またーり書き込みしましょ(´・ω・`)



111話『無事に帰ってきてね』


集会が終わった後、優也たちは朝食を摂ろうと宿への帰路を辿る。
道中まではレオンの家と同じ方角なため、
レオンと同行している最中
彼の幼馴染であるコチカと出会うのであった。

「わーレオン、一緒にいるその人達ってもしかして!」

「察してる通り昨日話した奴らだ。
丁度よかったな、紹介するぜ。こいつはコチカ。
なんつーか、昔からの腐れ縁だ」

「腐れ縁って何、幼馴染って言えばいーじゃん。
あのねっ私、コチカ!レオンとは幼馴染なの、よろしくね!」

「元気な子ね、こちらこそよろしく!」

「よっよっ…よろしくお願いしますっ!」

レオンの幼馴染コチカと優也達は挨拶を交わす。
明るい性格の彼女と優也達はすぐに打ち解けあった。

「へぇ、つい最近ここに来たばかりなんだ。
すごいね、来たばっかであのレオンと友達になっちゃうなんて!」

「だから言ってるだろ、俺の母ちゃんが勝手に言ってるだけなんだって」

「えー、ほんとに?……でもま、リアンナさんなら勘違いって事もあるかぁ」

「でももう友達みたいなもんだよね。夕飯までご馳走してもらったし」

「へぇ〜、じゃあお友達(仮)ってところかなあ」

「あのな……まあいいか。
てか、これから飯食うだろ、そろそろ行かねえと
時間が無くなっちまうぜ。わりいなコチカ、
これから大事な任務だから今日はこれぐらいで…」

「集落にモンスターが攻めて来るんだよね」

唐突に放たれたコチカの言葉にレオンは反応する。

「…なんだ、今日の集会の話知ってたのか?」

「ううん。昨日の騒ぎからなんとなく想像できただけだよ。
ONESのえらい人がバタバタしてたし」

「そうか、オメーにしちゃ頭働かせたな」

「むー!暗に馬鹿って言うな!」

戯れ合う二人を苦笑いで眺める優也達。
その三人に気づくとレオンはハッとしながら話を戻す。

「……ごほん、あー…だからよコチカ。
心配しねえで待ってろ。村を襲う魔物はみんな俺が狩ってくるからよ」

「絶対、無事に帰ってきてね」

「たりめーだろ、俺が死んだら村が滅ぶ」

「相変わらず、大した自信だね。
…約束だよ。レオンのお友達の三人も!!
あのね、無事に戻って来たら、私ともお友達になってください!」

その言葉に優也達は目を合わせて、答える。

「うん、喜んで!」



コチカと別れた後、分かれ道で優也達はレオンと別れる。

「んじゃあまた後でな」

「ええ。……にしてもレオン、あの子といい感じだったわね〜。
好きなんでしょ、あの子?」

楓はニヤつきながらレオンを茶化す。…いつも自分達がやられてるように。

「…ああ、俺はあいつの事が好きだ」

だが、思いもよらぬレオンの素直な言葉に、聞いた楓の方が度肝を抜かれた。

「意外だね、レオンがそんな素直に人のこと好きって言うなんて」

「そうよ、頑なに私たちと友達って事否定してるくせに」

「そりゃそもそもが俺の母ちゃんの勘違いだし、
まだお友達って間柄でもないだろ?」

「そうかな……。じゃああの子が言ってた幼馴染ってのは?
素直になれないから否定したんじゃないの?」

「幼馴染ってワード、あんま好きじゃねえんだよ。
だってよ、幼馴染ってのはどうも世間一般じゃ、互いに勝手に好きになるモンだと
思われてやがるとオレは思うんだ。だけどよ、オレはそんなんじゃねえ。
純粋にアイツが好きなんだ。
きっと、幼馴染とかいう間柄じゃなくてもオレはアイツに惚れてたぜ」

「……まあ確かに。昔からの知り合いの男女って理由だけで
お互いが好き同士って思われるのが嫌な気持ちは、ちょっとわかるわ」

レオンの言うセリフが、まさに優也と楓に刺さる。

「ま、とにかくだ。オレは好きとか嫌いとかの
感情表現はハッキリ言うぜ。……そこから逃げるのは
ダセーと思ってるからな。そう言う意味じゃ、
お前らの事、最初は嫌いだったが今は嫌いじゃねえ。
そう言えるぜ」

そう言うとレオンは自宅の方へ去っていった。

「……素直なのかそうじゃないのか分かりにくいやつね」

「素直に俺達の事も好きーって言えばいいのに」

「そ、それは流石にレオンさん的にも恥ずかしいのではないでしょうか」

それから、優也達も宿に戻った後手短に食事をとり
再びギルドへ向かうのだった。

112話『防衛作戦開始』


「これで全て集まったようだな」

ギルドの前には多数の冒険者達。
マカイゲート討伐の遠征に選ばれた、
ある程度の戦績を残した選りすぐりの戦士達が
そこに集っていた。

先導役のオルスが、前に出てくる。

「じゃあ、先導は集会で話した通り俺が行うぞ。
お前達は基本的に全員俺に付いてくる事だけ考えておけ。
ただどうしても無視できないモンスターがいた場合は
数人、相手する為に残ってもらう場合がある」

