またーり書き込みしましょ(´・ω・`)



21話『ザワメキの森の眠れる狼子』


「というわけだから、ザワメキの森に向かうぞ」

そう言って進むジーノに二人はついて行き始めた。

その道中もノイジーウルフが出てきたが

「雄叫びをあげた後は隙が生まれる!そこを狙え!」

「わかった!……はあっ!」

ジーノの的確なアドバイスにより優也達も狼に楽に太刀打ちできるようになっていた。
そして、3人はザワメキの森にたどり着いた。

「…静かなところね」

「ああ。眠れる狼子は辺りの音を静かにする能力を持っているんだ」

「へぇ…あ。あれって…」

「zzz…」

「寝てる…すごい、寝息も聞こえないわ」

「こいつらが、眠れる狼子だ。…日中でもよく寝ているが、起こすと厄介だ」

「じゃあ、起こさないで行けば戦闘は免れる?」

「ああ、それでいければいいんだが…」

「…ぐぅ!!」

突如目を覚まして戦闘態勢になる狼子。

「こいつらは鼻がいい。人間が近くを通るだけで起きちまう!」

「結局戦う事になるのね…ファイア!!」

楓がファイアで先手攻撃をする。しかし。

「……ぐぅっ!!」

「向こうは水を飛ばしてきた!」

狼子の発生させた水魔法で相殺されてしまう。

「気をつけろ!あの水魔法は普通じゃない。催眠作用があるから被ると眠ってしまうんだ」

「また放つ気だな…!」

「…なら、アイスっ!!」

「…っ!!」

優也の出したアイスにより、水魔法を凍らせた。

「…ぐぅぅ!!」

「うわっ!!突進してきた!」

水魔法を封じられ、ツノで突進して来た狼子を剣で受け止める優也。

「はああっ!!」

そして後ろから小槌で眠れる狼子をジーノが仕留めた。

「……以上がこいつらの闘い方だな。これも行動パターンさえ覚えてしまえば脅威はない」

「できれば戦う前に特徴を教えて欲しかったわ」

少し愚痴を漏らす楓。

「そうやってグダグダ説明するより、戦いながら教えた方が早いだろ」

「ジーノって…変なところで大雑把ね」

「何が言いたいんだよ」

「さっきもそうだったけど、前もって情報を教えてくれないじゃない。モンスターと戦うって危険なんだから、知ってるなら先に色々教えて欲しいわ」

「お前なあ…!こっちは、早い所この問題を解決したいんだ。お前達だってモタモタしていたら父さんに村を追い出されちまう。そうだろ?」

「だから色々説明してる暇はないんだよ!それに…お前達は結構普通に戦える。戦闘に入ってから情報を伝えても問題はないだろ」

「そんなに急ぐ事もないでしょ!それにさっきの眠れる狼子の水魔法も、催眠作用があるのを発動してから言ったわよね?もし水を被ってたらどうするつもりだったのよ」

「二人ともいい加減にしてよ!!……ほら、騒ぐから狼が集まってきてる」

「あっ…いつの間に」

「し、しまった…」

「ジーノ、これからはちゃんと伝えるべき情報は先に言って!ジーノは平気だと思うかもしれないけど、俺達初めて会う敵とまともに戦える程、戦うの慣れてないから!てやあっ!」

叱りながら狼子に剣を振りかざす優也。

「…すまなかった。はっ!」

謝りながら狼子を小槌で倒していくジーノ。

「楓も、素直に思った事をすぐ言う癖やめなよっ!それですぐ喧嘩になるんだからさっ!!アイスっ!」

「…ええ!!私も悪かったわっ!…ファイアー!!」

謝りながら炎を出す楓。

「……はぁ、これで全部やっつけたか…?」

「よし、じゃあ…行こ…………う……」

「「「……………………」」」

3人の目の前には、いかにも眠れる狼子達のボス格の様なモンスターが立っていた。

22話『遭遇、スレプトホーン』


「あ……あの。ジーノさん?」

「な、なんだ」

「アレ……は一体?凄い静かだったから近寄ってるの全く気づかなかったんだけど…」

「……眠れる狼子達のボスだ!逃げるぞ!!」

「やっぱりそうなの!?ちょっ、待って!!」

ボスから逃げ出すジーノ、優也、楓。

「うわあああっ!追ってきてるよ!!」

「あいつはスレプトホーン!!尻尾に乗って浮遊していて、敵を見かけたら素早く迫ってくるんだ!!」

「音に敏感で、静かな森の中で騒がしい物音がすると近寄ってくる!!」

「ちょっと!!それを先に言ってたらあんな大声で言い争いなんて、しなかったでしょ!!」

「ああ、悪かった!!…やっぱり複数人で行動するとこういう事も起こっちまうか…」

「ジーノってもしかして、ずっと単独で狼達と戦ってきたの?」

「ああ、そうだ!…くそ、追いつかれる!!」

ジーノは体の向きを反転させてスレプトホーンに向き合う。

「くらえっ!!」

そして額目掛けて、小槌を振り下ろした。

「ぐう!」

「…やっぱ殆どダメージ無し、か!」

「ジーノ!!何やってるの!?」

「足止めだ!構わず、行け!!元はと言えば俺のせいだからな…!」

「…置いてくなんてできない!俺も戦うよ!!」

「馬鹿、このボス狼は俺が昔戦っても」

「どちらにしろ、ここで躓いているようじゃ魔王も、ムチン達の親玉だって倒せやしないよ!」

「…!」

「ええ、その通りね優也!!ドラゴンの時は絶望的な戦力差だったから逃げたけど…今ならきっと!!いけるはずよ…大丈夫!!」

「それに、襲われたのは私のせいでもあるしね…!」

「ちっ好きにしろ!……すまないな」

「…と言うわけだスレプトホーン。昔のリベンジ…ここで果たさせてもらう!」

「ぐぅ…!」

立ち向かって来る事を察したスレプトホーンは戦闘態勢になった。

「スレプトホーンは激しい水流を使ってくる!!その水は眠れる狼子が使ってたような水で、肌に触れると確実に眠ってしまう。あとはあの鋭い角と、素早い立ち回りに注意しろ!!」

