またーり書き込みしましょ(´・ω・`)

Chapter0.『始まり


現在より何百年も昔の事、魔王リヴァは宇宙からこの星にやってきた。
リヴァは自身の姉、マギシーと旅をし、初めて人間と出会う。
…しかし、人間達は彼ら魔族を恐れて追い出そうとする始末であった。

リヴァ達にはこの星で仲間が一人できていた。盗賊達に殺された少年が
怨念の力によって生まれ変わったシャドー・マターである。
彼をかつて殺した盗賊達や魔族を差別する人間を見て、当初リヴァは人間と共存する道を
望んでいたが、その考えは変わっていく…。(慈悲の魔王と慈しみの魔女より。)

彼は人間を支配しようと決心した。自分が全て愚かな人間を牽制できれば世界は良くなると思ったからである。
話し合い?彼らに魔族の話を聞く耳は持ち合わせていない。彼は痛いほど思い知ったのだ。そうとなれば…征服するしかない。
だが、ただ力で征服するのは…嫌だった。彼の最も嫌うもの、それは実の父であるリヴァルスである。
リヴァルスもかつては自身の星の先住民を殺戮の限りを尽くして征服したという。そんな父と同類になるのは何より嫌だった。

そして彼はある計画を思いついた。人間は…誰も殺さない、命は蔑ろにしない。聞く耳を持たない人間を説得する必要も要らない。そんな計画を。
その計画を、円滑に実行するには──仲間が必要だった。

それから彼は魔王を名乗り、魔物を生み出し魔王軍を築き上げていった。城を建て、仲間が増える度に増築をして。
巨大な組織へと変貌して行ったのである。そして、今魔王軍を支えている八大幹部達…。彼らとの出会いはこれからであった。

Chapter1.『ガダルカリナ


魔王リヴァが魔王軍を創設して数年経ったある日。
とある子供の魔物が最果ての大地に迷い込んだ。

「……ここはどこ?」

この世界には魔界というものがある。
魔物達の世界。死んだ魔物はみんなここへ送られる。
そして、基本的にはこちら側と繋がる事はないが、魔界からは一方的に魔物が流れてくる。
これが、倒しても倒しても魔物がいなくならない仕組みだ。

彼、名を『ガダル・カリナ』。カリナもまた、魔界で生まれた魔物だった。ある日彼はこの世界からの一方通行の扉に入ってしまった。
そして、気がついたら最果ての大地に立っていたのである。
…魔王リヴァが治めている魔王軍の本拠地である。

「お母さんはどこだろう…?」

「おかあさ〜ん!!お兄ちゃーん!!……」

「うぅ…一人で遠くまで散歩したのがいけなかったかな…」

突然の知らぬ地で、途方に暮れるカリナ。そこにある影が近づく。

「おい、そこのオマエ!」

「うわぁっ!?」

「……見ない顔だな、誰だ?」

「ぼ、僕はガダル・カリナ…ねぇ、ここはどこ?」

「ここは魔王様の拠点がある最果ての大地ってとこだ」

「? 魔王?ロイ様の事かな…」

ロイとは、魔界の王の事である。

「ロイ?誰だそいつ?」

「えぇ!?ロイ様の事知らないの?魔界の住民なのに…」

「……魔界?」




「カッカッカッ!そうか、お前ここが魔界だと思ってたんだな!!どーりで話が噛み合わなかったワケだ!」

「まさかここが現世と呼ばれる場所だったなんて…」

「まあ雰囲気じゃわかんないのかもな!なんたってここは魔王様の力によって魔物にとっていい環境だからな。魔界と変わらないのかも知れない」

「ああ…申し遅れたな。俺はバリアッチ!魔王軍所属だ!!」

「そう言えばさっきから魔王って…現世の魔王って一体誰なの?」

「魔王リヴァ様だ!魔族の中のカリスマ的存在なんだぞ!!」

「お前、行く宛がないなら魔王様に会ったらどうだ?」

「……魔王様か」

彼は誘いに乗り、魔王城へと案内された。

「君が…ガダル・カリナ君かな」

「は、はい。」

魔王特有の威圧感に潰されそうになるカリナ。そしてしばらくの沈黙の後、魔王が口を開いた。

「残念なんだけどね…魔界に帰るには、色々と複雑な条件があると聞いているんだ」

「……聞いているんですか?知っているわけではなく?」

彼は不思議に思った。魔界への帰り方。彼のような子供は知らなくても、魔王に上り詰める程の魔族なら知っているのでは…と感じたのだ。

「ああ、実は僕魔界生まれじゃないんだ。だから魔界には一度も行ったこともないし現世からの帰り方もよく知らなかった。」

「ごほん。だから…色々と事情があって、君を元の世界へ送り返すには時間がかかるよ」

「……そうですか」

彼は落胆した。魔王なら、なんとかしてくれる…と少しばかりの期待を込めていたのだ。

「そこでだが…しばらくの間、僕の下で働かないか? 衣食住は揃っている。」

「えっ、リヴァ…様の下で?」

「ああ…。君が帰れる時まで、ここで働く。その対価として可能な限りの願いを叶える…という話だ。」

「働く内容は…君にできる範囲で構わない。戦闘、建設、家事…。とにかく人手が増える分はこっちは困らないからね。可能な限りの願いというのは君が帰るためのサポートはもちろん、ここでの生活と怪我の治療やその他要望などを保証しよう。」

断る理由が無かった。子供で世間知らずのカリナにとっても、これはいい条件だと思った。

「…ここで働きます!!」

「ふふ、そうか。…じゃあ、君の気にいる部屋を一緒に探そう。さあついて来て」


こうして、ガダル・カリナは魔王軍の一員となった。
それから現在。彼はまだ魔王軍にいる。魔界に帰れるチャンスはそれまでに何度かあったが
リヴァに仕えたい思いがどんどんと大きくなった彼は魔界に帰る気が無くなり
正式に魔王軍に所属する事となったからである。

彼は占い術に長けていた。そしてどんな事も50%の確率で答えが出せる占いを出来るようになった彼は
魔王軍への貢献と実績を認められ、大幹部(後の八大幹部)になったのであった。

…それから数年後彼は、自身の迫力の無さに幹部である立場が見合ってないと
急に仮面と背丈を誤魔化す装いをしだすが…それはまた別の話である。

Chapter2.『トリッカルマジーナ


魔王リヴァは、魔物を生み出して魔王軍を強化するだけでなく、各地の魔物の村を巡って説得をしていた。
自分はこの世界を支配して、みんな平等に過ごせるようにする事、そしてそれに伴い人間と戦争を起こす気は無く
魔物の犠牲者も誰一人出すつもりはない事を説明した。

