またーり書き込みしましょ(´・ω・`)



81話『負けず嫌いの相手は大変で』


優也、楓、翠を乗せた船は大海原を突き進んで行く。
故郷がある大陸に別れを告げ、三人は別大陸へと移動するのだった。

「船に乗るのはこれで2回目か」

優也たちは与えられた船室で話していた。

「翠は初めてなのよね、船に乗るの。…船酔いとか大丈夫?」

「は、はい。今のところは大丈夫です。船ってこんな感じなんですね…!」

「辛くなったらすぐいってね。私、そんな時のために酔い止め買っといたんだから」

「いつの間に」

どうやら出発前日に、酔い止めやら色々と役立つものを買っていたらしい。

その時、船室のドアがノックされる。

「昼食の支度ができました、よろしければいらしてください」

「わー、ありがとうございます!」

昼食はというと……カラフルアイランドで獲れた食材を使用したものだった。
船に積んである食材はあの島で採れた新鮮な物なのである意味当然というべきか。
食事用の長机にはこれでもかと言うほど色彩鮮やかな物がズラリと並ぶ。

「もう当分は見ることはないと思ったんだけどな」

優也達は食べ慣れた食材を口にして、食堂を後にするのだった。



「……はい、これでリーチ一番乗り!」サッ

「あっ優也ANOって言ってないわ!!」

「ああぁANOッ!」

「遅いわよ!!ほーれ五枚追加っと」

「ちくしょー…このルール、やる度に忘れるんだけど」

夕食を終えた後優也達は暇を潰すため、購入したカードゲームで遊んでいた。

(よーし…次にこの青の9を置けばリーチよ…翠、9!9を置くのよ!!)

「…スキップ!」サッ

「ちょっと!」

「す、すみません置けるカードがこれしかなくて」

「残念だったな楓。ほい、黄色の8だ!!」」サッ

「…青の8、です」サッ

「来たっ…!私は青の9ッ!!これで私がリーチよ!!」バッ

勢いよく、場にカードを叩きつける楓。

「………………」

「………………」

「…な、なによこの沈黙!?ルール上ここで青の9出すのってあってるわよね!?」

「…ANOって言ってないぞ」

「あ゛ッANOー!!…これでセーフ!セーフよ!」

「指摘した後に言ったからアウトだよ!!!!ふふん、これで楓も五枚追加だな!!」

「ああもう…他人が言ってない時は敏感なのに、なんでこう自分の番になると忘れちゃうわけ!?」

「そういうもんだよ」サッ

「……ANO、です」サッ

「ちょっ…さりげなくドローを連鎖すんな!…でもね、さっき私は5枚カード引いたばかり。ドローの一つや二つ、持ってないわけ無いじゃない!!」サッ

「ぐわぁぁ!!!!もう手元にドローが無いッ…!!」

「残念だったわね。これで一気に優也が不利に…」

「……あがりです」サッ

「…へ?」

「翠の最後の一枚、場に出てるやつと同じ色だったのかよ!」

白熱したゲームは翠の勝利で終わり。
その後勝敗をつけたい楓と優也の戦いは、優也の勝ちで終わったのだった。


「……楓?」

「なによー」

「負けたからって、そう拗ねるなって…」

「四枚ドロー三枚持ちなんてインチキよ!あそこから負けるなんて納得いかないわ」

「それはまぁ、運が良かったって事で。…それに楓が勝てたルートもあるんだぞ?」

「なにそれ?」

「実はあまり知られてないけど、チャレンジルールっていうのがあってさ…
四枚ドローって本来は他に出せるカードがある時は出しちゃいけないんだよ。
でも無いと嘘をついて出す事自体はルール上問題なくて。
それで次の人が『チャレンジ』ってコールしたら、四枚ドローを出した人は
コールした人に手札を見せなくちゃいけない。それでもし、
その中に出せた筈のカードがあったならば、
四枚ドローを手札に戻してその人に4枚カードが追加される。…って訳だよ」

「……そんなルールがあるんなら先言いなさいよ!あと長いわ!!」

「俺もさっき説明書読んで気づいたんだよ」

「じゃあそれを踏まえてもう一回!!もう一回やるわよ!翠も、ホラ…」

「…zzz」

「もう寝ちゃったけど…」

「よくこんな騒いでんのに寝れるわね!
…ならサシでやるわよ!!私が勝つまで、終わらせないわ!!」

「ひぃー…」

結局その日優也は楓に付き合って夜遅くまでカードゲーム。
翌日二人は昼頃に目を覚まし、朝ごはんを食べ逃した…。

82話『獣人』


その後も、暇があれば船内で語らう三人。今話している話題はアミィの仕立てた服についてだ。

「それにしてもこの服着心地最高だなぁ」

「このまま寝ても全く気にならないわね」

「おまけにこれ自動洗浄の魔法がかかってるみたいです。…ほら、優也さんが先程食事中にこぼした醤油の汚れが取れています」

「あっ…本当ね!」

「……あの、一々こぼしたこと覚えられてるの恥ずかしいんだけど」

「嫌ならもっと気をつけて食事しなさい?」

そして、そんなこんなで優也達は一週間を船で過ごした。
ご飯を食べて大海原を眺めたりカードゲームをして過ごしたり。
穏やかな船旅の日々がしばらく続いたのだった。

「大陸が見えてきたわ!」

最後の船での昼食を終えて数時間後。
甲板に出て来た優也達は、その先に広がる広大な大陸を眺めていた。
そして次の途端、アナウンスが船内から鳴り渡る。

『乗客の皆様にご連絡いたします。当便はまもなくティーア大陸、ドッグ湾に到着致します。お荷物の準備をお願い致します。』

「…着くみたいね。部屋に戻って早いところ荷物の整理しちゃいましょ!」

「あぁ、そうだな」



…ティーア大陸で一番栄えている港町、ベスティア。同名の国の首都でもあり、街を進んだ先の丘の上には城がそびえ立っていた。

「到着でございます、お忘れ物ございませぬようお気をつけて」

「ありがとうございました!」

船から降りた優也達の目に飛び込んできたのは、現地の住民達の姿だった。
耳が頭部の上の方から覗かせていたり、少し手や身体が毛皮で覆われていたり。
初めて見る獣人というものに優也達は目を見開き観察していた。

「あれが、獣人なんだね」

「あの人はウサギの獣人かしら?あの人は犬…すごいわね、いろんな人がいて目移りしちゃう」

「……」

「翠?大丈夫?」

「あっ…はい!獣人の方達がこんなにたくさんいるの初めてで、少し言葉を失ってました」

「よう、嬢ちゃん達見ない顔だね」

初めて見る獣人に心震わせていた三人は、そこにいた獣人のおじさんから声をかけられる。

「わわっ!」「ひゃあ!!」

接近に気付いていた楓以外は、思わず声を上げてしまった。

「おっと、驚かせてすまねえ。…あんた達、獣人族を見るのは初めてかい?」

「えっ!なんでわかったんですか?」

「珍しい物を見るような目で当たりを見回してたからさ。獣人のいない島は意外とあるからな。初めて見る奴の反応は何回も見てきたんだよ」

「そうなんですね…あ、俺の名前は真田優也です。…一応、冒険者です」

「私は桐谷楓。こっちは松村翠よ」

「……あ、あぅう……」

「…だ、大丈夫かそこの嬢ちゃん。…もしかして獣人は苦手かい?」

「あぁいえ!そういうわけじゃないんです。この子、初対面の人にめっぽう弱いってだけで」

「あっ……すみ、すみません……ま、ま、松村翠です」

「そ、そうか。っと…そうだ、俺も自己紹介せにゃならんな」

「俺の名はドイル・テガーロ。虎の獣人だ。気軽にドイルと呼んで構わんぞ」

「初めまして、ドイルさん!」

「ああ!このベスティアの街はいい所だろう?なんたって外国から人を迎え入れる玄関口だからな。この街に住む獣人族は、人族でも何でも変わらず接してくれるさ」

「そうなんですね〜!ちょっと安心しました」

「ただ、大陸の奥の方にある集落の連中はわからないがな。古くからの風習を大事にする奴らもいる。観光するつもりなら頭に入れとくといい」

「…そうなんですか、ありがとうございます」

そうして獣人の男は、別れていった。



「ここが今夜宿泊する宿ね」

優也達が泊まる宿は、豪華なホテル…でもなく、老舗の旅館…でもなく。
アパートのような、古い木造の宿だった。風呂付きで、一人一泊7050円。
前もって調べておいた、割と安めの宿。ただ、現在そこまでお金に困っている訳ではなかった。