「わかった!!」

「それでいいのよ…ファイア!!」

「ぐぅ!」

しかし、自身の周りに水を発生させて炎が通らない。

「周りに水が…そうだわ、優也!凍らせるのよ!」

「あぁ!!アイス!!」

「ぐう!!」

だが放ったアイスは素早い動きで交わされてしまった。

「氷魔法で動きを止めるのは無理そうだな…」

「…水が溜まると、一気に飛ばしてくるぞ!!当たらないように木の影に隠れろ!!」

「ぐぉぅっ!!」

バシャバシャ、と音を立て水流が流れて来る。

「…アイス!!」

飛んでくる水を凍らせて身体に染み込むのを防ぐ優也。

「いいぞ、液体じゃなければ眠気成分は身体に染み込まない!…眠れる狼子との戦いが活きてるな」

「でも全くこっちの攻撃が当たらない…!」

「……なら逃げ場を塞ぐのはどうだ?あいつは浮いてはいるが上空から逃げ出せる程浮く事はできない!」

「なるほどね…わかったわ!!アース!」

楓は土魔法で地面を盛り上げる。

「もっともっと!!アース!!アース!!」

土の山が出来上がり、一部だけ出入りできる隙間を作ってスレプトホーンを囲う。

「…ぐるぅ!」

しかし、水流によって吹き飛ばされてしまった。

「くっ…簡単にはいかないわね!!」

辺りはスレプトホーンの水流と土でどろどろになっていた。

23話『スレプトホーンとの戦い』


「…はぁっ!!」

今度は、敵に目掛けて優也が剣を振る。

「ぐ…!」

当たりはしたものの、鋭いツノで軽く受け止められてしまった。

「…はぁああ!!」

優也がひきつけている間にジーノは後ろに回り込み小槌を振りかざす。

「…がるぅ!」

「ぐわああっ!」

しかし素早く後ろを振り向き、ツノで弾き飛ばされてしまった。

「ジーノ!!大丈夫!?血が出てる!」

「あ、ああ…チッ、少し手を切られた」

「挟み撃ちもダメみたいだね…早過ぎて見切られちゃうよ。…やっぱりあの動きを制限するしかないのかな」

「だけどアイスは当たらないし、土山も作った途端に水流で押し流されちゃうし…」

「…そうだ!優也、楓の作った土山を凍らせるんだ」

「えっ、土山を?」

「見ろ、この地面を。あいつの水流でどろどろになっているだろ。これで作った土山なら凍らせて頑丈な障壁になる!」

「なるほど…やってみよう。楓、頼む!!」

「わかったわ…アース!!」

再び一部だけ隙間を開けて、スレプトホーンを囲うようにして土山が出来上がる。だが、今度は水に濡れてドロドロの山が出来上がった。

「…アイスだっ!!」

そこにすかさず優也がアイスを放つ。そしてあたり一面に凍った泥の山が広がった。

「……よしっ!これでどうだ!!」

「…ぐぅう!」

スレプトホーンはまた水流を生み出した。
…しかし頑丈な氷土の壁は崩れず、壁の合間から水が漏れてくるだけだった。

「…ぐうう!」

「隙間を通って逃げ出そうとしてる!」

「させないわ、サンダー!!」

一つしかない出口に向かっていたスレプトホーンは真正面からサンダーを受けた。

「ぐるぅううう!!」

「意外と効いてるみたいね…!」

「あぁ、水を纏っているから電撃はよく通るんだろう。とにかく今がチャンスだ!」

「うん!…いくぞっ!!」

「「はあああああっ!!」」

優也とジーノの、渾身の斬撃と打撃が同時に加わる!!

「きゃうんっ!」

「たぁあああ!!」

そこに楓の魔法…ではなく水晶玉が頭部にクリーンヒットした。

「ぐぅうううううう!!…ぐぅうう。」

スレプトホーンは段々と弱っていき…眠りについた。

「いや魔法使えよ!!」

「……倒したのかしら?」

ジーノのツッコミを無視してスレプトホーンに気を向ける楓、

「…ごほん。スレプトホーンはある程度ダメージが蓄積されたら体力を回復させる為に丸一日程深い眠りにつくと聞くな。今のうちに更に一斉攻撃すれば…完全に倒せなくはないが…」

「まあ、そこまでやる必要も無いよね」

「だな。一時的にでも、こいつが眠っていれば調査も楽に進められる」

「じゃあ、完全には倒してはいないけど。…一応私たち、勝ったって事ね?」

「…そうだな。俺たちの勝ちだ」

「やったー!狼のボスに勝利した!!」

「凄いわ私達!なによ、狼のボスって言っても割と楽勝じゃない!」

「いや、今回は中々運が良かった。この森は奴らの本来のテリトリーじゃないから戦い慣れてもいなかった筈。それにノイジーウルフのボス、ラムページフィストが相手だったら体力が減っても眠ったりなどしないからこれで決着はつかなかっただろう…」

「もう、勝ちは勝ちなんだから素直に喜ばせてよね!」

「何も喜ぶなとは言ってないさ…ただ、慢心と油断には注意しろって事だ」

「あはは…。ふー、疲れたな。……ん?あれは…なんだろう。」

一息ついた優也は、ふと向いた所に謎の物体を発見する。

「これは…!?」

そこにあったのは、謎の異空間へと繋がっているワープホールだった。

24話『謎のワープホール』


「おーい、二人とも!!こっちに来てよ!」

楓とジーノを呼ぶ優也。

「ん?どうした、優也!」

「それがさ…こんな物が」

「…なんだこれは!?」

「なにこれ!?こんなものがあったなんて…」

「どうする?潜ってみる?」

「…俺が行く。大丈夫そうなら俺の後からついてきてくれ」

ジーノが先陣を切って入って行く。

「……大丈夫かな、ジーノ」

「…おーい!こっちは大丈夫だ。お前達も入ってみろ!」

意外と早くジーノの声が戻ってきた。

「あっ、ジーノの声がしたわよ。いきましょう!」

そして優也と楓も続いて入っていった。

「……あれ、ここ」

「見たことある景色ね。というか、うるさい…」

「ここは…シズマリの森だ。つまりこれは…ワープホールの類だな。遠くの場所を行き来出来る物だ。」

「もしかして…いや、もしかしなくてもこれが原因で?」

「ああ、明らかにクロだろう。しかしワープホールという人為的な物だったとはな…色々問題だな。一旦村に帰って報告しよう」

「……楓?どうしたの?」

「……いや、このワープホール…」

「……外側は手で持つことができるのね。意外だわ、すり抜けそうなのに…」

「へえ…。まあそれはいいじゃん、今日はとりあえず帰ろうよ」

「…ええ」

「……これを…あのスレプトホーンが持ってけば…」



そして、三人はノイエット村に帰って来た。

「…………」

「「「…………」」」

村長ノインズにワープホールの事を話した途端、彼は深刻そうな顔をして考え事を始めた。

その間、優也達に話しかけることもないまま15分が経とうとしている。

(……いつまで待つのよ、これ?)

(さあな。じっとしとけよ?変な事やって怒らせたら長いんだよ)

(いやでもあの人全くこっちを見る素振りも見せないよ。このままだといつまでもここで待ってなきゃいけなくなっちゃうって)