もちろんそんな事で信用する者はいない。だから魔王軍は村に食料や素材を提供し、年に一回リヴァが直々に村を訪れて周り信頼を得ていた。

そしてここ、闇の海に浮かぶ島には、横角族(おうかくぞく)が住む村があった…。

「……」

「……」

「何か、言うことは?」

「落とし穴を村一面に仕掛けて、村長並び村民の皆様に多大なるご迷惑をおかけした事を深く謝罪申し上げます」

膝をついて謝っている彼の名前はトリッカル・マジーナ。悪戯がとにかく大好きな横角族の少年だ。

「全く…お前のいたずらはもはやテロ行為みたいなものだぞ」

「だけど、そこまでやるなんてやっぱお前の悪戯はレベルがちげーよな!!」

「だろー!?」

そして嬉しそうに隣で喋っているのは同じ横角族の友人、レンドだった。

「おい、褒めるなレンド。お前も落とし穴に引っかかっただろ?」

「だってダチのした事だし?それに規模がすげえじゃんか村全体って!」

「まったく……とにかく今回は超厳重注意で許してやる。…いたずらするならもっと被害を抑えるように」

「いや村長!!そこはいたずらはもうやめるように言わないと!!」

「こいつが聞くか?ったく…そろそろあの時期だってのに…」

「んあ?あの時期?」

いまいちピンとこないマジーナにレンドが答える

「お前知らないのかよ、例年通りならもう時期、魔王リヴァ様がこの村に訪れんだよ。毎年各地の魔物の村を巡られてるんだ。人間に攻められた村がないか確認するためにな」

「毎年来てんのか?会ったことねえなぁ」

「それはお前が毎年毎年、悪戯をしすぎて牢屋に入れられてるからだろ!!」

「あっ…そっか。へへ」

「とにかく!!魔王様の前では大人しくしてろよ、マジで。」

「へっへっへ〜どうしよっかな〜」

「……村長、やっぱこいつ今年も牢屋に…」

「すんません!!それだけはやめてください!!」


そして数日後、魔王リヴァがやって来た。

「リヴァ様が来られたぞー!!」

「リヴァ様、ようこそお越しくださいました。」

「やあ、一年ぶりだね。何事も無く過ごせたかい?」

「ええ、ええ。人間に襲われることもなく無事一年過ごせました。…まあこの闇の海に人間が立ち入ることなんて滅多にない事ですが。」

「ふふふ、それもそうだな。…村を見た感じ、作物もしっかり採れてるようだな」

「ええ。リヴァ様が手を回してくださったおかげでございます」

「よっ!魔王さん!」

突如元気な声が、静かな村にこだました。

「誰だい、君は?初めて見る顔だね。」

「あ……あ……」

「俺はこの村に住むトリッカル・マジーナ!!一回会話してみたかったんだアンタと!」

「アホンダラーッ!!魔王様に対してな、な、なんという無礼なッ!」

「ああ、いいんだよ別に。彼も悪気があるわけじゃないだろう?」

「で、ですがね…」

「魔王がいいって言ってんだからいいじゃんか!…はい!」

リヴァに向かって手を差し出すマジーナ。

「…どうしたんだい?」

「どうしたって、握手だよ握手!!魔王なのにこれぐらいわかんないのか?」

「おい!いい加減に…」

「そうだね。よろし…

くぁああああ!!」

「ギャハハッ!!引っかかったー!!ビリビリッと来たろ?」

「は……ははは…油断してたね」

「マジーナ!!お前やっていい事と悪いことがあるぞこの馬鹿野郎!!」

流石の所業にキレだした大人の魔族がマジーナに殴りかかる。

「いってー!殴る事ないじゃんかよー!!」

「俺たちにやるのと魔王様にやるのは別だ!!機嫌を損ねたら最悪この村が滅ぼされるかもしれないんだぞ!!」

「フハハハ!!君、面白い奴だね。魔王に向かってこんな事するのは君ぐらいだよ?」

高らかに笑い出すリヴァ。ざわざわと騒ぎ立てる大人達を一切目にも止めずその瞳はマジーナをとらえていた。

「…おお、このイタズラの面白さがわかるなんてあんたわかってるなー!さっすが魔王だぜ!!」

「頼むからお前は態度を慎め」

「……マジーナ君、だっけ?君…忠誠心は全くなさそうだけど面白いね。気に入ったよ。僕の下に来ないか?」

「…え?」

「君さえよければだけどね」

「えええええええ!?」

「すげーなマジーナの奴〜!魔王様に悪戯が認められたぞ!」

思いもよらぬ勧誘に、誘われた本人よりも村人達が驚愕する。

「嘘だろ…あの村一番の問題児がか?」
「やめといたほうが…魔王城がイタズラのトラップだらけになっちまうよ」
「魔王様は熱でもあるのか?」
「何か悪いものでも…」

「うるさい、貴様らは黙っていろ」

「すっ、すみませんでした!!」

リヴァがうるさいガヤを一喝した。

「で、どうだい?魔王軍に入る気は?」

「魔王軍に入れてもらえるなんで滅多にないチャンスだぞ!!入れてもらえよ!!」

友達が後押しをする。

「うーん…。イタズラはできるのか?」

「ああ。僕の部下が毎日相手してくれるさ(多分)」

「イシシッ!!なら入るぜー!!」

「…まさかお前が魔王様に選ばれるとはな。別れるのは寂しいが、親友として嬉しいぜ」

「え?何言ってんだよ」

「魔王軍になったら魔王城で暮らすんだ。だから俺たちはサヨナラだ」

「ええ、マジかよ!!…やっぱりダチと離れると寂しいからやめようかなあ」

「それじゃあ君も来るといい。…他にもマジーナの要望なら最大限叶えてやろう」

「え、マ、マジっすか!?」

「おー、やったなあ!!サンキュー、魔王!!」

「お前はとりあえず、魔王様に対する態度をなんとかしろ!!」

こうして、トリッカル・マジーナと、その親友レンドは魔王軍に加入する事となった。
その日から魔王軍にイタズラが絶えることはほぼ無かった。そのイタズラはマギシーの反感を買い
ボコボコにされて反省文を書かされるマジーナの姿が度々目撃されたという…。
そして数年後、彼のユーモアな性格と(イタズラする為に鍛えた)様々な魔法を買われ、彼は八大幹部に昇格する事になる。

Chapter3.『キュランケンウルフ


魔物間差別撲滅計画。…数十年前より魔王リヴァが実施している計画だ。
『全てが不自由なく平等に暮らせる世界』
それを作るのがリヴァの夢だ。その為に、魔物と分かり合えない人間を消す為に
今まで彼は魔王軍を成長させて来た。しかし当然やっていたのはそれだけでは無かった。

人間が魔物を差別する。魔物で無くとも、他種族だったり、性別だったりで差別が起こる。それと同じように、魔物間でも
差別というものはたくさんあった。それどころか人間よりも多いぐらいにだ。
魔物や魔族はいろんな生まれ方があるし、様々な種族との交配も可能。
だから特異性を持って生まれてくる魔族もたくさんいる。
結果、周りとは違うその魔物は非難され、孤立して、最悪殺される。

そんな魔物の世界での問題を無くすために作られたのが、この計画である。
前回も述べたが、リヴァはこの世界の魔族の村に時折訪れる。
その時に魔物達に変な差別や偏見で判断したり、排除したりするのは
良くないという事を子供達にしっかりと教えるよう伝えて回った。
初めはおかしな事を言う魔王だと思う魔族もたくさんいたが
リヴァの手回しによって村が潤沢になって行き、優しい心を持つ者が増え始め
魔物の社会は変わっていったのだった…。


そして、それによって。魔王リヴァに一層深い忠誠心を持つものも現れ出した。
ある魔族の村では、老人の魔族が孫に魔王軍に入らないかと、話をしていた。

「……わしらの時代は、我々のようなキメラは外を出歩く事もできんかった。フンガー…。」

「フンガ〜!あの魔王リヴァ様ってすごい人なんザンスね〜」

そして孫である彼の名はキュラン・ケン・ウルフ。
フランケンシュタインと、狼男と、ドラキュラのキメラである。
遥か昔に彼らの先祖はそれぞれの種族のハーフ同士で子を成した。
勿論多種族との交配は珍しくないが…3つの種族の血を持つ魔族は
珍しかった為、避けられ続けて来たのであった。

「お前を今まで鍛えてやって来たのは、恩人であるリヴァ様の力になって欲しいからでガンス…」

「なるほどでガンス。今の話を聞いて、ミーも少し魔王尊敬したザンス!フンガー!」

「ククク…さて、そろそろ魔王様が村に来られる時期ザンス。魔王様は魔王軍のメンバーを集めておられる。
きっと今のお前が志願すれば…入れてもらえるでガンス…」

「おおおおー!!……でも、そうなったらしばらくお別れでガンス、おじいさま。」

「なぁに…何も寂しくなんてないザンス…あのお方の軍だ…きっと、賑やかでガンスよ…」

「お前は今まで何も聞かずワシの修行について来てくれたガンス…必ず魔王軍でもやっていける、自信を持ちなさい。」

語尾が無くなる。彼らはとても真剣に考えた事を口に出す時は、特徴的な語尾が消えるのだ。

「おじいさま…!!今までありがとうでガンス…」

……数日後、魔王リヴァがやって来た。
彼は魔王軍に志望の旨を伝える。彼の真剣さもあいまって
無事に所属が決まった…。

「ここが…魔王城…」

魔王軍には様々な魔族がいた。中には彼と同じようなキメラも。
みんな楽しそうに談笑していた。彼の祖父の時代では全く見られなかった光景である。

「…魔王軍…。楽しくやっていけそうガンス、おじいさま…」

彼はキメラ。リヴァのお陰で嫌な差別も受けない平和な時代で暮らして来れた。
偉大なる魔王様の下で…彼もそんな偉業をなし得たい。
そう思って今も鍛錬をしている…。

Chapter4.『ゴルドボーネット


ワタクシは骸骨。アンデッドよ。

ただ周りと違うとしたら…金ピカで、美しくて、強い事かしらね。

スケルトンの突然変異で身体が黄金で出来てるの。だから攻撃も鎧なんか着なくたって
まったく通さないし、魔力も高いのよ、オホホホホ。

ワタクシはすぐにアンデッド達の頂点に立った。
それから、部下に金銀財宝を集めさせて、宝石に埋もれて暮らしたわ。
ワタクシは光り輝く宝石と金が大好き。とても幸せな時間を過ごした。

でもある日、魔王リヴァ…というのがやって来たわ。
生活の苦しい村から財宝を奪うワタクシに注意喚起しに来たんですってよ。
オホホホホ!ワタクシの恐ろしさを知らないバカがまだ居たなんてね。
たっぷりお仕置きしてあげるわ…!


やられた。完膚なきまでにやられた。ムキーっ!!なによあの強さ!!
魔王だとか言ってたけど、ワタクシが昔潰してやった魔王より遥かに強かったわ!!
いや、それもそうなんだけど私の身体に…!この金ピカに輝く美しき身体に…
あろうことかヒビを…!!そのせいで取り乱して負けたのよ。ワタクシの実力はこんな物じゃ…!

……。え?治ってる。ヒビが、綺麗に。…どうしてかしら?

…あくまでワタクシを倒す気はないと?ふうん、舐められたものね…。
別に、魂を浄化して消してくれたってかまやしないわよ。だって、どっちにしろ
負けたワタクシはこの財宝ちゃんをみんな失うんだからっ…!!