今の優也たちの所持金は、アミィの仕事を手伝って稼いだお金に、翠が持ってきてくれた旅費。それと元から持っていた分、
おまけにカラフルアイランドを救った礼として島民からもらった謝礼を合わせて40万円という、中学生が持ち歩くにはなかなかの大金を抱えている。

「これだけあれば多少豪華な場所でもしばらく持ちそうだけどね」

「バカね、稼ぎ口が無い今節約するに越したことはないわよ」

「それもそうか…」

まだ日の沈まぬうちにチェックインを済ます。それから夕食をどこで食べるか三人で探すことになった。

「何食べたい?」

「美味しいものならなんでもいいけど、せっかくだし名物とかないのかしら」

獣人や泊まる宿の事を事前に調べてはいたが、名物などはリサーチしていなかった。観光ではないのだから当然と言えば当然であるが、あるのなら食べてみたい。
道ゆく獣人の方達に名物を訪ねたり、いいお店を聞いたりして回った。

「…ふむふむ、話に聞くとフィオレッツェっていう焼き魚が名物らしいな」

「獣人によっては、牛肉や豚肉とか食べれないのもいるらしいから魚料理が定着したみたいね」

「……あの、フィオレッツェ定食というものが置いてある食堂があるみたいです。ここにしませんか?」

見つけたのはこれまた昔ながらのどこか懐かしい雰囲気の漂う小さな食堂。犬の獣人のおばちゃんが接客と料理を振る舞っていた。

「あーらいらっしゃい、可愛らしいお客様ね。こんばんは」

「こんばんはー。三人、入れますか?」

「どうぞどうぞ、ウチの店割といつも空いてるからね。まぁいつもそれじゃ経営に困るけどね。あはははは!」

豪快に笑うおばちゃんの案内で三人は質素な椅子に腰を下ろす。

「…じゃあみんな定食でいいね?」

「いいわよ」「はい」

「すみませーん!このフィオレッツェ定食っての3つお願いします!」



「また来てねぇ」

「いやあ、すごく美味しかったなぁ」

定食を食べ終えた三人は、おばちゃんに見送られながら宿への帰路を歩いていた。

「焼き魚なのに揚げ物みたいにサクサクしてて美味しかったわね。骨までたいらげちゃったわ」

「…塩しか振ってなかったのにあんなに美味しかったのは、素材の味が良かったからなのでしょうか」

「きっとそうだね」

宿に着くと三人は順番にお風呂に入り、その後旅の疲れを癒すようにすぐ眠りについたのだった。

83話『ギルド』


翌日、三人は綺麗に朝7時に目覚める。

「うぅーん、朝一番はやっぱり窓から入る日差しが……日陰だここ」

「起きたらまず朝日を浴びたいのはわかるわ」

三人はささっとチェックアウトをすまして、朝食を食べに出かける。


「あらぁ、また来てくれたのね〜」

食堂で出迎えるおばちゃんの温かい笑顔に思わず三人も笑顔が綻んだ。

「この、日替わり定食をお願いします」

「は〜い」


「それでね、今日はいよいよギルドに行きたいと思うの」

「ギルド…ですか」

「冒険者が旅の資金を集めるにはもってこいの場所みたいだね。うちの住んでる国やカラフルアイランドには
無かったからみんな行くの初めてだよね?」

「そうですね…ギルド自体は聞いたことありますがどんなものかは…」

「待ってね、前にメモしたやつ取り出す。…あった、これこれ」

『ギルドは、モンスターの討伐依頼に素材収集、護衛などといった
クエストを受けられ、その対価として報酬が得られる。
逆に、報酬を設定し冒険者にクエストとして依頼を出すこともできる。
簡単に言ってしまえば、冒険者の為のアルバイトを募集している施設である。』

「…っていうのがギルドの概要らしいよ」

「モンスター討伐の依頼なら、私たちの目的にも近しいしお金も得られるしで一石二鳥なんじゃないかしら」

「なるほど…これから旅をするからには行っておきたいですね」

「うん、それじゃあパパッと食べて行きますか」


ベスティアの中央に立つ、大きな建造物。
冒険者に街の住民が行き交うその施設の名は…ギルド『フェアリーブレイド』。
世界中に一番多く支店などが点在するギルドである。
入口には大勢の人が入り混じっていた。

「すごい建物だなぁ…」

「圧巻されちゃうわね。…早いとこ入りましょう」

行き交う人達にぶつかりそうになった楓が、二人を急かす。

「ああ」

中に入ると、二階への階に、三つの受付。
そのうちの一つに沢山の人が列を作っていた。
その列を除いた椅子やソファには冒険者と見られる派手な装備を着た者達や
ガラの悪そうな人もそこそこいた。

「……こ、こわいひとがいますね」

「大丈夫よ、私がついてる。」

怖がる翠を楓が和める。

「えーと…クエストを受けるには…受注受付かな?」

優也達は受注窓口と書かれた場所へ足を運んだ。
意外にも、受注窓口は数人程度並んでいるだけで空いていた。…混んでいたのはその隣の窓口。
人が並び過ぎてなんの窓口かは、よく見えない。

「いらっしゃいませ。冒険者ギルド『フェアリーブレイド』へようこそ。
依頼の受注ですか?」

受付にいた、獣人のお姉さんに話しかけられる。獣人なのはこの大陸だからだろう。

「はい、今受けられる依頼ってありますかね…」

「でしたらギルドカードの提示をお願いいたします」

「……ぎるどかーど?」

優也は何それ、といった表情で聞き返す。

「……あっ。もしかしてお客様…ギルドのご利用は初めてですか?」

「えっと…はい。実は今日初めて来まして…」

「ああー、でしたらこの隣の『冒険者窓口』に行ってくれればわかります!!」

「な、なるほど。わかりました!」

そう言い優也達は踵を返した。

「リサーチ不足でしたね…」

「うん。誰でも依頼をすぐに受けられるものだと思ってたよ」

「ねえ、冒険者窓口って…まさかこの大量の列ができてる所じゃないわよね…?」



嫌な予感はよく当たると言う。
だが今回ばかりは違った。冒険者窓口は、列ができてる窓口の更に隣。
なんなら並んでいる人が一人もいなかった。
優也達は安心と共に、受付へ足を運んだ。

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドの利用は初めてですか?」

「はい」

冒険者窓口にはまた別のお姉さんが担当していた。これまた獣人だ。

「それでは、ギルドカードの申請ということでよろしいですね?」

「あの、ギルドカードっていうのはなんですか?」

そう聞く優也に受付員は説明を始めた。

「はい、簡潔にご説明いたします。ギルドカードというのは冒険者の情報が記載されたカードの事でございます。ギルドから発行される魔道具のカードで、冒険者様の情報などが自動的に更新される優れものなのです。ギルドで依頼を受けるのに必要不可欠なものです!」