「……頼んだぞ、オルス」

「はい、ギルドマスターさんも気をつけてくださいよ?」

「ああ。撃ち漏らした魔物は我らに任せておけ」

こうして、戦いの火蓋が切られたのであった。



「……おおっと、もう既に向こうに見えるな」

集落を出てすぐ、マカイゲートの方角から
魔物の群れが向かってきているのが見えた。

「流石に集落に近い。あの群れは倒しながら
進んで行くぞ!!」

集った冒険者達の強さたるや。
即座に詠唱される魔法に、研ぎ澄まされた剣筋で
モンスターの群れは瞬く間に光へと消えていった。

「すごい、これがヴィルデスの上級冒険者の力か…!」

「なんか私達が選ばれたのがなんかの間違いなんじゃないかしら
ってくらいの強さね…」

「お前ら、何たるんでんだよ」

モンスターを倒したレオンがこちらへ向かってきた。

「レオン?」

「他の奴らに負けてんじゃねえぞ。お前らも一応遠征に選ばれた
戦力の一人なんだ、連携すりゃあれくらいの芸当できるだろうが」

レオンの鼓舞は優也達の心に響く。魔物に立ち向かおうと、
自分らの得物を構えた。

「あ…ありがとうレオン。他の冒険者たちの気迫に圧倒されてたよ」

「へっ、これから散々モンスターと戦うことになるんだ。
お前らがこの体たらくじゃ、守れるもんも守れなくなるからな」

「よーし、俺たちも積極的にモンスターを相手取って行こう!」

「ええ!」「はい!」

そこからは優也たちも戦闘に前のめりになった。
見事な連携に、熟練冒険者たちも一目起き、
彼らを冒険者に向かないと評価したオルスの目にも止まった。

「アイツら、やれるじゃねえか…!
レオンの奴がやたらと推してんのが気になってたが
やっとその理由がわかったぜ…」

こうして、必要な魔物を倒しながらも
優也達は敵の元へ着実に近づいていくのであった。


ところ変わり、ヴィルデスの集落。
強力な魔物はほとんど倒している為、
その撃ち漏らしを相手するだけ。
……かと思われたが。

「……おかしい。なぜこの量のモンスターがここまで来ている。
遠征部隊から撃ち漏らしの報告はほとんどない筈だが…」

集落の正面にどこから現れたのか、大量のモンスターが陣取る。
門の中へ入れないよう、残された冒険者たちが一丸となって食い止めていた。

「そこ、モンスターが通り抜けたぞー!!」

「追えー!!集落に絶対入れるな!!」

「くっ…何が起きている…
オルス!聞こえるか、オルス!!」

通信魔石を手にするギルドマスター。
通信先は、冒険者達を先導しているオルス。

「っ…なんだい、ギルドマスターさん!こっちは今戦闘中だ!!」

「モンスターが集落に現れたのだ。それも、撃ち漏らしの範疇ではない数だ。
そちらで何かあったのか!?」

「なんだって?こっちはほぼほぼ倒しているハズだ」

「……ならいい、わかった。作戦を続行してくれ。
この件はこちらで解決しよう」

通話を切ると、ギルドマスターはモンスターの殲滅に戻った。

「……まったく、我々の思考の範疇に収まらぬ事態が起きてるとでも言うのか…?」

どこからともなく現れたモンスターに困惑の色を隠しきれないギルドマスター。
そんな彼の元にある1人の獣人が向かってきた。

「おやおや、随分と困ってるみたいじゃないか。ギルドマスター」

「……リアンナ、何しにきた…」

レオンの母親リアンナ。先程まで洗濯をしてたのか、
手にはせっけんの泡が残る。

「息子たちを信頼してない訳じゃないけどね。
嫌な予感がして駆けつけたらこの有様さ。
……手ェ貸してやろうかい?」

「確かに今は猫の手も借りたいが…腕は落ちてないだろうな。死なれても困る」

「さあてね。ま、少なくとも前線で戦う息子を押さえつけられるぐらいの
パワーは残ってるさ」

「そいつは頼もしい。…では背中は頼むぞ!!」

「久々だね、こうして共に戦うのは。
死んだ旦那と結婚した時以来さ」

その日、一人のハンターが復活を果たした。
獅子拳のリアンナ。…元Bランク冒険者の、かつて
ヴィルデスで名を馳せたハンター。

113話『自己中達の小さな変化』


「…ここは魔物の巣窟か?」

オルスにそう言わせるほど、目の前の光景は常軌を逸していた。

行列の如く、こちらへ向かってくる魔物の群勢。
はっきり言って計算違いなほど多かった。

「気を引き締めろ!一瞬でも油断すると、呑まれるぞ!!」

「「はいっ!!」」

各々が戦闘を繰り広げる中、優也達はというと

「氷結斬!!」

「ファイア!!」

「アースですっ!」

目の前の敵をそれぞれがうまく連携し、倒して行っていた。
魔物の勢いも目を見張るものだが、優也たちの勢いも
魔物を倒すにつれ増して行っていた。

「やっぱやるなオメェら!オレも負けてらんねえ!!」

レオンも力の限り拳を振るう。
一方で、苦戦を強いられているグループもあった。

「……ちきしょう!こいつ硬え!!」

「 ルーヴ!!後ろに回れ!そいつは尻尾が弱点なんだ!!」

「るせー!わかってる!!おいリガラ!邪魔だ下がれ!!」

狼牙の流血は、チームの連携にてこずり、
モンスターの討伐に手こずっていた。

「くそっ!なんでアタイらがこんな奴らに…!!」

近くで戦っていたオルスが、それを見かねて助けを出した。

「ふんっ!!」

大きな一太刀は魔物を軽く吹っ飛ばした。

「っ!……オイおっさん!そいつらはアタイらの獲物で…」

「おいおい。助けてもらっておいて、礼のひとつもねえのか?
やっぱ問題のパーティなだけはあるな」

オルスの態度にカチンと来たルーヴは、わかりやすく怒りを示した。

「……なんだ、アンタ。アタイらに喧嘩売ってんのか…?」

「いいや、威勢だけはいい若者にアドバイスをしてやろうと思っただけだ」

「アドバイス……?」

と、ロプス。
会話をしてる最中にもまた、魔物がやって来た。

「っと…悪いが戦いながら話すぜ?
お前らは純粋な戦闘力が買われて、今回遠征組に選ばれた様だが、
見ての通りチームワークが足りないんだ。
それは、何故だと思う?」

「何故って…なんだそりゃあ!!」

原因や理由を考えると言う行為が苦手なルーヴ。
そんな彼女達にすかさずオルスは答えた。

「それはだな、個人が自己中心的に動いているからだ。
自分の事ばかり考えていて周りが見えてねえ。
だから連携がうまく取れないんだ。」

「なんだとっ…!!」

「そうやってすぐ冷静さを失ってキレるところも、
冒険者には向かねえ。そこんとこを克服しないとお前らは
いつまで経っても上のステージには上がれないだろうさ」

「……ちょっと!オルスさんッ!!」

と、ルーヴ達に教えを唱えるオルスの後ろから
呼びかける声。
ONESの兵である。今回、数名が遠征に同伴していたのだった。

「先導役のアナタが冒険者に私語を使っててどうするんですか!!掟違反に処します!!」

「なっ!やれやれ、相変わらずだなONESの衛兵さんは」

「何か言いましたか?」

「いいや。目の前の魔物を相手しねえとなって言ったんだ」

そう言って戦線に再び駆り出していくオルス。
その背中を、怒りをぶつける相手が居なくなり
苦虫を噛み潰すような顔で見つめるルーヴ。

「全部ハッキリと言われちまったな。真正面から」

「……クソっ…」

「アネゴ。とにかく、いまは出来るところから はじめる。
それがいちばんいい」

「その通りだな。…なあルーヴ、あのオルスって奴の言うことも
少しは聞いてみる価値があると俺は感じた。
…連携だけどよ、意識してやってみないか?」

「……なんで、テメェらはそうすぐ乗せられんだよ…」

「いいから聞け。俺らの目標はなんだ?
世界一の冒険者になって、ONESやおいぼれ連中どもの鼻をあかす事だろ。
やっぱり今までのままじゃダメなんだ。だから、頼む…
俺らのためと思って協力してくれないか!」

そう言いながら頭を下げるロプスからは逆に気迫すら感じた。

「……ふん。そんな頭下げられたぐらいで、
アタイのやり方が変わると思ったら大間違いだぞ」

「…………」

「いつまで頭下げてんだ。さっさと行くぞ!!
……アタイらの連携で、あのモンスターどもを殲滅してやんだよ!!」

「…アネゴッ!」

「相変わらず…素直じゃない奴だ」

今このとき、ルーヴの目が変わった。
表面上は微かな変化でしかないが、
この時狼牙の流血は、確かに変わり始めたのである。

114話『哀れな支配者』


ヴィルデスの街は混乱を迎えていた。
門前の騒ぎが集落の中まで響き渡り、
結果情報がねじ曲がり遠征組が敗退し魔物が押し寄せて来ただの
根も葉もない話が広まり村民は不安と恐怖を抱えていたのであった。

そんな中、ONES本部では
一人の初老の男が怯えていた。

「…ぐぅ、まさかここにあれほどの量の魔物が来るとは……
いくらうちの兵や冒険者を総動員したとしても、抑えられるかどうか…」

この情けなく震える男はONESのボス、
『アウンド・ストゥーピー』。
ヴィルデスの最高権力者であり、
先代から受け継がれる掟を今も守り続けている。

…しかしながら彼が着任してからというもの、
ONESのメンバーだけは掟の対象から外すなどの
自身に都合が良いような掟の改訂を繰り返していた。
この集落が住みづらく窮屈となったまさに元凶である。