…え?あんたのところに?何の冗談よ。…宝物庫?……。少しだけなら見に行ってあげてもいいわよ。

ワタクシはうまく彼の口車に乗せられ、魔王城に連れて行かれた。そこにあった宝石庫は…まさに宝の山!!
今まで幾多もの財宝を奪ってきたワタクシより豪華な宝物庫なんて…!燃やしてやる…
え?魔王軍に入って、もう悪いことやめたら?ワタクシが?ここに住んでいいですって?
うううう……わかったわよ!!誰かの下につくなんて癪だけど…ワタクシに勝ったあんたが
そんなに誘うってんなら、特別に入ってあ・げ・る。

…魔王軍に所属して数年、ワタクシは宝物庫で宝石ちゃんと共に過ごしていただけで
幹部になったわ。案外チョロいわね。なんかヤケにこの魔王軍、彼を信仰する魔族が多いけど…
ワタクシはワタクシ。自分さえ良ければ後はどうだっていいわ。まあ、とりあえず
宝物を自由に触らせてくれるこの組織、ワタクシも潰れたら困るわ。
いざという時は力を貸してやっても構わないわよ…。

「……ふむ。これは…当たってるのかは不明だが、明らかな敵意はなさそうみたいだ」

暗い部屋で水晶に写し出されるゴルドを見るのは、ガタル・カリナ。
彼はゴルドの事を少し不審に思い、占いで彼女…いや、彼の心を読んだのであった。50%で外れるらしいが。

「しかし…まさか女ではなく…オカマというやつだったとはな…。いやあの見た目じゃわからないだろ…」

ちなみに占いで個人の情報を得るには顔、名前、性別の情報が必要であった。
それで彼女は彼だということがわかったのである。

「…どうやら仲間になった経緯は当たってるみたいだな。信憑性は高いか。」

「まあ、真偽はどうであれ。もし彼が裏切る真似をしたら必ず私が…魔王様を守らねば…」

生い立ちより、頂点に立っていたゴルド。そんなゴルドは魔王軍の幹部達でも少し
とっつきにくい存在だった。もし彼が裏切るようなことがあれば…。
必ず自分が、彼を止めなくては…。そう心に誓ったカリナなのであった。

Chapter5.『紫久佐 悟郎丸


旧体…【きゅうてい】と読む。鎖国国家として有名で
独自の文化で繁栄している国であった。そんな国でかつて
人間に扮して暮らしていた侍がいた…。

「……むぅ、ここにも外の国の文化が及ぼしてるでござる」

近年、旧体は開国をした。その影響で貿易が盛んになり、様々な文化を
積極的に取り得ようとする取り組みが増えたのである。

今まで全く触れることのなかった外国の文化に興味津々な人もいたが…
困惑する人も多かった。彼もまたその一人であった。

そんなある日、彼は市で外国のものを売る商人に出会った。

「…この箱はなんでござるか?」

「それはかめらという物でありやす。しゃしんという、見たものをそのまま写せるからくりでありやす」

「見たものを映す…?魔道具の類でござるか?」

「いえいえ!魔道具ではなく、外の国の不思議なカラクリでして!ほら、ここを押せば…」

パシャ!!と、カメラが強い光を発して写真を撮る。

「くっ!光魔法か!?」

「ひひひ…驚きなさんな…ここからです…」

「ほら、しゃしんが出てきやした。ご確認を。」

「おぉお…拙者が映ってるでござる。なんとまあ珍妙なカラクリ…本当に魔道具ではないのでござるか?」

「ええ。外の国では当たり前のカラクリでございやすとも。」

「……外の国はすごいのであるな。こんなものを作るとは…」

新しい文化に戸惑いつつも、彼は少し外の国に興味が湧いていた。
この国を飛び出し、旅をするのもいいかもしれない、そう思いかけていた。

「しかし、だからと言ってこれは落ち着かぬ…!」

…和風なものでないと落ち着かない、というのがなければ。

あくる日の事、彼の城の主人は城を洋風文化を取り入れて模様替えをする事にした。
そして、彼の借りている部屋も、模様替えの話が出て悟郎丸は猛反発をしていた。

「拙者は断固拒否でござる!!そのかーぺっとやべっどなどというのに変える気はないでござる!」

「お主も硬いやつじゃな、他国の文化を受け入れい!布団も畳も古くなっておったじゃろ、
ちょうど良いではないか!!」

「拙者は今のままでないと落ち着かないでござる!」

「…ふん!偉そうに、侍のくせにのう!」

「な、なに…?」

「そもそも戦乱でない今の時代にお主のような侍、必要ないのじゃ。わしらのやり方が気に入らんのなら出てゆけ、戯けが!」

「くっ…貴方様には、もうついていけませぬ」

悟郎丸は城の警備の仕事を辞めた。これからは一人さすらう侍として生きていく事になる。

「……この世国も、少しずつ変わって来ている。もう拙者のような侍も必要なく…新しい文化が押し寄せて来る。」

「拙者は…時代に置いていかれるのか」

「…ふむ。それならば……。」


──────


月明かりの下、見晴らしのいい丘の上に正座をしている悟郎丸の姿があった。

「和の誇り 捨てて生きるは 武士の恥
誇りなき者 武士にあらず。 悟郎丸」

短刀を握り、腹にあてがう。

「……さらば。」

そして刀を腹に突き立てたその時だった。

「勿体無いね」

「…!何奴!!」

素早い動きで、日本刀を抜き切りかかる悟郎丸。

「…やっぱり、いい反応速度だね」

「…!拙者の刀を…受け止めているだと?」

「君さ、最期ぐらいは…本当の姿を見せたらどうなんじゃないかな?」

「な、なにを…?」

「君、僕と同じ魔族なんだろう?」

「……。まさか、拙者の…変装を見破るとは。お主何者だ?」

悟郎丸は変装を解く。肌が青く染まりだす。

「…へえ、割とシンプルな変装だったんだね」

「拙者は何者かと聞いているのだ」

「ああ、これは失礼した。僕は魔王。魔王リヴァだ。」

「……魔王?はて…。古き文献で聞いたことがあるような。」

「魔族を束ねる王…そうだね、君たちの国で言えば殿様みたいなものだよ」

「魔物の殿であらせられたか…此度は拙者の無礼な態度、深く謝罪申し上げまする。
そうだ、拙者の切腹で詫びを…」

「そ、そこまでやらなくていい。…それにそんな礼儀に気を使わなくともいいさ」

「して、これから死ぬという拙者に…魔王とあらせるお方がなんの用でござろうか」

「いや?ただ同胞が自害しかけたところをたまたま通りかかったから止めようと思っただけさ。」

「…左様であるか」

「理由はなんなんだい?切腹なんて。何か失敗でもしたのかな?」

「…いえ。実は……、」


「そうか…。変わっていく時代についていけなくなったと」

「和の誇りを失っていく国。とうとう我が主人にまでそれは及んだでござる。」

「このままでは拙者も…。和の誇りを失うなど…武士としてあるまじき事!!」

「和の誇りを失って生きながらえるくらいならば、武士として死にたい。そう思ったのでござる」

「なるほどね…。……でも、やっぱり君は死ぬには勿体無い」

「……勿体無いと?」

「…和の誇り。武士としての心構え、素晴らしいじゃないか。…僕のもとへ、来い!紫久佐悟郎丸。
君の望む武士としての和の誇り。僕が約束しよう」

「……!!」

こうして。紫久佐悟郎丸は魔王軍に入り、外の世界へ飛び出した。
新しい体験に驚き、戸惑うこともあったが。彼は武士としての心を忘れなかった。
魔王城では和室を提供され。周りの環境全てが和で満ち溢れていた。
和の誇りを…。魔王は約束してくれた。それは無事、果たされたのである。

「…拙者の残る余生は、全て武士として。そして、和の誇りをかけ。我が主人に仕えるのみ」

武士として、紫久佐悟郎丸は魔王の立派な家臣となっていった。



「…ところで魔王様」

「なんだい?」

「あの時、何故旧体におられたのですか」

「偶然さ。僕はこの世界の各地を巡って魔王軍のメンバーを集めている」

「偶然…ですか。偶然、拙者が刃を腹に突き立てる瞬間に見つけたと?」

「ああ、君の存在は旧体に来た時から気づいてたよ」

「…その時、君はまだあの殿様の下についていた。僕みたいな怪しい奴なんて、問答無用で斬りかかるだろうと思って、チャンスを窺ってたんだ」

「なんと…。……まあ結局、斬りかかりはしたのですがな」

「はははは!それもそうだ。」

Chapter6.『アスターラネット


宇宙──人類にとって、未知なるもの。
我々が日々暮らしているこの世界も宇宙のほんの一握りにすぎない。
とにかく宇宙は広い。故に、分かっていることも少ないのだ。

そして、謎多き宇宙にはとてつもないロマンがつまっている。
そんなロマンに取り憑かれた人々が、働く施設があった────



「よし!実験は成功ですな!」

初老の男性が歓喜の声を上げる。

「素晴らしい…これで、我々は宇宙にまた一歩近づける!!」

ここ、ステラ宇宙センターでは宇宙に関係する様々な施設があった。
何光年も先の天体を観測できる超巨大望遠鏡、無人探査機開発施設、隕石分析室、エイリアン探索会などなど。