「な、なるほど…。では三人分の申請をお願いします」

「わかりました!それではこちらの紙にフルネーム、現在の年齢、誕生日、種族を記載してください」

「種族か…俺たちは…なんだろう?ただの人?」

改めて聞かれると、なんと書けば良いのかわからない優也達。
人や人間と書こうにも、獣人達だってそう呼ぶことがある。考えながら迷っていると、受付員が口を開いた。

「自身の種族が曖昧な様でしたら、簡単な種族確認の項目がございます」

そう言って渡された紙には、いくつもの質問にはいかいいえで答える項目があった。

「耳が尖っている種族か…身長は低い種族か…魔力が一際多い種族か…いろいろあるわね」

優也たちは大概の項目に『いいえ』を選び、提出をする。

「……なるほどなるほど。あなた達はオーソドックスな『人間』の種族のようです」

「あっ…人間で良かったんですね。てっきり人間って、獣人とかの種族を全部括ったものかと思ってました」

「その認識は間違いではないです。ただ、人間はこの世界で最もメジャーで、目立った特徴も持たず能力も平均的な種族ですから、人型の種族を広く呼称したりする際にも用いられます」

「へぇ、初めて知ったわ」

「学校じゃ習わなかったよな?」

「えっ」

ぼそっと呟いた優也達の言葉に受付員が思わずを反応する。

「……なんか変なこと、言いました?」

「いえ…失礼しました。ただ…種族などに関しては、殆どの学校で、大抵習う常識でしたので。学校に通われてた方が習って無いと言うのは珍しいと思ったのです」

「そ、そうなんですね」

「…学校へ通ってないと思われてたのね私たち。まぁこの歳で冒険者になってるって考えたら、そう思われても仕方ないのかしら」

嫌味に聞こえてしまうと思った楓は、優也に耳打ちでそう思った事を話す。
だがその配慮も虚しく、獣の耳を持つ受付員にはしっかり聞こえてしまった様だ。

「た、大変申し訳ありませんでしたぁっ!!」

そう言い受付員は深く頭を下げた。楓も多少責任を感じ応対する。

「い、いえいえこちらこそ!そんなに謝らなくてもいいです!…うちの地域が特殊なだけですよきっと。」

(それもあるだろうけど、この人も俺たちの事情なんて知りもしないし仕方ないよな)

その後優也達は残りの自分達の情報を書き留め、低姿勢になる受付員を宥めつつ、カードの作成を申請したのだった。



「…お、お待たせいたしました。ギルドカードの作成が完了しましたのでお渡しします」

「ありがとうございます」

数分後、ようやくギルドカードが出来上がり優也たち三人は受付からそれぞれのものを受け取った。
…あれから少し経つがそれでも受付員は申し訳なさそうに接して来る。

「あれ、証明写真!?いつの間に…」

「ギルドに来る人は皆、防犯も兼ねて映写魔法で顔を撮影されているんですよ。ギルドカードの作成や更新にも利用されるわけです」

「……絶妙に無表情の時の顔を切り取られてるわね」

その他に名前や空欄、そして左上にある『E』の文字を確認した優也達は
カードをしまうと、依頼を受けに受注窓口へ再び向かうのであった。

84話『はじめての依頼』


「すみません、さっき依頼を受けにきた者なのですが」

再びできていた列に並ぶこと数分、優也達の番が回ってきた。

「あっ先程の!ギルドカードの作成は完了しましたか?」

「はい。これでいいんですよね?」

そう言うと優也はギルドカードを受付員に提示した。

「……はい、問題ございません!それでは受けられる依頼はこちらになります。」

そして優也達に見せられた依頼というのは…

『薬草採取(E)』
『毒消し草採取(E)』
『ドブさらい(E)』

「…これだけ?」

三人が受けようと思っていたモンスター討伐の依頼が無い。更にラインナップも微妙と来たところだ。
楓が耐えきれなくなり、受付員に問いかける。

「あ、あの!モンスター討伐の依頼って来てないんですか?」

「モンスター討伐依頼!そうですねぇ、モンスターの活性化により依頼自体は沢山来ているのですが…」

そう言い受付は隣の長蛇の列を見る。

「…あっ、隣の混んでる列はクエストの依頼をする窓口だったんですね」

「はい、そうなんですよ。ですのでこちらとしても討伐依頼を受けていただくのは大変助かるのですが…
申し訳ございません。…Eランクの冒険者は、モンスター討伐の依頼を受けることができないのですよ」

「Eランク?…あっもしかして」

優也は自らのカードに指をさす。

「このEっていう文字のことですか?」

「はい、その通りです。…説明がまだでしたね。冒険者にはランクというものがあります。
E、D、C、B、A、Sと…ランクが高ければ高いほどその冒険者の実力を表す指標になるわけです。
そして階級ごとに受けられるクエストは異なります。実力の伴わないクエストを受けさせては
死んでしまう事があるからです。その為なりたての冒険者は、
たとえいくら実力に覚えがあろうと皆等しくEランクから始まります。
……ご理解、いただけたでしょうか?」

「えっと…じゃあ、ランクが上がらなかったら、モンスター討伐は受けられないってこと…ですか?」

「はい。」

「ランクを上げられる方法はなんですか?」

今のままじゃ討伐依頼を受けられないと知り、
すかさずランク昇格の方法を尋ねる楓。

「Cランクまでは通常であれば依頼を回数こなせば昇格する権利を得られますね。あとは仕事が早かったり、丁寧であれば昇格も早いです。
ちなみにBランク以降の昇格は、試験があったり大きなクエストをこなす必要があったりと条件がややこしいので省略させていただきます。」

「……じゃあ、この三つの中から選ばなきゃいけないか…」

「はい、そうなりますね。ちなみにランクを上げるなら薬草や毒消し草の採取です。街の外に出るため危険はありますが。
お金と安全性を選ぶなら、どぶさらいでしょうか。…人手が少ないので。」

(……やっぱこの中だったら薬草採取かなぁ…)
「…どれにする?」

優也は既にもう自分では決めてた。がしかし一応楓にも判断を仰ぐ。

「薬草採取かしら。どぶさらいは…ちょっと嫌ね。好き嫌い言ってる場合じゃないのはわかるけど、
今はそこまでお金に困ってないし、早くランク上げたいもの。薬草集めのほうが絶対いいわ。翠的にはどうかしら?」

「あっ……はい。私も薬草採取でしたら十分お役に立てると思いますので…」

「そっか、翠は植物に詳しいものね。薬草採取はもってこいの依頼じゃないかしら?」

「みんなの意見が一致してるみたいで良かった。それじゃあ、この薬草集めでお願いします」

「了解致しました。それでは確認いたします。依頼を受ける人数は今いらっしゃる三名。
今回の依頼内容はベスティアの郊外などに自生している薬草を10本集めて、こちらへ納品してください。
期限はございませんが薬草は新鮮な状態が好ましいです。
以上です。…確認した内容がよろしければ、御三方、ギルドカードの提示をお願いします。」

「はい、わかりました!」

「それでは、失礼して…」

受付員は優也達のギルドカードを手に取ると、すばやい手つきで印の様なものを書き連ねる。
するとカードが光り輝いて『薬草採取(E)』の文字が空白だった欄に現れた。

「そちらが今受けている依頼になります。今回は期限がない依頼ですが
期限が設定されている依頼は残り日数などの時間も表示されるのです。」

「へえ、なるほど…。」

「それでは初めての依頼、頑張ってください!」

受付員からの激励をもらい、優也達はギルドを出る。何はともあれはじめての依頼。
完璧に仕事をこなそうと優也たちは意気込んでいた。






「……えっ、これでおしまい?」

優也たちは困惑していた。
その手に握られているのは10本の薬草。
街を北へ出て少し進んだ先に少数のムチンと遭遇し、
それを退治した場所に薬草が群生していたのだった。

「…はい。これは間違いなく、薬草です」

翠の太鼓判を頂いたので、優也たちは納得せざるを得ない。

「随分、あっさりねぇ…。多少簡単だとは思ってたけど…ここまでとは拍子抜けしたわ」

…この薬草採取の依頼、実は初心者の冒険者に合わせて難易度が設定されている。
薬草にはムチンが数匹程度集まる。ムチンは初心者でも割と安全に倒せるモンスターなのだ。
更に街からそう遠くないため他のモンスターと遭遇する危険も少ない。
戦闘慣れしてない冒険者を慣らすにはうってつけの依頼なのである。

