、初めてだ。

彼女は心なしか、亡き母に似ていた。だからここまで打ち解け合う事が出来たのだろうか。

「…そういえばさ、貴方の事も気になるわ…聞かせてくれる?」

ああ。彼女も自身の事情を話してくれた。こちらも話すべきだろう。

今度は僕が彼女に語る。実はこの星の王子であることと、父の事を。

「……貴方のパパが……そんな…唯一、心の拠り所だったママが、目の前で…」

彼女は目に涙を浮かべていた。…他人の事なのに、自分のことのように悲しんでいた。

「例え貴方が他人でも……かわいそうじゃない…」

思った事を伝えたら、彼女は綺麗な涙を零しながらそう言った。

「……他人…ね…うん…よし、決めたわ」

涙を腕で拭いた彼女は突然、大きな声でそう言った。

………なんだ?

「私、あなたのお姉ちゃんになってあげる」

…… …… ……

何を言い出すんだこの子は?

「貴方ね、放って置けないのよ。このまま一人だったらきっとおかしくなっちゃうわ。
だから…私が一緒に居てあげる!」

で、でもなんでよりによって僕の姉になるのさ

「あら、お母さんの方が良かった?」

そういうことじゃない!もっとあっただろ、友達とか、仲間とか…

「だって貴方今、頼れる家族ってものが一人もいないでしょ。
だから私が貴方の代わりの家族になるの!
あと私ね、弟が欲しかったの!だから、あなたは今日から私の弟ね!」

…い、意味不明だこの子…。

🔁

…なんだかんだ話の流れで、私には弟ができました。

いや、なんかこう…言ってることに無理があるのは自覚あるわよ!

家族ってこんな感じでなるもんじゃないのはわかってるもん…。

でもね…やっぱり、心の隙間を埋めてくれるのって家族じゃない?

頼れるお母さんも失って、暴力を振るう父しか残されてないこの子を

心の底から救ってあげるには、友達なんて関係性じゃダメ。そう思ったの。

にしても驚いた。目の前のこの子、この星の王子様だったなんて。

あんまり聞いたことがないからわからなかったけど…私の光魔法を一人で沈めたのも納得ね。

「…そういえば君の名前はなんていうんだ?」

あら、お姉ちゃんと呼びなさい。今、私たちは姉弟になったんだから!

「…僕はまだそれを認めていないんだけど。とりあえず君は名前で呼びたいから、教えてよ」

もう、つれないわね……私の名前はマギシーっていうのよ。あなたの名前は?

「…リヴァだよ。僕の情報は出回ってないか」

ええ。王子が1人いるって事ぐらいしか聞いた事ないわね。

「…やっぱりそうか。あの父のことだ、他では話さないんだよ、僕のこと。父は僕の事、嫌いだしね」

不貞腐れたようにそう話すリヴァに、思わず言葉に詰まる。

な、なにか話を変えなきゃね。そうだ、これからどうしようか聞いてみる事にした。

「…しばらくここで暮らそうかと考えてるよ。マギシーは?」

あら、私も元々そのつもりよ。それに弟を置いて何処かに行けるものですか

「勝手に姉面するのはやめてよ…」

いずれ慣れるわよ。…そうだ、さっきも言ったけど私光魔法をマスターするから。もしまた暴走したら止めてくれる?

「まだ懲りないんだ…とにかくしばらくはやめときなよ。弱ってる時にやったら今度は死ぬかもしれない」

それでも練習に付き合う事は拒否しなかった。それどころか私の体を心配してくれている。

…やっぱりこの子はやさしい子。今まで父に愛されなかった分、私が優しくしてあげなきゃ……。

その日から私とリヴァの生活は始まった。最初は食べ物をどうしようかとリヴァが悩んでたけど錬金魔法でなんとかなったわ。

家の残骸とかのゴミをどんどん食べ物に錬金していくのをみてリヴァも流石に驚いたみたい。

…すごい楽しくて、すごく平和だったけど、それもある日終わりのときが来たのよね…

🔁

「はぁあああーッ!!」

光魔法を放つマギシー。最初の頃は使った瞬間魔力を吸い取られて気絶しちゃってたけど、最近は自分の意思で少し制御できるようになってきていた。

「…ッ!リヴァ、お願い…!」

マギシーの声の後に僕は闇魔法で光を打ち消す。最近はずっとこれを繰り返している。

「ハァ…ハァ…ねっ、昨日より3秒ぐらい持ったわよね私!」

あぁ、そうなんじゃないかな…。3秒の差なんて大体は誤差だろう。でも出会った頃より大きく成長してるのは確かだ。どんなに苦手なものでも、特訓すると伸びるものなんだな。良いことを知った。

「回復ありがとう、リヴァ。結構上手くなったわね」

マギシーの光魔法の特訓のあとは回復魔法を使う。これもマギシーに教わってからは更に回復量が増している。

他にも僕はマギシーから色んな魔法を教えてもらった。マギシーが天才なのもあるかもしれないがこの僕ですら覚えられない魔法もあった。

「さぁ、ご飯にしましょうか。ファイア!」

最初のうちは彼女は錬金で料理を丸々作り出していたが、ある日からは食材を精製して自分で料理を作るようになった。

彼女曰く料理も魔法同様楽しいから好きらしい。楽な事より楽しみを取るなんて、生活に余裕ができてきた証拠だろう。

「さぁできたわよ。召し上がれ」

二人で料理を食べる。…錬金で生み出したのも中々だが、彼女の手料理はとても素晴らしいものだった。母を思い出す。

そして、今日もいつも通りの時間が過ぎていくと思っていた矢先だった…

「……なにか、聞こえないかしら?」

まずマギシーにそう言われ、僕も耳を澄ました。…なにかの足音…?一体、何が…

「浮遊」

マギシーは浮遊魔法で空を飛んで辺りを確認した。

「…………!!リヴァ、大変よ。」

マギシーが血相を変えて降りてきた。一体なにが…?

「ものすごい大量の兵士がここに向かってきてるの…!!多分だけど魔王軍よ!!」

な、なに…!?
一体何故ここが…!