「…あ、あの!ワープホールが…なにかそんなに問題なんでしょうか?」

勇気を出して村長に話しかける優也。

「…………ああ」

予想に反して(主にジーノの)ノインズの返事は穏やかな物だった。

「世界的にワープホールを生み出せる者は少ない…それこそ魔術に長けた物でないと生み出せんほど複雑なものなのだ」

「だから今回の件は何か強大な力を持つ者によって行われたものだ。…お前達ではとても相手にならん程な」

「そ、そんなにやばい人が置いたんですかあれ」

「そもそも人かどうかすらもわからない。…人よりも魔法の扱いが上手い魔族の犯行の可能性もあり得る」

「魔族…」

「…とにかく、そんな危険な奴が潜んでいる森にお前たちをこれ以上探索に出させるわけにはいかん」

「で、でも俺たちまだ1日しか…

「黙れぃ!!黙って言うことを聞いておけ!!」

優也に怒号を飛ばすノインズ。

「この村の滞在は許してやる。…だが、しばらくの間はお前たちも村に軟禁だ。」

「そ、そんな!私たちは一刻も早くこの問題解決したいんです!それにマザーフンギだって倒さなくちゃ…」

「おい楓!!食い下がるな!落ち着けよ!!」

「…このワープホールは明日ワシが直々に見に行く。ジーノ、お前が案内をしろ。」

「わ、わかりました」

「…今日のところは帰る。お前たちも、早く宿に帰れ。」

そう言い残してノインズは帰って行った。

「……わ、悪いな。あれでもお前らの身を案じてくれてんだ。今日のところは俺も帰る。お疲れ」

「うん、ジーノもお疲れ!今日はありがとう」

そしてその場に優也と楓だけが残った。

「…さあ、俺たちも宿に帰ろ?」

「………………」

「……楓?」

「……わかったわよ」

楓は少し機嫌が悪そうに優也と宿へ帰っていった。

宿につき、晩御飯を食べて部屋に戻る優也と楓。食事中もツンケンして何も言わなかった楓に優也は理由を聞いた。

「ねえ、何をそんなツンケンしてるの?」

「……優也は何も思わないの?」

「え?」

「私たち頑張ってモンスターを倒して、ワープホールを見つけたよ!なのに、なんで村に軟禁されなきゃならないのよ!!」

「一方的に勝手に決めて、こっちの訳も聞かずに怒鳴り散らされて!あーもうほんとにイライラする!」

「お、落ち着いてよ楓…ジーノも言ってたけど俺らのことを思って…」

想像以上に荒れている楓に優也はなだめようとする。

「やり方が気に入らないのよ!!村長だからって自分が世界一偉いとても思ってるのかしら?!次怒鳴られたら怒鳴り返してやりたいわ」

「楓!!」

「……とりあえず、お風呂先に入って来なよ。そしたら少しは冷静になれると思う」

「…ふん!」

楓は風呂場へ向かっていった。

「……はぁー。昔から怒り出すとなかなか鎮まらないんだよな楓は。…でも正直俺も少し強引で理不尽な仕打ちだとは思ってるけど…。今の楓に同調するのはあまり良くないかもしれないな。村長と衝突起こして村から追い出されちゃうかもしれないし」

「…かといっていつまでもここでゆっくりもしてられないよなぁ。……なんとかならないものかなあ」

今後どうしていくか、と考えているうちに楓が風呂から戻ってくる。

「あ……お帰り。じゃあ俺も風呂行ってくるよ…」

「……ちょっと待って」

楓が呼び止める。

「……何?」

「…決めたのよ。明日、二人でこっそりムチンの森に行ってマザーフンギと戦いましょう」

「………」

「えぇえええ!?」

「ちょっと、うるさいわよ!」

「な、なんでそうなるのさ!?」

「しーっ。…お風呂で冷静になって考えてみたの。このまま、あの村長の言う通りに村で過ごすべきなのかって」

「……でも、私嫌。一刻も早くいつもの日常を取り戻したい。…このまま旅が続いていけば、それだけ歳を重ねて行くでしょ」

「…うん」

「……そしたら、それだけ学校でみんなと過ごせる時間も中学生でいられる時間も無くなって行っちゃう。私たちの青春は一瞬で過ぎ去って行っちゃうのにこんな所でチンタラしていられないって思ったの」

「だから早いところ、私たちの目的の一つである、マザーフンギを倒す事。…これを達成しちゃいましょう。森の異変の件は村長達が調査するみたいだし。」

「そんな…マザーフンギはとても強いってボスムチンも行ってたじゃないか。準備とか絶対要るって」

「準備って言ったって、閉鎖されたこの村じゃあまり使える物とか出回ってないと思うわ。…それに、もし勝てそうに無かったら最悪引き返せばいいのよ。」

「…バレたら村を追い出されるかもしれないよ」

「別にもう構わないわ私は。村に軟禁されるぐらいなら野宿だってしてやるわよ」

「それに、村長が言ってた俺らでも勝てないヤバい奴がいたらどうするんだよ?」

「あの村長の言う事、あまりあてになってないと思うわ。強大な力を持つ者って抽象的だったし…。仮にそんな奴がいるならね、なんでワープホールを作って狼の住処を入れ替えるような真似したのよ?意味不明だわ」

「だからそんな想像に過ぎない奴、ほっとけばいい。仮にでくわしたのなら戦えばいいし」

「そんな簡単に行くかな…」

「嫌なんだったら、優也は村に居なさいよ。私一人でも行くから!!」

「なっ…!……はあ、一人で行かせられるわけないだろ。俺も行くよ」

「…わがままだとは自覚してるつもりよ。でも私はとにかく行動したいの。…何日もじーっとしてるなんて耐えられない」

「わかったわかったよ…。…楓がわがままなのは割と昔からだしな」

「ちょっと、どういう事よそれ!!」

「あっ、風呂いかなきゃ。じゃ!」

「逃げるな!!」

…二人は村長の言いつけを破り、ムチンの森に行くことに決めた。それが後にどう左右するのか。それはまだ誰も知らない。

「……さて、マザーフンギと戦うとなると…色々準備が必要になるわね…」

25話『マザーフンギとの死闘』


…次の日、二人は村長達に見つからないよう…早朝に村を出て行く。

そして道中色々あり…ザワメキの森を北へ抜けて、ムチンの森に着いたのは昼ごろになっていた。

「ここから…ムチンの森かな?周りの木々も雰囲気変わってるし」

「…そうみたいね。ムチンがたくさんいるわ」

優也と楓はムチンを難なく倒して行く。手慣れたものだった。

そして…ほんのしばらく進むと二人目の前に巨大なキノコのモンスターがいた。

「……キノコのモンスター…もしかして」

「んんー?なんだい貴様らは。このマザーフンギ様の縄張りに何の用だ」

そしてそのキノコのモンスターこそ、マザーフンギそのものだった。

「俺たちは…お前を倒しにきた!」

「私を倒す?ぬふふふふ…舐められたもんだね。でも待ってくれよ、私は何もしてない」

「…あなたが生み出したムチンが村を襲ったのよ。人間をみんな養分にするつもりだったんでしょ?全部ボスムチンから聞いたわ」

「チッ…アイツらヘマしやがったか。ベラベラ私の事も話してくれたようで…全く、使えない」

「ああ、そうさ!お前たちのいう通り、ムチンを村に襲わせたのはこの私だ。…お前たちは少なくともあのボスムチンに勝てる程度の実力は持っているようだな。…だが、私には勝てない」