優也たちはもう散々モンスターと戦ってきた上に、(おまけにムチンはもう既に大量に倒した経験がある)
アミィ達の作った高性能な装備を身につけているためこんなにも早く依頼が終わってしまったのだった。

「流石に早すぎるしさ、必要数以上採ってく?そしたら多少ランク昇格に…」

「そ、それはやめた方がいいと思います」

人の提案を珍しく否定する翠。優也は少し驚いて翠に向き合った。

「あ…その。不必要に多く採るのは自然に悪いんです。下手をすれば生態系を破壊しかねないですし…」

「あぁー…そうだね、初心者が下手な事しない方がいいか。うん。…それじゃ戻ろうか」

初めての依頼がものの十分足らずで完了し、優也達は依頼完了の達成感も
得られぬまま、ギルドへ帰るのだった。



「お早いお戻りですね」

受付の机に並べられた10個の薬草に受付員も苦笑いをこぼす。

「一応、ちゃんと採ってきましたよ」

「あの、失礼ですが、もしかしてあなたがた結構…戦闘慣れしています?」

「ええ、まぁ。ムチン程度でしたら簡単に倒せますよ」

これは謙遜である。本当ならばムチン以上のモンスターとも今の三人は戦える。
しかし、受付員には今の受け答えで十分だった様だ。

「なーるほど…。戦闘慣れした人材をいつまでもEランクに置いておくのも
宝の持ち腐れでしょう。…念のため、後二回ほど薬草採取の依頼を受けてみてください。
その成果によっては即刻ランク昇格もあり得るでしょう!」

「本当ですか!?」

想像以上の早さでランク上げができると知った優也達は
薬草を納品すると、嬉々として次の依頼を受けることにした。

85話『性悪な同業者』


その後同じ内容の依頼をもう一度受けた。
1回目と同様一瞬で薬草採取は終わった。
変わらぬ仕事の速さに、受付は新たに一つの提案を出す。

「毒消草採取の依頼ですか?」

「はい。薬草より生えてる数が少ないので初級冒険者が手間取る依頼です。
この依頼を今日中にこなす事ができたら、ギルドマスターに直々に掛け合ってみましょう!」



ベスティアの街から西に進んだ平原。毒消し草がよく採れると
説明された場所に、優也達は立っていた。

「……ここに生えてるのも、薬草ですね」

「全然生えてないじゃない!これじゃ依頼数の10本達成出来ないわよ!!」

先ほどと打って変わって全く見つからない毒消し草。

「教えられた場所が違うのかな?」

「……いえ、合ってると思います。ここを見てください」

そう言って翠が指差す場所には土が掘り返された跡。

「おそらくここに生えてる毒消し草は先に誰かが根こそぎ採っていってしまわれたんだと思います。
ほらここに転がっている根っこ…特徴的では無いですが毒消し草のものと酷似してますよね」

「してますよねって、違いがわかんないんだけど…」

「あぁ、このままじゃ日が暮れちゃうわ!すぐに終わらせて、昇格しようと思ったのに…」

「ヘヘへ…困ってるみてえだなぁ」

「……誰ッ!?」

突然知らない人の声がして一斉に振り向く三人。

そこにいたのは頭から耳を覗かせている三人の獣人達。
左からひときわ背が高いゴツゴツの男、リーダー格であろう赤い髪の女、冷めた目をしている長髪の男。
どれも優也たちより一回り年上で背丈が大きい。
そして何より…怖い顔つきをしていた。
彼らを目の当たりにした翠は、楓の後ろに隠れる。

(…あっ、この人達…ギルドにいたような…)

「あなた達、誰よ?」

優也が考えてる隣で、楓が質問を問いかける。

「ここいらで、冒険者として生計を立ててる『狼牙の流血』だぜ」

「あなた変わった名前ですね」

「パーティ名だボケッ!!」

「ルーヴ…こっちが惑わされてどうする」

「はん、黙ってなロプス!!ちょっと突っ込んだだけだ」

怒鳴り散らす彼女を、落ち着いた男が抑制する。

「それで?…他の冒険者達が、私たちに何の用があるってわけ?」

少しきつめの言い方だが、相手もガラが悪そうな三人組だ。
楓は少しだけ敵対心を見せつつそう言った。

「あぁ。お前達、今毒消し草を探してるけど見つかんねえんだろう」

「……うん。そうだけど」

そう答える優也に獣人たちはあるものを取り出す。

「これ〜、なーんだ?」

「っ…!毒消し草…」

「え!?あれが毒消し草!?」

目に入った途端、翠が小さく声をこぼした。

「おっ、そこの緑の奴はわかってるみてえだなぁ。別にくれてやってもいいぜ〜?
アタイたち今、毒消し草には困ってねえんだよ〜」

「えっ、いいんですか

言い終わる前に突き出される、三本の指。

「ただし……一本につき、三万な」

ニヤリと笑いながら指を立てる女。仲間の男たちも心底嫌味な顔でこちらを見つめていた。

「た……高すぎるわっ!!」

楓は嫌な予感が的中し、荒げながら不満の声を上げた。

「高えって、市場の値段知らねえだろ〜?市場じゃ毒消し草ってのはもっと高ぇんだよ。
なにせあらゆる毒を消せるんだからなぁ。しかもここ以外じゃあんま採れねえんだぜ?
だからこれでもだいぶお買い得ってわけ。ほら、ギルドにはアタイ達から買ったことは黙っててやるから…

「……そっ…そ、れは……違いますっ!!」

「あ?」

「ひっ…」

凄む相手に、言い淀む翠。…だが意を決して自分の言いたいことを言った。

「…ど、毒消し草は…あくまで小さな毒を抜く程度の植物です。ちょ、調合すればすごい薬も作れますが…。
それに希少性もそこまで高くありませんっ。で、ですから…一本2万円という値段はお…おかしいです!」

「んだテメェごら、ああ!!?アタイらの商売にケチつけようってのかオイゴラ!!!!」

「きゃああっ!!ごめんなさ…

「謝ることないっ!!!!」

そう叫ぶ楓の圧に、興奮していた相手も、一歩下がる。

「間違ったこと言ってないんでしょ、翠!!それならもっと堂々とすればいいのよ!!」

「は、…はいっ」

「な、なんなんだよテメェら…」

「…そういう事なので。悪いですが、狼牙の流血さん。俺達はあなた方から毒消し草は買いません」

「……チッ、んだよクソがっ!!クソクソクソッ!!!!常識ねーから引っかかると思ったのによ!!
だったらずっとそこで、チマチマ無ぇモン探しとけや!!!!
まったく無駄な苦労で終わったぜクソッタレ!!……おい、行くぞテメェら!」

そう捨て台詞を吐き、嵐のような三人は消えていった。

「……っはー…」

ペタリと座り込みため息をつく翠。

「すごく怖かった……」

「ありがとね翠!あなたすごいじゃないの、あんな強面に面と向かって自分の思ったこと言えるなんて」

「は、はい…じ、自分でも驚いてます」

「ふー…飛んだ邪魔が入ったけど。毒消し草探し頑張ろうか」

「そーね。あー変な事で時間無駄にした!」

その後、日が暮れるまで毒消し草の捜索をしたが、毒消し草は隅々までほとんど刈られており、
依頼達成をその日のうちに終わらせる事はできなかった。

86話『冒険者は死と隣り合わせ』


日が暮れて宿に戻る三人。その顔はいずれも暗く、荒れていた。
……主に楓が。

「まったく頭にくるわ!!あいつら今度あったら…」

「いい加減機嫌なおせよ…」

「よくそんな冷静ね。優也は頭に来てないわけ!?」

あれからずっと毒消し草を探したが、全て刈り取られていたのだ。
先ほどの冒険者達の発言から取っても、彼らがやったことは明白。
お金を騙し取られそうになったことと重なり、楓の鬱憤は溜まっていた。