そして…今彼らがいるのは、ロケット開発施設。人を乗せて宇宙へ飛び出せる機体を開発しているのである。
今日は開発チームが大きくロケット完成に近づく実験を成功させ、喜び合っていた…。


「やったぞー!ラネットー!!」

自宅に帰るなり、自分の娘を抱き上げる彼の名はアスター・ユーフォ。
ロケット開発チームのリーダーであり…ステラ宇宙センターの元センター長である、アスター・ステラの夫でもあった。
現在でこそセンター長は変わってしまったがかつては宇宙センターで2番目にえらい人だったのだ。

「ぱぱー、そんなに抱きしめたら苦しいよー!」

「おっとすまんすまん」

喜びのあまり、抱きしめ過ぎてしまい離されてしまうユーフォ。

「やったぞって…ロケットできたの!?」

「いや、まだ流石にそこまでは行ってない。だがな、ロケット完成まで今日でグッと近づいたんだよ」

「そっかあ…ううん、それでもすごいね!!ロケットって作るのすごい大変なんだよね?」

「ああ。いつ完成するかもわからない。だが、いつか完成したら…必ずお前を乗せてやるからな!」

「やったー!楽しみにしてるから頑張って、ぱぱ!!」

彼の娘、アスター・ラネットもまた、両親の影響により宇宙のロマンに心をつかまれていた。
彼女は休日にいつも宇宙センターへ遊びに行き、星を眺めたり宇宙船開発を見学したりして遊んでいた。

そんな娘に彼はいつか『自分の開発したロケットに乗せる』と、約束をしていた…。


悲劇は何の前触れもなく起こった。
ある日、自宅で留守番しているラネットの元に一本の電話が鳴り響く。

「もしもし…。アスターです」

「もしもし、ラネットちゃんだよね…心して、聞いて欲しいんだ…」

「あれ?おじちゃん!どうしたんですか?」

電話してきた相手は、父のチームで働いているおじさんだった。ラネットともよく遊んでくれていて声だけでわかったのだった。

「君のお父さんが…捕まったんだ」

「えっ」

頭が真っ白になるラネット。

「…とにかく君は今すぐ家を出るんだ。」

「えっ!?…ぱ、パパは一体何をやったんですか?」

「…………」

「も、もしもし!!」

「…国家機密の情報が入ったチップを盗んだらしい。国家反逆罪で最悪、親族である君も捕まるかもしれない事態だ」

「そ、そんな……!」

「とにかく、すぐに家を出るんだ!!」

「お、お父さんは…!!」

「……君は、とりあえず自分の身の事だけを考えて欲しい。…これ以上話していると聞かれる恐れがある。切るよ」

電話が切れ、受話器を力なく置くラネット。

「…………どうして」

「なんでそんな事をしたのパパ……!」

──二時間後。

「はぁっ…はぁっ…」

簡単な荷造りをして家を飛び出したラネットは当てもなく街を彷徨っていた。

その途中、警察に追われ逃げ回る羽目になっていた…。

「コラーッ!!待てー!!」

「大人しく捕まれば罪は軽くなるぞ!!」

「はあっ…はあっ…」

逃げ続けるラネット。このまま捕まってしまえばどんな目に遭うのか全く検討がつかない。とにかくわかる事は、警察は普通ではない事。
どんなに逃げても失念に追ってきて、どんどん人数が増えていく警察にラネットは気力負けしそうになっていた。

「な、なんで…。殺人犯でもあんな数に追いかけられる事はないのに」

「…みーつけた!」

「キャアアアアア!!」

とうとう隠れ場所を見つけ捕らえられてしまったラネット。

「早く連れてけ!!」

「おう。おらっ、ジタバタすんなよ!!」

「いやっ!離してっ!!」


「──この国の警察は随分と手荒な真似をするんだね」

「誰だ!?」

突然現れた謎の人影に警官は銃を構える。

「とにかく…その娘を離してもらうよ」

その人物は目にも留まらぬ速さで警官から少女を奪取した。

「き、きさま!!警察に逆らってただです…むと……」

「………ま…」

「魔族だぁあああああ!?」

そう、何を隠そう突如現れた謎の人物…いや、魔族はリヴァだった。

「魔族なら構わん!!撃てーッ!!」

ドンドン!と四方八方から銃撃を受けるリヴァ。

「……流石に引くよ、躊躇無しなんてね」

銃弾が少女に当たらないよう全て結界で防ぐリヴァ。

「こっちにはこの娘もいるってのに…さ!!」

魔法で一気に全ての警官を弾き飛ばした。

「う…す、すごい…!」

「さぁ、背中に捕まってて。逃げるよ」

「え、う、うん。」

そしてそのままリヴァは住宅地にある家の屋根まで登り

「シャドー!!帰還だーっ!!」

「はっ!!」

「えっ!?待っ…

……シャドーマターの影に覆われ、少女と共に姿を消した。

「ああああ!!なんて事だ…!」



「……んぅ」

「……!」

「目が覚めたみたいだね」

そこには背の小さい魔族の男の子がいた。

「あ、あの…ここは…?あなたは…?」

「そんな一気に質問しちゃ困るよ。ここは魔王城。そして僕は!」

「魔王軍の幹部、ガダル・カリナ!!あまりの怖さに怯えないでね!」

「え…。全然怖くないけど」

「がくっ。そ、そんなはっきり面と向かって言う!?」


「……こほん。えーとね…君を助けたのは魔王リヴァ様だ。リヴァ様はこの魔王軍のリーダーでおられる方だよ」

「魔王…。そんな悪い人には見えなかったけど」

「あー、そう?…まあ、魔王を悪いと捉えるのは人間だからね。魔族からしたら魔王は英雄みたいなものさ」

「ふーん…なんで魔王様が私を?」

「うーんとねえ…まあ、色々あってリヴァ様はあの国に来られていたんだよ。それでなんやかんやあって逃げてる君を見つけて連れ出してくれた…ってわけさ」

「な、なんか曖昧な説明」

「あ、あははー。まあまあ、魔王様が君を助けたのは偶然なのさ。さあさあ、それはいいとして」

「君のお父さんの事だが…わからない事だらけなはずだ。知りたいだろう?」

「!、っ知りたい!!」

「うんうん、じゃあ話そっか。……あの後逃げてる君の身元を調査した我々は…君のパパが国家反逆の罪で投獄されているのを確認した」

「投獄…!!」

「その理由は国家機密を盗み出したから…。決して外部には漏らしてはいけない情報が入ったチップを盗んだ事になっているんだ」

「そんな!!パパがどうしてそんな事を!」

「うん、不思議に思うよね。…だけど、この罪……。全くの濡れ衣なんだ」

「えっ」

「調べた結果君のパパは何者かに嵌められてしまったみたいなんだよ。…別の誰かがチップを盗んで彼の服に隠したんだ」

「だ、誰がそんな事を…!!」

「…わからないよ。とにかく君のパパは無実の罪を着せられて投獄されていたんだ」

「そんなぁ……。…………投獄、されていた?」

「いいよ、入ってきて!!」

扉が開き、入って来たのは。


「……ラネット」

彼女の父親だった。後ろからはリヴァが部屋に入って来ている。

「パパッ!!」

父に飛び付き抱きしめるラネット。もう会えないと思っていた父親との再会に彼女は安堵の涙を流す。

「ううっ……私、私!!ずっと心配してて…!!」

「うん…。心配かけてすまなかった。…しかしよく警察から逃げ切れたな。偉かったぞラネット」

「でもどうして、パパもここに?」

「君を助けたあと、牢獄を襲撃して彼を連れ出したんだよ」

「襲撃…」

「いやいや、全く驚かされたよ君たちには。壁が崩れた時はもう、死んだかと思ったものだ」

「……さて、これからについての話をしようか」

リヴァが喋り出す。

「……あ、助けてくれた…リヴァ…さん」

「助けてくださりありがとうございます…魔王、リヴァ様、と言いましたか」

「ああ。畏まらなくとも良い。…さて。君たち親子は今、国家転覆の罪で指名手配中だ」

「え、えええっ…。そんなあ」

「まあ僕達が牢屋を襲撃したのもあって裏で大きな闇の組織と繋がっているとか根も葉もない話が飛び交っているけども」

「君達は…残念だが、もう普通に社会で暮らしていくのは困難になってしまっている。」

「……すまない…ラネット……」

「…そこでだが。君達の偽の戸籍と変装魔法を、こちらから用意させて貰う」

「えっ?」

「…そ、そんな事が可能なのですか」

「ああ。魔王軍の力があれば可能だ」

「新しい環境でならば、君たちは普通に生活できるだろう。そうだな…何か新しい仕事を紹介する事もできるよ」

「な、なぜ…我々親子に、そこまでしてくださるのですか?」

「………………約束があるんだ」

「約束…ですか?」

「ああ。まあそれはいいさ。…それで君達はどうする?」

「…いいよな、ラネット?」

「うん…私、パパと今まで通り暮らせるならそれでいい!」

「魔王様…その話、お願いいたします…!!」

「よし、任せておいてよ」


重い罪を着せられたラネット親子。もう人の世界では暮らせなくなった…ように思えたが
魔王リヴァの計らいによって新しい名前と姿を用意してもらい、田舎町で暮らすようになったのであった──。