「こいつは…逃げた方が吉だな。
魔物をギルドの連中が食い止めている間に
わしはこの集落からおさらばさせてもらおう」

彼は実に自分の身を守ることしか考えていない男だった。
そそくさと逃げ出すために荷物をまとめるアウンド。
しかしそんな彼を止めようとする者が1人。

「父上、何をしておられるのですか」

「……ライネス、貴様か。なに、ちょっと散歩に出かけるだけだ」

ライネスは聡い青年だった。
小さい頃から父を反面教師にして育ってきた。
彼の苦し紛れの言い訳を見抜くのは造作もなかった。

「嘘ですよね。普通こんな時に散歩なんて行かない。ましてやその量の荷物…
父上、お逃げになるつもりですね?」

「だ、黙れ。どこに行こうがわしの勝手だ。
第一わしはギルドの連中が信用できん!
現に魔物の侵入を一度許してるではないか!だとすれば
村の防御壁が崩されるのも時間の問題!!逃げるしかないだろ!」

「ヴィルデスの長でもある貴方が一人で逃げてどうするのですか!!
混乱する村民を落ち着かせたりだとか、たとえ逃げるにしても
せめて村民と共に逃げれるよう、避難勧告を出すなりするのが長の務めでは
ないのですか!!」

「ぐっ……ならば、それは貴様がやれば良かろう!!
わしは一刻も早くこんな危険な集落から出てゆくのだ!!」

そう吐き捨て、アウンドは足早に逃げ去って行く。

「父上ッ!!」

呼び止めはするが追いかけはしない。
追ってももはや無駄だと諦めていたのだろう。

「……くそっ…。俺が、なんとかするしか!!」

その後、ライネスの決死の呼びかけにより
村民は一時的に落ち着きを取り戻した。
ただしかし確実に、混乱の渦は広まりつつあるのであった。



「魔物の量がやばい!!」

「そっち増援だ!!この数が通ったら集落がまずいぞ!!」

前線では相変わらず絶え間なく魔物が流れ込むように現れる。
優也達も、流石の連戦にスタミナを消費していた。
……しかしその一方ではというと。

「ロプス!!そっちの逃げ道を塞げ!!」

「ああ!!…むっルーヴ、後ろに敵がいるぞ!!」

「!サンキュ。…オラァッ!吹っ飛べ!!
……リガラ、今だ。そこに固めた魔物どもぶっ潰せ!!」

「…うぉおおッ!!!!」

一点に魔物を追いやり、1番火力の大きいリガラの一撃で一掃。
自分が目立つことをかんがえるのをやめてから
狼牙の流血の戦い方は見違えるようになった。

「……流石ですね、オルスさん。見てましたよ。
あの連中に助言してからすっかり見違えるようになった」

「おいおい、私語には気をつけたほうが良いぜ?俺の周りにゃONESの連中がいんだ。
…まあ、一つ答えるとしたらありゃアイツらの本来の姿さ。
俺はきっかけを与えただけだ」

その活躍を見てたのは優也達も同じであった。

「あの3人、すごい連携が取れてる…!」

「腐っても実力はあるみたいね。…翠大丈夫?
そろそろ疲れてきたでしょう」

「だ…大丈夫です。まだ、行けます!!」

見違えた味方の姿に彼らもまた、士気が上がっていくのであった。

……しかし、ある程度モンスターを倒し進んだところで
ぴたりと襲撃が止んだ。

「…オルスさん!きゅ、急に魔物の姿が見えなくなりました!!」

「何事だ?マカイゲートめ、活動を休止したか……?いやこの期に及んでそれはないか。
……おい、後続の冒険者達はどうした?」

後ろを振り向くと、数名冒険者が欠けている。
オルスが個人的に認識している優也達やルーヴなどもいなかった。

「魔物の群れを倒しているうちに、どうやら逸れてしまっていたようです!
どうします、戻りますか?」

「……いや。先に進むべきだろう。見た感じだが逸れたメンバーは
連携さえできりゃ俺らの助けなんて要らない強さだ。信じてもいいだろう」

「…わかりました!!」

先に進む事に決めた前線のオルス達。


…しかし、逸れてしまった優也たちはというと、
思いもよらぬピンチを迎えていた。

「……お、俺達囲まれたのかな」

「…みてえだ。挟み撃ちか…!
しかしおかしいぞ。この魔物にそんな知能があるとは思えねえ。
何かが指揮を取ってるとしか思えねえぞ!」

「……とにかく、早く倒して先に向かわないと…!!」

優也達の周りに囲うようにして現れた魔物達。
まず敵が向かってこないよう結界を張る翠と盾で守る優也、
攻撃を繰り返す楓やレオン、狼牙の流血にその他数名の冒険者たち。
しかし倒せど倒せど、キリがなかった。

「前線から助けは来れないんでしょうか!」

「無理だ、俺らの任務はマカイゲートの討伐だ。
前に進むことが最優先だからな…」

「くっ…このままじゃ前に追いつけなくなる!」

「ダズブリング!!!!」

大きな声が聞こえたかと思えば、地面が大きく揺れた。
振り向くと、怪力でモンスターを吹き飛ばすリガラの姿が。

「一瞬だが、道は開けた!!行け!!」

「ろ…狼牙の流血!?」

「ここは俺たちが食い止める!!」

「…お前ら。はやくいけ!!」

「で、でも!」

本当に行っていいのかと渋る優也たちの前にルーヴが出てきた。

「チッ。認めたくねーけどよぉ、
アタイも借りの作りっぱなしはごめんなんだよ!!
こいつらをぶっ倒す役目は受けてやる。
いいからとっとと、親玉をぶっ潰してきやがれっ!!」

「……わかった!ありがとう!!」

「アンタ達、死ぬんじゃないわよ!」

そう言い残し、狼牙の流血以外のメンバーは先へ向かった。
残された三人はうっすらと汗を額に浮かべながらも、ニヤリと笑っていた。

「ケッ…んなとこで死んでたまるかよ……!!」

115話『ルーヴ達の激闘』


しばらく、モンスターがいない道を駆けていく優也たち。
数分もすると、ようやくオルスたちに追いつくのであった。

「よく追いついてきたな、お前ら……。
おい、狼牙の流血の奴らが居ないぞ。何があった?」

「モンスターの強襲です。
回り道して挟み撃ちにされたんです」

「…どうりで、道中少なかったわけだ…
って、三人はどうした!?」

「食い止めるから先に行けと…。」

「ば、馬鹿な!!なんで無茶しやがる!!」

オルスは急いで戻ろうとする。さっきと言ってる事が違うが、
大量のモンスターの挟み撃ちに、残されたルーヴ達はたったの三人。
危険なのは火を見るより明らかなのだ。
しかし周りの冒険者たちがオルスを引き止めた。