「いや…確かにイラッとはしたけどさ、隣にこんな怒ってる人がいたらそりゃ冷静にもなるよ」

「か、楓さん…ちょっと怖いです」

二人の言葉に、楓はようやく落ち着きを取り戻す。

「……はあ…。確かに、ちょっと怒りすぎかも。二人とも悪かったわよ」

「か、楓さんは何も悪くは…。」

「よーし!美味しいものでも食べて機嫌を紛らわせようか。今日もあの定食屋でいいね?」

優也の提案に二人の表情は明るくなる。

「…もちろん!こうなったらやけ食いよ!気がすむまで胃にぶつけてやるわ!!」

「……体調不良にならない程度で頼む」

こうして、初めてギルドで依頼をこなす一日は終わりを迎えるのだった。



「……そうですか。理由はともあれ、昨日中に達成出来なかったのなら仕方ありません。期限はいつでも構いませんので毒消し草の納品頑張ってください」

昨日の事を報告するもそっけなく受付に返されてしまう。
ギルドも冒険者同士のいざこざには深く首を突っ込まないのだろう。

「昨日せっかく一目置かれたと思ったのに。見限られちゃったかな」

「…仕方ない。行くわよ!今日こそ毒消し草の依頼を終わらせるの!」

一晩経って楓も冷静になっていた。
そこに優也が一つ疑問を発する。

「…でもさ、結局どうするの?昨日行った場所はみーんな刈られ尽くされちゃった訳だし…」

「……なら、少し街から離れた場所に行きませんか?流石にモンスター討伐依頼でなければ
遠くまで毒消し草を摘みに行く人もいないと思うんです」

「…うん、それしかないね。それじゃ地図でも見ながら、毒消し草が生えてそうな場所でも探そうか」

そう言いながら、ギルド内の備え付けの地図帳を探る三人を陰から付け狙う目。

「……ククッ。おいおい聞いたかロプス、リガラ。今度もアタイらが先回りして、邪魔してやろう」

「アネゴ、なんでアイツらにつきまとう。アイツら騙せない、良いカモにはならない」

巨体の男…リガラという名前の男が、疑問を投げかける。

「んだよ…だって癪に触るじゃねえか。昨日冒険者になってきたばかりの奴らが
アタイらがそこそこ苦労して昇格したDランクに一日やニ日でならせてたまるかっての。
それにあいつら生意気でムカつくんだ。冒険者ってもんをわからせてやんねえとなぁ?」

「またルーヴの悪い癖が働いたな。そんな事よりもっと効率的に金を稼ぐ方法を考えた方がいいのに」

「うるせぇ、アタイに指図するってのかい?」

「……はぁ。お前の好きにしろ」

三人は、優也達の話をしばらく盗み聞きした後、足早にその目的地へと先回りしに行った。




「なるほど、毒消し草を狙うならここが良いってわけね」

「そうですね。気温と湿度、その他生物の生態系を加味して考えてもここが最良だと思います」

「でもここにいくなら要注意しなきゃね。奥深くまで行きすぎると、俺たちでもキツイモンスターが出るらしいから…」

あれからギルド内にある資料を探りに探り。翠の知識と組み合わせて三人の目的地は決まったようだ。

「それじゃあ早速、行きましょうか」

「…の前に、ちゃんと後片付けしないと」

三人の目の前に広がるのは自分達が机に広げたベスティア近辺の地理や気候の資料の数々。

「…この本どこに閉まってたかしら」

「それはそこの本棚、後それは向こうだったはず。とりあえずその本頼むよ、俺はこっち片付けるからさ」

「わかったわ。…ふう、ちょっと散らかし過ぎたわね…あら」

自分たちが出した資料の元の在処を探すのに四苦八苦していた楓は、
ギルド内に記されているとある物をふと見つけた。

「……冒険者死亡数」

死亡。そう、冒険者は常に死と隣り合わせ。
凶暴な魔物に襲われてしまえば、対抗する手段のない人間は簡単に死んでしまう。
その厳しい現実が、数値として記録されていた───はずだった。

【冒険者死亡数 今日:0人 今週:0人 今月:0人】

「……?意外と冒険者って死なないのかしら」

「そんな事はありませんよ」

背後から声が聞こえた。

「うわっと!…あなたは?」

そこに立っていたのはローブに身を包んだそれは怪しい女性だった。
隙間からはメガネと、赤い服がのぞいている。
怪しさに楓は思わず警戒心を高める。

「失礼、私は名乗るほどのものじゃありません。…ただのしがない旅人です。
そちらを見られて、勘違いされてたようなのでお声かけしました」

「……という事は…この数値は普通じゃないって事なのね」

「さよう。本来であれば冒険者は1週間あれば数名亡くなられるのが残念ですが現実なのです。
ですがどういうわけか、先月の中旬頃を皮切りに、ピタリと死者数が止まったのです。
更に…あちらも、ご覧いただけますか」

「あれは…魔物による死者数?」

遠くに見える、これまた死者数を記録したボード。しかしその数値も全て0だった。

「冒険者どころか、国中魔物によって命を落としたものはいません。
凶暴な魔物に襲われたという報告こそ何件かあったようですが、
いずれも死には至らず、魔物は退いていったとの事。なんとも不思議ではありませんか?」

「へぇ〜…それはちょっと不思議…っていうか貴方なんでそんな事知ってるのよ?」

「この話、街とかでは意外と話題になっているのですよ。
何せこのような事態はギルドが設立してから一度も無かったものですから。
それにしても…貴方、中々いい腕の持ち主ですね。炎魔法が得意でしょう?」

「えっ?…なぜ分かったんですか?ってこの服か」

苦笑いしながら楓は真っ赤な炎のような自分の装束に手を当てる。

「…確かにその炎のような装いも判断に至った一つです。
ですがもっと確実な根拠があるのです。それは私も火属性の魔法を扱うのが得意という事。
自分と同じ才を持つものは、ある程度感じ取ることができるのですよ。

…おっと。話が逸れてしまいましたね。
ともかく、冒険者は常に死と隣り合わせという認識は持っていておいた方がいい。
貴方が今月最初の死亡者にならぬ事を心より祈っておりますよ。ではまたどこかで」