「……ラクシー、魔王軍の方々を探すのはよさないか」

新たな名前を与えられ、ラネットはスペイス・ラクシー、ユーフォはスペイス・ギャラックを名乗っていた。

「だってだって!また魔王城に行きたいんだもん」

ラクシー…もとい、ラネットは新しい戸籍ができるまで魔王城で暮らしていて色々な事を知った。
そのうちの一つでリヴァとマギシーがかつて他の惑星からやって来たという事実を聞き、
追い求めていた宇宙人に会えたと喜びリヴァを崇拝しだしたのであった。

……そして今は、彼女達に追っ手が来ないか常に見張りをしてくれている魔王軍の兵士にお願いして
魔王城へもう一度連れてってもらおうと探していた…。

「あっ、見つけたー!!ねー、魔王城に連れてってー?」

「げっ!!なんでここにいる事がわかったんですか!」

「えへへっ。なんか雰囲気でわかるようになっちゃった!」

「ねえ、魔王城につれてってよ〜」

「無理ですよ〜!魔王様の許可がなきゃ…」

「いいよ」

リヴァの声が突然聞こえる。

「えっ」

「僕が許可する。連れて来てあげてよ」

通信機器から、こちらの話を聞いていたようだ。

「…はっ!かしこまりました!!」

「やったー!またリヴァ様に会える!」

「お、おい…俺も、同行させてもらうぞ。まったく…これじゃせっかく作って貰った戸籍も意味がないぞ」

「わかりましたよ…ええと、じゃあ私に捕まっててください」

そう言うと魔王軍の兵はバイクの様な魔道具を起動し、それに乗って…空を飛んだ。

「わあー!凄い、空を飛んでる!!」

「…す、凄い技術だな…」

「このバイクはね、魔道具と科学力の融合です!さあ、飛ばしますからしっかり捕まっててくださいねっ!!」

3人を乗せる魔道具は闇の海へ入っていく…。


──その後。ラネットは魔王軍の兵器研究施設を気に入り実験を手伝ったりした。
彼女は、天才だった。父親顔負けの才能を発揮し、さまざまな新兵器を生み出して行ったのである。

そして父、ユーフォはどうしても残ると言って聞かない娘を魔王軍に任せて、自分は田舎町で働く事にした。
月に何度か娘とも連絡を取り合い、その都度、娘の成長に驚いたという──。


そして数年後。

「あのね…お父さん。私、魔王軍に入りたいんだ…。」

「……なんだ、まだ入ってなかったのか?」

「えっ?」

「ははは…既にもう半分ぐらい魔王軍のような物じゃないか?」

「そ、それもそうだけど!…自分の娘が魔王軍に入るんだよ?……人間、滅ぼすのが目標って。昔聞いたでしょ。……反対とか、しないの?」

「……反対するならとっくにしていた。何より、お前の人生はお前の自由だろう。パパはお前が幸せならそれでいい。それに…」

「見ず知らずの俺たちを助けてくれた彼らが…そんな事、本当にするとは思えないなあ」

「でも…リヴァ様は、本気だったよ」

「はは、そうか。…まあ、誰にだって曲げられない信念はあるさ。…だがな」

「俺は…君以上に彼らを信頼している。なぜならそれは、君がこんなに真っ直ぐに育ってくれたからだ。まともな場所じゃなきゃ…人はこんな風に育たん」

「だから人間を滅ぼすっていうのもきっと別の意味があるさ。魔物なのに、人間よりも慈悲に溢れていて…優しい彼らならってね。そう思うんだよ」

「…そういう事だ。魔王軍に入る君を止めない。……父として応援させてもらうよ」

「ありがとう…お父さん…」

──その後。魔王軍に入ったラネットは、魔王軍に沢山の機械の技術をもたらした。そして、天才的頭脳で彼女は
人間ながらにして幹部に昇格するという快挙を成し遂げた。


そしてその裏に、もうひとりの少女が絡んでいる事を知る者はまだいない──

「…………幹部昇格、おめでとう!ラネット!!」

「ふふふ、貴女もね!」

Chapter7.『ロヴェルレイラハーツィオ


リュバンティア王国。…とても男尊女卑の激しい国である。
女性の人権のないこの国に、夫婦というものなどは存在しなかった。
…ある、一つの貴族を除いては…。


「もう少しですっ、頑張ってください!!」

ある家の一室で子供を産む女性と、母親を応援をする使用人の姿があった。
そして部屋の外では旦那が心配そうに俯いて座っている。

この旦那は妻が心配でずっと部屋の前で祈っていたのだ。
当たり前の事のように思えるかもしれないが、この国では異端だった。

…しばらくすると、元気な赤子の産声が聞こえてきた。

「う、産まれました!!」

「本当かっ!!」

男が勢いよく扉を開け、部屋に入ってくる。喜びの目をしていた男だったが、生まれてきた我が子を目にし急激に落胆する。

「……お、女の子…か。」

「ええ…そうみたいですね…」

前述した通り。この国は男尊女卑が非常に激しい。女性の人権は、無い。
そんな国に女の子が産まれたらどうなるか。言わなくてもわかるだろう。

「…ご、ごめんなさい……男の子じゃなくて…」

旦那に申し訳なさそうに謝る母親。

「な、何を言うんだっ!!これはお前のせいでも無いし、この子のせいでも無いさ!」

もっと言えば、この国のせいだ。…と言いそうになったが男は口を噤む。

「……わ、私…。この子のこれからを思うと…」

母親が子を憐れみ泣き出す。…旦那はかける言葉も無く黙ったままだった……。


それから一晩経った。母親は泣きつかれ眠っている。出産に立ち会った使用人は産まれた赤子の世話をしている。
そして、父親はとある決断をした。

「この子を… 男として育てるですって?」

しばらくして、目を覚ました妻に旦那はそんな提案を言い出す。しかし、使用人に止められる。

「お、お待ち下さい旦那様!性別詐称は大罪です!もし、バレるような事があれば…。」

「皆まで言うな。…わかっている。だが、こうでもしなければこの子はきっと国の奴隷にされてしまうだろう。そんな事は絶対に私は許さない。」

「…あなた…。本気なの?」

「ああ。…君さえ構わなければ」

「……わかったわ。それがあなたの答えなら。」

「お、奥様!!」

「そういう事だから。もしこの事を口外したら、君…わかってるね?」

普段は妻以外の女性にも優しいこの男が、一瞬だけ使用人を脅すような喋り方をする。

「わ、わかりましたっ!!」

脅された使用人は普段とのギャップに震え上がり、外れた声で返事をした。

「……。もし、別の理由でこの事がバレたら君は偽装に関わっていない事にするからそれだけは、安心してくれ」

「は、はあ…」

「それであなた…この子の名前、どうするつもり?」

「そうだな…。男として育てていくんだ。だから生まれる前につけるつもりだったあの名前をつけよう。」

「──ハーツィオ。それがこの子の名前だ」


数日後、貴族である男は"跡取り"が生まれたと報告をした。
そしてもう、後には引けなくなった…。

それから、その子供はすくすくと育っていった。
最初は隠し通すのが大変だった。とにかく女の子である事がバレないよう、他の使用人には
あまり世話をさせないようにした。またもしもの時、出産時に立ち会った使用人が
偽造を黙認していた事が発覚しないように、彼女にも手伝いはさせなかった。

少し成長して言葉を喋るようになった時、この国の事と男として振る舞うように教えた。
難しい話にハーツィオは首を傾げたが元気よく返事をして、両親の言うことを聞いた。

そして、彼女は学校に通う事となった。

「……いいかしら、ハーツィオ。学校には貴方と同じ年の男の子がたくさんいるの。より一層男らしくつとめないと。」

「うん…。」

ハーツィオは引っ込み思案な子に育っていた。…彼女は今まで趣味も、格好も、口調も男の子らしさを強いられてきた。
最初はそれが当然だったから何も苦は無かった。しかし成長するにつれて体を動かしたりするより、
ピアノを弾いていたい。絵を描きたい。料理をしたい。母親のようなフリルの洋服を着たい。そう思うようになって来ていた。

当然だが、男性でも運動が苦手だったり、ピアニストや絵師。それにコックも沢山いるだろう。
しかしなるべくボロを出さない為に、女である事を連想させるような趣味はことごとく禁止され、
逆に男の子らしく外で遊ぶよう強いられてきた。服もこれまで、全て男用を着せられた。

そんな彼女は本当の自分がなんなのかわからなくなってしまい、心を閉ざしてしまった。
皮肉にも、男としての教育が彼女を女々しくしてしまったのだった。(元から女だが)

学校に通うにあたり彼女の大人しい性格と中性的な顔つきからバレないか心配だったが、杞憂だった。
彼女は学校で友達も作り、一緒に遊んだりもしていた。

ある日の夜。

「…?ハーツィオ。どうしたの」

娘の部屋からすすり泣く声が聞こえて来て、扉を開けて声をかける母。

「…ぐすっ。…ぁ。な、なんでもないよ…」

「なんでもなく無いわよ。お母さんに話しなさい?」

「…………うん」

彼女は泣いていた理由を打ち明けた。…周りの女性はみんな奴隷。自分だけが免れている。そして友達にも嘘をついて騙してしまっている。自分は本当は女なのに嘘をついて男として生活をしている事に、罪悪感を感じていた。それに今までの不満も積もり積もって、彼女は女を隠す事に疲れてしまったのである。
そして、それまでずっと我慢していたものが、ついに溢れ出してしまったのだった。