「…今は、先に進むのが先決です!!
これ以上モンスターが増えれば…手が追えなくなるんじゃないんですか!」

「……クソっ……。仕方ねえ、な。わかった、責任は俺が負う。今は先を急ぐぞ…!!」

オルスは狼牙の流血を信じ、先に進むことを決意した。
優也達も、それに続いて先を急ぐ。



一方、残された狼牙の流血の3人は
絶え間なく襲いかかる敵を倒し続けていた、

「……ふん、いくら倒してもキリがないな」

「へばっちまったかぁ?ロプスゥ!!」

「バカ言うな、まだまだこれからだ」

周囲を囲うモンスターを倒し続ける3人。

「へへっ…楽しくなってきたぜ」

以前、モンスターと戦いを夜通し続けた際は
余裕が無かった三人。しかし、今は違う。
自分らの非を認め、つきものが取れた彼女らは
凄まじい連携でモンスターを倒し続けている。
その様子に思わずルーヴの口からは楽しいと言う感想すら溢れていた。

「らぁっ!よし、とどめを刺してやるぜ」

「ルーヴ、うしろだ!!」

「……!!アネゴ、危ない!!」

「むっ…。仕方ねえな、そいつはくれてやるよ」

背後から来た敵に迎え撃つルーヴ。これまでであれば
敵のトドメは絶対に譲らなかった彼女であるが、
さっきの事があってからは変わっていた。

そして、そのまましばらく戦闘が続き、敵の残りも終わりが見えてきた。

「…よっしゃ、数がだいぶ減ってきたぜ!!」

「グルガォウ!!」

「うっるせ!?」

つんざくような咆哮が周囲にとどろく。
振り向くと、一回り大きな狼のモンスターがそこにいた。

「…狼か…アタイらの遠い親戚だな。
どうやらコイツが、こん中じゃ1番強そうだ…!!」

「気をつけろルーヴ!!そいつはライトウルフ!
俺たちより格上の冒険者でも手こずるモンスターだ!!強いぞ!!」

「…ならよぉ、こいつぶっ倒せればアタイらはそんな奴らより強いって事だろ?
第一、ここで引くわけにゃいかねえよなあ!!」

構えるルーヴ。対してライトウルフは、素早い身のこなしで
彼女の懐まで走ってきた。

「こいつっ、早っ…!?」

「だから気をつけろっての!」

慌てて剣でルーヴを防御するロプス。
しかし敵はライトウルフだけではない。

「おいっ後ろからも来てるぞ!!」

背後の敵を倒すルーヴ。しかしその隙を敵は見逃さない。

「ガゥグル!!」

「いでっ!!くそっ、こんの!!」

装甲の薄い肩を攻撃されてしまうルーヴ。
慌てて照準をライトウルフに戻した。
だがそれでも、背後からくる敵は止まらない。

「畜生…コイツだけだったら、まだ戦えそうなんだがな」

だがそれを叶えるかのように二人の後ろに立ちはだかる男がいた。

「ロプス、アネゴ。そいつとの戦いに集中して!
おれ、ほかのやつら寄せ付けない!!」

ルーヴ達の周りにいるモンスターを相手取ったリガラ。
これで目の前の敵に集中できる。

「サンキュー、リガラ!!よっしゃ来やがれ!
本物の狼の力みせてやる!」

「グルガォ!!」

この三人の戦いはまだまだ続く。

116話『お前らが先導しろ』


先を急ぐオルスと、後をついていく冒険者たち。
狼牙の流血を除けば、脱落者や逸れた者は出ていなかった。

「おかしいな。魔物がまた少なくなって……ん?」

目の前に、ポツンと1匹の人型のモンスターが。
オルスらを見つけると、闇魔法を放ってきた。

「全員、防御しろ!!」

オルスの指示通り、盾や結界、防具で身を守る冒険者たち。

「いきなり何よ。喰らいなさい、ファイアよ!!」

攻撃を防ぐと、楓はモンスターに向かって炎を放った。
しかし放った攻撃は、空間に空いた穴に消えていく。
驚く楓を見て、後ろにいたモンスターは笑いだした。

「きひゃひゃひゃ…なぁなぁ、アンタら。
おれらに叶うって、本気で思ってんのかぁ?」

「な、何!?」

突然喋り出したかと思うと、そのモンスターは左右に穴を開けた。

「来やがれ、おれの駒ども!!」

そこから飛び出すモンスター達。
何もなかったフィールドはあっという間に敵だらけに。

「くそっ!お前ら、やるぞ!!」

「きひゃっ、いつまで持つかね」

現れたモンスター達を相手取る冒険者たち。その後ろでオルスは神妙な顔をしていた。

「……こいつぁ、ちょいと上級のモンスターだなこりゃ…。
しかしなるほどなぁ。集落に現れたモンスターの件は
こいつの仕業だったか。ワープホールを作れる力を持ってやがる。厄介だ」

「ワープホール!?それって…‥」

優也と楓が思い出されるのは、魔王軍の幹部とムチンの森で戦った時のことだ。
ワープホールの厄介さは重々身に染みてわかっている。
……だからこそ、彼女はここで相手を倒す事を決意した。

「ここは…私が!!」

「か、楓!?」

驚く優也。更にそれを聞いて、慌てて他の冒険者たちが止めようとする。

「おい、何を言ってるんだ!!また人数が減ればマカイゲートの討伐は更に…」

「私はワープ使いと戦った事がある!!
アイツを…のさばらせてたら、危険よ!!」

「……私も、残りますっ!楓さんを…援護します!!」

「み、翠。…ありがと!」

「俺も残るよ、楓達を置いて行けないしワープホール使いとなら俺だって…」

「おっと、お前は先に行け、真田優也」

楓達と共に残ろうとする優也を引き止める声が。

「……オルスさん!?」

「自分の女共が心配な気持ちはわかるが、
お前が残るのはいただけねえ。先に行くんだ」

何やら誤解を持たれてる気がするが、今はそれどころじゃない。
優也は彼女ら二人を残すことを案じていた。

「で、でも…」

「ああ。か弱い乙女を二人、残しちゃ行けねえのは分かってるさ。

…だから、ここは俺が残る」


……

「「……ええっ!?」」

優也と楓が声を荒げて驚く。
周りの冒険者たちもひどく驚いた様子だった。

「なんだ、ご不満かな?Bランク冒険者である、オルス・ミドヴィベールの助力は」

「…い、いいえ!!大いに助かります!!」

「で、でもオルスさんがここに残っては、我々はどうすれば!?」

当然上がる先導役が残ることへの懸念の声。
だがオルスはニッと笑いある二人を見て放つ。

「なに、すぐ追いつく!!それまで、代わりのやつが先導しろ!
……なぁ、構わねえだろ!?