「やってみなくちゃ…わからないわよ!!」

「ぬふふふふ…これを見てもそう言えるか?」

「むちぃぃぃいい」

マザーフンギの笠から大量のムチンが生み出される。そのムチン達はそれぞれ合体していき…

「むぢぃいい!!我らが相手ムチ!!」

あのボスムチンが10体現れた。

「あ、あのボスムチンがこんなに…!?」

「…怯む事はないわ!!私達は勝ち方を知っている!」

「ほう…?ぬふふふふ…それなら戦ってみることだね!!」



「「「「「ムヂィイ!!」」」」」

ボスムチン達が突進をしてくる。

「優也、頼むわよ!!」

「ああ!!アイスッ!!アイスッ!!」

優也がアイスを連射する。たちまち、ボスムチンの体は凍っていった。

「ほぉ…?」

「てやっ!!」

「アース!!」

そしてすかさず凍ったボスムチンを剣と魔法で砕いて行く。瞬く間にボスムチンは粉々に分裂していった。

「…ファイア!!」

「ムチいいいい!!」

砕け散ったムチンをファイアで焼く。

「…よし、一気に四体倒したわ!!どうよ、あんたがいくらムチンを出したところでもう私たちにはなんともないわ」

「ぬふふふふ…だが、私には全くダメージが与えられていないようだが?」

「……ならくらいなさい、ファイア!!」

「ムチン達!!」

「ムチいいいい!!」

ムチン達が集まってマザーフンギを魔法から守る。

「…仲間を盾にするなんてタチが悪いわね」

「こいつにとって私は母親同然。子が親を守るのは当然だろ?」

「とんだ親がいたものね…」

「……アイス!!」

優也が壁をしているムチン達を凍らせる。

「はぁっ!!」

そしてそのムチンを切って蹴散らす。

「…いまだ楓、奴を!」

「ええ!ファイアー!!」

「無駄だ!!ムチーン!!」

マザーフンギは高速でムチンを生み出し再び攻撃を防いだ。

「どんなに素早くムチンを蹴散らしても私はお前達より早くムチンを生み出せる!ましてやお前たちは二人!!私に攻撃できる隙なんてありゃしないのさ!!」

「しかしそろそろこっちも反撃させてもらうとするよ…ぬふふふふ…」


一方、その頃…


「…ザワメキの森にワープホールがあったんだな?」

「…はい。こっちです」

ジーノとノインズは、ワープホールを調査する為にザワメキの森を進んでいた。

「……ここら辺に…あれ?ない」

「……どうした?」

「い、いやそれが…昨日確かにここにあったはずの…ワープホールがないんです!!」

「そんなはずあるまい…!!道を間違えたのではないか?」

「いえ、それは…ないかと」

「…いったい、どういう事なのだ…!!」



「さあ、生まれてきなムチン達!!」

マザーフンギは再びムチンを生み出す。それもさっきより多く。

「そうはさせるか!!アイス!!」

「防御しなァ!!」

アイスを少数のムチンが体で受け止める。その間にもムチンはたくさん生まれていた。

「ぬふふふふ…ムチンハンマー!!」

大量に集まったムチン達は合体してハンマーの形になった。そして二人目掛けて振り下ろす。

「あ、危ないっ!!」

「きゃああ!!」

間一髪避ける二人。

「チッ…避けられたか。大人しく呑まれな!!」

「あ、アレに呑まれたら…きっと養分にされるわよ!!」

「な、なら…アイスで凍らせる!!」

優也がアイスを放ちムチンのハンマーを凍らせる。

「おやおや…ありがとさん。わざわざ氷のハンマーを作ってくれて」

凍ったムチンハンマーをムチンが持ち上げる。…そしてさっきと同様優也たちに向かって勢いよく振りかざした。

「うわーっ!!」

ドガァアアアン

避けた二人がいた場所には大きな穴が空いていた。

「…な、なんて威力だ…!!」

「凍ったせいでかえって鈍器としてパワーアップさせちゃったみたいよ…!!」

「ぬふふふふ…もっと私を楽しませなさい!!」

ドォオオオン!!ドォオオオン!!と氷のハンマーを振り続けるマザーフンギ。
二人は逃げるのに精一杯だった。

「うわああ!!は、反撃する暇がない!!」

「くっ!!そのうち体力が尽きて当たっちゃうわよこれ!!」

「……ちっ、こざかしい!!ムチン、もっともーっと出てこい!!」

「な、まだ生み出す気…?」

「ハンマーを増やす気か!?二つになったら流石に避けきれないぞ!!」

「……仕方ないわ。優也!!」

「…わかった!なるべく早く頼む!!」

優也の名前を呼ぶや否や、楓は元来た道を戻って行く。

「……んぬ?なんだ、あの小娘は逃げたのかぁ?ぬふふ、可哀想に。一人だけ残されちゃって」

「……」

「チッ、何も言わないなんてつまんないねェ。…それじゃあ私の養分になりな!!」

マザーフンギが新しくできたムチンのハンマーを振り下ろす。

「…くっ!」

「逃がさないよ!!」

避けた優也めがけ、アイスハンマーを振り下ろした。

「うわああ!!」

必死に転がって避ける優也。

「…はぁあ!!」

そして振り下ろされたアイスハンマーを剣で攻撃した。

「無駄無駄、壊したところで…すぐに元通りさ!!」

壊れたアイスハンマーがムチンで再生される。

「さぁ!!さぁ!!私の養分におなり!!」

「ひゃっ!!わぁあ!!…かえで!!はやく!!」

「追い詰めた!!」

避け続けバテた優也にムチンハンマーが振り下ろされる…!!

「ぬはははははァッ!!………ぬ?な、なんだこれ…」

「…間に合ったか!!」

振り下ろされたハンマーの先は、見えなくなっていた。

26話『秘策』


「…はぁ、はぁ…ギリギリ間に合ってよかったわ…もう少し、マザーフンギの近くに置いてきてもよかったかも…」

〜遡る事、朝5時〜

「…優也!!起きなさいよ!!」

「うぅーん…」

「ほら!!起きろ!早くしないと間に合わなくなるわよ!」ガバッ

「うわあっ!!…むにゃ。ああ、そうだね…」

二人は昨晩冒険着のまま寝ていた。…朝起きてすぐに出かけられるように。

早朝に出かけた理由は何も、村長達に村から出る姿を見られないようにする為だけでは無かった。

「あったあった…これだ」

二人は昨日訪れたワープホールが置いてある場所へやってきていた。

「…私はこれをあそこに運ぶから…優也はこれを通って向こうのワープホールを持っていってくれる?」

「……ああ。わかった」

そう、二人はあのワープホールを持ち出していたのだ。
ことの発端は昨日楓がワープホールを持ち運べると気づいた時。
このワープホールを利用できないかと、アレから考えていたのだった。


「…しかしギリギリだったな。あと少しでムチンに取り込まれてたよ」

「ワープホールの存在を疑わせない為に少し離れたところに置いてきたんだから仕方ないわよ」

「これは…なんだ?こんなよくわからん魔法物体で私をなんとかしようと思っていたのか!?ぬふふははははは!!拍子抜けもいいとこだ!!」

「拍子抜けかどうか…」

「すぐにわかるわ!!」

「ぐぅうううううううう!!!!」

突如、ムチンの森に響き渡る遠吠え。それはつい昨日聞いた物であった。

「な、なんだ…!?」

そしてワープホールから一体のムチンまみれの獣が姿を表す。

「よかった…復活してたみたいだね、スレプトホーン!!」

…二人の作戦はこうである。

事前に二人はワープホールを運び出した。
優也はシズマリの森のをムチンの森入り口へ。そして楓はザワメキの森にあったのを
眠っているスレプトホーンの丁度真上に来る様に設置したのだ。

いざとなった時、マザーフンギの攻撃をワープホールを通ってスレプトホーンに当たるようにする。
そして怒ったスレプトホーンがワープホールを潜って敵に襲いかかるようにする。