…いや、無理もないかもしれない。ここ数ヶ月…初めの頃はまだしも、最近は毎日マギシーは光魔法を使っている。

いくらここが何も無い村だからといって誰も気づかないはずがなかったんだ。

だから僕の居場所がバレたとかそういう話ではなく。光魔法を調査するために兵が送られたのか、あるいは…

「…私の事を捕らえにでもきたのかしら。」

そう、現在この星で光魔法を使う者などマギシーしかいない。その情報はおそらくだが魔王軍にも伝わっているのではないだろうか。

光魔法は魔族の弱点。それを扱える魔族がいる…。それも、前科ありの。魔王軍ならば脅威になると考えて未然に潰しておこうと考えるだろう。

となると…マギシーが、危ない!!
早くここから逃げなければ。マギシー、どの方角から敵は来てるんだ?

「…全方位から囲うようにしてきてたわ…」

何…!?くそっ。単なる調査ならそんな包囲網は組まない。これは確実にマギシーを捕らえに来ている!!
…マギシー、テレポートを使って逃げよう

「無理よ…テレポートは今、使えない…光魔法でほとんど使っちゃったから丸々魔族を二人飛ばす魔力残ってないわ…」

くそっ、あいつら…光魔法を使うと魔力が無くなるのを見越して今来たんだな…!!
こうなったら強行突破を…

「そんな無茶よ、数が多すぎて二人でも…!」

ならば、どうすれば!
そう言いマギシーをみると彼女は微笑んで

「…リヴァだけでも、逃げなさい。」

と言った。

…何を言ってるんだ?

「今から私の残りすべての魔力を使って貴方を遠くに飛ばすわ。お別れね…」

…マギシーは、どうするんだ。

「私……自分の罪を償うときが来たのかもしれない。このまま私、魔王軍に捕まって…しょ…処刑されるわ」

そう言った後、マギシーは何か気づいたような顔をして、泣き出しそうな顔になった。

……そんなの……

…そんなの、僕が許さない…!!

「えっ!?」

僕はマギシーを背中にかかえると、一直線に魔王軍に迫っていった。

「ちょ、ちょっと離しなさいよ!これじゃ貴方を逃がせられない…」

誰が逃がして欲しいと頼んだんだ!僕は絶対逃げないぞ!!

「でも…でもっ!!貴方には、生きて欲しいの!」

姉さんッ!!

僕は大声で叫んで言う。

家族を見捨てるなんて…出来るわけないだろ!!

「!!」

目の前に映る軍隊は…たしかに多かった。数は数十万以上…おそらくこの星の殆どの兵士が集ってるんだ。
それほどまでに奴らは…彼女を危険視している!

それはなぜか…?もうわかりきっている。奴らは光魔法を…自分たちに向けられるのを恐れている!!

…これは僕のとっておきの技だ。今、道を切り開くのはこれしか無い!!
行くぞ!!

はぁあああああああっ!!

僕は前方広範囲にわたって闇魔法を放つ。

……反転ッ!!

次の瞬間、全てを飲みこむ漆黒の闇は、輝かしい光へと変わった。

そして阿鼻叫喚の嵐。大量の兵士が光魔法を直に受けたから当然だ。

「えっ…?えっ…?」

マギシーは背中で何が起こったのか混乱している。

多くの兵士が光によって浄化され、倒れ、混乱している中心を僕は駆けていく。

当然、追手が来たが光を喰らってまともに追いかけられない。

一方僕は数日間マギシーの光魔法の修行に付き合ったおかげで、そこまで影響を受けずに逃げ切ることができたのだった。

🔁

…とうとう来たのね。私を捕らえに。

私も馬鹿じゃ無い。こんな派手に光る魔法を毎日使っててバレないなんて思わなかったわ。
…リヴァもそれに気づいたようね。

兵士は全方位から来ている。八方向に分けたとしても一つ10万はくだらないでしょうね。

今の私の魔力はほとんどない。もう二人では逃げられないわね。

……私は、こうなる事を見越していた。…いや、心の隅で望んでいたのかもしれない。

あの事件の日、私は罪を償いたかったけど…出来なかった。

だからせめてもの思いで、魔族が光魔法を操る技術を後世に残そうとしたけど…

それで私の被害に遭ったみんなへの償いにはならない。結局、私の自己満足に過ぎない事。

…だから、処刑でもなんでも、正式に罰をしっかり受けて。…それが償いになる筈もないけど、それでやっと…

私は自身の罪と向き合える。って結論に思い至った。

だから私はあえて、場所がバレても構わないって気持ちで光魔法の特訓をしていたんだ。

リヴァはどうするのかって?あの子は最後に私が逃してあげるわ。一人ぐらいなら全力でやればテレポートさせられるもの。

だから、思い残すことなんてないわ!!

…………

…………

…でも…。それじゃあまたリヴァは家族を失う事になる…?

私は…そうだ、私は自分の罪を償うとか…罰を受けるとかよりも…

……まず、この子をもう一人にさせない。それが今私に出来る一番大切な事だったじゃない…。

結局、今から私のしようとしてる事は…また彼を不幸にするだけの事だった。

あぁ、もう…ほんとに……私ってだめね。

今一番、大切な人の気持ち…踏み滲んじゃうなんて。

でももう後戻りはできない、だって既に敵は目前。

この子をここで共倒れになんて絶対させない。だから、だから最後に…お別れね…!

……

やっぱり怒られたわ。ごめんね身勝手な姉で。

でもなんとか説得しようと思ったらなんとあの子、私を背負って正面突破しようと突っ走ったの。

だめよ!!あなたは、生きなくちゃダメ。こんな私の為に犠牲になることなんかないんだから!!