「……そう、なのね。うん……。ごめんね…。ずっと貴女に無理をさせてた…」

「ううん…お母さん達は悪くない…悪いのは僕…」

「そんな事ないわよ。…誰も悪くなんて無いの。」

「そうね…。もし、男として生きていくのがどうしようもなく辛かったら。大きくなったら、この国を出て女として生きなさい…。外の世界は女のあなたを受け入れてくれるはず。」

「そして外の世界に行ったら、男の子として名付けたハーツィオじゃなくて…レイラと名乗りなさい。」

「…レイラ?」

「……あなたが生まれる前。もしも我が子が女の子だったら、と思って考えていた名前よ。」

「そうなんだ…。じゃあ僕のハーツィオって名前は誰がつけたの?」

「お父さんよ。あの人が貴方を男として育てていくって最初に決めたの。…その名前もね、一生懸命考えていたのよ。お父さん」

「…………そっか…」

母親に打ち明けてから彼女は悩む事は少なくなった。大人になったら、母が言ってたようにこの国を出て行こう。外国に行ったら本当の自分らしく生きよう。そう希望が生まれて彼女は、今は彼として生きる事を頑張ろうと誓ったのだった。


そして、彼女が八歳…二年生になった頃。…バレてしまった。女性である事が。
原因はなんてことでも無い、健康診断だった。
健康診断は…とにかく女であることがバレやすい。絶対に避けるべきだと踏んだ。
だから彼女は一年の頃、健康診断の日を休む事にした。その後、休んだ人用の検査もあったがその日も休んだ。
二年生になっても、彼女は健康診断の日に休んだ。
…そして、それを怪しく思った学校は万が一の事を考え、政府に連絡をした。そして彼女の家に押し寄せてきた
兵士達により、判明したのであった。

彼女と両親は、投獄を余儀なくされた。そしてその際に両親はひどく抵抗をしたが、それも虚しくその場で射殺されてしまった。

彼女は兵士と看守に酷い罵詈雑言を吐き捨てられ、牢に入れられた。

牢の中で…彼女は、女である自分と…この国を、酷く憎んだ。

だがもう、後は処刑を待つのみだ。…こうなったら、もう自ら命を絶ってしまおう。
亡き2人に、会いに行こう。そう思い舌を噛もうとした時

突如、何かが破壊される音がした。何事だろうと顔を上げると…。誰かが、いた。

「ハァ…ハァ…。間に合ったか…!!」

その者は酷く急いでこちらへやって来たみたいだ。息切れをしていた。
その直後、彼女は気を失ったのだった。


────目を覚ますと、布団に寝かされていた。ここはどこだ…と身体を起こす。

「シッシッシ!目が覚めたか!!」

少し、ビックリした。顔が青色だったからだ。

「あの…あなたは?」

「オイラはトリッカル・マジーナ!!ここは、魔王城だぜ!!」

それからしばらく、彼女はお調子者の魔物と会話をした。
そして両親の死を思い出した彼女は、塞ぎ込んでしまった…。

「……どうかしら、そっちの調子は?」

「……アイツ、両親の事話した途端、何にも聞いてくれなくなっちまった。お手上げだぜ流石のオイラも」

「…そう。でも予想はできてたわ…。これからあの子をどうにかして立ち直らせてあげられればいいんだけど…」

「うーん。じゃあオイラ…と、カリナで毎日話しかけてみるよ」

その日からずっと魔王城の一室で彼女は俯いて過ごした。食事を用意してもらっても全く手をつけず話も聞かない状態が続いた。
マジーナとカリナが部屋に入っては、魔王城で起きた世間話とか、他の魔王軍の面白い話とかを聞かせたが顔を上げる気は無かった。

…そんなある日、リヴァが彼女に顔を見せた。

「失礼するよ」

「………………」

「本当に塞ぎ込んでいるんだ。碌に、食事も取ってないんだね。君、餓死でもするつもりかい?」

「………………」

「お腹も酷く空いてるだろう、食べたらどうだ。心配しなくとも毒なんて入ってない」

「………………」

「…ロヴェル・ハーツィオ。ロヴェル家の長女として生まれるも男尊女卑の激しい国の為、男性で生きる事を余儀なくされた…」

「……どうしてそれを」

「あ、やっと口を開いてくれたね」

「質問に答えてください……」

「魔王軍にはね、色んな情報が入ってくるんだよ。」

「……そう。」

興味を無くし、再び塞ぎ込む。

「……なんで、あの時助けてくれたんですか。」

「仲間があそこに捕らえられちゃってね。そのついでさ、君を助けたのはね」

「……僕は…もう、死にたいんです。あのまま処刑されてしまえばよかった」

「それは…両親を死なせてしまったから、かい?」

「……!!」

リヴァを睨みつけるハーツィオ。

「周りに今までついてきた嘘が全部ばれ、そのせいで自分の為に両親が死ぬ。…君の気持ちもわかるがそれは
「あなたに、何が分かるんですか!」

ハーツィオの声でリヴァの声はかき消される。

「……ずっと、我慢してきたんだ。女の自分を押し殺して。ずっと、ずっと…。それも全部無駄になった!!……僕を、育ててくれたお父さんもお母さんも殺されて…全て、僕のせいで…。僕が女だから。僕が、僕が僕が…」

「全てを背負おうとするな!!」

肩を掴み怒鳴るリヴァ。

「貴様の経験した悲しみや苦しみは当然貴様にしかわからないだろう!だがこれだけは言える。今回の事は、貴様のせいでは決して無い!!」

「嘘だ!!だってみんな、みんなして、女である僕は生まれて来るのが間違いだったとか、性別詐称をするなんて奴隷として働く他の女に何も思わなかったのかだとか、色々言っていた!!」

「あんな腐った奴らの言う事に耳に傾けるな!いいか、貴様が性別を偽らなくてはならなくなったのも、女性が奴隷として働いているのも、貴様の両親が死んだのも!全ては、あの国の人間共のせいだッ!!」

「……っ!!」

その通りではあった。幼い頃から感じてはいたが何故か認められなかった自分がいた。

「少しは奴らに思うこともあっただろう!?理不尽だとは思わなかったのか!!男が優遇されて女は冷遇を受ける事に!!」

「うぅ…僕は、僕は僕は……」

「貴様の本心を言ったらどうだ!!」

「僕は…あ、あの国が…憎い……!!あんな国…無くなってしまえば悲しむ女性も居なくなるのに!!」

「……よく言った」

「お前のその今の気持ち、決して忘れるな。…そしてこの僕も決して忘れない」

「お前自身の無念も、お前の両親の無念も全て、僕が。いや、この魔王軍が晴らしてやる!」

「……ど、どうするの…」

「僕が世界を変える」

「せ、世界を…?」

「手始めに…全世界から人間を消して、魔物の世界にする。そうすれば全て魔王である僕の下で差別も貧困も無く暮らせる!!」

「そ、そんな…世界戦争を起こす気なんですか…!?」

「そんな野蛮な事はしない。いいか、僕は魔王の一族だ。その一族の力に世界を闇に覆うことが出来る。そして全世界が闇に覆われた時────

「………そんな、事が…」

「…反対するかい?まあ君が反対しても、僕は絶対にこの計画を実行する。今後君のような悲劇を生まない為にも一刻も早くね…」

「……。以上で話は終わりだ。ご飯、冷めているだろうから火魔法で温めておいたぞ。」

「…っ。」

「魔王軍に入りたかったらいつでも僕に声をかけるがいい。じゃあな」

そう言い残してリヴァは部屋を後にした。



「おーい!!朝ご飯を持ってきたぞ。入るぞ〜。…うおっ、こっちを向いてるだとッ!!」

「……そんなに、驚かないでよ」

「うおおっ、昨日出した晩飯、完食してる!!」

「……いただきます」

「うわあっ!!目の前で食べたぁあ!!」

「だからオーバーリアクションだってば!!」

「わ、わりい。しかし、どうしたんだあ?そんな急に…態度が…いくらなんでも変わりすぎなんじゃ」

「……あの。」

ぶつぶつ喋っているマジーナに上から話しかける。

「ん?なんだ。」

「あ、ありがとう。……僕に、毎日話しかけてくれて…励ましてくれてたんだよね。」

「…ああ!気にすんな!!元気になってよかったぜ、ニシシ!!」

「……そういや名前聞いてなかったな。ん、名前を聞くときは自分からだな。オイラは…」

「トリッカル・マジーナって言うんでしょ。ずっと聞かされてたから覚えちゃった」

「お、おお!ちゃんと話も聞いてくれてたのか」

「僕は…………。レイラ。ロヴェル・レイラ・ハーツィオって名前だよ」

彼女は亡き母がかつて教えてくれた名前を名乗る事にした。
ここでなら…本当の自分でいられる気がしたからだ。

ハーツィオ…いや、レイラは魔族達の励ましにより少しずつ、心を開いて行った。
そしてそれから魔物達に魔法と、戦い方を教えてもらおうとした。

リヴァは別に無理して戦わなくてもいいと言ったがそれでも彼女は引かなかった。
強くなりたい…そして、いつかみんなの役に立ちたかったから。

そしてその頃に、彼女は魔王城で頻繁に見かける女の子と出会う。
アスター・ラネット。…自分と同じような境遇で魔王リヴァに助けられたという。
彼女達はすぐに仲良くなった。そしてレイラが魔王軍に正式に所属するようになった直後、
彼女も魔王軍の研究員として加わった。