楓はジーノの言った言葉を覚えていた。
『スレプトホーンはある程度ダメージが蓄積されたら体力を回復させる為に丸一日程深い眠りにつくと聞くな。』

「…あいつの攻撃で目を覚ますかは賭けだったけど…上手くいってよかった!!」

「ぐぅうううう…!!」

「ムチンのハンマーを食らってすっかり頭に来てるよ、スレプトホーン。…最初ワープホールを持っていくって聞いた時は反対したけどここまでうまく行くなんて…」

「ふふ、私の作戦勝ちね!!」

「……ふざけるなぁああ!こんな奴が一匹増えたところで私に勝てるわけないだろう!!まずこいつから取り込んでくれる!!」

マザーフンギがムチンハンマーを二つスレプトホーンへと振りかざす。

「…ぐぅ!」

しかしスレプトホーンは難なく避ける。そしてそのまま素早い動きでマザーフンギに迫って行く。

「なっ…!?」

「ぐぅ!!」

マザーフンギに鋭い角で突き刺した。

「やった、ダメージを与えたぞ!!」

「感心してないで私たちも戦うわよ!!ファイア!!」

注意がスレプトホーンに向いている隙に楓がファイアを放つ。
ムチンで防ぐのを忘れたマザーフンギにファイアが燃え移る。

「ぐぎゃぁあああ!!あちぃいいい!!」

「ぐう!!」

その間もスレプトホーンは角で突き続ける。マザーフンギに無数の風穴が開いていた。

「ぐぞぉおおお!!ぎざまら、絶対に許ざぁあああああん!!!!」

とうとうマザーフンギがキレだした。真っ先に、燃え移る火をムチンで消し去る。

「退け!!」

そしてスレプトホーンを弾き飛ばした。飛ばされたスレプトホーンは少し怯んだがまだまだ戦えそうだった。

「ムチン!!ムチン!!ムチィイイイイン!!!!」

マザーフンギはこれまでとは比較にならないほどのムチンを生み出す。もう、身体が枯れてしまうかと思うほどに。

「はぁ…はぁ…!!これで貴様らは終わりだァアア!!」

10個のムチンハンマー…それもさっきまでとは倍の大きさのものと、三倍程の大きさのボスムチンが20体並んでいた。

「ば、馬鹿みたいな数のムチンだ!!」

「これは…スレプトホーンがいても厳しいわね…!!」

「ぐぅう…!」

「ひゃーっはっはっは、呑まれろォ!!」

ムチンハンマーを振り下ろすマザーフンギ。

「しまった、こんな大きさ避けられな…」

「ぐぅ!!」

二人を助けたのは、スレプトホーンだった。

「えっ…?なんで…」

「ぐうー!!」

「……どうやら私たちを仲間だと思ってるみたいよ。さっき一緒にマザーフンギを攻撃していたから」

「あ、ありがとうスレプトホーン(巻き込んだのは俺たちだけど…)」

「むぢぃいい…!!」

「今度はボスムチンが来たわよ!!」

「ああ、それなら…アイス!!」

「ムヂィ…!」

「大き過ぎて少ししか凍らない!!もっとアイスを使って優也!!」

「くっ…わかった!!アイス!!アイス!!」

「はぁあああ!!」

凍らせた巨大ボスムチンを楓が水晶で殴って壊して行く。スレプトホーンもツノで壊して行く。

「そこだぁあああああ!!」

そんな3人をまたムチンハンマーが付け狙う。

「…ぐうっ!!」

しかし素早くスレプトホーンが優也と楓を運んで逃してくれる。

マザーフンギはスレプトホーンの進む方向を読んでムチンハンマーを振りかざすがそれ以上に素早く当たらない。

「わあ、結構役に立ってくれるじゃない!!」

「くそッ!!当たらねえ!!こんなにムチンは沢山いるのに!!クソがァッ!!」

「アイス!!」

「はぁっ!!」

そしてまたムチンを凍らせて砕いていく3人。

「無駄だァ!!私は無限にムチンを…!!……アレ?どうした!!ムチン!!生まれてこい!!ムチンンンンン!!!」

「…どんな物にだって限界があるはずだよ」

「どうやらさっき出した分で…ムチンを生み出せる力を使い果たしたようね!!」

「そ、そんなバカなああ!?」

「よーし、それじゃあ後はムチンを砕いて地道に倒していけば…!」

「……そうはさせなぁああい!!」

マザーフンギがムチンを操る。…そして自分の周りにドーム状に覆うようにムチンの壁を作り出した。

「ぬふはははは!!どうだ!!絶対無敵の防御壁だ!!これが…私の最終手段!!」

「アイス!!…駄目だ、凍った箇所が…消えて行く!?」

「無駄無駄!!たとえ凍らせたところで…この絶対防御壁には効かん!!」

「…だったら剣で…はぁっ!!」

ムチンに斬撃を入れる。が、斜めに軽く傷を付けただけですぐに修復されてしまった。

「ぬふはははははは、何かしたかな?…とにかく、このまま待てばまた私はムチンを生み出せるようになるはずだ!!復活したら…そうだな、手始めに近隣のノイエット村をムチンで呑み込んでやる!!」