そう思いまた止めようとしたら、

「姉さんッ!!」

…時が止まったように思えた。

「家族を見捨てるなんて…出来るわけないだろ!!」

家族…。姉さん…。その時彼は初めて私を家族と認めてくれた。

私、彼の背中で泣いたわ。年上なのに。お姉さんなのに。それはもう、見苦しかったでしょうね。

あぁ…、目前まで敵が来た。リヴァ…ごめんなさい…こんな姉で…ごめんなさい……。

……次の瞬間、涙で潤んだ私の目は丸くなった。

あれは……反転魔法。
昔ね、古い本で読んだことがあったわ。森羅万象あらゆるものを対となるものに変えてしまう魔法…。

かつてこの星を収めた先祖の王族が使えた魔法…まさか、リヴァがそれを使えたなんて知らなかった…。

リヴァの放った光魔法は…前にいた兵士達に当たった。

沢山の兵士が光魔法で浄化されていく。…あぁ…大切な私の弟、リヴァ。

あなたの手を……汚させてしまった……

🔁

光魔法で兵士どもを突破した僕たちはとりあえず休憩をする事にした。

マギシーを背中から下ろす。…なぜか泣きじゃくって疲弊していた。

「ぐすっ…ぐすっ…」

どうしたんだろうか。…こんなに泣いている彼女は初めてだった。

とりあえずなぜ泣いているのか聞いてみることにする。

「だっであなだのでを…よござぜてぇえ…わだじはなにも…自分勝手で…あどおねえぢゃんっであなだよんでぐれでぇ……」

…何言ってるのかさっぱりわからない。
もう、夜だった。今日のところは休んで明日聞こう…。マギシーの泣く声がずっと聞こえて眠れなかったので僕は彼女を腕の中で寝かしつけた。

……

次の日、僕は早く目が覚めた。いつものボロ屋に錬金で生み出した布団じゃなくて硬い地面で寝たからだ。

気がつけばマギシーも起きていた。…昨日のこと、覚えてるかな…

「…ああー、そのぅ。えっと…ね」

すごい気まずそうだ。昨日泣きじゃくったことを気にしてるのだろうか。

昨日から様子が変だよ?と聞いてみる。

「……ごめんなさい!!貴方を危険な目に合わせて!」

急に謝られた。…気づけなかった僕も悪かったと思うが…なんと彼女はわざと
兵士達に自分たちの居場所を気づかせるようにやっていたようだ。

……

…彼女は昨日死ぬつもりだった…
敵に捕まって処刑され、僕の事は逃がす。
何日も前から決まってたシナリオらしい。

彼女の犯した過ち、光魔法の暴走。光魔法を使えきれなかった自分への戒めとして、特訓を始めた。そうする事で過去を乗り越えようとしていたと僕は思っていたが、想像以上に彼女の罪の意識は深く残っていたんだ。

数日間一緒に暮らしててそんな素振りは見せなかった。…気づかなかった自分が許せなかった。もっと、彼女を支えてあげられれば…

そう口にした途端

「やめて。貴方は気負う必要なんてない。」

「それに…まだあるわ。昨日…大勢の兵士達を貴方に光魔法で殺させてしまった…私の自分勝手なエゴで…あなたの手を…汚させてしまったの…!」

……姉さん

僕はまた彼女をそう呼んだ。

…僕は、姉さんを守るためなら。父さ…リヴァルスのように冷酷になってみせる。だから…元気出して笑ってよ。いつもみたいにさ。

「う、うぅう……もぉ…そこで姉さん呼びは卑怯よぉお!!昨日だって姉さん呼びされてから涙が止まらなくなったんだからぁ!」

また姉さんは泣いた。でも顔はすごくにこやかだった。

姉さん…あまり自分を追い込まないで。辛いなら頼って。一緒に、一歩踏み出そう。

「うぅ…リヴァ!!」

その日、僕たちは本当のような姉弟になったんだ。

🔁

…思っていた事、悩んでいたことを全てぶつけた。

それでもあの子は受け止めてくれたわ。そして、優しく包み込んだ。

彼のおかげで心が救われた。だから私はずっと彼の姉として家族になることを誓ったの。

泣いた。昨日よりもっともっと、泣いた。…はぁ、散々泣いたからすっきりした。

……さてと!いつまでもしんみりしてられないわ。私は、リヴァとこれからどうするか話し合うことにした。

「追っ手がここまでくるのも時間の問題だ…今は早く動かないとダメなんじゃないかな」

その通りね。とりあえず鉢合わせにならないように昨日来た方とは反対側にいきましょう。

そして、私達は軍から逃げるために歩き続けたわ。

しばらくして、街に辿り着いたんだけど…
街の住民はみんな敵対してたわ。…どうやら。私、全世界で指名手配されてるらしいの。

リヴァは襲いかかってきた魔族を容赦なく打ちのめした。

そして街を離れて今日も野宿をすることにしたの。

はぁ…もう、この星に逃げ場はないのかしら…。このまま逃げ続けてもいつか…限界がくるわ。

「……!…一つだけ、手がある」

リヴァが声をあげた。…何かしら?

「…別の惑星に逃げるんだ」



……

魔王軍は幾つか宇宙船を有している。そのうち一つの場所を、リヴァは知っているとのことだった。

「昔、城を探検している時に見つけたんだ。…今ならまだ警備が手薄になってるかもしれない。」

…操縦とかはできるの?

「……今は、とにかく行ってみようよ」

あ、できなさそう。でも確かに今は行動するべきよね。
私たちはさっそく城へと向かった。

「…いつもいる兵士がいない。やっぱりまだ帰ってきていないんだ。」

ラッキーね。じゃあ、宇宙船の場所を案内お願い

それから進むこと数分。

「…あった、これだ…」

わあ、すごい巨大な宇宙船…早速起動させましょ

宇宙船は内部も結構広くて充実していた。

「起動方法は…あっ、ここに書いてある!操縦の仕方も載ってる」

よかった、早速起動してちょうだい!