おめーらが先導して行け、レオン!!優也!!」

二人に後を任せたオルス。それは、Bランク冒険者である彼が
実力を認めているという事だった。

「おうッ!!」「は…はいっ!!」

「後で必ず…追いつくから。頼んだわよ、優也!!」

「……うん!!俺らがみんなを守るんだ!!」

優也とレオンは残りの冒険者を全員引き連れて、
先へと向かっていった。

117話『頼れる二人』


マカイゲートを目指し突き進む優也とレオン。
その後ろにはついていく数多の冒険者たち。
レオンが隣にいた優也に独り言のように語り始めた。

「…へっ。あの先導役のオルスって人…中々見る目あんじゃねえか」

「えっ?」

「オレらが、今こんなかで一番冒険者達を引っ張っていける力を持ってるって
あの人は見抜いてたって事だ」

しかしその中には納得がいかない冒険者も何人かいた。

「……なんで、あんな若者二人をオルスさんは選んだんだ…?」

「レオンはまだしもあの男はよく知らないぞ。本当に任せられるのか?」


「……チッ。聞こえねえとでも思ってんのか、アイツら」

レオンの耳にはその呟きがしっかり聞こえていた。

「?どうしたのレオン?」

「アイツらに認められてねえんだよ、オレらは!!
オルスを差し置いて、本当に先導役にして良いのかってな!!」

「それは……。
良いとこ見せて、挽回しないとね!!」

「たりめーだ!!」

そこから優也とレオンは最前線で敵を蹴散らし、味方を引っ張っていった。
時には、

「危ないっ!!」

「うぉっ…あ、ありがとうな。」

敵の攻撃を背後から喰らいそうになった味方を助けたり。
また時には、

「こっちだぜ、モンスターども!!」

「すげえ、レオンのやつ、一人で全部引き受けてるぞ…!」

モンスターを引きつけて、全て倒したりと。

「あいつら…若いのに中々やるな!!」

「これなら辿り着けそうだぞ!」

次第に二人の強さ、連携力に気づいた冒険者たちは
彼らを先導役としてみとめ、士気も上がっていくのであった。

そして。

「見えた……マカイゲート…!!」

今回の目的にして、敵の発生源。
マカイゲートが目視できる範囲にまで、来ていた。



モンスターの数はこれまでの比にならなかった。
それは当然の事であろう、
モンスターの発生元であるマカイゲートの口。そこからは今も、
止まる事なくモンスターが流れてきているのだから。

「ここまで来たが…流石にモンスターが出てくるペースが早すぎる!!
これ以上近寄るのは至難の業だ!」

冒険者の一人がそういう。
優也もレオンもそれは感じていた。
だからこそ、レオンは一つ考えを話した。

「……なあ、お前達!!今残ってるパワーを惜しみなく使い、
広範囲の技でモンスターを一撃で倒し続けてくれないか!!
ここまで来りゃ、後はあいつをぶっ倒すだけだ!!
その為には奴に近づく必要がある!その為には…出し惜しむ必要はもうないと踏んだ!!」

「……だが、もしそれで途中で皆魔力切れを起こせば我々は!!」

「このまま戦い続けてもいずれ力尽きるだろ!なら、短期決戦で行くしかねえ!」

「お…おれは賛成だ!確かにこのままじゃアイツに近寄れねえ!!やるなら、早いうちがいい!」

「私もだ…!」「俺も…!!」

この作戦に、賛成者が次々と現れていった。
その中レオンは優也に耳打ちする。

「よし……いいか、優也。
他の敵はアイツらが殲滅してくれる筈だ。
このまま距離を詰めて、ヤツの目前まで迫ったら
お前の氷魔法で目を狙うんだ!!」

「氷魔法で?…でも決定打になるかな。敵を凍らせるだけで殺傷力は無い魔法だと思うんだけど」

「お前の実力なら氷柱ぐらい、作って飛ばせんだろ?
オレの拳とお前の剣じゃ、アイツの目まで届かねえからな。」

「やったことないんだけど……わかった。やってみる!!」

「よっしゃ!!行くぞお前ら!ここが正念場だ!!」

「「「うおおおおーーっ!!!!」」」

そこから彼らは一気にギアを上げ闘いを始めた。
広い範囲の大技を、大勢のモンスターに当てていきながら
マカイゲートと距離を縮めていく。

現れるモンスターには強いのもいたが、大技が飛び交う中
こちらへ近寄って来れるものはいなかった。

「あとすこし…!!」

「オラァッ!!よっしゃ、そろそろ真っ正面だ!!いけっ優也!!」 

前に出て、剣を向けて氷柱を飛ばす準備をする優也。

「あぁ!!氷柱砲!!」

剣の先に氷が集まり、優也の思い描くように
氷の柱が生成されていく。

「よし…初めてだけど、上手くいってるぞ…!!」

そのまま大きく、ゲートの目玉めがけて、剣を振りかぶった。

「いっけえぇーーー!!!」

しかし、そう簡単に決着は付けさせてくれない。

「ガルルルゥ…!!」

「なっ…!?」

魔法はうまくいった。
しかし、ゲートから現れたモンスターにその攻撃がかき消されてしまった。
現れた相手に優也も身がたじろぐ。

「……イーグル、タイガー…!!」

「くそッ。ゲートの野郎…敵に詰められた時の事を考えて、強力なモンスターを用意してやがったか…!!」

優也や楓、狼牙の流血の面々を傷つけたモンスターが、そこに立ちはだかっていた。

118話『狼牙の流血』


視点は再びルーヴ達に戻る。

ライトウルフは凄まじく強かった。
素早すぎる身のこなしは、ルーヴとロプスの
攻撃と守りをすり抜け、彼女らにダメージを与えていた。

残っている他の敵を全て相手するリガラも、横からの攻撃が
防げず攻撃を負って行った。

しばらくすると、3人はボロボロの傷だらけになっていた。

「へへ…へ…みっともねえな、二人とも…。
傷と汗まみれで見てらんねえよ」

「…はぁ…はぁ…それは…お前も一緒だルーヴ」

疲労がピークにまで達しつつある中。

「これで…さいご!!」

ようやくリガラが、残っていたモンスターを全て倒した。

「良くやった、リガラ!!あとは…こんのクソッタレを倒すだけだ…!!」

「ガゥグルゥ…」

実際のところ、ライトウルフは半分もダメージを受けていなかった。
攻撃がほとんど当たらない。たまに連携で斬撃が入るだけ。
そもそも動きが早すぎて、2人は防御で手一杯なのだった。

「3人がかりならやれんだろ!行くぞ!!」

「ダズブリング!!」

地面を激しく揺らすリガラ。ライトウルフは飛び上がり避けていた。

「飛ぶことは想定済みだぜ。オラァ!!」

同じく飛びかかり、剣を喰らわせるルーヴ。だが
軽い身のこなしで空中回避をしてみせた。

「……本当に厄介な相手だ。だが、その隙を見逃す俺じゃないぞ…!!」

その回避した先にいるのはロプス。ルーヴよりも長い剣は、
魔法こそ纏ってないものの彼の純粋な筋力で強力な斬撃を喰らわせる。

「グルガッ…!?」

「ようやくまともな一撃が加えられた!一気にやっちまうぞお前ら!!」

しかし、まだ甘かった。

「グルガォオオ!!!!」

「っ…なんだ!?」

「奴の体から…力が溢れてる…危険!!」

「おいおい…ライトウルフが追い詰められて強化されるなんて
聞いたことないぞ。これも活性化の影響なのか!?」

「関係ねえ、さっさと…うっ!」

ライトウルフが一瞬、発光したかと思うと、
次の瞬間にはルーヴの腹に噛みついていた。
彼女の装甲は、拾ったものを繋ぎ合わせたボロであるものの
そこそこの厚さはある。
それでもライトウルフの牙は彼女の皮膚に届いていた。