2人はまるで生まれた時から一緒にいる姉妹かのように仲良くなった。
そんなある日二人は、魔王軍の幹部への昇格を話していた。

「えー、魔王軍の幹部?」

「あはは、人間なのに無理って思った?…でもね、そこまで上り詰めないと僕の気が済まないんだよ」

「……ううん。とっても、いいわねそれ。幹部になる程、実力をつければリヴァ様の役にも立てる…!決めたわレイラ。私達魔王軍の幹部に一緒になろうよ!!」

「うん、約束!」

……それから二人はそれぞれ。自分の得意な事を伸ばして行った。
ラネットは機械いじりをどんどん昇華させ巨大兵器やジェット機を作れるほどに。

レイラは見事な弓術と…心を操る魔法を取得した。そして…身のこなしの良さを買われてスパイとしての潜入調査も任されるようになった。

そして17歳になったある日。レイラとラネットは、晴れて魔王軍八大幹部のメンバーになれたのであった。

八大幹部はその名の通り八人の魔王軍の猛者が集まる幹部だ。…今は一人、欠番だが。
魔王城に在る8つの赤と青の屋根の塔から考えられたという。その塔のうち一つが、幹部達の部屋となったのだった。

「…………幹部昇格、おめでとう!ラネット!!」

「ふふふ、貴女もね!」

彼女達は、互いの成長を喜び合い魔王軍への忠誠心を分かち合った。



〜数ヶ月後〜

「……以上が、僕が人間ながらにして魔王軍にいるワケ。わかってもらえたかな?」

レイラは冷ややかな目で目の前にいるニンゲンに話していた。

「柄の悪い奴によく言われるんだ、人間の癖に魔王軍の幹部だなんて、ズルい事でもしたんだろ、とか。
そんな事は断じてない。僕は…必死だった。ひ弱な自分の力を鍛えてリヴァ様の役に立つってね!!」

「そして…僕と両親をこんな目に合わせた人間を消してやる…。世界は絶対的な魔王、リヴァが支配する魔族によって。差別もなく平等な世界を、築き上げる!!」

「そんな人一倍、強い信念が人間の僕をここまで強くさせたんだ。もうじき…世界は闇に包まれる。ふふっ、邪魔者は許さないよ?特に、人間はね…!」

彼女はそう言って銃口を彼らに向ける──。

Chapter8.『アーサー


ピース王国の十七代目の王子、アーサー十七世。

優しい気品のある振る舞いと剣術の腕は国中に知れ渡っており人気も高い。

そんなアーサーはある日、ピース王国の現国王…そう、自分の父に呼び出された。

「……父上、話とは…」

「うむ、そこに座るがよい、我が息子よ」

アーサーは用意してあったフカフカの椅子に腰を沈める。

「……それで、わざわざ私を呼び出すという事は…魔物関係でしょうか?」

アーサーはこれまでも度々、強い魔物が現れる度に王様に命を受け戦ってきた。今回もその類だと直ぐに分かったのだった。

「さすが我が息子だ、察しが良いな。…実は、この国の近くで未確認の魔王軍の兵士が見つかった」

「…!魔王軍…ですか」

「捕らえて口を割らせたところ、どうやら、これまでの魔王とは比較にならん程強大な魔王が居るみたいでな。それ以上の事はどうしても言わないと言って聞かん。…だからお前にはこの魔王軍の調査を任せたい。

「…ええ、わかりました。この国の王子として、国民の危険になりそうな魔王軍は放ってはおけません。今日中に準備を終え、明日から出発したいと思います」

「…本当にお前は話の早い息子だ」

「悩んでいる暇はありませんからね。国民の為ならばどんな危険な任務も遂行してみせます」

翌日、アーサーは朝一番に城を飛び出していった。
国民の安全を脅かす魔王軍を危険視したアーサーは一刻も早く、情報を得て対策を練ろうとしていた。

ちなみに今回の調査はアーサーの単独行動だった。理由は二つ。

一つ、彼について行ける兵士はこの国にはいない。兵士を何人か連れていけばかえって、彼の足を引っ張ってしまうのだ。

二つ、魔王軍の存在は極秘。特に一般国民には全く知られていない。まだ謎が多い為、誤報の可能性もある。
そんな曖昧な情報で国民の不安を煽るのはよくない為、余計な噂が広がらぬよう
この事を知っている者はなるべく少ない方がいいと判断したのだった。


調査は魔王軍の兵士とでくわした地点から始まる。そこから行商人に目撃証言を聞いたり、
野を越え山を越え…彼は魔物の村を発見した。

「こ、こんなところに魔物の…村があったなんて」

アーサーは物陰に身を潜め村の様子を眺めていた。人間である自分の姿が見られると村中がパニックになると知っていたからだ。

「…このまま村に入るのはやめた方がいいな。話も聞いてもらえるかわからない。一旦帰還して父上に報告をした方がいいな…」

そう言って立ち去ろうとした時、警報が鳴り出す。

「…な、なに!?」

警報がしたのと同時に彼の所に魔物が押し寄せてきた。

「この村に人間が何のようだ!!」

「敵襲!?敵襲かー?」

「いや一人だぞ。追い返せる!」


「くっ…なんだこれは…」

おそらくあの警報は人間に反応して作動する機械だ。
ただの村…それも魔物の村にこんなものがあるとは予想外だった。
普通、魔物の村にそれほど高度な防犯技術はない。

「逃げなければ…!」

アーサーは普通の人間と同じように知能を持ち、生活している彼らを斬り伏せるつもりは毛頭なかった。

「逃がすか!人一匹逃がせば、大勢の人間が押し寄せてくると教えてもらった!!」

しかし、すでに周りを囲まれてしまっていた。アーサーは逃げ道を失う。

「捕らえろー!!」

「っ!?」

アーサーの上に網が被さる。

「上等な糸が使われている…!こんな網を作る技術…一体どこから…!!はぁあ!」

持っていた剣で網を切り裂いたアーサー。

「くっ…!話を聞いてくれないか?」

「なに、話だと…?」

「おい、人間の言う事に耳を聞くな!命乞いして逃した人間の報復を受けた奴を俺は知っている」

「あ、ああ。おい、大人しく捕まれ。そしたら生かして返してやらんこともないぞ」

「それは…できない。さっきそこの奴は『人一匹逃がせば、大勢の人間が押し寄せてくる』と言っていた。捕らえた私を生かして返す気など無いのだろう?」

「ちっ…なら無理矢理にでも捕まえてやる!!」

魔物がアーサーに飛びかかる。

「……すまない!」

「ぐえぇっ!!」

アーサーは目にも留まらぬ速さで峰打ちを放ち、魔物を一体気絶させた。

「うわあっ!?」

「な、なんだコイツ…何をした!?」

「お、おい大丈夫か!!っこの野郎…!!」

「…そいつは気絶してるだけ、峰打ちだ」

「私にお前達と争う意思はない!…話を聞いてくれないか」

「…………どうする?」

「むう…。今の攻撃、見えた奴は手をあげてくれ」

「「「…………」」」

手を挙げる者は誰一人いなかった。

「…なら、こいつは俺らより遥かに強いって事だ。ここは素直に話を聞くしかあるまい…」

「……賢明で助かる。」


アーサーは自分がピース王国の王子で魔王軍の事を調査している事を教えた。
調査している理由は魔王軍の規模や目的を知り、彼らが国民に与える被害の有無やその範囲を把握しておきたい為。
また、魔物と無闇に争ったりする気は無いという旨も伝えた。

「……魔王軍を調査している。それは本当か?」

「ああ。国民が危険に晒されるのは王子として絶対に防がなければならない。だから魔王軍の情報を知りたいんだ」

「魔物であるお前達ならば、何か知っているのではないか?」

「「「…………」」」

押し黙る魔物達。

「……言えない、か。ならもう一つ聞きたいことがある」

「…なんだ」

「この村の技術…。警報機にあの網。とてもじゃないが魔物では作れないものだ。…誰かがお前達にこの技術を提供したんじゃないか?」

「「「…………」」」

先程と同様に口を閉ざす魔物達。

「……答える気はないか。だが、今の二つの質問で分かった事がある」

「な、なにがわかったってんだよ?」

「この技術を提供しているのは…魔王軍だな?」

アーサーの一言に魔物達は目を見開いたり、お互いの顔を見たり、口を開いたり、声を上げて驚くものもいた。

(さ、流石にこの反応を見て図星だと気づかない奴はいないよな)