カタカタとボタンを押すリヴァ。

「……うん、起動できた。後はこのボタンでいつでも発射できるよ」

やった!!すごいわリヴァ。早速発射しましょう

「じゃあ席に座って。…いくよ!!」

そう言って発射ボタンを押したリヴァ。
船体がグラグラ揺れて、ふわぁっと浮き出す。

「おぉお…すごい、初めて乗るけどこんな感じなんだ…うわっ」

…そして、物凄い勢いで飛び立った。すごいびっくりした…

窓からみるともうあんなに城が小さくなっていた。そして、宇宙に飛び出して星が見渡せるくらいになる。…ああ、この星ってこんなに紫色だったんだ。…綺麗…

🔁

「きゃぁああああっ!!」

飛び立つと同時にマギシーがびっくりして悲鳴を上げた。
その後何もなかったかのように窓を見ていたが切り替えの早さがすごいな…

…まずは、星を脱出することに成功した。後は…追っ手がいかに来ないように逃げるかだ。
とりあえずこの宇宙船の設計書をみると発信機が設置してあることに気づいた。
これがあればどこにいてもこの宇宙船の場所がバレてしまう。

なのでオフにする…事はどうやら出来ないみたいだ。壊すにしても他の機械も破壊して最悪、この宇宙船が停止してしまうかもしれない。何かいい案はないかな…

「…ふっふっふ。こういう時こそ魔法の力よ」

マギシーが何か自信満々に出てきた。

「発信機を壊さずに、発信を妨害してしまえばいいのよ」

そう言うとマギシーは闇魔法を使った。

「シャドーマター!!…影により生み出された粒子に包まれた部分は異空間になっていて外部とは一切遮断されるの。だいぶ踏み入った魔法だけど知ってた?」

いや、知らなかった。さすが魔法を勉強しているだけのことはあるな

「と言っても、放っておいたら1日たらずで消えちゃうんだけどね…定期的にかけ直さないといけないから気が休まらないわ」

じゃあ僕もその魔法を覚えて交代交代でかけることにしよう

「あら、いいの?…と言ってもこの魔法が覚えられるかしらね〜」

むっ、バカにするな。僕は魔王だ。上位の闇魔法なんて半日で覚えられる。

「ふふふ…いいわ、教えてあげる。来なさい。」

その日は初めて宇宙に出たというのに、シャドーマターを覚えるのに終わった。

_半日後

シャドーマター。
詠唱とともに出る影の物質。既に影に包まれている発信機をさらに上から覆い隠してみせた。

「おーすごい…やっぱりリヴァも天才ね…上級魔族でも会得は至難の技って触れ込みだったのに」

魔王がこれくらいできなきゃ肩書き負けだろう。…さて、問題も解決したところで。この宇宙船の進路はどうしようかな…

「うーん…私他の惑星は詳しくないのよね…」

僕もだ。…なるべく、魔族が住みやすい紫色な星がいいな…。

…しかし、その思いも虚しく僕達は青と緑の光溢れる星に墜落することとなる。


急に機体がガクンと揺れた。
ドテン、とマギシーが転ぶ。

「…きゃっ!!いててて…今度は、なんなの?」

急に宇宙船が停止してしまったようだ。
…。燃料切れだ。

「うそっ!?こんなに早く燃料切れ!?」

迂闊だったな…まさか燃料が半分もなかったとは。
もしや魔王軍の警備が手薄だったのはこれが狙いだったのか?

とにかく、もう全く動力を持たなくなってしまったこの船。うぅむ、どうするか…

そうだ、錬金で燃料を生み出せたりとかはしないのか?

「ごめんなさい。燃料が何かがわからないと…何を生み出せばいいかわからないの…」

燃料タンクの中を確認したが何も残っていなかった。…設計書や資料を見通したが、燃料の事だけ載っていない。これでは燃料がなんなのかわからない。
まさか…本当に罠だったのか?

「…あっ、待って…!向こうに惑星を発見したわ!!…もうそこに着陸するしかないわね」

…そこに行くまでの動力は?

「私達が得意なのは何?…聞くまでもないでしょ?」

…あぁ、わかったよ。

僕とマギシーは惑星がある方向と反対側の窓を開ける。
もちろん空気が一気に放出して宇宙空間に放り出されるので、魔法で空気の膜を作ってからだ。

そして、窓の外に目掛けてビームを放った。ロケットが噴射して進むように、反動で機体を動かしたんだ。

…惑星が近づいてきた。明るくて青と緑…いや、他にもいろんな色がある大きい星だ。

僕らの求めた惑星と違うのは惜しいが、今は文句を言ってる場合じゃ無いだろう。

「…燃料がないからそのまま墜落する。衝撃で機体がバラバラになって私達も大怪我じゃ済まないかもしれないわね。」

慌ててないってことは、何か策があるんだろう?

「えぇ、私達は助かる方法を知っているわ…」

シャドーマター。この影に包まれているものは外部と一切遮断される。…墜落の衝撃も遮断してくれるんだろ?

「せいかーい。シャドーマター!!」

僕たち二人は影の中に身を潜めた。燃料切れによってほとんどの機能は停止したが墜落までの時間は測ることができた。
最低でも5分以上は影で過ごすこととなるだろう。


……ガシャァアアアアアン!!

宇宙船はとても幸いなことに誰も住んでいない地に不時着した。

しばらくして、…そろそろ大丈夫かな?と恐る恐る影から顔を出す。
墜落寸前に顔を出そうものならとんでも無いことになるからな。

…うわぁ、酷い有様…というか煙が酷い、少し遠ざかろう。
僕はまだ陰に隠れているマギシーにもう大丈夫であることを伝えて一緒に外に出た。

「ははは…派手にやったわね…」

あの宇宙船はもはや使い物にならないだろう…
…それにしても。

「うぅ〜ん…眩しい…わね…」

この星は随分と眩しい。僕たち、魔族にとってはあまり、いいとは言えない。

「そうだ、あなたの先代の魔王がやったみたいに…この星を魔物が住みやすいように真っ暗にできたりしない?」

…一応できるが、その前に色々と確認したいな。

「確認?」

まずこの星に、魔族以外の住民はいるのかだ。…マギシー、魔法でわかる?

「…一応、探知魔法が使えるけど探知魔法にも限界があるから…。うーん、なんとも言えないけど知能のある種族の反応はあるわ。ここから、ものすごく遠いけど。」

やはりいるのか。…ここからは遠いんだな?

「えぇ…少なくとも半径200キロメートル圏内にはいないわね」

それはよかった。じゃあ今日からここは…僕達の土地だ。

そう言って僕は空に向けて魔法を放つ。太陽の光が差し込む青空は暗く紫色に染まりここら辺一帯はすっかり薄暗くなった。
これで過ごしやすくなった。

…だが、マギシーが奇怪そうな表情を浮かべている。一体どうしたんだ?

「…なんでここしか闇に染めないの?」

…どう言うことだ?