「ルーヴッ!!」

「よくもアネゴを!うぉらぁあああ!!」

力任せに拳を振り下ろすリガラ。
それもまた、避けられる。ライトウルフはまた光を放った。

「っ…!来るぞ構えろ!!」

「ぐああぁぁ!?」

脚を噛まれたリガラ。装甲をしていないためモロにダメージを負う。
ライトウルフはそのまま肉を噛みちぎろうとしていた。

「くそっ…!!はなしやがれ!おらぁあああ!!」

リガラを助けようと、突撃するロプス。
それを見て、またまばゆい光が目に入ってきた。

「!!…俺は喰らわんぞ!!」

敵の動作が読めてきたロプスは身を固め攻撃に備えた。

「……ぐっ、がっ!?」

背中に激痛が走った。
振り向くと後ろから噛みつくライトウルフの姿が。
今の瞬間で背後に回られていたのである。

「…いい加減にしやがれ、この野郎!!」

ルーヴが剣を振り、なんとかロプスから離すことに成功した。
しかし既に三人は満身創痍であった。それぞれの傷口から血が流れる。

「ハァ…ハァ…」

「くっ…ぐぅ……」

戦意喪失しかけている二人。
……だが。ルーヴは一人、敵を見据えていた。
そして俯く二人に声を投げかけた。

「…ロプスゥ……リガラァ……!!
アタイらのチーム名の由来を、はぁ…覚えてるかい」

「……なんだっ!こんな時に…!!」

「いいから答えやがれ!!」

「おれは、おぼえてる…!」

怒号を飛ばすルーヴに…リガラが答える。

「……当たり前だろう!三人でつけたからな…!!」

続けて、ロプスも彼女に答えた。

「ならよかったぜ。…アタイに続け!!
たとえ…敵にうちのめされ、血ィ流そうともォ!!」

「「…それでも立ち向かい、喉元を噛みちぎってでも敵をぶっ倒す!!」」

「そうだ!!今がまさにそんときだろうがよ!!!!気合い入れろテメェら!!」

「…ああッ!!」「うおおおお!!」

痛みに耐えながらも、力を振り絞る三人。
今の彼女らは、例えどれほど血を流そうとも
敵に牙を向けることはやめない。
まさしく狩りをする獣そのものだった。

「オラァ!!当たりやがれ!」

まっすぐ突撃するルーヴ。もちろん、ライトウルフに単純な攻撃は当たらない。
後ろに回避を取ろうと動いた。

「逃げ道は塞ぐぞ」

その先にロプスが剣を構え立ちはだかる。

「にがさん!」

隙間を埋めるようにリガラも詰め寄り、
3方向から逃げ道を塞いでいった。

「ガル…」

ライトウルフは周りを見回すと、しゃがみ込んだ。
大ジャンプの予備動作である。

「そこだ!!人狼斬!!」

それを読んでいたロプスは必殺の一撃をかます。
だが、再び空中回避により避けられてしまった。

「…これでも当たらないのか…!!」

「オラっこっちに来やがれのろま!!」

わざと隙を見せ、挑発するルーヴ。
それを見たライトウルフは、容赦なく彼女に向かって突進をして行く。

「…!?おいルーヴ!なにしてる、構えろ!!」

「ガルゥ!!」

「っが!!!!」

思い切り腕を噛まれるルーヴ。
だが彼女はニヤリと笑った。

「……へっ…捕まえた!!」

腕に噛み付いたライトウルフを離さないよう
がっちり固定するルーヴ。

「お返しだぜ、オラァ!!」

火焔を纏った剣が、ライトウルフの脚を切り裂いた。
噛みつくのをやめて、ルーヴを弾き飛ばす。

「グルガァッ!?」

「いっでッ!!!」

側に駆け寄るロプスとリガラ。

「ルーヴ!!おいっ!なんて無茶しやがんだ!!」

腕の傷がひどいルーヴ。だが自分に構うなと、敵を指差して言った。

「へ…へっ。こうでもしねえと、アイツの動き……止めらんねえだろ?
いいからとっとと倒せよ…任せたぜ、お前ら」

仲間に敵の討伐を託す。
ほんの少し前の彼女なら信じられない行動であった。

「……分かった。任せとけ。アイツは俺らが倒す!!」

「ウオオッ!!」

足に与えたダメージのおかげで、ライトウルフの機動力は
ほとんど失われていた。だが、闘志は途絶えていなかった。

「グルオオォッ!!!!」

「っ…咆哮魔法か!くそっこいつ…まだ…!」

「うおおおおっ!!」

構わず突進するリガラ。
咆哮による衝撃波を受けながらも、目の前まで迫っていた。

「…ガゥッ!!」

「っうぐぅ!?」

体を大きく動かしリガラに噛みついた。
足は動かないが、近寄った敵を噛む程度なら体を捩れば出来る。

……だが、その隙こそライトウルフの最後の油断だった。

「背中がガラ空きなんだよ。人狼斬!!」

「ぐるっ!?」

背後に回ったロプスの斬撃を受けて、怯むライトウルフ。
今度はロプスの方を目掛けてーー

「今だ!!決めろリガラッ!!」

「ブリング・クエイク!!!!」

最後にロプスが与えた攻撃の隙に、
渾身の一撃を与えるリガラ。
ライトウルフの最後の断末魔が響いた。




「……はぁ、はぁ……」

「……ぐっ……」

「…へ、へへっ。ボロボロだな俺たち。
今までこんなになるまで、戦い抜いた事なかったろ」

「…おれたち、やったのか?」

「ああ。見ろよ」

リガラの攻撃でヒビが入り凹んだ地面から、光が漏れ出す。
ライトウルフの魂が、魔界へと還って行くのであった。

ヴィルデス 郊外
数多のモンスター達と、ライトウルフとの戦い

勝者 狼牙の流血

119話『上級の魔族との対峙』


楓、翠、そしてオルスが残ったこの場には
ワープホールの魔法が扱える魔族と、その魔法により
連れてこられたモンスターが多数いた。

残った3人を見て、魔族は嫌な顔をして笑う。

「……キヒャヘッ…!!」

「うわっ、なによ。気持ち悪い笑い方するわね」

「いやぁ?おれも舐められたもんだと思ってさぁ。
なんでたったの3人しか残んねえんだよ?
おれの脅威、バカでも伝わると思うぜ?」

「だからこそ、俺と嬢ちゃん達が残った」

「……ああん?」

「残りの連中は、二人を除けば周りの敵を倒す役目だ。
…つまり貴様程の魔族とやり合えて、尚且つマカイゲートの討伐に
支障が起きない最適の人数を割り振ったんだよ」

「……キヒャッ。敵の実力も大して知らねえくせに。後悔しても知らねえぜ?」

余裕の態度を浮かべる魔族に楓は耐えきれず前に出て得物を構えた。

「…いいから、かかってきなさいよ!!アンタを倒して私達は先に行くんだから!!」

「それもいいけどよぉ。ひとまずおれの遊びに付き合えよ?」

そう言って奴は楓達から一歩距離を置くと、召喚された魔物達を楓らに襲わせた。

「くるぞっ、構えろ!!」

「ファイア!!」

「アースです!!!」

「おぉ〜。いいねえ、やるじゃん」

モンスターを的確に倒す三人を前に思わず拍手をする魔族。
それを楓は快く思わなかった。

「くっ…自分だけ戦闘に参加しないつもり…!?
喰らいなさい、サンダー!!」

狙うは後ろで高みの見物をしている奴。

「ふーん、そういう事するのね。キヒヘャ…ならこっちにも考えあるんだよねぇ」

「ワープゲート」

飛んでくるサンダーの前にワープホールを生み出した。
攻撃を遠くへ飛ばす事で防がれたか、と思う矢先。

「ッ!!きゃあっ!!?」

「翠ッ!!!」

翠のすぐ側にサンダーが降り注いだ。
頭上を見上げるとそこにワープホールが繋がっていたようだ。

「キヒヒャヒャヒャ!!残念ッ!!おれを攻撃すんなら、
お仲間に被害が行っちゃうよ?観念しておれの遊びに付き合いやがれバーカ!」

「…!!この…」

バカにした笑いに楓もイラつきが抑えられない。

「……落ち着け!!今は、目の前の敵を狩る事。それが先決だろう」

「そ…そうですね。そうだ、翠…大丈夫!?キュアッ!」

「あ、ありがとうございます。ギリギリ直撃は回避できたのでダメージはそんなに無いですよ」

仕切り直しとなった楓たちは再びモンスターを倒していく。
物の数分で辺りにいたモンスターは殲滅することができた。

「どうよ!これで文句ないでしょッ!!」

「キヒャヒャヒャへへ!!さーすーが!
そーそー、最初から素直にそいつらの相手してりゃいいっての!
キヒヒャ!まあまあつえーなお前ら!人間のクセに!