「させない!ファイア!!サンダー!!アース!!」

「ぐぅうう!!」

楓が懸命に魔法を放ち、スレプトホーンが突きをするがムチンの壁にはまるで歯が立っていなかった。

「無駄な事はするな。今回はひきわけとしてやろうじゃないか!!ぬふははははは」

「くそっ、こいつをほっといたら…みんなが!!」

「もう私たちの打てる手は全て使った。それでも勝てないなら、どうしたらいいの…!!」

「ぐるぉおおおおおおおおおおん!!!!」

突如あたりにとても騒々しい遠吠えが響き渡る。これは初めて聞くものだった。

「うわぁああ!…なんだ一体!?…スレプトホーン?」

「…ぐぅ。」

違う、とても言いたげに鳴くスレプトホーン。

「違うわ!あれ…見て!!」

楓が指を刺す方向には──置いた覚えのないワープホールと

──大きな赤い狼が立っていた。

「あ…あれって…もしかして」

「えぇ…きっとラムページフィスト…ノイジーウルフ達のボスよ…!!」

「ど、どうしてムチンの森に…!?」

「あそこにワープホールがあるわ。…もしかしたら偶然ムチンの森とシズマリの森を繋ぐワープホールがあったのよ…!」

「…ぐぅ!」

スレプトホーンがラムページフィストに駆け寄る。

「あっ!!…まずいんじゃないのか?あの二匹って敵対してるんじゃ…」

「ぐぅ、ぐぐうぐうぐう、ぐぐう!!」

「ぐるぉおお!!ぐるぉ、ぐるおおおおん!!」

「な、なにか話してるみたいだよ…?」

「ぐぅうう!!」

「ぐるぉお…」

次の瞬間、ラムページフィストは大音量で鳴き叫んだ。

「ぐるぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!!!!」

「うわぁあああ!!…あれっ、静かになった?」

「ぐぅ!!」

近くにやってきたスレプトホーンの力のおかげでノイジーウルフの大音量を喰らわずに済んだ優也と楓。

「あっ!音圧でムチンが剥がれかけてるわよ!!」

「ほ、ほんとうだ!!」

「うぎゃあああああ!!なんだこの馬鹿でかい爆音は!?」

思わずマザーフンギが声を漏らすが誰にも届いていない。

「なにっ!?私の…無敵の防御壁が!!剥がれているだと!?」

音圧によってムチン達はあたりに散らばっていた。

「…ぐう!!」

そこへすかさずスレプトホーンが突撃する。

「ぐるぉお!!」

ラムページフィストもマザーフンギ目掛けて突撃しだした。

「ぐうッ!!」

勢いのついたとても鋭い角による突撃。

「ぐるぉおおおッ!!」

炎を纏った、木を簡単にへし折れる程太い腕から繰り出されるパンチ。

二匹の攻撃はマザーフンギに見事に命中した。

「うぎゃぁあああああああああああッがぁああああッ!!」

「ぐぞ……ごんなばずじゃ…な、なぜごんなやづらがごごに…」

「ぐぞぉおおおおおおおおおお!!」

マザーフンギは光と化して消えていった…。

「……は、はは。最後の方は狼たちに任せっきりになっちゃったな」

「でも…。倒せたから、よかった…」

倒せた安堵でその場に倒れ込む優也と楓。

二匹の狼達は…戦いが終わって満足そうに佇んでいた。


「いやー、面白いものが見れた。ラムページフィストを連れてきて正解だったな」

突然誰かの声がして、振り向く優也と楓。

「えっ…!?誰?」

「…肌が…青いわ」

「へへっ…そりゃ当然さ…だって」

「魔族なんだから…」

「…………!?」

27話『一難さって、また一難』


「おっと、自己紹介が遅れたな。オイラの名前は…トリッカル・マジーナだ」

「そんな事より、あのワープホール!!あなたが作ったの?」

「あー、そうだな。オイラの自慢の魔法だ。気に入ったか?」

「狼たちの居場所を丸々入れ替えたのもお前の仕業なのか?」

「ああそうだ」

「一体なんでそんなことを!!」

「シシシッ…理由か?そんなもん…ねえさ」

「り、理由がない?」

「ただ、面白そうだから入れ替えた。それだけだぜ」

「「…………」」

予想外の答えに優也と楓は思わず黙り込む。

「そ…それで納得できるかぁああああ!!」

「それだけの為にあんな事をしたのか!?」

「ああ。オイラは悪戯好きでね…それも大規模な悪戯が大好きなんだ。お前達人間の困った反応、なかなか楽しかったぞ〜!!」

マジーナは朗らかに笑いながらそう説明した。

「ふ、ふざけないでよ!!人の困った反応を見て楽しいですって?…それに、狼たちもいい迷惑だわ!!」

「おいおい。お前だってオイラのワープホールを利用してムチンの森にボス狼を連れてきたじゃないか。人の事言えないぜ?ま、オイラは人じゃねえけどな」

「あんたこそあの赤いのを連れてきたじゃないのよ!!それに、私は後で戻すつもりだったわ」

「そんなこと言ったら、オイラだって。一通り楽しんだら後で戻すつもりだったもんねー!」

「なによ、後出しじゃない!!」

「ちょ、ちょっと楓!よくわかんない奴と言い争いするなって…」

「……それで、悪戯好きの魔族が俺たちに何の用なんだ?」

「ああ…そうだな。まあこれはどうでもいい事なんだが…」

「魔王様の命令によりお前たちを連行する事になった」

突然、マジーナの気配が変わる。

「チェーンハンド!!」

「うわああっ!」

突然両腕を伸ばして優也と楓を絡め取ろうとする。二人は転がるようにして避けた。

「い、いきなり何をするんだ!それに今、魔王って!?」

「オイラは魔王軍八大幹部の一人なんだ。…せっかくオイラが街に放った石化龍が子供を二人逃したと聞いてな。ここに来るらしいから待ち構えてたんだ」

「魔王軍八大幹部…!?あなた、魔王リヴァの手下なの!?」

「…あのドラゴンはお前が!?」

「驚いてばっかりで疲れねーのかいお前たち。…まあせっかくだから教えてやるよ。お前たちの街に石化龍を放ったのはオイラの指揮する部隊だ。理由は…大方聞いたんだろ?お前たちを助けた爺さんからな」