「貴方ならもっと広範囲を闇に染められる筈よ。それこそ先代のように星一つまるまる。」

……あえてやらなかったんだ。

「どうして?」

この星には先住民が暮らしている。(幸いここは誰もいないが) 彼らに断りもなくそんな事してはだめだろう。
だから最初に確認したのさ、先住民はいないのかってね

「…あなた魔王の息子なのに魔王らしからぬ考えね」

君にそう言ってもらえて光栄だよ。
…たしかに僕は魔王の血を継いでいる。その自負もプライドもある。でも、父達のように自分たちの事しか考えないような愚かな魔族にはなりたくないんだ。

「愚かな魔族…」

かつて、先代の魔王は魔族以外の種を滅ぼす事で魔族にとって住みやすい星を作り上げた。でもそれは結局魔族の身勝手でしかなかった。
僕は父の身勝手さを小さい頃からずっと見て来た。その為か自分達だけの為に他の種を滅ぼすなんて、とても愚かな事だと思うようになった。

だから僕は敢えて、他種族とも共存する生き方を選ぶ。
それが僕の考えだよ。

「貴方にも、貴方なりの考え方があったのね…。」

うん。…さて、共存の道を歩むにはお互いのことを知らなきゃいけないね。その為に先住民を探しに行きたいんだけど…付き合ってくれるか?

「えぇ、もちろん付き合うわよ。あなたの考え、最初の私の魔族としての常識とはかけ離れてたけど…でも、とても素敵。魔族と他種族の共存…叶うといいわね。」

……ありがとう、マギシー。

こうして僕達は不時着した惑星で先住民を探す旅に出た。目的は一つ、共存の道を歩めるか見定める事。

今、僕たちは新たな地で新たな出会いを求め進んでいく。

🔁

…無事、惑星に降り立ったみたい。宇宙船は当然無事では済まなかったみたいだけどね。

この世界はあまりにも眩しいから、リヴァの魔王の力によって闇に染めてもらった。

闇はすぐに広がり空を包む。大地が薄紫に染まって魔族にとって住みやすく変化していく。

でもふと、疑問に思ってリヴァに聞く。…貴方ならもっと広範囲…この星全体を闇で支配することも可能じゃないかしら?



リヴァの考えは私達魔族にとっては斬新だった。

魔族以外の種族と共存を望んでいた。それはかつて魔族以外を滅ぼした、彼の父を含む祖先達への反発から来るようなものだったがそれだけじゃない、彼自身の慈悲から来るものでもあったの。

…そんなリヴァの誘いにより、この星の住民を探す旅に出た。

正直、違う種族と会うのは不安だけどワクワクしている自分がいるのも事実だった。


それからはあっという間に日々が過ぎていく。

とりあえず島…いえ、広さで言えば大陸だったわ。とにかく大陸を隈なく探した。一応探知魔法でいないんだろうなってのはわかってたけど今いる場所を把握する為にも探索をしたわ。

この大陸には知的生命体は誰も踏み入れたことがないみたい。いたのは知能の低いムチンとかぐらいだった。(…これも多分、あたりを闇に染めたから湧き始めたのかもしれないけどね)

それで、一周して戻ってきて…。不時着地点の近くに、私達の拠点を作る事にしたの。長旅で帰ってきたら休めるようにね。
拠点が完成した後、他の大陸を探すことになったわ。

海を横断する為に空を飛ぶ魔法を使ったり、海を凍らせたりした。そしてその途中で私達は運命的な出会いをしたわ。

「…!島を見つけたね。」

ええ。ちょっと待ってね、何かいないか探知してみるわ。……

「………どうしたんだ?いつもならすぐわかるだろ?」

…なんかおかしいの。生物の反応はない。でも何かがいる。…知的な何かが。

「…死んだ者が霊体になって存在してるんじゃないか?」

…わからないわ。とにかく行きましょう

私たちは島に降り立った。そこは、血や家の破片が飛び散る酷い有様の村。私とリヴァが出会った廃村より酷かったわ。

「…散乱している家の木片や血痕がまだ新しい。つい最近、ここで何か悲惨な事が起きたんだ。」

そうみたいね…。それにしてもこの有様じゃなにも…

「…タクナイ」

声がした。

「…何かがいるな」

「タスケテ…キエタクナイ…キエタクナイヨ…」

なんの声だろう…声のする方を探す。…するとそこには少年の死体が。そしてその周りを黒い邪気のようなものが漂っていた。

「…殺されたこの村の住民かな」

その少年の死体は一際強い邪気を放っている。…余程犯人が憎いのか、他の殺された人の邪気を吸い寄せているのね

「だけど…もうすぐにでも消えそうだね」

えぇ。…どこか気の毒に感じた私はなんとかできないか、本を取り出す。…そういえばここら辺に…あった。消えゆく魂や怨念などの強い意志に何かキッカケが加わると、魔物として新しく生まれ変わる。

…キッカケというのは魂が現世にとどまるように入り込むことのできる肉体だったり、高度に練られた魔力の塊であったりとかの事を指すらしい。……そうだ!私らひらめく。

シャドーマター。私はそう唱えてその名前の魔法を、少年の死体にかける。

すると、周囲の邪気を取り込み、混じり合い、大きく変化した。

「マギシー、何をしたんだ?」

シャドーマターをかけて魔物になるきっかけを与えてあげたの。なんかあのまま消えて行っちゃうのも可哀想だから。

「はっ!!…ぼくはっ?一体どうなっているんだ…!」

しばらくして、そこに現れたのは、影の力を宿した魔物だった。

ふわふわ浮いていて身体からは鱗粉のように黒い粒子が散り散りになっている。

「…!…お前たちが私を…?」

「…あぁ。」

「奴らの仲間なのか…!?」

違うわよ。何があったのかは知らないけど私達は今日初めてこの村に来た。

「嘘だ…嘘だウソダ嘘だウソダ嘘だウソダ。…あいつらが来るまで今までこの村には誰もやってこなかった…。その後立て続けにやってきたお前たちが無関係なはずあるものか…!!」

「…話を聞いてくれそうにないよ?」

あちゃー…。それもそうね、あれだけ強い怨みが素になってできたんだもの…

「おおぉぉおおオオオオおおぉおおォォオオ!!」

「襲いかかってくるぞ…仕方ない、やるか」

待って!!…せっかく助けんだから殺さないであげて!!