そう言うと女は後を去っていった。

「……なーんか怪しい人だったわね。ギルドってやっぱり変な人多いのかも…」

「おーい楓。お前の本ちゃんとしまえたか?」

「あっ…ごめん。他のことに気を取られて忘れてたわ」

「おいおい…」

そこから数分。資料の片付けに時間を使い、三人は毒消し草の依頼を今日こそ
完了させるため、目的地に向かった。

87話『森の審判』


「ここがアイツらの目的地なの、アネゴ」

「ああそうさ。しきりにここの情報を調べてたから間違いねえ」

ここはヴェットウッズ。ベスティアの街から西に少し進んだ先にある、草木が生い茂る森である。

「……なぁルーヴ。やっぱり帰らないか?こんなとこでアイツらに構っても俺らに何も得はないぞ」

「うっせえっての。ちょっとここらの草刈り尽くすだけだよ。それが終わったらまた別の冒険者からかいにいこうぜ」

「……はぁ。さっさと終わらせるぞ」

そう言いながらロプスは構えをとる。

「人狼斬」

綴られた言葉の次に放たれたのは一閃。
辺りに生える毒消し草や木々も切り裂く一撃を放った。

「ダズブリング」

大きな剛腕を高く振り上げ地面に叩きつけるリガラ。
地響きと共に、生えている植物を土ごと引き抜く。

「んだよお前ら。結構やる気あんじゃねえか!
んじゃアタイも行くぜ…オラァ!」

ルーヴは敢えて技を使わず、手当たり次第生えてる物を切り刻んで行った。

「…あーめんどくさくなってきたぜ。焔蛛・パウーク!」

手に持つ得物に、炎の力を宿し放たれる突き。
突きからは糸状の火が生成され、
草木に絡み、その表面を焦がしてゆく。

「ひひはははははは!!!!いいぞ燃えろ燃えろォ!!アイツらの採り分全部燃やし尽くせぇ!!」

「おいルーヴ!森に火をつけるな、魔物の怒りを買って寄ってくるぞ!!」

「そんなの、来る前に撤退すりゃいいだろうが。それにもしかしたらあいつらと
鉢合わせになってうまい具合に襲うかもしんないぜ!ひはははは!!」

森に火を放ち声を上げ笑うルーヴ。しかし彼女達は背後からやってくる
モンスターの影に、気が付かなかった。

「んがッ!!」

背中を思い切り殴り飛ばされ蹌踉めくルーヴ。それを見た二人も襲いかかってきたモンスターの存在に
ようやく気づく。

「なっ…!イーグルタイガー!?」

イーグルタイガー。Bランクの冒険者でも討伐に手こずるモンスター。
彼らCランクの冒険者には手に負えない相手だ。
滅多に姿を現さないが、
住処である森が荒らされた時姿を表すと言われている。

「グルァアアアアア!!」

イーグルタイガーが一吠えすると、あたりに広がっていた炎は鎮火した。

「っテメェエエ!!!!いきなり何しやがんだ、クソッタレがぁああああ!!!?」

突然襲われたルーヴはガチギレ。一目散にイーグルタイガーに飛びかかる。

「死ねええ!!この、クソ虎がぁあああああ!!!!!!」

「ダメだルーヴ!!やめろ!!」

剣に宿した炎が2メートルを超えるほどの爆炎になり、相手の喉を掻っ切るように狙う。
……がそれは甘い。

「っな!?アタイの一撃を受け止められただとぉ!!?」

鋭い爪で剣を易々と受け止めるイーグルタイガー。おまけに炎も全く効いていない。

「アネゴォ!!!」

背後からリガラが、相手の背に目掛けて剛腕を振り下ろす。

「グルァゥ!!」

「っぷがぁ!?」

しかし遅い。大きな振りが到達する前に、
イーグルタイガーの後ろ蹴りで弾き飛ばされてしまった。

「頭を冷やせ!!イーグルタイガーに火属性の攻撃は効かない!!
今の俺たちじゃこいつを倒せる手立ては無い!!」

ただこの場において冷静だったロプスは二人に逃げるよう促す。
…しかしルーヴは全く聞いていない。

「るせぇ!!このクソぶちのめさねえと腹の虫が治んねえだろうが!」

再び剣に火を灯すルーヴ。火が効かないのは分かってる。それでも火力の底上げに有効なのだ。

「らぁああ、火閃・乱れ討ち!」

乱れるように放たれる灼熱の突き。だがそれすらあしらわれている。
片手だけで、まるで赤子の相手をするかのように。

「くそぉおおおおおお!!!!」

「グルァ!!」

「っがふゅっ…!?」

もう片方の手の爪で思い切り体を引っ掻かれ、彼女はあえなく倒れる。

「ルーヴ!!」「アネゴ!!」

ロプスとリガラが彼女にかけ寄ろうとする。しかしイーグルタイガーはそれを許さない。

「くそっ、ルーヴから離れろこの化け物!!」

「アネゴ、今助ける!!」

二人が一斉に攻撃を仕掛ける。だが先程のルーヴ同様、簡単に受け止められてしまう。

「こいつ…オレの攻撃 効いてない!?」

「こいつはなぁ、持ち前の馬鹿力も危険なんだよ!つまり俺たちじゃはなっから相手が悪すぎんだ!!」

「グルァアアア!!!!」

「「ぐわぁああ!!」」

咆哮と共に木に向かって弾き飛ばされる。
二人は既に立ち上がることが困難になっていた。

「ぁ…う…。…待て…おい。やめろ…!」

イーグルタイガーは2人に照準を向けていない。床に倒れ伏す、ルーヴにその鋭い爪を立てていた。

「やめろ…狙うならこっちにしろってんだ……やめろ…おい、やめろぉおおおおおおおおお!!!!」

鋭い爪は容赦なく急所である胸元に振り下ろされた。








「フロスト!!」

どこからともなく詠唱と共に氷結魔法が降りかかる。

「グルッ…!」

当たった魔法は振り下ろされた腕を凍らせ、イーグルタイガーの動きを止めた。

「お、お前らっ…!?」

「こんなとこでアンタ達とまた会うなんてね。まーた私たちの邪魔する気だったのかしら?」

そこに立っていたのは騒ぎに駆けつけた、優也達だった。

88話『奇妙な一撃』


「楓、俺が食い止める、お前はアイツのそばに倒れてる子を頼む!」

「わかったわ!!」

「フロスト!!」

中級の氷魔法は最も容易くイーグルタイガーの身体を固めて行く。

「よしっ…掴んだ!」

楓がルーヴの体を抱き上げた。
しかし中級魔法程度で完全に動きを止められるほど、やわな敵ではない。

「グルゥ…ゥオオオ!!」

自慢の馬鹿力で固まった体を無理やり動かし、氷を破壊しようと動く。
そうこうしているうちに、氷にヒビが回った。数瞬の内に、懐にいる楓に攻撃が飛ぶだろう。

「氷結斬!!」

そうはさせまいと氷が割れるより早く優也は氷の斬撃をけしかける。
それによりイーグルタイガーも少し怯む。だがそれでも腕を振り上げ
攻撃体制に入る。

「サヴェンマ!」

「…助かった、翠!!」

翠と優也の決死の攻防により、楓はルーヴを安全な場所まで運ぶことができた。

「…そこの力持ちそうなアンタでいいや。キュアー!!」

楓は倒れていたリガラに回復魔法をかける。

「……ぐ…なぜ。なぜ俺ら助ける?俺達、お前ら騙そうとした。今回だってお前らの依頼の邪魔を…」

「なーに言ってんのよ、少し意地悪されたくらいで、
殺されかけてる人を見殺しにするなんてできるわけないじゃないの。
ほら回復してあげたんだからとっととそこの二人担いで逃げなさい!」

「う……。わかった。」

「ま、待て…。そ…そいつは火に強い上に馬鹿力だ…気をつけろ」

「…忠告どうも」

回復したリガラは、ルーヴ達2人を担ぎ上げると一目散に森を抜けていった。

「火に強い、か。…せっかくこの杖の力存分に発揮しようと思ったのに。でも仕方ないか」

「サンダー!!」

楓が杖を振り、電撃の魔法を飛ばす。

「……グルゥ。」

あまり効いていないようだ。イーグルタイガーは楓に照準を合わせ突っ込んできた。

「氷結斬…ッ!」

横から氷の斬撃を与える優也。しかし剣は爪に挟まれ受け止められる。

「はぁああああっ!!」

すかさず楓も杖を振り下ろし攻撃をする。がそれももう片方の手で止められてしまった。

「グルァゥウ!!」

「うわっ!!」「きゃっ!!」

両手で掴んだそれぞれの獲物を持つ二人を、イーグルタイガーは投げ飛ばす。
そして、そのまま立て続けに攻撃しようと突撃してきた。

「サヴェンマです!!」

その突撃は翠の結界により防がれる。
イーグルタイガーも、高性能の杖を手に入れた翠の結界を破ることはできないようだ。

「さあ…今のうちに、魔法を!!」

「ナイスだ翠!!フロス…」

「待って優也。…ここは、水魔法を撃ってほしい。頼める?」

何か考えがあるのだろう。優也は楓の提案に乗っかった。

「…うん、わかった!ウォーター!!」

結界の隙間を縫って優也から放たれる、放水攻撃。ダメージこそほとんどないものの
イーグルタイガーは全身が水に濡れた。

「よーし。これならよーく効くんじゃないかしら?……メガサンダー!!」

楓の詠唱と共に、上空から雷が落とされる。

「グルゥオオオオオオッ!?」

隅々まで濡れた身体に電気はよく通る。
威力の高い電撃を全身に浴びたイーグルタイガーは
流石にダメージを負ったようだ。

「よっし…使えた!威力も申し分無し!!」

メガサンダー。雷属性の中級魔法だ。一週間あった船旅の最中に読んだ、
優也が買った本に載っていた魔法。度重なる戦闘で魔力が鍛えられた彼女が
初めて実戦で使った中級魔法だった。