「仙人のことか…!」

「全く、石化して全員丁重にお持ち帰りするつもりだったのに、余計なことしてくれたぜ。まあ、そのおかげでイノーマスまで持って帰れそうなのは嬉しい誤算だったけどな」

「も、持ち帰り?何、言ってることがわけわかんないわ。私たちを奴隷にでもする気?」

「…あー、面倒だからそういう事でいいわ。んじゃ、黙って連れてかれてくれよな!」

マジーナは再び腕を伸ばす。

「くっ…!まだ戦いが終わったばっかりなのに…!!」

「はああっ!」

「おーっと、剣で手を切ろうとしても無駄だぜ」

「なっ…!」

イノーマスの切先を掴むマジーナ。

「伊達に八大幹部してないからな。…しかし本当にこの剣が脅威になるのかねえ?疑問になってきたぜ」

「は、はなせっ!!」

力任せに掴まれた手を振り払う優也。

「ははは、そんな力じゃオイラの手は離れねーぜ!」

「ファイア!!」

「…はぁっ!!」

「!?き、気合いだけで消された…!?」

「熟練度がなってないな。やっぱりあの街の住民は魔法をほとんど使わないってのは本当だったんだな」

「ぐぅううう!!」

すると突然。マジーナへ、スレプトホーンが突進してくる。

「…あらよっと。」

「へえ、お前たち…狼のボスに気に入られてんのか」

「ぐぅ、ぐうぐう!」

「…ぐるぉお」

スレプトホーンの呼びかけでだるそうにラムページフィストも腰を上げ動き出す。

「ど、どうして…俺たちの味方を?」

「こういうモンスターはな、自分を打ち負かした相手を気にいることがあるみたいだぜ?…だが、邪魔だな。帰れ」

「ワープホール!!」

マジーナはその場に二つのワープホールを作り出した。そして、その穴にそれぞれ狼たちが吸い込まれて行く。

「ああ!!またワープホールに入っちゃった!!」

「安心しな、今度は元いた場所に戻してやったさ!」

「…これで、邪魔者はいなくなったな。手負いのお前達がオイラに勝てる可能性は0%だ。観念してつかまりな」

「ミニワープホール!!チェーンハンド!!」

今度は小さなワープホールを生み出し、そこに腕を通した。

「な、今度は何を…」

「優也、後ろよ!!」

「えっ!?しまっ…」

優也は真後ろから伸びてきたチェーンの腕に絡まれてしまった。

「シシシッ、まず一人だ」

「優也ッ!!このっ、離しなさいよ!!」

楓が杖でチェーンを壊そうと叩く。…あたりにパリーンと音が鳴り響いた。

「あぁっ…!!す、水晶玉が!?」

「あーあーあ。手荒い事するからだぜ。…さ、お前も捕まえた」

「きゃあああ!!は、離して!!」

「よーし、魔王城に帰るか」

ふわふわと浮遊して行く二人とマジーナ。

「「うわああああああ!!」」


「待ていッ!!」

そこへ、一弾の魔弾が飛ばされる。

「ぐあっ、光!?…あ、しまった」

二人はチェーンの締め付けが緩くなり、逃れる事ができた。

「ノ…ノインズさん!?」

「…その二人を返してもらうぞ魔族め!!」

そこには、杖を持ったノインズさんとジーノが立っていた。

28話『ノインズの決意』


「ほー、光魔法の魔弾を飛ばせる奴が…こんなところにいたなんてな」

「……貴様がワープホールを置いた犯人だな?」

「さっきも聞かれたぜ、それ」

「おい、お前たち…大丈夫か?」

「…ジ、ジーノ。どうしてここに?」

「ワープホールが昨日あった場所になかったんだよ。だから周りを探してたんだが見つからなくてよ」

「…昨日スレプトホーンを倒した場所は危ないから近寄らなかったんだが、なんとそこにワープホールが変な向きに設置されてたんだ。俺たちはそこを通ってきたんだ」

「あ、あー。そ、そうなのね」

「どうした楓?様子がおかしいぞ」

「な、なんでもないわよ!…それよりノインズさんは!?」

「…ジーノ!!お前は二人を連れて村に帰れ。…ここはわしが止める!!」

「おーっと、そうは行くかよ。」

「あっ、また小さいワープホールを作って…!」

「フラッシュ!!」

突然、ノインズが目眩しを発動する。

「ぐ、ぐぁああああッ!?」

「…さあっ!!そこにあるワープホールでも使って遠くへいけ!!」

「よし、行くぞ…お前たち!」

「だ、大丈夫なの…?」

「大丈夫だ!なんたって昔は他の大陸で魔法騎士団をやってたらしいぜ」

「ええっ!?そんなすごい人だったんだ…」

「さあ、逃げた逃げた」

3人はワープホールへと入っていった。

「……これで貴様と話ができるな。…貴様は一体何者なのだ?なぜこんな事をした?」

「その質問はあいつらにでも聞いてくれ。2回も同じ質問に答えるのは面倒だからな」

「…ふざけた奴だ。ならば消し去ってくれる!」

「…あー、こっちとしてはお前とはやり合う気なんてさらさらないんだわ」

「ぬかせ、先に仕掛けてきたのはそっちであろうが」

「まっ、とにかくオイラもあいつらの後を追わせてもらうぜ〜」

「シャイン!!…そうはさせん。貴様はワシが命に変えてでも止めてやる!!」

「…………チッ、仕方ねえなあ〜。あんまり危害は与えるなって命令だからなぁ…今回は、見逃してやるぜ」

「あいつらに言っといてくれ。魔王様の計画の枷となるお前たちは必ず引っ捕えるってな!!」

そう言い残してマジーナは空へ飛び去っていった。

「……ふう。…なんという恐ろしい力を持った魔族だ…」

「もし攻撃をされていたら…腕の一本や二本は覚悟していたが…運が良かったようだな」

「……さて。帰るか。あの二人に言いたいことが…山ほどあるからな!」


〜ノイエット村〜

「はぁー、疲れた。…お前たち、大丈夫か?」

「う、うん…すごく疲れたけど。」

「ありがとうねジーノ。ナイスタイミングだったわよ」

「おいおい、助けたのは父さんだぜ。礼なら父さんに言ってくれよ」

「……それも、そうね。でも…あの頑固なおじさん大丈夫かしら」

「誰が頑固なおじさんだって?」

そこにはノインズが立っていた。

「「うわぁああっ!?ご、ごめんなさい!!」」

いきなり現れたノインズに思わず謝る優也とジーノ。

「ご、ごめんなさ…!」

そして楓も謝ろうとした時、ノインズに優也と共に抱き寄せられた。

「……すまなかった。お前たちを危険な目に合わせて」

「ノ、ノインズさん…!?」

ノインズの突然の行動に驚く二人。

「わしは…お前達のような子供に、危険な目にあって欲しくないがばかりに村に拘束しようとした。お前たちの気持ちも考えず、な。…それがかえって逆にお前たち二人だけで村へ出て行かせるような事態を招いてしまった…。わしのやり方が悪かった。改めて、すまない」

「…い、いやいや!!勝手に村をとびだしたのは…俺たちですし。ノ、ノインズさんは最初から俺たちの為に動いてくれてました。謝ることなんて何もないですよ」

「あ、謝るのは私たち…いや、私です!!ごめんなさい!わ、私が…優也をたぶらかして村の外へ出ようって言ったの。…村長の忠告を無視して。悪いのは全部、私よ!!」

「……いいんだ…お前たちが、無事ならな…」


(……その後ジーノに聞いた話では、ノインズさんはその昔奥さんを魔物に殺されてしまったらしい。…たった一人で、街の外を歩いたから襲われた。…それからノインズさんは…騎士をやめ、村長の座を引き継いだ。…今回の魔物の活性化や俺たちのことといい、何かと村に人を閉じ込めるようになったのはそういう事があったからなんだ…。)

それから優也達は普段の調子に戻った村長にムチンの森で起きたことを全て話した。
……ノインズも、あれからマジーナとは戦闘にならず逃げていった事を話す。
しばらくして部屋にはジーノと優也と楓が残っていた。

「……しかし、初めて見たぞ。父さんのあんな姿。しかも誰かを抱き抱えるなんてな」

「えっ…ジーノはお父さんにあんな風に抱き抱えられた事ないの?」

「ねーよ。厳しいからな父さんは。」

「…でも、いっつも気にかけてくれるんだ。…いっつも気づきにくいところに手を回してくれて。…不器用で、遠回しだけど。父としての愛は受け取ってきたつもりだぜ」

「…そう、なんだね。…私あの人のこと。少し誤解してたなあ…」

「す、少し…?」
「何よ優也!」
「なんでもないよ」

「…あの時は正直少し羨ましかったよ。俺も一度は遠回しなんかよりもあんな感じに直接父の愛を受けたいもんだ」

「18にもなって、何を言っとるんだお前は」

「あっやべ。とうさ…村長、すみませんでした」

「…父さんと呼べ」

「えっ…ですが」

「敬語も、もうよせ」

「……」

「ジーノ。お前もお前で…今まですまなかったな。…村長として、今までわしはお前を厳しく育てようとしてきた。…文句も言わず不満もないと思っていたが…今の話を聞いてやっと気付かされた。…寂しい思いをさせてすまなかったな」

そう言って今度はジーノを抱きしめるノインズ。

「うわっ!!ちょちょ、恥ずかしいって流石に!!優也と楓も見てるのに!!」

「……なんか、いい親子だね…」

「…ええ。」

マザーフンギには無かった、子供への愛。
それがノインズには確かに存在していた事を確認した二人だった。

29話『後始末と宴』


……次の日。優也達は戦いの傷を癒し、元気になっていた。
この日は村長とジーノと協力して、マジーナが置いていったワープホールを利用して
狼達を元の場所に戻す事になった。