「……わかってるよ」

「ハハハハ!!何をやったかはわからないが力がみなぎるぞ!!これで、コレデ貴様らに復讐できる!!」

少年の影でできた身体から化け物のような巨大な手が姿をあらわし、リヴァに襲いかかる。

「…!」

一瞬リヴァは攻撃を受け止めようとしたが寸前でかわす方を選択した。

…避けて正解だったわ。地面があんなに凹むなんて、なんという馬鹿力なの…!

「…どうやら僕たちは結構なモンスターを生み出してしまったみたいだね」

「うぉおおオオおお!!」

そのままリヴァに攻撃を繰り出す少年。

「……ちょっと、大人しくしててもらうよ」

そう言うとリヴァは少年に一撃を加える。

「ギャアアア!!」

「…耐久面は無さそうだな。ただ、僕は身体を殴ってつもりなのにすり抜けて腕に当たった…。」

…彼の身体はシャドーマターでできているんだわ。だから彼の本体は…光魔法しか効かない!

「そうか…じゃあこれだ!!」

リヴァは闇魔法を放った。

「からの…反転ビーム!!」

そして反転ビームで光魔法に反転させた。

「グワァアああ!!身体がァアア!!」

まずい!あれじゃ消滅しちゃうわよ…
くっ…シャドーマター!!

「ぐ…ううぅ…」

なんとかギリギリ、シャドーマターで彼を助けることができたわ。
…もう、殺さないであげてって言ったでしょ!

「…ごめん、加減ができなかった。…それにしても想像以上に光魔法が効いたな…」

「ぐ…くそっ……みんなを殺して…ぼくを…こんな姿にして…何をしようって言うんだ……」

「…だから、言ってるだろ。僕たちは君たちの知ってる奴らとは無関係だって」

「…じゃあ、お前たちは一体何者なんだ…」

「僕はリヴァ。魔族だ。」

リヴァがそういったあとに続いて私も自分の名前と魔族であることを伝えた。

「…魔族…?魔物とは違うのか?」

「魔族と魔物は別物だよ」

「…。何しに、ここへ来たんだ?」

私達は自分たちが異星からやってきた事、この星の住民を探してる途中でこの村を見つけた事、死んでいる彼をシャドーマターで蘇らせた事を話した。

「……宇宙人なんて信じられない話だが、本当なんだな…?」

「あぁ、嘘をつく理由もないしね」

「……。急に襲いかかってごめんなさい」

さっきまでの様子が嘘のように少年はこちらに向かって謝ってきた。

気にしないでいいのよ。…ところであなた名前は?

「……生きているより前の事はほとんど忘れた。名前も思い出せない」

そっか…じゃあ何が起こったのかも忘れちゃったの?

「…いいや、それだけは鮮明に覚えている……!!あいつら、絶対に…ユルサナイ」

「おっと…また暴れ出されたら困るよ」

「…ごめん。だが君達が僕に強い身体をくれたおかげで、あいつらに復讐ができる…本当になんと礼をしたらいいか」

…じゃあ、何が起こったのかを話してくれないかしら?もちろん辛かったら別にいいわ

「……わかった、それぐらいお安い御用だよ」

「…奴らは突然この村にやってきた。さっきも言ったけど訪問者が誰も来たことのない村だったから当然みんな警戒はしていた。」

「何人か人の姿が見えた。何か話してるようだった。すると次の瞬間…この村の住民が一人殺された。素早い動きで首を、一刺し。」

「その後逃げ惑う僕達を順番に殺していった…。友達、家族…どんどん殺されていって最後に僕が一人残る。」

「後ろを振り向けば死体が散乱していた。…連中のうち何人かは、そのすでに死んでいる人の身体を…いたずらに剣で突き刺していた。…あんな…酷いことができるなんて…!!駄目だ、どうしても怒りがこみ上げてくる…!!僕は追ってくる男に飛びかかるが、あっさり負けてしまう…そして殺される前にこう言われた。『ゴミ溜めのクソガキのくせに一丁前に抵抗してんじゃねえ』…これで終わりさ。」

……。リヴァを見てみると少年と同じように怒りに打ち震えていた。

「……君はこれから、そいつらに復讐するといったね?」

「あぁ…何十年かかってでも見つけ出し、僕の手で殺す。絶対に殺してやるって決めた」

「…その復讐劇。僕らにも手伝わせてくれないか?」

…そうくるとは思ってたわよ、リヴァ…。

🔁

……とても胸糞悪い話だ。まるで自分の父のように…他人の命を奪う事をなんとも思っていない下衆がこの星にも、いた。

僕は彼の復讐に力を貸すことに決めた。…マギシーも「そうくるわよね」と言って付き合ってくれた。

「…それじゃあどうやってあいつらを探し出そう…」

それなら簡単だ、マギシーの探知魔法で…

「…悪いけどこの星じゃまだほとんど住民に会ってないから襲撃者の居場所を調べるのは難しいわ」

……。何か手は?

「…この村に、襲撃者が何か残して行ってればそれをもとにいろいろ分かるわよ」

「…わかった、じゃあ探そう」

「えぇ、じゃあ私は向こうを探してみる。リヴァはあっちね。あなた……。そうよ、あなた名前覚えて無いのよね」

「…うん、思い出せない。」

「そうね…呼ぶときに困るから何か名前をつけてあげましょうか」

なにやら彼の名前を決めなくてはならないみたいだ。

「うーん…クロ?」

「なんか犬みたいでヤダ」

「じゃあポチ!」

「より犬に近づいてるじゃん!!」

……もう、シャドーマターから産まれたからシャドー・マターって名前でいいんじゃないか?