「グルォアアアア!!!」

しかし今の攻撃により相手は完全にキレてしまったようだ。
翠の展開する結界を迂回し、攻撃しようと動き出す。

「…!そうだ。
はぁあっ!!」

向かいうつ、優也の斬撃。だが先ほどと同様受け止められる。

「優也、それじゃまた投げ飛ばされちゃうわ!」

「いいや、これでいいんだ。…フロスト!!」

詠唱と共にガッチリ爪で挟み込まれた
剣先から冷気が溢れ出す。先ほどの水魔法で濡れていたイーグルタイガーの身体は
先ほどにも増して凍りついていく。

「なるほど、さっきの水を再利用したわけね」

「……ガッ…!」

出来上がったのは氷の彫刻だった。

「よし、畳み掛けるぞ!!」

「ええ!」「はい!!」

「氷結斬!!」「とりぁああああッ!!」「アースソイルです!!」

優也と楓の物理攻撃に、翠までもが攻撃魔法を放つ一斉攻撃。

「ガァアアァアッ!!!」

「とどめだ!!」

最後に優也の斬撃が振り下ろされ、イーグルタイガーは倒れ伏した。

「……はぁ、はぁ。…どうだ!」

「…すごいです、あの凶暴な魔物さんを倒しましたよ!!」

「やったぁ!!私たちナイス連携!」

それぞれ嬉しそうに拳を交わしあう三人。

「…いやぁそれにしても強かったな。結構全力で戦ったよ」

「あらっ私はまだまだ本気出してなかったけど!」

「なっ、そんなこと言うなら俺だってまだまだ…」

「今全力出してたって言ったのは誰かしら?」

「あっ…あのお二人とも。毒消し草を探しましょうよ」

戦いを終えて、雑談しながらこれからどうするか話しだす三人。



…優也達は今この瞬間、完全に油断していた。

「……グルァアアア!!」

倒れていたかのようにみえたイーグルタイガーが突如起き上がり攻撃モーションに移る。
優也達は完全に不意をつかれてしまった。

「なっ…こいつ…まだ…!!」

そして、イーグルタイガーの爪が、近くにいた楓の首を
深く掻っ切ろうとする。

「ッ!?」

「かっ…楓ーーーッ!!!!」

「楓さんッ!!!!」

優也も翠も、咄嗟に止めようとするが────間に合わない。

(──死ぬっ!)

その間際、楓の脳内に一つの言葉が浮かび上がった。

『冒険者は常に死と隣り合わせという認識は持っていておいた方がいい。
貴方が今月最初の死亡者にならぬ事を心より祈っておりますよ。』

先程ギルドで聞いたばかりの言葉。この言葉の重みを、まさかこんなに早く知ることになるなんて。

(…でも、そんな。こんなところで、私……)







ドォオオン!!!!

一撃だった。たった一撃で、イーグルタイガーはその身を強く撃ちのめされた。

「グルァウ!?」

どこからともなく放たれた一撃は地面をも穿ち、吹っ飛ばしたイーグルタイガーを木に叩きつける。

「きゃっ!!」

「楓ッ!!」

倒れる楓を抱きとめる優也。

「楓…楓ッ…!大丈夫か、怪我はないか!?」

優也は泣きそうになりながらも楓の安否を確認した。

「えっ……ええ大丈夫、よ。それより…アイツは?」

「……完全に死んでいるな。…ほら、肉体がちゃんと消えていったよ…。
クソッ…さっきちゃんと、消えるまで確認するべきだった…」

そしてその場に残されたのは、イーグルタイガーからドロップされた魔石ただ一つ。
だがそんなことよりも。

突如イーグルタイガーを吹き飛ばし、大きく地面を抉った一撃。
それを巻き起こした正体はその後結局、優也達の前には現れなかった。

89話『Dランク冒険者』


「表彰 真田優也殿 桐谷楓殿 松村翠殿。貴殿らはBランクの
討伐対象『イーグルタイガー』の討伐に成功し、
冒険者パーティ『狼牙の流血』を救出、
並びに今後予想された被害を未然に防いだ事をここに讃える。
またその功績はDランク以上の実力であると認め茲に表彰する。
フェアリーブレイドベスティア支部ギルドマスター ゼブレット」

戦いが終わった翌日の昼過ぎ。優也達はギルドにて表彰を受けていた。
その内容は今言われた通り。Bランクの討伐対象モンスターを
Eランクが退け、襲われていた冒険者を助けたという功績はあまりに大きく
優也達は速攻でDランクに昇格することができた。

…しかし表彰されるにあたり、納得いかない点があった。

時は少し前に遡る。ギルドにて、今回起きた騒動を報告し、
表彰式を開く事が告げられた時の話。

「…初めまして。私がフェアリーブレイドベスティア支部のギルドマスター、ゼブレットだ」

戦いの傷を癒していた優也達の前に現れたのはギルドマスター、ゼブレット。
シマウマの獣人でガタイの良いおじさんだった。

「……ふむ。この魔石をみるところ…イーグルタイガーを倒したのは貴殿らで間違いなさそうだな」

「ですが、結局昨日アイツを倒したのは俺ら以外の何かなんです」

昨日イーグルタイガーを倒した一撃。アレは優也達でも狼牙の流血の人達が放った攻撃でもない
謎の、奇妙な一撃。結局それが無ければ勝ってたかも危うい。

「だが、途中まで奴を相手取り追い詰めたのは貴殿らであろう?」

その話を聞いた上でギルドマスターであるゼブレットは、優也達が表彰されるべきだと判断したようだ。

「それはそうですが…」

「素直にここは、表彰されておくべきだと思うな」

受付嬢のお姉さんが横から割り込んで言う。彼女は先日優也達にランク昇格の話を持ちかけてくれた人だ。

「あなた達、薬草採取の依頼も早かったし、狼牙の流血さんがあんな事しなければ順当にDランクに上がっていた筈。
だから何もおかしいことなんてないんですよ」

「みんなそう言うんだから、ありがたく受けときましょうよ優也。アイツらに邪魔されたDランク昇格がここで得られて良かったじゃない」

「……では、お言葉に甘えさせていただきます。」

こうして優也達は表彰を受け、晴れてDランク冒険者に昇格したのである。




一方その頃。

「っはー……やってらんね…」

項垂れる、狼牙の流血の面々。
自分達より格下だと思っていた冒険者に命を救われただけでなく
今までやって来た悪事の数々が、この機に暴かれ
ギルド『フェアリーブレイド』の3ヶ月間の利用禁止の処分を受けていたのだった。