でも残念、追加オーダーでぇーす!!」

そう言いながら奴は新たにワープホールから、モンスターを呼び出した。

「なっ…ちょっと!!ずるいじゃないのよ!次からモンスターを呼ぶなんて…」

「まーまーいいじゃねぇか!ここんだけの話、前線のマカイゲートの周辺にいる
モンスターを呼び出してんだぜ!?キヒャヒャ。お前らが必死こいて戦えば戦うほど、
前線は楽になるんだからよぉ!キヒャヒャヒャヒャヒャ!!!…」

「……シャインッ!!」

「っぐが…!?」

撃ち抜かれる光魔法。モンスターを呼び出していたワープホールは閉じられ、敵にダメージを届ける。

「オルスさんっ!?」

「…魔族には光魔法がよく効くからな。闇魔法で生み出されたワープホールも光で消せる。
さて…。俺もなんとなくこのモンスターどもは前線から引っ張ってきてるんだろう事はわかってたさ。
だから敢えて光魔法は使わなかった。…だがちょいとおいたが過ぎるな、魔族さんよ」

「チッ……光魔法が扱えるとはなぁ。…キヒヒッ。なら、こいつはどうよ?」

そう言って奴は指パッチンをして見せた。
楓と翠が周りを見ると、オルスを囲むようにして召喚されたモンスター達が目を光らせていた。

「呼び出した魔物にテメェをマークさせた!!」

「……順応が早いな」

「キヒャヒャァ!!あいにくおれもこーいうのは慣れてんだよなぁ!!
ケヒヒッ。テメェがそいつらを相手してる間、どんどん魔物をこっちに送り込んで
スパイラルにしてやるぜ!!ザマァねえなぁ!?キヒャヒャへへ!!」

「……あんたのふざけたその態度。前に戦ったトリッカル・マジーナって奴に似てるけど
そいつよりムカつくわね…!!」

「……あん?トリッカル…マジーナだと?」

終始ニヤケ顔だった魔族の表情が変わった。

「おれもよーく知ってるよ、そいつん事ぁな。
あんな魔族の風上にも置けねえ半端な連中と
比べられるとかありえねえ。ふざっけんな。
そいつらとおれが同類とでも思ってたのか?
このヘレティカル・ブルート様が、そんな奴らと…」

「……?なに、アンタ魔王軍の回し者じゃないの…?」

「チッ…それも気に食わねえんだよ!!魔王軍って呼称がよォ…!
あたかも自分らの軍が魔王として一番メジャーだみてえな顔しやがって…!!」

「……とにかく魔王軍とは関係ないみたいね。何者?アンタ」

「黙れ、答える義理はねェ。それより…おれァ今腹の虫のいどころが悪いんだ…」

そう言いながら再びワープホールを生み出す、ブルートと名乗った魔族。

「気分を害された代償は…テメェの絶望する顔で精算してもらうぜ。」

「何を…する気なのでしょう…!!」

「わからないけど…止めるわよ!ファイア!!」

「ケヒャッ…無駄だ」

「ッ!サヴェンマ!!」

再び翠の方へ飛んできた魔法を、結界で防ぐ翠。

「あぁっ…ごめん翠!!」

「い、いえ」

「キヒャヒャ!!魔物の召喚中でも無駄ーッ!お前らの魔法はぜーんぶ飛ばしてやるからなぁ!!
さぁーてと、お目当ての魔物入るかなっと…おぉ〜?ちょうどいいとこにいたぜェ〜。
マカイゲートの野郎、こんなの連れて来てやがったのか」

次の瞬間、現れる。
ワープホールから、一匹のモンスターが。

「ガルルゥ!!!」

「……えっ」

ワープホールから現れたのは…イーグルタイガー。
優也達と交戦中だった個体が今、ワープホールを介して楓の前に召喚された。

「ケッ。奴らの会話を盗聴してたからな。
テメェが何に襲われてトラウマ抱えてんのか、偶然知ったんだよ。
癪だが、あんな会話でも聞く価値はあったみてえで良かったぜ」 

「イーグルタイガー!?……くそっ!!」

送られ続けるモンスターと戦わされるオルスは彼女達に近づけない。
楓達が、戦うしかないのだ。

「う…うぁ……ぁ……」

「……か、楓さん……」

120話『私が守ります』


「あ…あぁ…ぁ……」

「ヒヒッ、どぉ〜した〜?足がすくんでるぜ、冒険者ちゃんよ」

眼前から威風堂々とした態度で歩み寄ってくる敵の姿。
心の底にあったトラウマが、死への恐怖心が、蘇る。

「…こ、来ないで…来るんじゃないわよ……!!」

「くそっ…まともに戦えていたのを見たところ、
モンスターへの恐怖を克服できていたと踏んでいたが…!
どうやらトラウマが蘇っちまったようだな!」

と、周りにいる魔物をいなしながら言うオルス。

「……楓さん!!」

「っひ!?」

そんな中、怯える楓の手を優しく握ったのは…翠だった。

「こ…怖がる必要なんてありません。わ、私が楓さんを守ります。
モンスターが来るのが怖いのなら…
私がイーグルタイガーを、楓さんに近づけません!!」

震える声で、震える手で。
怯えてるのは自分だけじゃないと伝わってくる。
だけど、それでも心に響く激励。

翠は、その言葉と共に結界を生み出す。
猛獣と少女達の間を隔てる壁が生じ、
少しばかりの安心感を楓にもたらした。

「……翠…あ、ありがとう…」

「無理しなくても、大丈夫です。今度は私が…楓さんを守って見せます!」

声と足が震えながらも瞳は揺らぐことなく楓を見据える。
自分より怖がりの少女にここまで鼓舞されて、
立ち上がらずになどいられるものか。

「……ふふっ、無理してるのはどっちよ。
なんかいつもと立場逆転しちゃったわね」

「なあ嬢ちゃん達!!互いに励まし合うのは結構だが…ッ目の前の敵にも集中しろ!!」

戦いながら二人のやり取りを見ていたオルスが進言した。
目の前ではイーグルタイガーが、翠のバリアに攻撃を繰り返していた。
バリアの耐久はもう持たなさそうだ。

「ええ!……もうあいつなんかに…
あんたなんかに、怯んだりしないんだから!!メガサンダー!!」

敵の頭上に強力な電撃を打ち込む。
もちろんそれで倒すには至らない。

「グルッ…」

「…今よ!!」

「アースです!!」

二人の少女が、イーグルタイガーに必死に喰らいつく!!