「えぇー…そのままなのも…ねぇ?嫌でしょ?」

「…シャドー・マター…。結構かっこいいかも!!」

「…………うん、じゃあそれで決定」

以外と早く名前が決まったな。
……そしてそれから僕、マギシー、シャドーの3人は村中に手がかりがないか探した。
その途中…

「…よいしょっ、よいしょっ」

…ん?シャドー、死体を運んで何をしてるんだ

「……せめて埋めてあげられないかと思って」

なるほど……アース!
僕は地面の土を操り穴を開けた。

そこに土葬してあげるといいよ。…ボロボロなのが気になるなら火葬もしてあげられるよ」

「…ありがとうリヴァさん」

そう言うとシャドーは地面に亡くなった住民を埋めた。

「みんな安らかに眠ってくれよ。…さて、奴らの痕跡を探すぞ!!」

その意気だ。僕も頑張ろう。

…その後、僕らは彼らの武器を発見した。使えなくなっていたのが捨ててあったのだ。

「これを…どうするの?」

「ふふ…探知魔法を使えば道具の持ち主が誰だったのかとかがわかるのよ!」

「えっ、一発でわかるじゃんそれ!」

「ふっふっふ…会得するのが難しい探知魔法だけど便利でしょ?やっぱり魔法は偉大よね!!」

褒められてマギシーのテンションが上がって行っている。…早速だが試してくれ

「わかったわ。…………」

「…この武器を最後に所有してたのはダラーマという男みたい」

「ダラーマ…そいつが奴らの仲間の一人…!」

「他にも色々わかるわ。…ダラーマは大柄の男。種族は人間。…そしてこの武器は…オリハル大陸で作られたもの…!このオリハル大陸というところにいるかもしれないわ…!!」

…オリハル大陸か。シャドーは知ってるか?

「…まったく。この村や島からほとんど出たことないし…」

……マギシー、オリハル大陸の場所とかわかったりは…?

「…今はできないわね…。もっと私に力があればもっと強力な探索魔法を使えたのに…」

「…いや。それでも十分だよ。ありがとう、マギシーさん」

…ああ、その通りだ。…オリハル大陸はこれから地道に探せばいい。でも人一人探すよりはマシだ。なんたって大陸…知ってる人も多いはず。

「…えぇそうね。じゃあこれから私達はこの星の住民を探しながらオリハル大陸も探す…これでいいわね?」

それでいこう。シャドーもそれでいいよね?

「わかったよ。これからよろしくお願いします、リヴァさんマギシーさん!」

「気になってたんだけど、さん付けってなんか距離感じるわ、呼び捨てで構わないわよ」

「…でも、マギシーさんとリヴァさんは命の恩人で…」

僕もさん付けは結構かな。…そう呼ばれるのあんまり慣れてないから。

「……わ、わかったよ。」

こうして新たな仲間、シャドー・マターが加わり、この星の住民を探す旅は続く。…シャドー達を殺した奴らを見つけだす事も忘れずに。

🔁

__あれから、数年が経った。
海を移動して…ついに大陸にたどり着いた。どうやらオリハル大陸じゃないみたいだけど。

そこには人がいた。シャドーは特例だから省けば、初めて遭遇する魔族以外の種族。

……結果から言えば私達は厄介払いされたわ。私たちを見るなり話も聞かずに追い出そうとするの。人間も魔法が使える人や武器を扱える人がいた。…でも人間の力や魔力は魔族ほどじゃ無かったから、力ずくで追い返そうとしてきたんだけどほとんど意味をなさなかったけどね。

最初の人間とのコンタクトは残念な結果に終わった。…とにかくこのままじゃ終われないから私達は魔法で変装をして、オリハル大陸のことやダラーマの事を聞き込みした。
その結果、オリハル大陸の大まかな方角と、ダラーマの属している組織がわかったの!

オリハル大陸を目指して、私達はまた海を渡った。

…………。

「ここが、奴らのアジトなんだね」

…やっとここまで辿り着いたわ。思ったより探すのに手こずって大変だった。

「とっとと突入するよ」

バンっと、リヴァが先陣を切って突入する。

「あ?なんだぁ?ここはガキが来るところじゃあねえぞ」

「殺されてえのか?痛い目会いたくなけりゃ金目の物を置いて帰んな!」

……そうだ、私達変装してるから普通の人間の子供だと思ってるのね

「…奴らで間違いないか?シャドー」

「……!うん。あの顔、絶対に忘れてない…みんなの仇…」

「なんだ人を無視してブツブツ喋りやがって…もう我慢ならねえ、ぶっ殺したやる」

「……」

男たちがリヴァに近づく。

「おらぁあああ ぐぇっ!?」

殴りかかろうとした大男を、一撃で黙らせるリヴァ。

「なっ…あんのクソガキ!やんぞお前ら」

それを皮切りに男たちが一斉にこちらへ襲いかかってきた。

私とシャドーも魔法で応戦する。

「ぐあちちち!!この野郎!!こっちもファイアだ!!」

「サンダー!!ウィンド!!」

男たちもやり返そうとばかりに魔法を放つが

「……リフレクト!!」

私とシャドーによって反射される。

「ぎゃああああ!!」

「…これぐらいで済むと思うな?これはみんなの仇だ!!」

そして極め付けにシャドーは異空間から腕を取り出し、男たちを一掃した。

「ぎゃあああ!!化け物だ!!」

男たちの悲鳴が響き渡った…。


「……とりあえずここにいる奴らはみんなやったな」

これで無事、シャドーの復讐は終わり…この組織も壊滅。そう、思ってたその時…

「油断は良くねえな?」

きゃあっ!!