〜シズマリの森〜

「待ちなさーい!」

ワープホールを抱えて、逃げるノイジーウルフを追いかける楓。

「な、なんで逃げるんだ?前は襲ってきたのに…」

「……もしかして、ワープホールを警戒してるのかしら?」

「そうかぁ…うーん…じゃあどうしようかな」

「ぐぅうううううううう」

その次の瞬間、聞き覚えのある遠吠えがする。

「あっ、スレプトホーン!」

「向こう側から来てるわ。…あっ、ノイジーウルフがこっちに逃げてきたわ」

「がぅ!!がうっがうっ」

ノイジーウルフはスレプトホーンを恐れ、一目散にワープホールを潜った。

「もしかして…あなたも協力してくれるの?」

「ぐぅ!」

「ありがとね!」

その後はスレプトホーンがノイジーウルフ達をワープホールまで追い込み、作業は1日で終わった。

「ノインズさーん、ノイジーウルフ達は全員そっちに送りましたよ」

ワープホールを潜り、ノインズとジーノが担当しているザワメキの森へ報告しにきた優也と楓。

「おお、すごく早かったな…こちらはまだ半分くらいだ。しかし、ノイジーウルフは眠れる狼子と違って常に起きているから大変では無かったか?」

「それが、スレプトホーンが手伝ってくれたんですよ」

「ふむ、そうか…む、そうだ。そのスレプトホーンに狼たちを集めてもらえたりはしないか?」

「なるほど…ちょっと連れてきてみますね」


「ぐう、ぐう!」

「じゃあ頼んだよスレプトホーン」

「ぐぅぉーーーん!!」

スレプトホーンが透き通った遠吠えをあげる。
途端に、眠れる狼子達が彼の元へ集まってきた。

「やったやった!これで全員かな?」

「…最初っからこいつらに頼めばよかったかもしれないな、父さん」

「それじゃスレプトホーン、この子達に後ろをついてくるよう指示して」

「ぐう。ぐうぉーん、ぐうぐう!」

「ぐう、ぐう!!」

こうして、眠れる狼子達はスレプトホーンと共にワープホールを介してシズマリの森に帰っていった。
これで全ての問題が解決したのであった。

「……いや、このワープホールどうするんだ?」

ジーノがふとした疑問をこぼす。

「ふむう…ここに置いていたらまた狼達が潜るやも知れん。…一旦村に持って帰るか」

「それもそうですね」

そしてその夜。狼達は元の森に帰った事によって、もう危険性は無くなった。
ノイエット村は出入り自由になり、村ではその事を祝う宴会が開かれた。

「…それでは、今回森の異変解決に一躍した二人を祝して…」

「かんぱ〜い!!」

コップに並々のお酒やジュースを入れて大きく掲げる村の人たち。
優也と楓は照れ臭そうに同じようにしてコップを掲げた。

「おーい、二人とも。食ってるか?」

優也達の元へ、ジーノが肉を片手にやってきた。

「あっ…ジーノ。うん、美味しいね」

「なんだなんだ、主役なのにだいぶ落ち着いてるじゃないか」

「…………」

「…どうした?何かあったのか。祝いの席で暗いのはダメだろ。俺に話してみろよ。」

「…それがね、俺たちあの魔族に対して何も抵抗できなかったから…」

「そうね…これからの事考えててちょっと暗くなってたかも」

「なんだ、今更そんな事で落ち込んでるのか。…でもお前たちは見るからに戦いとか経験してきてなさそうだからなあ。そりゃ魔族に抵抗できなくて当然じゃないか?」

「ちょっと!事実だけど失礼でしょ」

「はははすまんすまん。…まあ、なんだ。そんなお前達でも、マザーフンギを倒して森の異変もなんとか出来たんだ。…お前たちにできない事はないさ。もっと自信持てよ」

「う、うん…ありがとう」

「…そうだなあ、今のお前たちは確かに魔族に対抗するには経験不足もあるかもしれないけど、戦うための装備がなってないのもあるんじゃないか?」

「装備?」

「ほら、優也は片手剣で戦うんだから盾があった方がいいし、楓は杖がああなっちゃってるだろ。それに…服も俺の着てる奴みたいなものがいい」

「…ジーノの服、何か特別なの?普通に見えるんだけど」

「見てみろ、このベルト。ノイジーウルフと眠れる狼子の毛皮が装飾に使われているだろ?…これは村の伝統で村長の後継は森に生息する二匹の狼の毛皮を身につけるという慣わしがあるんだ」

「それが何か関係あるの?」

「まあ話は最後まで聞け。…じつはあいつらの毛皮を服に使用するとな、水属性と火属性に少しだけ強くなれるんだ」

「そして、ベルトだけじゃないぜ。上に来てる服だってこれにはなんと直接魔法がかかっている。少しだけ素材が軽くなって動きやすくなる魔法だ」

「へえ、そんな技術があるんだ!…それでジーノも狼と戦ってたの?…ジーノだけずるいな」

「だ、だからお前らもそういう服を作って貰えばいいんだよ!」

「…誰に?」

「いや誰にっつわれてもだなぁ…うん」

「まあな。とにかく!!今日は楽しい宴会にしようぜ!これからの事なんて今は忘れろよ」

「うん…そうだね。ありがとう!」

ジーノに励まされ、優也と楓は楽しそうに会話しながら食事を楽しんだ。
そして、もう宴会も終わりに差し掛かってるところで誰かが二人に寄ってきた。

「隣、いいかしら」

そう言ってきたのは…宿屋のシズカさんだった。

「優也くん、楓ちゃん。お疲れ様!ありがとうね、森の異変解決してくれて。」

「あっ、シズカさん。こちらこそ、宿に泊めていただいてありがとうございました」

「いいのよ、そんな事。私は私の仕事をしただけだから」

「ところで…楓ちゃん、持ってる杖が壊れたって本当?」

「あっ…なんでその事を?」

「ジーノ君から聞いてね、なんとかならないか頼まれたのよ。戦いで壊れちゃったんでしょ?ちょっと貸してくれるかしら」

「あっ…はい」

楓はシズカさんに杖を渡す。

「うーん…水晶が大きく割れちゃったのね。何か大きな魔法でも使おうとして魔力量の限界を起こしちゃったのかしら…?」

「ああ、いえ。そ、それが…」

壊れた理由を少し恥ずかしそうに語る楓。

「あはははは!へえ、杖で敵を殴ったら割れちゃったのね。うふふ、楓ちゃんってわんぱくそうだとは思ってたけどね」

「は、ははは…」

「実は初めて戦った時も杖で敵を殴ってたんですよ」

「こらっ、言うなー!」

「…ごほん、ところでシズカさん、杖直せるんですか?」

「ええ。一応ね。…これでも昔はね、あの村長と同じ騎士団にいたの。そしてあの人度々杖を壊すものだから…少しぐらいなら杖を直せるのよ」

「へえー、すごいなあ!」

「うふふ、でも…そうねぇ。私が直そうかと思ったんだけど…もっと専門的な人に任せた方がいいかもしれないわね。敵を直接叩いても、割れなさそうな丈夫な杖を作ってくれる職人に」

「職人…ですか?」

「ちょっと村長に掛け合ってみるわ。何かツテがないかね」

「あ…ありがとうございます!」

「うふふ…気にしないで。当然のお礼よ」

その後、宴会が終わり、優也たちは旅館へと帰って行くのであった。

30話『職人がいる場所へ』


次の日。二人が起きて食事をしているとシズカさんがやってきた。

「おはよう。昨日は楽しかったねー」

「ええ、おかげさまで!」

「実はね、楓ちゃんの杖を作れる職人さんをノインズさん知ってるみたいなの」

「本当ですか!!」

「朝ごはんが終わったら村長の家に来てね」

「わかりました、ありがとうございます!!」

その後、食事を終えた二人は村長の家へ向かった。

「…おっ、来たな。あがってくれ」

ジーノが出迎え、二人は部屋に入って行く。

「…来たか。」

「ノインズさん、おはようございます」

「うむ。…早速だがシズカに伝えた通りワシは杖を直せる凄腕の職人を知っている。…いや、凄腕の職人たちがいる場所を知っていると言った方がいいか」

「…?どういうことですか」

「杖だけでなく、服や武器などのさまざまな職人が集まる街を知っているのだ。昔、その街に寄った時に色々世話になった。」

「へえ!あれ、じゃあ杖だけじゃなくて盾とか服も…?」

「ああ、揃えられるな。よかったな!!」

そう言い、ジーノが二人にピースサインを送る。

「それでは…そこに向かえばいいんですね!」

「うむ」

「それで、どこに行けばその街に行けるんですか?」

「…海を渡る必要がある」

「「……え?」」

「職人がいる街はカラフルシティ。カラフルアイランドにある栄えた街だ!!」


それからノインズさんは村長としてのツテを利用して船を手配してくれた。
この船に乗って、二人はカラフルシティで装備を整える。
ほとんど歯が立たなかった魔族に対抗する為に。ゆくゆくは魔王を倒す為に。

次の日。ムチンの森を更に抜けた先にある海岸に、一つの船が止まっていた。

「おう、お前らがノインズの言ってたガキンチョ達かい」

「おっと、オレの名はウミナリってんだ。ノインズとは知り合いで船乗りをしている。しばらくの間よろしくな!」

「こちらこそよろしくお願いします!」

「それで…もう行っちゃうのね」

少し名残惜しそうに見送りをするシズカさん。

「はい。ゆっくりしていられませんから」

「そう…。頑張ってね、二人とも!」

「…今回の件は世話になったな。改めて礼を言う」

「それはお互い様ですよ、ノインズさんもいろいろ手を回してくれてありがとうございました!!」

「む…き、気づいておったのか…」

「全部ジーノ君が教えてくれてましたから」

「は、はは…。……優也!!楓!!」

「…頑張って、魔王を倒して。みんなを救うんだぞ!!」

「…うん!!」

そして二人は船に乗り込む。そして見送るジーノ達に大きく手を振った。

「またね、みんなー!!」

「また会いたいわー!!」

「じゃあなー!!」

「いつでも来ていいわよー!!」

二人は海へ出る。目指す場所は、カラフルアイランド。
一体、どんな島でどんな人たちがいるのか。
二人の旅は、まだまだ続く──。
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このページへのコメント

どうでもいい事と口にしつつも真剣に職務をこなすマジーナくんすこ

1
Posted by 名無し 2021年04月01日(木) 19:14:04 返信

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