「きひゃひゃひゃ。どっちもなかなか頑張ってるじゃん!」

「…ゲートとの戦いのために余力を残すという選択肢はもはやねえな」

無限に現れる魔物に囲われた中でオルスはつぶやく。
側にはようやくイーグルタイガーとまともに戦えるようになった
楓と翠が、危うい戦いを繰り広げている。

残ると言った手前、少女二人を危険に晒して
雑魚を相手取るだけでは示しがつかない。

「悪いが一掃させてもらう。」

オルスは持っていた剣を握りしめた。

「ストームハリケーン」

上級の風魔法。これでも滅多にお目にかかれない大技だが…そのまま放たない。

「これを受けてまともに立ってられた奴はゴーレムくらいしか知らねえな」

生まれた大きな暴風の魔法は、剣に纏わりつく。
そのまま両手で剣を構えると、オルスは大きくスイングさせた。

「台風一華!!」

たった一振り、それで全て吹き飛ぶ。
周りにいたモンスターは蹴散らされ、オルスの周りを囲うものがいなくなった。

「っぐ…あ、アホみてえにつええ突風だなおい!?」

「シャイン」

まずはモンスターを連れ出すワープホールを消す。
お陰でオルスにも、幾らかの余裕が生まれた。

「…はっ、バカじゃね?こっちはワープホールぐらい幾らでも生み出せんだよ!」

「やらせるわけねえだろ!!ストームハリケーン!!」

「ぐがっあぁ"ッ!!邪魔すんじゃねえこの野郎!!」

「……オラッ!!」

「ぐえっ」

剣で思い切り殴りつける。
するとブルートはあっけなく気絶した。

「……はっ、弱い…所詮虎の威を借る狐、か。
このまま今すぐぶっ倒してやりてえが、時間がねえからな。
イーグルタイガーとの決着まではせいぜいそこで大人しく見てるんだな」

気絶するブルートを尻目に、楓達に加勢しに向かうオルス。

「よく耐えたぜ、嬢ちゃん達!!」

「ぐぐぐ…お、オルスさん!!」

オルスの目に映るは、二人それぞれが杖を敵の爪に食い込ませて
攻撃を食い止めていた姿だった。

「…オラァ!!」

イーグルタイガーに斬りかかるオルス。お陰で推し負けそうだった
楓達は解放された。

「はぁっ…危なかった。ありがとうございます!!」

「まったくだぜ!随分と、無茶させちまってたみてえだな!!」

イーグルタイガーに剣傷を入れていくオルス。
優也より的確に、敵の急所にダメージを与えていく。

「凄いわ、イーグルタイガーをどんどん押してる!」

「グルゥ…グルォオオオオ!!!!」

追い込まれたイーグルタイガーは大きな咆哮を上げた。
オルスは目をしかめ、耳を塞ぎつつ一歩身を引いた。

「あのまま倒したかったがああなっちゃ近づけねえな。
あいつを倒すにゃ…もうひと押し隙が必要だ」

「なら…メガサンダーを撃つわ」

「いいや…それだけじゃ足んねえ」

それを聞いて、翠は威力を底上げする方法を2つ思いついた。

「……それならば…オルスさん。水魔法が使えるとおっしゃってましたよね。
…それをお願いできますか!!」

「…いい考えだ。それで行こう!ウォーターレーザー!!」

水の光線がイーグルタイガーに当たる。
再び、こちらに突進をしてきた。

「サヴェンマ!!」

作り出されたバリアで突撃の衝撃は殺した。
ただし一撃で壊される。
……だが、翠はバリアの耐久に魔力を回したわけではない。

「…さて、行きますよ楓さん!!」

「……ええ!」

「「メガサンダー!!」」

繰り出されるは、楓と翠二人同時の電撃。
水魔法による電気の通りはもちろん、同時攻撃によるその威力は
イーグルタイガーが狩り取れてしまいそうなほど。

「グギャァアアアア!!…ぐ…ぐぐ…!!」

「今よ!!」

「最高の隙だ。叩き込むぜ、この斬撃!!」

凄まじい電撃に怯むイーグルタイガーに、オルスは剣を大きく振り下ろした。

「グッガルゥ…!!」

地に頭を付したイーグルタイガー。それでも身体は消えていない。
…これはあまり知られていない習性だが。
イーグルタイガーは、体力が尽きる間際に死んだフリをし…油断した敵を狩る。

「…まだ生きてんのはわかってんのよ!!
これで、とどめよ!!!」

今度は最後まで油断しない。確実に仕留めると言わんばかりに、
楓は手にする杖を大きく振り下ろした。

「グォァァアアアアア!!!!」

今度こそ、イーグルタイガーは雄叫びを上げて、その姿を光へと消した。

「……や、やったのかしら」

「やりましたよっ楓さん!!あのイーグルタイガーに、
楓さんは自ら向かって、勝ったんです!!」

「…ううん、立ち向かう勇気をくれたのは、翠よ。
ありがとう…翠」

トラウマに打ち勝ち、大物を撃ち倒した喜びを分かち合う楓と翠。
それをオルスは笑みを浮かべて見ていた。

「ふふ、良い顔してるじゃないか…いい"冒険者"の顔だ。
……さて」

はしゃぐ二人を横目で見ながら、オルスはすでに目が覚めてた敵の退路を封じようと動いていた。

「やっべ…」

「おっと。逃がさないぜ?」

ワープホールを生み出して逃げようとするブルートを止めるオルス。
闇属性で生み出されたワープホールは、光属性で意図も簡単に消えるのだ。

「え…なっ……ヒヒッ。お、俺をどーする気?」

「なーに。軽く魔界に送り返してやるだけだ!!」

オルスの渾身の光魔法が、魔族に飛ぶ。

「ぎゃッ…!!」

シュウ…と音を立て、一瞬で魔族は跡形もなく消えた。
おそらく魔界で目覚めた後に現世で死んだことに気づくのであろう。

「ふん。
…ま一瞬で消してやったんだ。あんなのでも一応楽に逝けただろう」

「……ふーっ…それにしても、ほんとに勝てたのよね…」

強力な敵を倒して、楓は思わず座り込む。

「翠…ありがとう。貴方がいなかったら私…多分、塞ぎ込んじゃってた。
普段偉そうに言ってた癖に、肝心な時に駄目になってたわね、私…」

「……いいえ。私にここまで勇気出させてくれたのは楓さんやみんなのおかげです。
それに…誰にだって、怖いものはあって当たり前ですよ!」

「いやあそれにしても…アイツを倒せて、安心して腰が抜けちゃった。
ごめんね翠、ちょっと手貸して」

翠の手を借りながら立ち上がる楓に、オルスは茶化しながらこう言った。

「おいおい。安心するにはまだ早いんだぜ?
それとも、ここでリタイアか?」

「……まさか!
そうだ、オルスさんも、手助けありがとうございました。
それと先日の助言も…。結局あの後お礼言えずに別れてしまって…」

「…俺は大したことはしてない。
トラウマを払ったのは自身とアンタの友人のおかげさ。
さ、アイツらに追いつくぞ。ピンチかもしれないからな」

「「はい!!」」

見事勝利を収めた三人は、優也達の元へ急ぐ。
また一つ、成長した自分たちの力が役に立つ事を信じて。

楓・翠・オルス VS 上級魔族とその眷属達

勝者 三人の冒険者たち
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