私は突然後ろから現れた男に、不意に腕をナイフで刺される。

「ッマギシー!!」

「マギシー!!」

私に駆け寄る二人。だが

「それ以上近づくな!!いいか、よく聞け。この小娘を刺したナイフには特殊な毒が塗っててあんだ。そしてその毒を解毒できるのは…この解毒剤しかねえ。」

そう言って男は小さな瓶を取り出す。

うっ…毒…?確かに、気分が悪くなってきたわ…

「ククク…それ以上近づいてみろ、この薬を瓶ごと燃やす。こいつは助からねえ。」

「解毒剤が欲しけりゃ素直に指示に従え。わかったな?」

「…この下衆が!!」

「ククク…大人を甘くみるからこうなるんだよ」

「とりあえずてめえら二人共、動くんじゃねえぞ。動けねえよう頑丈な鎖で縛ってやる…」

「……くっ」

「…約束通り、そいつをマギシーに…」

「約束?なんのことだ?」

「なっ…!貴様!!」

男は目の前で解毒剤を燃やそうとする。

「クククク…他人の絶望する顔はいつみても最高だなぁ?」

「…はぁっ!!」

リヴァが衝撃波を飛ばし、燃やされる前に瓶は割れる。

「……ぶははははは!!何やってんだお前!!こんな溢れたらもう飲めねえじゃねえか!はーっはっはっ、本物のアホだな!!」

「…さん…だ。」

「……あぁ?」

「もう…たくさんだっ!!」

そう言い放つとリヴァは鎖を力ずくで外す。男に向かって攻撃を仕掛ける。

「…ククッ、やっぱり意味なかったみてえだなその鎖」

意外にもリヴァの攻撃をうまく受けている男。

「貴様、最初から外せるのがわかってたのか?」

「ククク、あの戦いを見りゃ大体の強さはわかんだよ。…だが、俺様には勝てないぜ!!」

「ぐっ!!」

苦戦するリヴァ。
一方私は…毒で意識が朦朧としていた。…うぅ…

「…マギシー!」

…シャドー…!あなたも鎖を…

「実体はほぼないようなものだから簡単に抜け出せたよ。さぁ、リヴァが時間を稼いでる間にアレを…!」

そう言ってシャドーは床に溢れている解毒剤を指さす。

…あぁ、なるほどね…理解したわ。

私は錬金の魔法を使い、こぼれた僅かな薬を参考に同じものを作った。

それを、サイコキネシスで操って自分の口に運んだ。

……うん。辛かったのもだいぶ和らいだわ

「よかった…うまくいったみたいで。…ごめん、僕も油断していた。君を守れなかった。」

いいのよ…。さぁ、そんなことよりリヴァは…

「…驚いたよっ、こんなに強いなんてね」

「へっ、こっちの台詞だ。ガキのくせに、俺様といい勝負しやがる」

リヴァはまだ男と戦っていた。一見互角に見えるが少しだけリヴァが劣勢であった。

「おらぁあ!!」

男がリヴァを思い切り殴り飛ばした。

「ぐぅうっ!!」

「……あぁっ?なんだ、変わったぞ、気色わりい…」

衝撃でリヴァの変装が解けてしまった。

「リヴァ!!」

「ほぉ、てめえ…魔族か」

「……」

「魔族の分際で人間に楯突こうだなんてな!!」

男がリヴァに追い討ちをかける__

「……なにっ?」

男の腕は、リヴァの片手によって静止していた。

「ふぅ…。人間に扮してると、どうも力が落ちて仕方ないよ。それにしてもホント、驚いたね。変装してるとはいえ、魔王と互角以上にやりあうなんてさ…」

「なっ…魔王…だと…?」

「…本当に残念だった。人間は、どうしようもない奴ばかりだった。…お前はその中でもとびっきりだ」

「…ま、魔族のくせに…生意気な事を…」

「シャドーの村を襲い…マギシーを傷つけた罰、死をもって償ってもらおう。…はぁああ!!」

リヴァは男を吹き飛ばした。
その時のリヴァは、惑星リヴァルスで兵士達を蹴散らして、私を助けてくれた時と、同じ顔をしていた。

……終わった……。


「…………」


「…人間…」


🔁


すべてが終わった。長い旅だったがついに終止符が打たれた。

シャドーは…うまくやってくれたようだ。
あの男は本当に隙が無く、瓶を取り上げるのは至難の業だった。

…おまけに燃やそうとし出すものだから焦った。とにかく瓶の中身が燃えてしまったら終わる。そう思い、咄嗟に瓶を破壊した。

中身が床に溢れた。この時、シャドーに指示を出した。僕が奴を引きつける間にマギシーに錬金を使わせろと。

…とにかく、マギシーが無事に助かってよかった。腕の傷は…魔法で治せるみたいだ。痕が残らなくて良かった。

……これから僕とマギシーは自分達の拠点に帰ることにした。…シャドーはこれからどうするのか聞いた。

「…僕は、これからも二人にお仕えしたいと思っています…」

「…だそうよ。うふふ…これからも、よろしく」


……それから、しばらく平穏な日々が続いた。

シャドーは年が経つにつれどんどん言葉遣いが硬く厳格が出てきた。喋り方は少年のようなものから魔人に相応しいものに変わっていった。

マギシーは魔法をますます覚えた。この星にいる色んな種族が生み出した魔法にも手をつけていった。

そして僕は…。


各地を旅して気づかされた。人間と…魔族の共存は不可能であることに。

…たとえ人と仲良くなっても、魔族だとバレれば僕たちは酷い扱いを受けた。(必ずやり返したが。)それに人間にはあの男のような奴がたくさんいた。

……おまけに人間は他種族を差別する思想者が多い。…醜い。消してやりたい…そう思った。

だから僕は…この星を闇で覆い尽くす事を決めた。魔王として。…世界に君臨してやろう。

…だが、ただ単純に人を駆逐したりするのでは駄目だ。それでは大嫌いなリヴァルスと同じ、そして我が先祖がやってきた事と同じだ。

…慈悲を、くれてやろう。
愚かな人間共に、慈悲を。

命は奪わないでおいてやる。…だが僕が世界を闇で支配した暁には…

この世界に、魔族以外は誰一人残らないだろう。その時こそ…

種族の差別もなく、優劣もなく。生きとし生ける全ての者が…僕の支配の元、共存するのだ…





これが慈悲の魔王の誕生である。愚かな人間に与えるのは死ではなく、平等な共存。それを実現する為に切磋琢磨する様はまさに慈悲の心に満ち溢れていた。これからいく年もの先、彼を近くでずっと支えたのは一人の魔族の少女と影の魔物であった。
その少女は類稀なる魔法の才能の持ち主で。魔王と同じく優しい考えを持ち合わせていた為、慈しみの魔女と呼ばれ称えられた。

魔族は長命。そして、位が上がるほどに命の灯火は長く燃える。

高位な魔族であった二人が、大人になった頃には百代の月日が流れていた。

そしてようやく。慈悲の魔王と慈しみの魔女は、動き出す__
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このページへのコメント

お姉ちゃんになってあげるに対する怒涛のツッコミで草

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Posted by 名無し 2020年11月20日(金) 22:49:28 返信

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