「クソっ…アイツら…」

「でも、おれらアイツらに救われた。アネゴもアイツらがいなかったら、死んでた」

「…これを機に新人いびりはやめた方がいいだろうな」

「んなっリガラ、ロプス、てめえら寝返る気か!?」

「そんな事は言っていない。ただまた俺らが問題を起こせば冒険者としての資格は剥奪され
一生ギルドを利用することもできなくなるだろう。それでいいのか、ルーヴ?」

「……っ…」

その一言に言葉を詰まらせるルーヴ。苦虫を噛み潰したような表情をしながら彼女は立ち上がった。

「おいルーヴ、どこ行く気だ?」

一人で歩き出す彼女をロプスは止める。

「るせえ……いったん帰んだよ、文句あっか」

「お前…もうあそこには帰らねえって」

「黙れよ、んじゃ聞くが三ヶ月あのギルドも使わねえ、
金も騙し取らねえでどう過ごすってんだよ!!」

そういうと彼女は一人走り出していった。

「ロプス…アネゴ追わないと」

「あぁ…俺もお前も、あそこに戻るのは嫌だろうが、ルーヴの言うことももっともだ。仕方ねえ、追うぞ」

二人も彼女を追いある場所へと移るのだった。



「ねえ、せっかくDランクに上がったんだからお祝いしない?
ほら表彰と依頼でお金も結構手に入ったからさ…」

「……」

「う……ごめん。そんなことにお金使ってる場合じゃないか」

「…なーに言ってんのよ。はじめての昇格祝いぐらいやったって平気よ。
それぐらいの息抜きは大事だもの」

「……さすが楓、話がわかるな!」

「ねえ翠食べたいものある?」

「えっ……私の食べたいものですか?…パンとシチューが食べたいです」

「俺はお肉食べたいな。最近魚続きだったから」

「優也には聞いてないわ」

「そりゃないだろ!?」

「ふふっ冗談よ」

結局その日の夜はDランク昇格のお祝いとしてそれぞれの好きなものを食べ一日を終えた。




「すみません、クエストを受注したいのですが」

翌日三人は再びクエストを受けるためギルドを訪れる。

「いらっしゃいませ。あっあなた達は…」

「…?俺たちがどうかしましたか」

「先日表彰された方達じゃないですか。Eランクの冒険者がBランク級のモンスターを
倒したって、今話題なんですよ!」

「えっ…あ、そういえば…」

感じる。おとといよりも周りからの視線を。
しきりに会話している声も聞こえる。

「アレが噂の…」「パーティ誘おうかな…」「あの緑の子かわいいな…」
 「派手な服着てんな…」「狼牙の流血のやつら助けたらしいぜ…」

「……なんか、むず痒い気分だ」

「早いとこ依頼受けましょう。Dランクのモンスター討伐、受けられるのよね?」

「はいもちろんです。当ギルドとしてもあなた方の様な冒険者を
宝の持ち腐れしたくありませんので!
…ところで御三方、パーティを組む気はございませんか?」

「‥‥パーティですか?」

『パーティ』。…受付嬢の口から
何度か聞いた事のある言葉が告げられるのだった。

90話『パーティ』


パーティと聞いて思い出されるのはやはり先日関わったあの三人組のこと。

【ここいらで、冒険者として生計を立ててる『狼牙の流血』だぜ】

【あなた変わった名前ですね】

【パーティ名だボケッ!!】

またつい昨日の表彰でゼブレットが言っていた内容にも。

【冒険者パーティ『狼牙の流血』を救出、並びに…】

その為パーティとは何なのか、なんとなく見当がついていた。

「パーティって…チームみたいなやつの事ですか?」

「まあそうですね。複数人の冒険者同士が共に戦い、依頼をこなす関係にあたります」

「でも私たち既に一緒に冒険してるんですけど、それと何が違うんですか?」

「まず、誰かが依頼を受けた時同じパーティのメンバーが同じ依頼を受けていることになります。
これにより受付で一人ずつ依頼を受ける手間が省けるわけです。後はパーティメンバーが個々として
名を売れば他のメンバーもそれだけ名が売れるという効果も期待できるでしょう。
あとは…そうですね、他のソロの方をパーティメンバーに誘うという形で仲間に引き入れやすくなる点も
メリットでしょうか。」

「なるほど、パーティかあ…」

「面白そうじゃないの、私たちだけのパーティ。作りましょうよ!」

楓が面白がりパーティ設立に賛成する。

「冒険者パーティを立ち上げますか?」

「じゃあ…。せっかくなのでお願いします」

「わかりました!それではパーティ名、そしてパーティのリーダーを記入してください」

そう言って受付嬢は紙とペンを取り出した。

「パーティ名……」

「リーダー…」

パーティ名。ルーヴ達であれば『狼牙の流血』など
そのチームの特徴や個性、信念などを由来とするものだ。

「パーティ名って言ったってそんなすぐには出ないなぁ…」

「それじゃリーダー先に決める?…リーダーやりたい人!はいっ!」

楓の問いかけに、手を挙げたのは自信のみ。
優也と翠、どちらも遠慮しがちな性格なのだ。

「んじゃあ、私がリーダーね!それで…」

【聖剣を抜きし勇者よ】

突如声が聞こえる。

「……ん!?い、今……」

「……どうしたのよ?」

どうやら優也にしか聴こえていないようだ。
それは鞘の中から響いてくる。

【聖剣を扱う者こそ皆を導く勇者なり。リーダーはお前しか選択肢はない】

「……剣…イノーマス…お前なのか?」

以前にも剣の声は聞こえた。それは優也が力を求め、剣が覚醒したとき。
しかし今回は聖剣が意思を持って、優也に助言をした。

「…………」

「何、どうしたのよ?そんな真剣な面立ちになっちゃって」

「……すまない楓。…リーダー、俺にやらせてくれないか?」

「…え?」

「声が聞こえたんだ。聖剣を抜いたものこそみんなを導く勇者だって…。だから楓…頼む」

優也が楓に向き直り、頭を下げてお願いをする。

「……し、仕方ないわね!聖剣が言うってんなら分かったわよ。
パーティのリーダーっていう称号は、残念だけど優也に譲るわ」

「…ありがとう、恩に切るよ楓。…翠も、俺がリーダーで平気か?」

「もっ…もちろんです!優也さんも楓さんも…いざって時人を引っ張れるタイプだと思いますし」

「そっか。」

こうして聖剣の導きにより、パーティのリーダーは優也に決まった。

「……さーて、リーダーが決まった事だしいよいよパーティ名考えるわよ」

「うーんと…じゃあ優也がリーダーになったんだから…真田軍!」

「没!!軍隊じゃないんだからさ…あとなんか、名前が直に入ってるの恥ずかしくない?」

「そう?…そういう優也は何か浮かんでるの?」

「えっ…うーんそうだなぁ…フロストファイアフラワー…」

「ただそれぞれの得意分野並べただけじゃないの没よ没!!…ハッ優也あなた、もしかしてネーミングセンス…」

「いやいやいや今のは案を出しただけだって!ほらこういうのってメンバーの得意技とかが由来だったりしない?」

「だからって………翠、あなたが頼みの綱よ!」

楓の泳ぐ目線が翠に向けられた。

「えっえっ…ぁ……わ、私が名前をつつ、つけるんですか!?」

「頼むわよ、私達センスアレだからっ!!!!」

「えぇっと…その…氷の勇者隊!!」

「うーんちょっとイメージと違う、没で!」


「没!!」

「没!!!!」

「没ーッ!!!!!!」



「……あのぅ、つかぬことをお聞きしますが
パーティって名前無しで登録するのは…」

「む、無理ですよ!書類の記入ができません!!」

「で、ですよね。じゃあ…その。この話はまた、今度で…」

「……初めて見ました、パーティ名が思いつかず申請取り下げた方」

これ以上考えたら日が暮れそうなので、優也達は一旦、パーティ決めを諦め
普通に依頼を受けることに決めた。
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楓がやられかけたときに『狼牙の流血』の皆さんが助けに来ると思ったおバカさんは誰でしょう?
そう、私です!(白目)
どっかの不死騎団長じゃぁあるまいし負傷してから短期間で復帰なんて出来るわけないですよね

それはそうとイーグルタイガーの外見が私、気になります!

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Posted by 名無し 2022年05月10日(火) 18:25:52 返信

ANOバトルがめっちゃ楽しそうで和んだニャ
青春っていいニャねぇ……

ギルドの話はどうしても某かりひとゲーが浮かんでしまうニャ
ランク昇格の為あわきつねりゅうに挑んだ日々が懐かしいのニャ

1
Posted by 名無し 2022年04月22日(金) 20:04:05 返信

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