「なぜわかった、という顔をしているな。いいよ、教えよう」

「…最初に私はお前達に魔王軍について知っている事はないか聞いた。だが、お前達は揃いも揃って押しだまった。普通なら知らないだとかシラを切るだろうがそれもしなかった…。それで私は魔王軍については一切合切の情報を黙秘するよう指示を受けているのではないかと推測した。」

「だから次に私はお前達の技術は誰が提供したのかを聞いた。…すると先程と同じ反応を示した。これもシラを切ればいいものを、ダンマリを決めたのだ」

「…つまり、この事についても黙秘を強いられているという事だ。そしてそれは最初の質問で推測した通り魔王軍と関係があり、最初の質問同様黙秘するよう指示されているからお前達は何も言うことができなかったのだ!!」

「「「ぐぉおおおオオオオぉぉぉ!!!!」」」

見事な推理により隠していた事実を暴かれ、魔物達はまるで急所にダメージを受けたかのように大声をだして倒れた。


「……今から数年前のことだ。俺たち魔族の村は貧困が続いていた。食料もろくになく、飢え死ぬ魔族がどんどん増えて行く…そんな村だった」

「だがある日、救世主が現れたのさ…アンタの言ってる魔王軍がな。魔王軍は農耕のやり方とさまざまな技術を提供してくれた。お陰で今では俺たちは便利に生活させてもらってるってわけさ…。ちなみに、その技術の提供と引き換えに魔王軍の情報は口止めされていた。」

「…それで終わり、か?…魔王軍の目的は一体なんだ。ただ貧困の村を助けて終わる…はずもないだろう」

アーサーは一瞬自分の言葉に迷った。魔族とはいえ貧困の村を助ける理由が損得であると決めつけるのは憚れたからだ。

「いいや…魔王が言うには同じ同胞が苦しんでいるのを放ってはおけないって理由らしいぜ…。俺たちの村以外にも結構回ってるみたいだしな…」

「そうか…魔王が…。……魔王?」

「お前達、魔王軍の魔王と会った事があるのか!?」

「あっ…やべっ…」

「話すんだ、魔王の知っている事を!」

「い、いやだ!それだけはダメだ!!畏れ多い!」

「くっ…どうしても言わないのか!」


「何やら僕の話で騒がしいみたいだね」


「…………!!」

声のする方を見るとひとり、不思議な帽子を被った魔族がいた。
左右の目の色が違い、紫の髪と肌をして服装は派手に着飾っている。

「り……リヴァ様!!」

アーサーの周りにいる魔物達が全員ひれ伏した。

「そんなに畏まるのはやめてくれ、こちらとしても落ち着かない」

「な、なぜここに…?」

「おい、忘れたのか。前回の来訪はちょうど一年前の今頃だぞ…」

「……彼らの反応を見るに、お前が魔王軍の魔王…なのだな」

「ああ、そうだ…。君、人間みたいだけど…この村に、何か用だったのかな?」

「まさかとは思うが…誰か殺したりしてないよね?」

「……!!」

リヴァの殺気が急激に高まる。歴戦の王であるアーサーですらたじろぐ程に殺意の目線が彼に注がれていた。

「…私はこの村の住民を手にかけたりはしていない。ただ、襲われた時に自己防衛の為に峰打ちをしてしまった事は深く、詫びる。」

「…………」

「……彼の言ってる事、本当かい?そこのキミ。」

「…えっ!あっ、ハイ!死人は出ていませんし、峰打ちも全て事実です!!…彼は穏便に話し合いで解決しようとしていました」

「……ふーん。わかった、信じるよ。…それで?何か僕に、用かい」

「…魔王軍の王、リヴァ。丁度いい、直接話をさせてもらいたい。」

魔物達に説明したように、アーサーは自分の事と村にやってきた理由を告げる。

「……だから私は魔王軍の動向を探っていた。国民の危険を取り除く為に」

「なるほど…確かに君の気持ちは上に立つものとしてよくわかる話だったよ」

「だから…私の質問に答えてくれ。魔王軍の目的は一体なんだ?そしてなぜ…魔物の村に奉仕活動をするのだ?」

アーサーはさっき魔物にした質問と同じ質問をリヴァにした。
……これは人間のイメージなのだが、魔王と言うものは古来から私利私欲の為に行動し、利益にならない事はしない。
そう言い伝えられてきた。だからアーサーは魔王には何か裏があるのではと言う考えを捨てきれなかったのだ。


「…………君も、魔族は心がない種族だと思っているのかい」

少し沈黙を挟んでからリヴァは口を開く。

「……何?」

「逆に王子である君に聞こうか。…例えば、貧困で困っている人の村があるとする。…その村は別の領国の村で、別に助けても君の国に利益はほとんどないし、放っておいても問題はない。…そんな村があったら、君は何もせず目を背けるか?」

「…いや、私ならば、苦しんでいる人がいるならば例え他国の領地であろうと手を差し伸べるだろう。…そうだな、領主に掛け合い何かこちらから支援できる事は無いか探ってみる事だろう。…身勝手な領主のせいで苦しんでいるのなら私はその村を買い取ってでも救い出す…と、熱く語ってしまったな…」

「…ちなみに聞くが、どういった理由でその行動を取るわけだ」

「私は王子だ。国民を守り、幸せに導く義務があるが…それ以前に私は人間でもある。同じ、人間が苦しんでいるのを黙って見過ごすのは……」

「……そこまででいい。君が言った理由とね、同じなんだよ。僕が魔物達に手を差し伸べる理由は。」

「魔物だからと言って、何かする事なす事に打算がある訳ではない。魔物だって、感情で動く生き物なのだ」

「…………そうだったのか。…どうやら私は、酷い勘違いをしていたようだな…」

「……それでは…魔王軍の目的は…一体何だ?」

「いいのかい、聞いちゃっても。後悔する事になるよ」

「……構わない。貴殿が偉大な魔王だという事はこれまでの会話で分かった。聞かせてくれ」

「ふっ。偉大な魔王、か…。いいだろう、聞かせてやる。」

「……魔王軍の目的は、世界を闇で覆い尽くし────


話が終わった後のアーサーは絶望の表情をしていた。信じられない話に、震える声を絞り出し話を続ける。

「……そ、その…その話は……ほ、本当…なのか?」

「ああ、僕はつまらない嘘はつかない…」

「……今すぐその計画はやめるんだ。世界全土を混乱に陥れるつもりか…!」

「混乱?そんなのおきやしないさ。 全てが最初からそうだったかのようになる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「な、なんだと…!?」

「今までずっと…ただ魔物の村に奉仕活動を行ってきただけじゃないんだよ。もうすでに…準備は整っているのさ」

「させない…私がそんな事はさせない!」

アーサーは腰に刺していた剣を抜く。

「私と、一対一で決闘をしろ…魔王リヴァ!!私が勝ったらその計画は忘れろ!!」

「……はぁー、やっぱり聞いて後悔したみたいだね。…それで僕が勝ったら?君は何を差し出すんだ」

「……。私自身を差し出す…貴様が勝ったら私は貴様の言うことしか聞けない身体になってやる」

「勇敢な一国の王子の覚悟をここで踏み躙ったら…逆に恥をかくのは、 僕だね。受けて立つよ」

「では……ゆくぞ!!」


二人は魔物達を巻き込まぬよう、場を移しての決闘を行った。

決闘は三日三晩続いた。力が拮抗して決着がなかなかつかなかったのだ。

そして、この後ピース王国にアーサーが帰ってくる事は無かった──。




「………………」

「ねえ、ねえったら。君、僕達と同じ人間なんでしょ?何か言ったらどうなのさ」

「………………」

何も言わずに冷ややかな目でただただ虚空を見つめるのは変わり果てたアーサーだった。

「やめとけってレイラ。こいつ、リヴァ様の言う事しか聞けないよう洗脳させられてんだよ」

「洗脳?物騒だなぁ、魔王軍はいつからそんな物騒な組織に成り下がっちゃったんだ〜?」

「棒読み過ぎるわよ!…リヴァ様のことだから何か理由があることぐらい貴女もわかってるでしょ」

「えへへ。まあね」

「おーい、ユー達!リヴァ様が幹部全員を招集して、会議が始まるザンス。行くでガンス、フンガ〜!」

「あっ呼ばれたね。行こっか。…ねえ、君も幹部でしょ。行かないの?」

「だーからリヴァ様以外の命令は聞かないんだっての。無理矢理連れてこうぜ」

「えー、融通きかないなあ、もう…。後で幹部達の命令も聞けるように頼んでみようかな…」

「………………」

この冷ややかな目をした青年が、優しい王子だった事を知る者はここには居ない──


END
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このページへのコメント

最後まで読みました。キャラクターの奥深い部分がよく伝わってくる内容で素晴らしい作品だと思いました。

1
Posted by デンガー 2021年03月19日(金) 22:27:32 返信

リヴァが人情家な魔王なのに何でアーサーは操り人形みたいな状態になってるのって疑問に
とてもしっくりくる答えがスーッと効いてこれはありがたい……
自分で約束したのなら仕方無いね

1
Posted by 名無し 2021年03月08日(月) 20:32:16 返信

ゴルドが他の幹部に比べると異彩を放っててすこ

1
Posted by 名無し 2021年02月19日(金) 19:37:36 返信

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